流れをつかむ日本史
山本博文
角川新書
2018年7月10日 初版発行
図書館の新書、歴史の棚で見つけた本。日本史の勉強に借りてみた。
裏の本の内容説明には、
”時代が動くには理由がある。 その転換点を押さえ、大きな流れの中で歴史を捉えることで歴史の本質をつかむことができる。原始時代から現代まで、各時代の特徴と時代が推移した要因を解説。 史実の間の因果関係を丁寧に紐解いた 、第一線の歴史家による最新日本通史。”
とある。
著者の山本さんは、1957年、岡山県津山市生まれ。東京大学 文学部国史学科卒業。 文学博士。 東京大学史料編纂所 教授。 1992年 『江戸お留守居役の日記』で 第40回日本エッセイストクラブ 賞を受賞。 著書多数あり。
本当にたくさんの著書があって、角川マンガ学習シリーズの『日本の歴史』も山本さん。残念ながら、私は山本さんの著書として読んだ記憶がない。
感想。
とても分かりやすい!!
たまたま目に入ったから借りただけだけれど、これは読んでよかった。
歴史を勉強している最中に読んでもいいし、予習として全体像を掴むのにもいいし、勉強後に総復習として読んでもいい。
一通り読むと、なんとなく、縄文時代から戦後、あるいは平成までがわかるような気がしてくる。出来事の因果関係がわかりやすく描かれているので、物語としてスッとはいってくるのだ。そして、ときには教科書なら書けないだろうな、、、というような体制批判的なことも個人の解釈として入ってくる。それも、悪くない。なんとなく、ぼんやりとしていた歴史上の出来事が、そうか、やっぱり「悪評高い政治」だったんだ、とか、「歴史の捏造だったんだ」とか、ちょっとすっきりする。もちろん、歴史の解釈は後付けでしてしまえば、いかようにも、、、ではあるけれど、やはり、史書を辿ってもわからないところは「なにが真実かは闇の中」として、適当な推論でおわらせていない。
全国通訳案内士の歴史の勉強にもなるし、とおもって読んだのだけれど、本試験のマニアックな過去問で「これは回答できなくてもやむなし」と解説されるようなものも、情報として織り込まれていたりする。
幕府や朝廷の動向だけでなく、文化についてもちょいちょい触れられるので、その時代と文化をむずびつけて覚えやすい。
目次を覚書するだけで、歴史の流れそのもの。。。って感じ。
小項目を省くと、教科書と代り映えがしないけど、、、流れを覚書。
目次
序章 日本史の流れ
第一部 原始・古代
第一章 ヤマト政権の成立
1 日本人の誕生
2 邪馬台国から倭の五王へ
第二章 飛鳥の朝廷と平城京 飛鳥・奈良時代
1 飛鳥の朝廷
2 律令国家の成立
第三章 王朝国家の成立と摂関政治 平安時代前期・中期
1 摂関政治の隆盛
2 王朝国家の成立と武士の誕生
第二部 中世
第一章 院政と平氏政権 平安時代後期
1 陰性と保元・平治の乱
2 源平合戦
第二章 最初の武家政権 鎌倉時代
1 鎌倉幕府と執権政治
2 蒙古襲来
3 鎌倉幕府の滅亡
第三章 南北朝と室町幕府 南北朝・室町時代
1 建武の新政の挫折
2 南北朝の内乱
3 室町幕府の確立と動揺
第四章 戦国時代
1 戦国時代の始まり
2 戦国大名の群像
第三部 近世
第一章 織豊政権 安土・桃山時代
1 織田信長の天下統一事業
2 豊臣秀吉と「惣無事令」
3 秀吉の「唐入り」
第二章 天下泰平の時代 江戸時代
1 江戸幕府の確立
2 武断政治から文治政治へ
3 享保の改革と田沼の政治
4 寛政の改革と文化・文政時代の政治
5 対外的な危機と天保の改革
第三章 幕末の動乱
1 ペリー来航と日米和親条約
2 日米修好通商条約調印をめぐる争い
3 薩摩藩と長州藩
4 大政奉還と戊辰戦争
第四部 近代
第一章 近代国家の成立 明治時代
1 明治維新
2 国家間の戦争
第二章 大正デモクラシー 大正時代
1 中国への進出
2 ワシントン体制
第三章 戦争の時代 昭和時代前期
1 宣戦布告のない「日中戦争」
2 太平洋戦争
終章 現代の日本と世界
この目次に沿って、すらすらと日本の歴史が語れるようになれば、相当流れをつかんだと言える。どの章にも「まず流れをつかむ!」という2~3ページのまとめが最初にあって、それを読むだけでも、ポイントを抑えることができる。
キーワードを読書メモ帳に記載しただけで、4ページになった。でも、だいぶ、頭の整理になってよかった。
やはり、歴史もくり返し様々な本を読んでいると、点と点がつながる。これまで、ただの事件の名前だったり、年号だったものが、関連付けて覚えられるようになると、スッキリしてくる。
676年 白村江の戦いも、何度も見聞きしているのだけれど、ようやく日本&百済 vs 唐&新羅の構造が、Mapも含めて頭に入ってくるようになった。ようやく、長期記憶に定着したかな??
645年、乙巳の変から大化の改新への流れも、蘇我馬子と蘇我入鹿がごちゃごちゃになりがちだったのだけれど、そもそも繋がっている。蘇我馬子は、聖徳太子(厩戸皇子)と一緒に仏教を支持し、憲法17条などをつくった。でも、聖徳太子が死んじゃうと、蘇我氏が勢力を伸ばしたことが気に入らない中大兄皇子が、天皇中心を目指して立ち上がった。その時、中大兄皇子が起こしたのが乙巳の変。
乙巳の変:中大兄皇子(のちの天智天皇)・中臣鎌足らが蘇我入鹿を宮中にて暗殺して蘇我氏(蘇我宗家)を滅ぼした政変。
大化の改新:中大兄皇子が、天皇中心の政治を目指しおこなった改新。
と、そんな感じで、ポイントが「まず流れをつかむ!」に書いてあるので、とってもわかりやすい。
結局、天智天皇だって、自分のわがままで蘇我入鹿を暗殺しているんだから、悪党といえば悪党じゃないか・・・・。
井上靖の『後白河院』を読んだ時には、スッキリしなかった天皇家と藤原家、平清盛の関係も、ちょっとすっきりした。
要するに後白河院というのは、天皇になる前からどうしようもない「ろくでなし」で、そのわがまま放題のままに院政までおこなった、、、ってこと。で平清盛と後白河院の間も、大タヌキ同士のダマし合いのようなモノだった。で、二人の孫にあたる安徳天皇は、不幸な人生に・・・。数え年3歳にして天皇に即位するも、数え年8歳で崩御した悲劇の天皇。
そして、鎌倉時代、武士の時代から室町時代、戦国時代、江戸時代。。。
江戸時代は、長かった分、浮き沈みのあった時代。
最初は、豊臣家を滅亡させ、各地の大名を厳しく取り締まった武断政治。でも、あんまり厳しくしすぎると、世の中がすさんでくる。
そこで、5代将軍綱吉の時代には、文治政治となり、「生類憐みの令」などであまり厳しくしすぎない政治に。柳沢吉保の支援もあったけれど、基本的には庶民には悪評の時代。
1657年 明暦の大火で江戸が壊滅状態に。。。
そして、新井白石による「正徳の治」。社会は良くはなったけれど、、、、気が付いたら幕府の財政は逼迫。
そこで、8代将軍、吉宗(家康のひ孫)の享保の改革。多少は持ち直したものの、まだ足りない。
田沼の政治による、商業の発達と賄賂の横行。田沼は失脚。
そして、松平定信(吉宗の孫)による寛政の改革。おじいちゃんのやった享保の改革を手本に頑張ったけれど、天明の大飢饉があったりで、長続きしない。でも、庶民の暮らしを良くするために、石川島に人足寄場をつくって職業訓練をしたりして、江戸の庶民の暮らし向きは改善されていく。この職業訓練のアイディアは、長谷川平蔵によるものだった。池波正太郎の小説「鬼兵犯科帳」の主人公だ。しかし、定信は11代将軍家斉との仲がうまくいかなかったこともあり、失脚。この時代、もう一人時代劇の人気者、「遠山の金さん」のお父さん遠山景晋も幕臣として活躍。江戸が乱れれば、それを取り締まる人の活躍もあったってことか。社会が緩くなった分、浮世絵、歌舞伎といった庶民文化が花開いたのもこの時代で、化政文化。
そして、その後緩んでしまった社会を正すために水野忠邦が行ったのが、天保の改革。しかし、2年で失脚。
そして、外国船がしばしば日本へやってくるようになり、1953年にはペリー来航。日米和親条約へとつながる。
そして、幕末から明治維新、大正デモクラシー、太平洋戦争から戦後へ。
流れがつかめるので、歴史に詳しくない人にもおすすめの一冊。
最後の方は、平成の話題も。2001年の小泉政権による規制緩和は、その後「格差社会」へつながった、とはっきり書いている。
新自由主義とか、個人主義とか、、、それも歴史の流れの一つなんだよな、って。
そして、コロナやウクライナにつながって今がある。
こうして、本書を読んでみて、私はいかに歴史を理解していないかったのかを思い知る。。。まだまだ、自分の口で語られるほどには理解できていない。同じ出来事も、語る人の視点によって、異なって見える。そこが、歴史の面白いところなんだろう。
現在、日経新聞朝刊に連載中の『陥穽(かんせい) 陸奥宗光(むつむねみつ)の青春』で、今朝の結びは、小二郎(陸奥宗光)が観光丸で鳴門の渦潮を見た際、航海術担当にその仕組みを教えられ、驚いたことを高岡先生に手紙で語っているシーン。
「驚異は、現象に対する感情ではなく、その理を知ることにあるのかもしれません。」
おぉ、なるほど、と唸ってしまった。
自然現象に限らず、社会で起きる出来事も、その「理」がわかると驚くとともに理解が深まるって感じ。「理」がわかるのが理解するということそのものだ。
ウクライナの戦争も、「理」を知るには日本における報道を見ているだけでは足りないのだろう。。。
この毎日続く猛暑も、地球温暖化との本当の「理」がわかると、環境のために何をしなくてはいけないのか、理解できるのかもしれない。
ま、まずは、「自分の身を守る」が大事だけど。
歴史は面白い。
その「理」を知ることは、更に面白い。
だから、読書は、楽しい。