『教養としての決済』 by ゴッドフリート・レイブラント、 ナターシャ・ デ・テラン

教養としての決済

ゴッドフリート・レイブラント、 ナターシャ・ デ・テラン
 大久保彩 訳
上野博 監修 
東洋経済新聞社 
2022年9月8日 第1刷発行 
2022年10月6日 第2刷発行
The Pay Off: How Changing  the Way We pay Changes Everything  (2022)

 

新聞広告で気になったので、図書館で予約して読んでみた。

著者のゴッドフリート・レイブランとは、マッキンゼー &カンパニーの元 パートナー 。2012年から2019年まで クロスボーダー決済ネットワーク、スウィフトの CEO を務めた。アムステルダム自由大学、マーストリヒト大学、スタンフォード大学ビジネススクールの学位を取得している。自称、決済オタク。

もう一人の ナターシャ・ デ・テランは、元ジャーナリストでウォール・ストリート・ジャーナル誌、タイムズ紙、ファイナンシャル・タイムズ紙、マネー・ウィーク誌などに寄稿してきた。スウィフトの元コーポレートアフェアーズ 責任者、 カーネギ 国際平和財団のノンレジデント・スカラーであり、 英国支払いシステム規制庁 および 金融サービス 消費者パネルの委員を務めている。
まさに、金融の末端、私たちが日々行っている決済についてのマニアックな本。って感じ。

 

表紙の裏には、UK Finance 会長、ボブ・ウィグリーの言葉が。
”銀行、 ハイテク企業、中央銀行、 そして 詐欺師は皆、
決済を支配すれば世界を支配できるかもしれないことを知っている。
 本書は、この地政学的・技術的戦争の仕組みと未来を解き明かした、ビジネス関係者必読の書だ。 ”とある。

 

感想。なるほど、現金決済からクレジット、電子決済、暗号通貨、決済の仕組みはビジネスの構造を変えてきた。その通りだ。そして、その仕組みに知らない間に取り込まれている日常。

むかしは、お給料は現金で授与しなくてはいけない、なんて法律もあったが、いまでは給料明細を受け取るだけだ。それだって、私が入社した30年前は、一応、紙の給料明細が封筒のようなモノに入れられて、毎月配られた。それが、いつの間にか電子明細だけになった。実際に、現金をめにすることがどれだけあるだろうか。あるいは、現金を使うことがどれだけあるか。クレジットカードでの支払いは、あくまでも借金である。自分の銀行口座から即時支払われるデビットカードとは違い、クレジットカードは借金なのだ。そして、その仕組みに組み込まれた手数料の罠。カードのポイント還元だと喜んでいる場合ではない。それは、誰かが負担しているということ。あるいは、ポイント還元分を想定した価格で販売価格が決められているということ。

冷静になって考えれば、そりゃそうだよな、、という決済のはなしが、なかなか新鮮。たまには、こういう本も面白い。

 

目次
Ⅰ 世界は決済で回っている
Ⅱ  決済の歴史
Ⅲ  決済の地理学
Ⅳ  決済の経済学
Ⅴ ビッグマネー
Ⅵ テクノロジー革命
Ⅶ 決済の政治と規制

 

そもそも、決済とは何か?法律上の省略表現では、決済とは、「負債を免除する方法」ということ。中世においては、それがチューリップの球根によって免除されたり、労働によって免除されることがあった。 しかし現在、たいていの場合、負債はお金によって免除される。
その、お金による負債免除が決済ということだ。
 それは、水や電気と同じくらい、私たちの生活に不可欠なものになっている。たとえ、コロナで家にこもっていても、通販でプチっと発注すれば、決済が伴う。電気代、水道代は口座引き落とし、あるいはクレジット払いなど、自分が現金を介さずに支払っているケースが多いだろう。家賃や住宅ローン、Suicaオートチャージ、ありとあらゆるものは、現金の移動を伴わずに、決済されている。私たちは、決済の海の中で暮らしているのだ。

その、決済が対処すべき3つの課題は、
1 リスク
2 流動性
3 慣習
だという。

リスクとは、 支払い人が資金を持たずに小切手が不渡りになったり、 現金やクレジットカードが盗まれてしまう、 期待した対価とことなる製品が届く、などなど、いくらでも考えられる。事故でおこることもあれば、故意に詐欺を働く輩もいる。

流動性とは、決済をするときに、適切な種類のお金が必要ということ。円が必要なこともあれば、ドルが必要なこともある。ゴールド(金塊)を持っていても、即座に支払につかうことはできず、換金が必要になる。

慣習とは、決済をする対象の国や地域において、その決済方法が受け入れられているのか、ということ。小切手の習慣は、日本にはあまりない。でも、いまでもアメリカでは一般的。これは、文化的背景、慣習、という問題だということ。技術ではないのだ。

 

決済の歴史話では、クレジットカード登場の歴史が紹介されている。いまでこそ、磁気ストライプ、チップ入りが当たり前になったけれど、最初のクレジットカード(信用カード)は、まさに、ただの厚紙だった。だから、厚紙カードにかかれた情報を手書きで書き写していたのだ。あるいは、プラスチックカードが流通しても、磁気ストライプが出来る前は、エンボス加工されたカードを、カーボン複写紙にガッチャンと、圧力で印字させて使用していた。きっと、今の若い人は知らないだろう。わたしは、ガッチャンってするクレジットカードに記憶がある。タッチで決済が当たり前の若者には、何言ってるか、わからないかもなぁ。。。

磁気ストライプも、糊が剥がれちゃうとか、アナログなトラブルがあったけど、磁気ストライプを発明した人の奥さんが、「アイロンかけてくっつけちゃえ」というアイディアを提案したことで、プラスチックカードの剥がれない磁気ストライプができたのだ。

カード側だけでなく、POS端末の進化もクレジットカード決済に貢献している。あるいは、今の電子マネ―決済なら、みなさん、「ピッ」ってやる端末がお店の会計に色々あるのをご存じだろう。あれも、店によっては何個も端末があって、どの端末にピってすればいいのかわからなくなるくらいだ・・・・。端末がひとつになるというのは、それらを統一規格にするという苦労ものがたりがあるのだ。

 

日本の交通系カードは、今でこそ全国共通になってJR東日本Suicaで、いまでは北海道でも、大坂でも、福岡の地下鉄だって乗ることができる。これも、仕組みの統一という技術者・経営者の苦労のうえに成立したのだ。

 

よく考えてみれば、日本の会社のクレジットカードが海外で使用できるのだって、世界共通の決済システムにのっかっているから。いまでは、中国の「銀聯」が使用できる加盟店も世界中に増えているという。

リープフロッグ効果の事例でよく引用される、ケニアにおけるM-Pasaの仕組みが、本書でも紹介されていた。プリペイドの携帯端末を使った、送金システム。銀行口座をもてない人も、携帯電話をプリペイドで使用することはできるので、そこに送金システムを載せたのだ。携帯電話がATMになる感じ。

世界の金融システムでは、「スウィフト」というものがあるということ、ロシアのウクライナ攻撃への制裁として、ロシアのスウィフトでの取引禁止、という文脈で耳にしたことがあるのではないだろうか。正式名称は、国際銀行間通信協会。Society for Interbank Financial Telecommunication SWIFT。1960年代から、コスト、セキュリティ、タイミング、信頼、言語、技術の問題を克服し、世界中の銀行を相互につなぐ単一システムを作ろうという構想が持たれ始めた。そして、SWIFTが稼働開始したのは、1977年。全ての参加銀行にはスウィフト端末が与えられ、それを通じて指図を入力し、指図を受け取ることができるようになった。

 

当たり前のように輸出入取引をしているけれど、そこには国をまたがる金融システムがあるということなのだ。国際決済銀行(BIS)も重要な働きをしている。

色々、難しげな金融のワードもでてくるけれど、意外と読みやすい一冊。

テクノロジーの話の中では、世界中の成人のうち金融リテラシーがあるとされるのは、わずか33%という数字がでてきたのだが、ほんとに?!と思ってしまった。33%もないだろう。何をもって、金融リテラシーがあると言っているのかわからないけれど、少なくとも、私はその33%には入っている気がしない。銀行や証券に務めている人たちは、みな金融リテラシーがあるとすると、、、それくらいになるのだろうか?

また、ビットコインの話も出てきた。結構詳しく解説もしてくれているのだけれど、未だにわたしにはよくわからない。とにかく、決済は即時することはできず、誰かが暗号を新しく書き換えることを承認するまで数分はかかるということ、また、そのために大量のコンピューターを使うので、大量のエネルギーを必要とすること、、、そんなことくらいしかわからない。う~~ん。ちょっと買ってみようかな、とおもっていたけれど、いまだ実行にうつさず。結局のところ、私には、それほど興味の対象になっていない、あるいは未知のものだからやっぱり怖いということか。。。そもそも、ビットコインで何かを買い物する予定があるわけでもなく、故に、私にとって価値が見いだせないままでいる。

 

クレジットカードの手数料に絡む仕組みは、誰もが知らずに支払っている仕組みなので、一読してみるといいかもしれない。

 

先日、メルボルンのホテルフロントには、クレジットカードでの支払いには、カード会社の種類の応じて手数料がかかります、と書いてあった。VISAやAmerican Expressなら1.5%だけど、DCだと2%、とか。そして、手数料を払いたくない方は、キャッシュでどうぞ、と書いてあった。

 

私は、知り合いの飲食店で支払をするときは、現金払いにすることにしている。それは、お店がクレジットカードの手数料を負担することを避けたいから。世の中、手数料ゼロのおいしい仕組みはないのだ。PayPayだって、手数料ゼロだといって導入させておいて、いつかは手数料がかかることになる、って話だ。もうかかっている?

あるいは、いつもお世話になっている美容師さんが、独立して、シェア美容ルームのような所で開業しているのだが、そこは現金の支払いが不可で、クレジットカード、電子マネー等で支払はできるのだが、シェアルームのプラットホームに手数料を支払うので、何で払っても美容師さんの収入になるのは一定なのだと。

そういう意味で、たしかに、現金は決済するには手数料はかからない。でも、タンス預金は、利子もつかなければ、インフレになれば価値が減ってしまう。

まぁ、便利な仕組みを使わせてもらっているのだから、手数料を支払うのはやむなし、と考えるのか・・・。

 

本書の最後の方に「銀行の未来」についての話がある。どのような決済システムが主役になろうとも、「決済の燃料となる口座や預金」は銀行が維持していくのだろう、と言っている。ただし、ノンバンクのプロバイダーも、そこに参入している。すると、銀行は決済システムからの収益が減り、、、国の規制当局が自国の巨大銀行を擁護し始める、ということはあるかもしれない、と。

 

これからも、まだまだ、電子決済の仕組みのグロバール化が進んでいくのだろう。ちなみに、オーストラリア旅行中に、一緒に行った友人にPayPayで送金しようとしたらアプリが動かなかった。円での送金であっても、海外だと動かないのかもしれない。その時は、結局、現金決済。互いに、円を使う人だからね。

 

決済と共に、自分の資産運用も考えさせられる一冊だった。金融リテラシー、あるにこしたことはないよな、と思う。

 

読書したくらいじゃ、リテラシーは高まらないけど、読まないよりはいいかな。

いつか、あ、あれか、と点と点がつながるかもしれない。

やっぱり、読書を楽しもう。