『マイクロスパイ・アンサンブル』 by 伊坂幸太郎

マイクロスパイ・アンサンブル
伊坂幸太郎
幻冬舎
2022年4月25日 第一刷発行

 

知人が、面白いといっていたので、図書館で借りてみた。伊坂さんといえば、昔はよんだけれど、ここ10年以上読んでいない気がした。どんな作家なのかも忘れていた。図書館で予約してから、2か月くらいは待ったかな。やっぱり、今でも人気作家なんだろう。

 

表紙は、何やらおとぎ話のような可愛らしい装丁。パラパラとめくってみると、うん、これはサラ~~~っと読めそうな予感。目次が、1年目~7年目、、、と、長期にわたるお話なのか? あとがきをよんでみると、本書が生まれたきっかけがよくわかった。

 

もともと、2015年に福島県猪苗代湖を会場とした「オハラ☆ブレイク」という音楽とアートのイベント用に書かれた小説だったとのこと。物語の舞台は、猪苗代湖だ。そして、毎年開催されるごとに書き続けたので、7年目まで。かつ、物語に音楽が出てくるのだけれど、それが、TheピーズとTOMOVSKYの曲。私は、どっちも知らなかったので、YouTubeで検索してみたら、ポップバンドだった。なるほど、こういうポップイベントに合わせた小説だったのか。読み終わって、あとがきをよんで、なるほど、とガッテンした。そして、彼らの曲を聞いてみて、そのイベントの雰囲気がヤング&ポップであったのだろうと想像がつくと、物語が、なるほど!若者にうける連続短編、ということで納得。

 

正直、最初に読んだ時、なんだこりゃ?!?!!と思ったのだ。荒唐無稽なファンタジーっぽくもある。でも、なんだか面白い!と思わせるところもある。タイトルに「アンサンブル」とあるように、複数の物語が交差するのだ。最初から、7年目までも想定して書いていたわけではないだろうから、次の年を向かえる毎に、次の主人公がでてきて、それが後に交差して、、、、。

私には、あとからじんわり、ニマニマとしてしまうような、そんな一冊だった。

面白い本を書く人だ。ちょっと乱暴で、ちょっと繊細な物語。登場人物も、なんともヘナチョコのようでいて、素直。憎めないキャラ。愛すべきキャラとでもいおうか。ごくごく普通の人たち。

 

表紙の装丁も、TOMOVSKYの絵だそうだ。アートとミュージック。彼らのファンにはたまらなく楽しい一冊かもしれない。7年分の短編を一冊にして、なおかつつながりのある物語。伊坂さんの構想力の高さにすごいなーと思う。

 

目次
昔話をする女
一年目
二年目
三年目
四年目
五年目
六年目
七年目
おまけ 七年目から半年後

 

ネタバレなしに、面白かったところだけ、紹介。

 

主人公は、4人いる、といっていいか。別々の世界でいきていた2組が、謎の扉を通じてつながり合う。まぁ、ドラえもんのどこでもドアみたいなのが、ある条件がそろったときに忽然と登場し、登場人物たちが時空をこえると、その扉は忽然と消える。

主人公のひとりは、しがないサラリーマンをしている松嶋くん。彼女にフラれてショックを受けるところから始まり、後に会社の先輩と恋愛に発展。松嶋くんの会社が、猪苗代湖でのイベントに関わっていることから、度々猪苗代湖の場面が出てくる。仕事でも、デートでも。

もう一方の世界の主人公は、「少年」。謎の「エージェント」の男エージェント・ハルトに、父親からの虐待から逃げているところを救われる。そして、少年もエージェントの特訓をうけて、戦闘員として活躍する。

話しが、時空を超えるので、なんだなんだ?!?!という感じだけれど、最後までよむと、ちゃんとつながるから面白い。

マイクロスパイと言っているのは、少年の世界がマイクロなのか、よくわからないけれど、彼らが戦闘機としてのるのが、昆虫だったりして、、、。

 

物語には助演男優賞助演女優賞をあげたくなるような人物もでてくる。二人とも、松嶋くんの会社の人だ。一人は、門倉課長。いつもいつも、ペコペコあやまっている。口を開けば「すみません」「ごめんなさい」と。あ~いるいる、こういうタイプも、、、ダメサラリーマンの典型かのように書かれる。でも、この門倉課長がまたいい。

 

猪苗代湖への出張で、松嶋くんに運転してもらえば
「いやぁ、わるいね。運転してもらっちゃって」と謝る。
松嶋くんは、門倉課長になんでいつもいつもそんなにあやまるんですか?と思わず聞いてしまう。門倉課長のセリフがいい。

「謝ってすむなら、それに越したことは無いよ。」
「沽券にかかわる!とか言って、怒り出す人間ほど、大した価値をもっていないのかもしれないよ」

「そういうものですか」と聞き返す松嶋くんに
「そうだよ」と言い切る門倉課長。

おぉ。じつは、芯のしっかりしたいい人ではないか、門倉課長!

 

読みながら、私の中で、門倉課長を応援したい気持ちが膨らむ。実は、かつて門倉君という部下がいたので、ちょっと姿形が私の中で重なる。その門倉君は、なんでも謝る門倉くんではなかったけどね。

 

そして、門倉課長のすごい秘密が後に明かされる。そのことが、会社をすくうかもしれない?!?!のに、門倉課長はそのことを口にしない。
ここは、ネタバレしちゃおう。門倉課長は宝くじを毎回買っていることで有名だったのだが、実は当たった1億円を、すっかりそのまま寄付してしまっていたのだ。そしてその1億円のおかげで救われた命があった、、、。

 

また、松嶋くんの彼女になる2歳年上の天野先輩も、なかなかいい。一緒に残業をしていたときに、二人が知り合い、そして、徐々に距離が縮まって行く感じが、さらりと気持ちいい。
装丁にあるマグカップには、実はすごい秘密がある。二人の出会いに関係する。
このカップは、実は、さかさまだ。伏せてあるのだ。中に、〇〇〇〇を閉じ込めるために、、、、天野さんが〇〇〇〇を、閉じ込めたのだ。夜の人気のいないオフィスに出没する輩といえば、、、ゴ〇〇〇。。。

二人をつなぐきっかけ。

 

この、日常の些細な出来事と、「少年」の世界のファンタジーさと、それがうまく融合しちゃうから面白い。

なんとも、ふふふ、って感じの一冊だった。
たまには、こういうのもいい。

 

知人が薦めてくれなかったら、手にしなかったな。

本は出合ったら、とりあえず読んでみる。

それも大事。