『再雇用警察官』by  姉小路祐

再雇用警察官
姉小路祐
徳間書房
2019年9月15日

 

先日、目黒のとあるBarのカウンターで、先客で座っていた二人の男性が、ドフトエフスキーとか、須賀敦子全集とか、本の話をずっとされていた。店のマスターが、「本お好きなんですね?」ときいたところ、「実は、僕たち出版社で働いているんです」、ということだった。
そして、その一人の方が担当されていたのが、本書。
なんでも、高橋英樹主演でTVドラマになっているらしい。

 

しばし、本の話で盛り上がり、「読んでみますね」と言った以上、ご縁だと思って読んでみた。推理小説、先日、何十年ぶりかに西村京太郎をよんで、なんだか物足りないなぁ、、とおもっていたのだけれど、これも何かのご縁。作家も、TVドラマもしらなかったけれど、ポチって読んでみた。
徳間書店の文庫本。730円、税別。

 

裏の紹介文には、
”定年を迎えてもまだまだやれる。安治川信繁(あじかわのぶしげ)は大阪府警の雇用延長警察官として勤務を続けることとなった。給料激減身分曖昧、昇給降給無関係。になれど上司の意向に逆らっても処分や意趣返しの異動などもほぼない。思い切って働けるそう、意気込んで配属された先は、生活安全部消息対応室。ざっくり言えば、行方不明人捜査官。それがいきなり何事件。培った人脈と勘で謎に切り込むが…。書き下ろし長編警察小説”

と。

 

感想。
なるほどね。推理小説って、こういう感じだったかなぁ、、、。
たしかに、面白い。でも、なんというか、読んだ後に満足感が足りない。。。
これは、本がわるいのではなく、単に私の趣味の問題なのだと思う。
昔は、推理小説も面白いと思って読んでいたけれど、面白いことと、満足するというのは違うのかもしれない。

正直言えば、確かに面白いかもしれないけれど、そんなに興味のないTV番組をダラダラと観た後の倦怠感のような、、、。
いや、ホント、本としては悪くないと思う。
単に、私の趣味の問題。

 

作者の姉小路祐さんは、1952年、京都生まれ。大阪私立大学法学部卒業。89年、『真実の合奏(アンサンブル)』で第九回横溝正史章の佳作となりデビュー、だそうだ。
推理小説を書かれる作家さん、って事らしい。

 

なるほど、大阪の大学なんだ。どうりで、大阪が舞台の話で、環状線の成り立ちやら、川を隔てた交通のあれこれやら、随分と大阪の地理が詳しく出てくる。おもわず、Googleマップで位置関係を確認しながら読んじゃったくらい。そう、推理しながら地理が勉強できるという点では、面白い。

 

推理小説なので、ネタバレなしで、少し内容を紹介すると、、、

安治川さんは、定年後の再雇用で仕事を続けている警察官。独身。事故で突然亡くなった兄夫婦の幼子を両親とともに育てたので、子育ての経験はある。そして、今では大人になった二人の姪は、叔父さんである安治川のことを気にかけていて今でも姪っ子たちとは交流がある。

定年後、勤務先となったのは、四天王寺署内に設置された出来立てホヤホヤの新設部「生活安全部消息対応室」だった。以前は倉庫だったのではないかと思われるプレハブ事務所、看板もなく、メンバーは、室長の芝(40代)と新月良美巡査長(30代)。芝はどうやら左遷でこの室長に収まったらしい、、、。

と、そんな、あんまりいけてない感じな部署で仕事が始まる。そして、行方不明者の捜索から、殺人事件に発展し、、、、。

と、事件のからくりはいくつかの事件が絡み合っていて、なかなかストーリーとしては凝っている。殺人事件はいくつもが絡み合う。その複雑さは、ほほぉなるほど、そういうことか、って感じ。最後まで、謎が解けなかった殺人の犯人が、え、、なんだ、そんなこと?!って感じだった。


本書の中で、へぇ、なるほどと思ったのは、捜索願の扱い。捜索願というのは、今では「行方不明者届」というのだそうだ。そして、届け出をすれば捜索をしてもらえるということではないのだそうだ。警察は、届出を受理しておくだけで、犯罪や事故に巻き込まれたと思わないときは、積極的には動かないという。へぇ、、、なるほど。なぜなら、多くの場合は自分の意思で失踪しているから。で、どこかで行き倒れや事故や自他殺による身元不明の死体がでたときには、行方不明者届との照合がなされる。
なるほどね、そうだったんだ。

 

あと、大阪の土地の説明が色々あるのは面白い。大阪の人にとっては日常の風景かもしれないけれど、そこまで大阪に詳しくない私としては、へぇ、、なるほど、っていうのは面白かった。配属先が四天王寺だったので、四天王寺の紹介なんかもある。

 

”雨に煙る四天王寺五重塔が、目の前に姿をみせた。六世紀末に聖徳太子が建立したとされており、日本最古の官寺である。歴史は古いが、何度も天災や兵火に遭っており、現在の建物の多くは、昭和30年秋以降に再建された。”

とかね。

 

推理小説からストーリー以外の面白みを見出すとしたら、土地や歴史に関することとか、新しい言葉とかに出会うことかな。
先日、西村京太郎の『びわ環状線に死す』を読んだときも同じように感じた。ストーリー自体にはそんなにワクワクできなかった。でも、琵琶湖環状線を舞台した話で、路線図をみながら位置関係を確認するのは面白かった。

 

まぁ、推理小説に仕立てられる殺人事件は、「そんなことで人を殺すなよ!」と突っ込みたくなること満載なんだから、ストーリーに満足するっていうのは、私にとっては難しいのかもしれない。

殺人ではない推理小説ならおもしろいかなぁ。。。

 

本には、色々な楽しみ方がある。
どんなことでも、ひとつ、ふたつ、感情が揺さぶられることがあると、面白いし、読んだ後の満足感があるのかな。

本を読むのは好きだけど、読めば読むほど、自分がどんな本が好きなのか、わからなくなってきた。まぁ、まだまだ読み足りないってことかな。
夏目漱石推理小説ではギャップが大きすぎた。。。

 

でも、ま、やっぱり読書は楽しいよ。