『時間の終わりまで』 by ブライアン・グリーン (その1)

時間の終わりまで
物質、生命、心と進化する宇宙
ブライアン・グリーン
青木薫
講談社
2021年11月30日 第1刷発行 
Until The End of Time  -Mind, Matter and Our Search for meaning in an Evolving Universe (2020)
 

2022年1月の日経新聞の書評にでていた。面白そうだとおもったけれど、難しそう。。。まぁ、図書館で借りてみるか、と思って予約してから半年以上。ずいぶん待った。予約が回ってきて手にした本を見て思った。これは、、、だれもが貸出期間ギリギリまでつかって読んだに違いない・・・・。分厚い。重い・・。
本編が526ページまで。訳者あとがきは、数ページだけど、参考文献と原注で100ページ弱。索引もついている。全637ページ。大作である。

 

著者のブライアン・グリーン(Brian Greene)は、 理論物理学者。ハーバード大学を卒業後オックスフォード大学で博士号取得。現在はコロンビア大学物理学、数学教授。超弦理論宇宙論の分野で数々の業績を上げ、研究者として第一線で活躍するかたわら、科学の普及のための活動にも力を注ぐ。超弦理論を解説した一般向けの著作である『エレガントな宇宙』は各国で翻訳され全世界で累計100万部を超えるベストセラーとなった。続く『宇宙を織りなすもの』『隠れていた宇宙』も全米ベストセラーとなる。科学番組の司会も務め、ワールド・サイエンス・フェスティバルの共同創設者でもある。
私は、『エレガントな宇宙』含め、彼の作品を読んだことはなく、本書が多分初めて。

 

やっぱり、物理の本である。難しいというか、世界がとてつもなく広く長い・・・。これは、普通の翻訳者にはむりだろう、、、と思ったら、やはり理学博士が訳者だった。

 

訳者の青木薫さんは、1956年山形県生まれ。翻訳家。京都大学理学部卒業同大学大学院修了理学博士。2007年度日本数学会出版賞受賞。ほかに、訳書として本著者の『宇宙を織りなすもの』や、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』があるとのこと。まさに、科学の翻訳者。

 

しかし、本のタイトルの訳がちょっと、なぞ。主題はよいとして、なぜ、Mind, Matter and Our Search for meaning in an Evolving Universe を「物質、生命、心と進化する宇宙」としたのだろう???

直訳すれば、「心、物質、そして進化する宇宙で私たちが求める物」って感じか?生命に相当する単語はないなぁ、、と思うのだが。確かに、内容を読んでみると、その探求の中身は私たちの「生命」ということで、こういうタイトルにしたのかも。翻訳本は、タイトルからその中身がわかりにくいことがあるけれど、より、読者にわかりやすくしたのかな?翻訳って、奥が深い・・。

 

表紙裏の説明には、
素粒子から星や銀河まで、生命誕生から意識の謎まで、様々な秩序と構造をもたらす物理的な原理を見ていきながら、宇宙の年表に沿って読者を時空の旅へと誘う。人の寿命は限られているが、宇宙における生命と心という現象もまた、限られた時間しか存在しない。そしてはるか先に物質すら存在できないときが訪れる。この進化する宇宙の中で、ほんの束の間全く絶妙な瞬間に存在する私たち人間を基点に、時間の始まりであるビッグバンから時間の終わりであるこの宇宙の終焉までを壮大なスケールで描き出す。”
 

感想。
なんやこれ・・・。
おもしろいけど、とほうもなくスケールが大きい話。
難しいというか、難しすぎて、現実に検証された理論を話しているのか、仮説を話しているのか、時々わからなくなる。

やっぱり、物理学者のこういった著作は、哲学書紙一重。物理も哲学も、「存在とは何か」を解き明かそうとしてる人々の科学である、紙一重、、、ということなのだと思う。言語も、数式も、突き詰めていくと、なぜ我々は今ここに存在しているのか、という哲学的問いに行きつかずにはいられない、という感じだろうか。

むずかしくて、面白いのか、とんでも本なのか、わからなくなりそうでもあるけれど、最後まで読んでしまった。熟読してもわからないと思ったので、わかる範囲で、す~~~っと読む感じ。読み終われば、付箋の嵐になっていた。。。

 

一言で言えば、「我々は、宇宙の奇蹟の結果であり、この一瞬一瞬が稀有なのである」ということかな。宇宙の中においては、ミジンコですらないようなちっぽけな人間は、やはり、今ここに生きているということは、物理の法則に即して考えても、奇蹟なのだ。


目次
第1章 永遠に魅惑 始まり、終わり、そしてその先にあるもの
第2章 時間を語る言葉 過去、未来、そして変化 
第3章 宇宙の始まりとエントロピー 宇宙創造から構造形成へ
第4章 情報と生命力 構造から生命へ
第5章 粒子と意識 生命から心へ
第6章 言語と物語 心から想像力へ
第7章 脳と信念 想像力から聖なるものへ
第8章 本能と創造性 聖なるものから崇高なるものへ
第9章 生命と心の終焉 宇宙の時間スケール
第10章 時間の黄昏 量子、確率、永遠
第11章 存在の尊さ 心、物質、意味 

 


少しずつ、気になったこと、心に残ったところを覚書。

 

第1章 永遠の魅惑では、永遠について。人は、いつか自分が死ぬ事を知っている。でも、一般的には、毎日その恐怖におびえて生きているわけではない。永遠の愛、なんて誓っちゃったりもする。そうして、私たちが種として生き延びているのは、先祖代々、「死の恐怖」を乗り越えてきたから。
それを著者は、次のように言っている。

われわれは物語を語り、語ってはまた語り直すことで、死の不安に耐えている。そうしてかたられた物語は、広い宇宙におけるわれわれの居場所をステージ中央に移動させ、われわれが存在したという痕跡が永遠に消しさられる可能性に疑問を付すか、またはその可能性を無視する、あるいは、そもそもその可能性は選択肢にはない

 

どうだ、まいったか、なんだかわけわからんだろう!!!って、、感じなのだけど、前後の文脈からすると、なんとなく、ふむ、そうか、物語を語るということ自体、今の自分を語ることによって、自分が存在した意味を残そうということなのか???ともとれる。

語るということが、自分を残すこと。


第2章 時間を語る言葉
時間とエントロピーの拡大について。エントロピーという言葉は、物理関係の本ではよく出てくる。まぁ、エントロピー増大といえば、一般的には「秩序から混沌へ」「状況の悪化」といった方向の動き。しかし、もう少し正確にいえば、そもそもエントロピーは高い状態になりやすいのであって、エントロピーが低い方が特異な状態なのだというのが、本章で著者がいいたいこと。

著者が引用したのは、コインのはなし。
100枚のコインをテーブルにぶちまけて、全部表が出たら、ひとは、「なにか仕掛けがある」と思うだろう。つまり、そこは「エントロピーが低い」秩序だった何かがあるのではないか、と。つまり、100枚のコインをなげれば、裏表、どちらもランダムにでてくるのはエントロピーが高い状態で、その方が自然と思えることがある、ということ。

だから、エントロピーは、未来に向けて高まるほうに移行するのは、不自然なことではない。ほっておけば、部屋が散らかり放題になるのも、エントロピーの拡大、、、で、自然なこと?!

ここで、熱力学の第一の法則と第二の法則のおさらいがでてくる。

 

熱力学第一法則は、「エネルギー保存の法則。あるプロセスが始まったときのエネルギーと終わったときのエネルギーは等しい。エネルギーのタイプがかわったとしても、帳尻はあう。食べた分だけ、太るっていうのもいってみれば、エネルギー保存の法則だ。

熱力学第二法則こそが、エントロピーに関する法則。第二法則は、保存則ではなく、成長の法則。エントロピーは時間とともに増大する圧倒的な傾向がある、ということ。
オーブンでパンを焼けば、美味しい香りがオーブン内部からやがて部屋全体に香ってくる。エントロピー拡大。そう、粒子が拡散する。
かといって、熱力学第二法則エントロピーの減少を否定するものではない。と、ややこしくなって、私の理解を超えたので、とにかく、熱とエントロピーの関係だけをここで考える。高温の状態は、エントロピーが高く、低温はエントロピーが低い。これは、すんなりイメージできる。そして、地球の中心は熱くてエントロピーが高い。マグマがグツグツ、、これもなんとなくイメージできる。

 

そして、次章からは、そもそも生命と心がこの世界に定着するために必要な環境がどうできたのか?ということで、ビッグバンにタイムトリップ!私たち人間が生きている惑星、地球だってビッグバンから始まる。

 

と、第2章まででもこんなに長くなってしまったので、続きはまた明日。。