『ある老狩人の手記 ヒグマとの戦い』 by  西村武重

ある老狩人の手記 ヒグマとの戦い
西村武重
ヤマケイライブラリー(山と渓谷社
2021年7月5日 初版第1刷発行
2022年9月30日 初版第6刷発行

*本書は、山渓新書9『ヒグマとの戦い』1971年4月20日初版第一刷を底本として再編集したものです。

 

図書館の新着本の棚で目に入った本。パラパラとめくってみると、最初に「祖父・西村武重について」と、西村穣さんのコメントがある。100年前の根室原野を駆け巡った祖父の冒険談の楽しさを伝えたい、と。明治から大正のころのヒグマを撃つ狩人が書き手らしい。ちょっとドキドキ、ワクワク。面白そうなので、借りてみた。
なんせ、表紙がいきなりヒグマと狩人。どっちも強そう。

 

本の裏の説明には、
”私は、明治44年より今日に至るまでほとんど一生を、未開の森林渓谷を探して、狩猟と釣りに費やしたようなもので、最早人生の終着駅にあり気息奄奄たる老爺となってしまった。この本にあるものは大正から昭和にかけての若き時代の思い出の昔話である。(「まえがき」より)。猟銃を携え北海道の山野を駆け巡った西村武重が1971年に上梓した代表作を文庫化。序文=西村穣、解説=服部文祥。”
と。

 

著者の西村武重(にしむらたけしげ)さんは、1892年(明治25年)、香川県綾歌郡造田村(現まんのう町)生まれ。1896年、4歳で北海道札幌市篠路に父と移住。1916年、養老牛温泉踏破。永年ヒグマ撃ちを経験してきた。1972年、勲六等単光旭日章授与。1983年、死去。他にも山と渓谷社、釣りの友社からの著書があるとのこと。
根っからの、狩猟民族のようだ。とはいえ、本職としては中標津町の民生委員や、北海道山林種苗協同組合理事など、たくさんの貢献をされた方で、本の最後には様々な受賞暦までのっていた。

 

目次
祖父・西村武重について  西村穣
まえがき
ヒグマとの戦い その1
 風蓮原野のヒグマ
 牧場のギャング
 茶内林野のヒグマ
 養老牛のヒグマ
 ケネカ川の大ヒグマ
カクレ原野とガンピ原
アイヌの狩猟
ヒグマとの戦い その2 千島エトロフ島のヒグマ
尾岱沼と野付岬
養老牛温泉を中心として
あとがき

 

感想。

面白い!

なぜ、私はこういう話が好きなんだろう。野性味あふれる物語。たくましく自然と戦う物語。血が騒ぐ!阿寒湖の「阿寒湖畔エコミュージアムセンター」で、ヒグマについて勉強してきたばかりなだけに、ますます面白い!

megureca.hatenablog.com

 

どのページも、著者が山で出くわした獲物たちとの対峙の様子が生き生きと描写されている。本人の「狩り日記」が本になった、というような感じ。


ヒグマの被害の話は、そんな残酷な殺され方があったのか、、、と、村人がヒグマに襲われて亡くなった話が出てくる。人を襲ったヒグマを退治しに行く様子は、ドキドキ、ハラハラ。読みながら、「こうして書き残しているのだから、ここでは死んでない・・」と思いつつ、ドキドキが止まらない。

 

牧場の馬がいなくなったことから、ヒグマ探しに行った場面を本書から抜粋すると、、、

”・・・私はとっさに「ヒグマがいるぞッ」と、うしろの者に早口で告げ、素早く方にかけていた銃をおろして身構えた。

そのとき、五、六尺も伸びたクマザサがガサガサッとざわめき、その中を音をたてて真一文字に逃げていくものがあった。・・・

われわれはすぐ追いかけようと馬をせきたてたが、おじけづいた馬は尻込みする一方。気はあせるばかりだった。

しかたなく馬をおり、怪物の動いたところを偵察することにした。大ザサのなかへわけいってみると、そこに青毛の馬が無残にも食い殺されており、、、、、”

ってな感じ。

こんな感じで、人が襲われた場面の描写まで・・・。

 

狩りの腕は、素晴らしかったらしく、多い時には一日で三頭のヒグマを仕留めている。ヒグマは、皮も身も余すところなく活用できるので、稼ぎにもなったようだ。時には、仕留め損ねたヒグマに突進されて、絶体絶命のような場面も出てくるのだけれど、本当に、アニメのヒーローのように不死身に生還している。

 

時々、狩りで森に迷い込んで村に戻れなくなった著者は、地元の民家に泊めてもらったり、アイヌに討ち落とした鳥を拾い集めるのを手伝ってもらったり。アイヌの酋長にヒグマ狩りの秘訣を教えてもらったりもしている。

 

知らない人であっても、狩人とみると民家に泊めてあげる住民たちがやさしい。外で一晩過ごせば、凍えてしまうかもしれないし、クマに襲われてしまうかもしれない。著者は度々、山の人々に助けられている。そういう、時代があったんだなぁ、という感じ。
今の時代でも、田舎の方なら迷い込んできた人を泊めたりするのだろうか?まずは、警察に連絡しそうだけど、、、。


「養老牛温泉を中心として」のなかで、「カムイヌプリの猛吹雪」の話が出てくる。阿寒国立公園に属する摩周山麓。養老牛温泉は、摩周湖の東側に位置する。まさに、先日私が旅行で訪れた摩周湖周辺のお話だ。養老牛温泉から12キロの山奥にある国有林で働いている知り合いとその友人たちが、お正月を著者のお家(養老牛温泉)で祝おうとして、昭和24年12月28日の朝に、山小屋を出発した。朝にはやや強い風程度だったのが、大吹雪になってしまって、20代の若者5人が遭難、凍って亡くなってしまった、、、という悲劇。この時の事故では、根室国内で11人もの凍死者をだしたのだそうだ。根室原野、カムイヌプリから吹き下ろす魔の猛吹雪はたとえようもなく恐ろしいのだと。

著者は、昭和8年1月18日の大爆風雪で、当時10歳の娘を学校からの帰りに亡くしているそうだ。

 やっぱり、冬の北海道は怖い・・・。

 

ヒグマも自然の驚異の一つだろうけど、ヒグマは避けようと思えば避けられる。暴風雪は、避けたくても避けられない。唯一の防衛手段は、出かけないこと、、、かな。

狩りの話がメインだけれど、自然とともに生きるたくましさ、強さの美しさが際立つ一冊だった。また、砂金堀の話もでてきた。北海道では、かつて砂金採取も盛んだったのだ。

こういう、冒険物語、しかもノンフィクション。時代が違うことが安心して読める要因になっているかもしれない。なんとなく、昔の人の方がワイルドに生きていそうだ。現代人なら自然の脅威に太刀打ちできそうにないことも、昔の人ならたくましく生き延びるすべを持っていたような気がする。

 

冒険好きにお薦めの一冊。

狩猟免許を持っている人にも。

釣り好きにもいいかも。

 

なんせ「山と渓谷」の本だから、やっぱり自然を愛する人なら楽しめる一冊だと思う。

 

ちょうど、北海道旅行をしてきたこともあり、アイヌのことももっと知りたくなった。

アイヌの智恵は、北の大地を生き抜く知恵がたくさんあったみたい。

道産子の私だけれど、まだまだ、北海道も知らないことがいっぱい。

先日釧路旅行を共にした友人K曰く、「ゴールデンカムイ」も面白いらしい。今度、Amazon prime で見てみよう・・・。