『コンテナ物語』by マルク・レビンソン

コンテナ物語
世界を変えたのは「箱」の発明だった
マルク・レビンソン
村井章子 訳
日経BP
2007年1月22日 第1版第1刷発行
2019年1月15日 第1版第12刷発行
2019年10月28日 増補改訂版第1刷発行
THE BOX How the Shipping Container Made the World Smaller and the World Economy Bigger

 

『無敵の思考 誰でもトクする人になれる コスパ最強のルール21』(ひろゆき)で面白いと紹介されていて、ひろゆきの本そのものは対して興味をもたなかったのだけれど、『コンテナ物語』はちょっと興味をそそられたので、図書館で予約してみた。

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全449ページの分厚い単行本。なかなかの厚みだった。図書館の予約も、半年くらい待っただろうか。結構人気の本らしい。

 

著者のマルク・レビンソンは、ニューヨーク在住のエコノミストThe Economistの金融・経済学担当のエディター、Newsweek のライター、 外交問題評議会 シニアフェロー などを務めた。

 

表紙の裏には、ビル・ゲイツのコメントがある。
”この20世紀後半、あるイノベーションが誕生し、全世界で ビジネスのやり方を変えた。ソフトウェアの産業の話ではない。それが起きたのは海運業だ。おそらく大方の人があまり考えたことのないようなそのイノベーションは、あの輸送用のコンテナである。コンテナはこの夏私が読んだ最高に面白い本 『コンテナ物語』の主役を務めている。コンテナが世界を変えていく物語は、実に魅力的で、それだけでもこの本を読む十分な理由になる。その上この本は、それと気づかないうちに事業経営やイノベーションの役割についての固定概念に活を入れてくれるのである。”、と。

 

感想。うん、面白いと言えば面白い。でも、最高に面白い!というほどは、、、そんなにそそられなかった。おそらく、アメリカのビジネスマンにはアメリカの経済発展の歴史話として、すごくおもしろいのだろう。あるいは、ビルゲイツのように、自分自身でものづくりの事業に携わっていれば、「配送」がどれほど大きなインパクトがあるかを実感しているので、海運業のイノベーションがもたらしたグローバルビジネスへの影響が、とてつもなく面白いのだろう。

物語の始まりは、私が生まれる以前、1956年のこと。私が知っている輸出入の配送では、コンテナ運送が当たり前になりすぎていて、そのインパクトを実感することがなかった、というのも、私にとっての本書のインパクトがさほど大きくない理由かもしれない。また、アメリカの港湾労働者の労働環境、雇用維持問題が、日本に住む私には、さほど身近に感じないことも、本書のインパクトをそう大きくしない理由だと思う。他のアメリカの本でもそうなのだが、アメリカの労働環境改善、労働組合の話がでてくると、どうも私の想像力の範囲をこえてしまうというのか、単なる他人事という感じがしてしまうのだ。これは、本の質の問題ではなく、私と著者との環境の違いによるものであり、小説だとしてもあり得る。でも、だからこそ本を読むことで、その著者の背景にある社会環境を疑似体験することができるのであり、その積み重ねで自分の想像力を鍛えていくのだなぁ、なんて思いながら読んだ。

私にとっては、すごくインパクトのある本ではないけど、うん、読んでみてよかった。なるほど、今では当たり前のことも、こうしたパイオニアたちがいてのことなのだ、と。

私も以前は製造業の会社に勤めていたので、輸出入でコンテナ会社にはお世話になっていたわけで、本書ででてくる様々なコンテナ会社のマーケティンググッズを目にしたことがある。EVER GREENと緑で書かれたタオルとか、、、。

2021年のスエズ運河封鎖事故で、座礁したコンテナ輸送船の映像をみて、コンテナがどれほど積み込めるのか、あんな重そうな船、一度座礁したら、いったいどうするんだろう、、と思った人も多いことだろう。そして、あれは、ひとたびコンテナ船が動けなくなると、世界経済にどれほど大きな影響を与えるのかを実感させられた事件だった。

 

現在では、当たり前になっているコンテナ輸送だけれど、きっかけは船から積荷をトラックに移し替える港湾労働者の様子をみていて、その生産性の低さ、肉体労働の大変さを、高生産性にするにはトラックごと船にのせればいい、という発想だった。それを思いついたのが、マルコム・パーセル・マクリーン。トラック一台から運送業界の風雲児となった男だった。トラックごと船に乗せるとの発想は、トラックの荷台だけ船に乗せる、の発想に変わっていく。
トラック野郎が、世界のビジネスを変えたのだ。

 

マクレーンの発想から、会社を興し、会社を成長させるそのやり口、労働組合や規制当局を巻き込んでの成功、失敗、さまざまなビジネス冒険物語。アメリカで港湾労働者といえば、筋肉ムキムキ、力自慢の男たち。熱い男の友情。時には、貨物からちゃっかり酒瓶を失敬してみんなで楽しむ。そんな男たちにとっては、積荷を人力で運ぶ仕事をコンテナに奪われては、生活の糧をうしなうことになる。また、酒瓶を失敬することもできなくなる。密かな楽しみが奪われる。最初は労働問題もからんで、なかなかコンテナ導入がうまくいかないものの、ひとたび自動クレーンやコンテナが導入されると、労働者の労働環境改善には、自動クレーンは必須だ!という主張に変わっていく。

 

どこの世界でもそうだけれど、多くの人は、環境変化を最初は拒絶する。しだいに変化になれていくと、さらなる改善を求め始める。当事者たちに、改善したい、変わりたい、と感じさせることの重要性は、どの世界も一緒だ

 

また、コンテナが今のような世界統一基準になるまでの、様々な道のり。最初は、さまざまな規格のコンテナが混在し、輸送先でのクレーンの規格にあわないなど、さまざまな問題が生じた。まさに、トライ&エラーのくり返し。ひとたびコンテナを製造してしまうと、その投資回収するまで、だれだって他社の規格に合わせたくはない。規格統一に向けての競争が始まる。そして、現在では、皆さんご存じ、どこでも積み重ねられる、世界統一規格となっている。

 

コンテナがもたらしたのは、輸送の効率性だったわけだが、それは、日本にとっては「日本製品NO.1」の成功につながる。コンテナがなければ、ソニートヨタも、今のように世界で使用されるブランドになっていなかったかもしれない。日本の電化製品、自動車産業の活性化は、コンテナによる輸出コスト削減が大きく貢献したのだ。

なるほど、世界は、複雑系である。

 

そう、そういう意味で、いかなるサプライチェーンの1パーツでも、大きくビジネスを変える事につながりえる、というストーリーは興味深い。

商社、製造業の購買、等のお仕事をされている人におすすめの一冊。

 

バタフライ効果は、どんな世界でも起こりえる。ビジネスがグローバルになっている今、自分も蝶の羽ばたきになれるかもしれない!そんな、野望も頭をかすめる一冊。
なるほど、ビル・ゲイツが好きそうな一冊だ。

 

うん、読んでよかった。 

固定概念を覆す。それが全ての始まり。

ビジネスに限らず、人生も。

 

自分が何かに囚われていることに気が付くことが、最初の一歩。

そんな気持ちにさせてくれる一冊だった。

 

読書は楽しい。