『日本の画家 ②日本画家』 糸井邦夫 監修

日本の画家 ②日本画
糸井邦夫 監修
汐文社
2013年2月 初版第一刷発行


①近世の画家 (雪舟葛飾北斎俵屋宗達ほか)がよかったので、続きを図書館で借りてみた。

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今回は、②日本画家 (横山大観東山魁夷上村松園ほか)。

日本画というと? 本書の説明によれば、


”「日本画」という名称は、明治時代以降に西洋から洋画(油絵)が入ってきたことにより、区別するように使われるようになった言い方で、①巻で紹介したような、日本に伝統的につたわる絵画のこと。
 紙(和紙)に描かれた絵を紙本、絹に書かれた絵を絹本(けんほん)と言い、墨や岩絵具、染料などの、煤や鉱物、天然動植物からつくられる絵具をつかう。”

とのこと。

 

①巻と同じように、最初に、文明開化から現代まで、絵画の流れが紹介されている。

主なところを、覚書。

 

①明治時代初期: 西洋文化を取り入れた時代(日本伝統文化が押しやられた時代)
 岡倉天心フェノロサの力を借りて、江戸時代の伝統的絵画を伝えながら新しい時代へ。

 橋本雅邦:『龍虎図屏風』波打ち際の竹林に虎がたっているみたいな、ちょっと怖い絵。
 狩野芳崖:『悲母観音』シャボン玉の中に赤ちゃんがいて、それを観音様が上から見ているような絵。 芳崖は、とても貧乏だったけど、フェノロサに見いだされた。

 

②明治時代中期:「東京美術学校(現東京藝術大学)」設立。
 日本画の進歩的な流れ。京都の独自の系譜。
 菱田春草: 『落葉』 まさに、雑木林の落葉。。。私の好きな画家のひとり。
 横山大観: 『無我』 ぶかぶかの着物をきた子供の絵。それは無我。まさに、巨匠。
 竹内栖鳳: 『班猫』 京都を代表する画家。

 

③明治時代後期~大正: 西洋文化や知識の影響
 海外へ勉強しに行く画家も増える。西洋画の技法の取り入れ。
 土田麦僊: 『舞妓林泉』ゴッホゴーギャンセザンヌの影響を受けた。
 速水御舟: 『名樹散椿』 モデルになった椿は、樹齢400年。『京の舞妓』という作品は、細密描写でペンで書いたように細い線を重ねて書いたところ、横山大観日本画ではないと激怒し、グループから除名しようとしたことがあった。

御舟と言えば、三島由紀夫の『金閣寺』の表紙にもなっている『炎舞』。うん、横山大観はこういうのが好きじゃないかも、、、?!

 

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④昭和時代初期~中期: 自分の絵の確立
 文明開化の時代の波が落ち着いて、それぞれの個性へ。
 小野竹喬:西洋の影響を強く受ける 『一本の木』空と木。実にシンプル。
 河合玉堂:風景画の新境地 『彩雨』 日本の原風景。秋の山麓の風景と、人々の暮らしが重なっている。なんだか、懐かしい感じのする一枚。玉堂の描いた景色の向こうには、自然と生きる遠い昔の日本人の姿がある。
 上村松園美人画 『序の舞』 能の舞の一つ。踊っているのは、上流階級の女性。舞妓や芸者ではないところが、いい。松園は「私の理想とする最高の女性」を描いたといったらしい。りんとしていて、美しい。

上村松園は、女性の日本画。1875年、明治8年生まれで、女性が画家を目指すのは難しいと言われていた時代。常に男性からの反発をかい、29歳の時に展覧会に出品した作品は、落書きをされる事件があった。その時松園は、「私に反発があるなら私の顔に墨でもぬればいいものを」といって、落書きされた作品は「そのままにしておいてください」といって、会期中落書きされたまま絵が展示されたとのこと。そして、会期中にその絵が欲しいという人が現れ、落書きを消して譲ったとか。
かっこいい。

 

 鏑木清方美人画 『一葉』 あったこともない作家・樋口一葉に関心をもってイメージ、写真や一葉の妹から聞いた話をもとに描いた一枚。なかなかの美人さん。5000円札より、素敵。

 

⑤昭和後期~: 太平洋戦争による、大きな傷跡
 平和への祈り、新しい時代へ。女流作家。このあたりになると、現代に近い感じがある。

 東山魁夷:『道』 「これから歩いていく道にみえたり、これまでたどってきた道に思えたりした」という、青森県八戸市の種差海岸にある牧場をヒントに描かれた一枚。暗い過去から明るい未来へ続くような、不思議に吸い込まれる感じの一枚。東京美術学校の優等生。でも戦争のせいで、実力を発揮できたのは戦後になってから。
 平山郁夫: 『入涅槃幻想』 平和への祈り。 被ばく者であり、原爆の後遺症に苦しむ日々のなかで絵を書き続けた。仏教とシルクロードをテーマにした絵で一躍有名に。
 小倉遊亀:女流画家。 『径』 日傘をさして歩く親子と犬。透明感のある色彩。可愛い一枚。
 徳岡神泉: 『仔鹿』 緑の中に後姿の仔鹿。とっても、可愛いような、寂しいような。奈良公園の夕暮れらしい。色彩の美しさと精神性を追求した画家。
  

第一巻に比べると、教科書でみたか??というような、初めてみる絵も増えた気がする。

 

作品は、色々な美術館に散らばっている。常設していない作品も多いから、やっぱり、企画展示会というのは、貴重な機会なんだなと思う。

 

コラムから一つ覚書。

「もうろう体」って何? というコラムが、菱田春草のページにあった。もうろう体??聞いたことがなかった。もうろう体とは、春草や大観が使った技法で、線を使わずに表現すること。当時、線を書かずに表現するというのは革新的であったけれど、なんだかぼんやりとしているという批判もあったらしい。

線を書かずに、絵具をのせるのって、結構勇気がいる。スケッチブックならともかく、作品にするための紙やキャンバスにいきなり色をのせるのって、頭の中に構図が完全に出来上がってないとできない。すごいな。けど、わたしは、好きだ。水墨画もいってみれば線がないところが好きなのかもしれない。

 

こうしてみてみると、本当に芸術というのは色々だ。同じ人でも作風が変わっていくことがあるし。春草も、最後はもうろう体から離れたらしい。

 

徳岡神泉の『仔鹿』、現物はぜひ観てみたい。東京国立博物館所蔵。でも、行ったからと言って観れるわけではないのが難しい・・・。

 

春草の『落葉』は、福井県立美術館。いったこと、ないような気がする。旅の行き先候補に入れておこう。

 

児童書だけど、なかなか楽しめた。

③巻も、みてみよう。