『なぜあの人のジョークは面白いのか?』 by ジョナサン・シルバータウン

なぜあの人のジョークは面白いのか
進化論で読み解くユーモアの科学
ジョナサン・シルバータウン 著
水谷淳 訳
東洋経済新聞社
2021年3月4日発行
原作:The comedy of error (2020)

 

なぜ読もうと思ったのか忘れてしまったのだが、図書館で予約していた。何かの広告で目についたのかもしれない。。。しかも、予約したのはほんの1か月ほど前。。。いやぁ、、、物忘れって恐ろしい。。。
パラパラとめくってみると、なにやら面白そう。読もうと思ったきっかけを忘れてしまったけれど、まぁ、いいや、読んでみることにした。

 

表紙は、「 モナ・リザ」の微笑み。タイトルには「ジョークは面白いのか?」とあるが、笑いが本書のテーマだった。だから、微笑み、、なんだろう。

 

著者のジョナサン・シルバータウンは、イギリス・エディンバラ大学生物科学部進化生物学研究所教授。専門は植物の集団生物学。生態環境持続性トラストの理事を務めるなど、環境保護活動にも積極的に携わっている。著書に『美味しい進化』『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』などがある。

 

表紙裏の説明には、
”笑いはなぜ誕生し、
ユーモアはどんな役割を果たしているのか?
あなたのジョークを洗練させ、あなたを人気者にする(かもしれない)
ユーモアセンスを磨くための必読書!”

とある。


感想。
いやぁ、、、これを読んだからといって、ユーモアセンスが磨かれる気はしないけれど、面白い。ユーモアのセンスって、実はそれを目的に磨くのは難しいのかもしれない。
生物科学の教授らしく、笑いと進化の関係についての考察。なかなか、面白い。時々事例としてでてくるジョークのネタが、ふふふ、ぷぷぷ、、と笑いを誘う。
なかなか、楽しく読める。一方で、ジョークというのは、そのジョークにでてくる人、動物、宗教、諸々の文化的背景がわかっていないと、どこが笑いのツボなのかわからない。でも、わからないなりに、笑えるジョークの鉄則、みたいな説明があって面白い。それは、小さな不調和の解消なのだそうだ。あれ?ちょっとどういうこと?という不調和が解消された時にふふふと漏れる笑い。あれ?この会話どうなっちゃうの?という不安の後に、あぁ、、そういうおち!!という腹落ちの解消。

なるほどねぇ。
面白い。

面白いのは、不調和の解消がさらりとやってくるからなのだ、と。

 

そして、そもそも、なぜ人や笑うのか?進化論的に言うと、適者として伴侶に選ばれるためには、笑いが必要だったのだ、と。つまり、ユーモアセンスのある人の方が、モテル!と。
そりゃ、楽しい人のほうが、いつもむっつり黙っている人より一緒にいて楽しい。
あるいは、社会集団を考えた時、微笑みや笑いによって親密さが生まれ、集団としての一体感が生まれるのだ、と。くだらないほどバカげたゲームをして一緒に笑ったメンバーは、ただ言われた作業を一緒にこなしたメンバーより、親密さが増すのだそうだ。

うん、わかる気がする。

 

そりゃね、合コンなら、ただ自己紹介し合うだけより、だれかのユーモアにみんなで笑った方が成功率が高そうだ。と、、私は合コンにはあまり縁がなかったので、想像だけど。

うん、なかなか、面白い本だった。

 

目次
Chapter 1 おかしさと間違い
Chapter 2 ユーモアと心
Chapter 3 歌とダンス
Chapter 4 くすぐりと遊び
Chapter 5 微笑みと進化
Chapter 6 笑いとセックス
Chapter 7 ジョークと文化


人は、ちょっとした間違いにおかしさを感じる。そして、ちょっとした間違い、不調和が解消したときに、笑いが漏れる。

音楽ですら、不協和音がおかしさをそそることがある。
本書の中にはでてこなかったけれど、ちょっと音痴な人の歌に、おもわずくすくすと笑ってしまうのも、生物学的に音の不調和におかしさを感じているのかもしれない。

言葉の不調和は、言っていることの矛盾。

「どうして神はこんなにも私を苦しめるのだろう?私が神をしんじていないからだろうか?」
「私が無神論者であることを神に感謝する」
「私は、占星術は信じていない。いて座生まれは疑り深いんだ」
みたいな。

 

Chapter 4 くすぐりと遊び では、「動物は笑うのか?」という質問が。答えは、笑う、のだそうだ。チンパンジーは、息を吸いながら「アッアッアッ」と笑う。犬なら、しっぽを振る。ネズミですら笑う。そして、自分をくすぐって笑わせることができない難しさ。それが生物だ。

たまに、自分の失敗に笑っちゃうことはあるけれど、そういうときの笑いは、自分のことを第三者的に見ている時かもしれない。笑いは、他者との共感のためにある。

微笑はまさに、その象徴。微笑むこと自体は、大頬骨筋という表情筋が収縮することで作られるが、親しみを示す、という目的があるときに、その筋肉は動く。私は、おこってないですよ、敵じゃないですよ、気分を示すために笑うのだ。

面白い事例がでてきた。スポーツ選手が得点をあげた時に微笑むかといえば、勝利の瞬間に微笑むことはめったになく、その後、観客やチームメイトの方を向いたときに微笑むのだそうだ。人に気持ちを伝えるために微笑む
なるほど。。。確かに。

もちろん、一人で本を読んでいても、映画を観ていても、一人で微笑むこともあるけれど、それは、どこかで作者に共感を感じるからだろう。美しい芸術やすがすがしい大自然をみて微笑むときも、あぁ、、誰かに伝えたいなぁ、、と思って微笑むような気もする。

 

最後のchapterで、文化の話がある。日本人の笑いとして、川柳がうまれたことが取り上げられていた。たしかに、俳句とは違う、川柳。
柄井川柳(からいせんりゅう:1718~1790)という俳人が、俳句を滑稽なすたいるにした川柳を考案した。へぇぇぇ!!恥ずかしながら、知らなかった。川柳って、人の名前からきていたんだ。柄井は、川柳コンテストを開いて、1767年には、14万句もの応募があったそうだ。優秀作として句集に掲載されたものの中には、汚職をネタにしたものもあった。
今の時代と、変わらない?!?!
「役人の子はにぎにぎをよく覚え」
渋い!
今の時代にも、いけてるかも。

 

いやぁ、笑いは大事だ。
仲良ししたければ、笑おう。

いくつか、ぷっと吹いたジョークを覚書。

 

ジョークは、先入観があるから、その先入観をひっくり返すようなオチがつきもの、という例。

 

二人の数学者がレストランでディナーをしながら一般人の平均的な数学の知識がどの程度のものなのか言い争っていた。一人は「どうしようもなく低い」と言い張り、もう一人は「驚くほど高い」と言って譲らない。そこで皮肉屋の方の数学者が、「あのウエイトレスに何か単純な数学の問題を出そう。正解したら俺がおごるよ。間違えたらお前が払え」ともちかけた。そうしてトイレに立ったので、その隙にもう一人の数学者はウェイトレスを呼んで「あいつが戻ってきたら、君にある問題を出すから『1/3掛ける X の3乗』って答えてくれ。20ポンド あげるからさ」と頼んだ。ウェイトレスは話に乗った。やがて皮肉屋の数学者がトイレから戻ってきて、そのウエイトレスを呼び、「美味しかったよ。ごちそうさま」と言った。そこでもう一人の数学者が「ところで君、 X の2乗の積分が何だか知ってるかい?」と質問した。ウェイトレスは必死で考えるこむふりをした。部屋中を見渡して足元に視線を向け、ブツブツと呟いてから、ようやく答えた。「えーと、1/3掛けるX の3乗?」皮肉家が食事代を払った。するとウェイトレスは向こう向いて数歩進んでから二人の数学者のほうに振り返り小声で付け足した。「・・・・プラス定数
 *不定積分には必ず定数項がつく。

 

皮肉屋の数学者も、もう一人の数学者も、結局のところウエイトレスには不定積分なんてわかるはずがない、、と思っていたのだ。ところが、ウエイトレスは、本気で自分で考えて、より正確な解をだした、というオチ。


英語の勘違いジョーク。

今日、誰かが俺の運転を褒めてくれた。フロントガラスに小さいメモが挟んであったんだ。そこにはParking Fineって書いてあった。嬉しかったよ。

Parking Fineは、「駐車違反の罰金」だけれど、「駐車うまい」とも読める・・・。


ブラックジョーク
NASA は宇宙飛行士を宇宙に送り出し始めるとすぐに、無重力はボールペンが書けなくなることに気がついた。 NASA の科学者はこの問題を解決するために、10年の歳月と120億ドルの費用をかけて無重力でも上下逆さまでも水中でも、さらにガラスなどほぼどんな素材にも、氷点下から300°cまでどんな温度でも書けるボールペンを開発した。一方ロシア人は代わりに鉛筆を使った。 

 

この小咄は、前にどこかで聞いたことがある。米原万里さんだったか、佐藤優さんだったか。。。もちろん、300℃で書けるボールペンなんて、使用の機会はあるはずがなく、ロシア人が真面目なアメリカ人を笑いにしたネタ、ってことだったろうか。
思わず、似たようなことをやりがちな研究者の凝り性ネタがありがちで、笑ってしまった。

筋がとおっているようで、真実ではない笑い。

隣人が車に小麦粉を振りかけているのを見かけた。
「何でそんなことをやってるんですか?」
隣人は「シロクマよけですよ」と答えた。
「でもこの辺にシロクマなんていませんよ」
「でしょ? 効いてるんですよ」

 

政治にからむ、ブラックジョーク。
スターリンは、その残忍さで数々のジョークのネタになった。側近でユダヤ人だったカール・ラデックはスターリンをジョークにしても、しばらくの間は殺されなかった。ラディックの数多いジョークの中に資本主義と共産主義の違いを定義したものとして今では有名なものがある。

「資本主義は人間が人間を搾取することであり、共産主義はそれが逆になる」

しかし、ラデックも最終的には消されてしまった。

ラデックが自殺直前に言った最後の言葉は?
撃つな! 

 

ブラックだけど、笑っちゃう。

爆笑とは違う、クスクス笑いが漏れちゃう。

 

他にも、た~~くさん、クスリと笑えるネタが。

かる~く読める一冊。

読書は、楽しい。