往復書簡
湊かなえ
幻冬舎
2010年9月25日 第一刷発行
2010年10月25日 第三刷発行
先日、礼文島に旅をした。
旅の前に礼文島をしらべていたら「カナリアパーク」なる観光名所があった。何かと思ったら、映画『北のカナリアたち』のロケ地だったとのこと。吉永小百合主演、東映創立60周年記念作品、2012年の映画。予告映像をみたら、あぁ、この映画か、観てもいいなとおもったけど結局見なかった映画、だった。Amazonプライムでは有料レンタルだったので、まぁ、お金払ってまでみるまでもないか、と思ってみなかった。かわりに、湊かなえの本書『往復書簡』のなかの1篇が原作だというので、礼文に旅立つ前日に、図書館で借りて読んでみた。
本書は、3つのお話のオムニバス。それぞれ、まったく関係のないお話なのだけれど、手紙で過去について語りあうというプロットが共通。
目次
十年後の卒業文集
二十年後の宿題
十五年後の補修
感想。
どれも、すごい!やっぱり、湊かなえの物語の構成力、すごい。面白い。えげつなく面白い。美談ではない。いや、美談もある。でも、世間では犯罪といわれるかもしれない、美談?!
誰かの罪を、誰かがかばおうとする。嘘に嘘が重なって、、、あるいは、だまっていることで誤解に誤解がかさなって、、、。悲劇が起きる。往復書簡という、手紙によって、主人公たちに過去を語らせるというパターン。手紙による小説。人の手紙や日記帳を盗み見しているようなドキドキ感だろうか。なぜか、ドキドキして、どんどん読み進んでしまう。。。『若きウェルテルの悩み』がドキドキしながら読めるのも、手紙という形式だから、ということもあるのだろう。書簡による小説の元祖が、ゲーテなのかな?
最初に本を手にして、二作目の「二十年後の宿題」が、『北のカナリアたち』元になったとはわかっていたのだけれど、ついつい、最初からパラパラと読み始めてしまった。そして、どんどん惹きこまれた・・・。
以下、ネタバレあり。
「十年後の卒業文集」は、高校時代の同級生同士が、仲間の結婚式で再会し、過去を振り返る物語。過去の恋愛、嫉妬、成功した女友達、友だちの失敗を噂にしてしまうルサンチマン。うわぁ、女って怖い・・・・。ハッピーエンドといえばそうだけれど、女はたくましいというか、よくそんな嘘をつけるな、、、っていうか・・・。
「二十年後の宿題」が、『北のカナリアたち』の原作で、共に学んだ6人の小学生と当時の女教師との物語。休日のイベントの最中におきた事故で、全員が心に傷を負ってしまう。子供のひとりが、川で溺れてしまうのだ。子供は無事に助かるのだが、それを助けに川に飛び込んだ先生の夫が、亡くなってしまう。全員が、「わたしのせいで」「ぼくのせいで」先生の夫は亡くなり、先生が学校を去ってしまった…と思っていた。でも、最後は、それぞれがそれぞれの思いを口にすることで、氷塊していく感じ。ハッピーエンド。
「十五年後の補習」は、恋人同士の書簡。国際ボランティアで海外で活動している純一と日本に残った万里子との文通。二人は中学校の同級生。同じ同級生とのイジメ問題、放火による火事、同級生の自殺、、、。ずっと語ってこなかった二人の共通の過去について手紙の中で告白しあう。そして、明かされるのは火事の原因。二人の同級生が死んでしまった本当の理由。。。
どのお話も、ドキドキの展開。
あっという間に読んでしまった。
礼文島へ行く前に読んだのは、最初の二つまで。戻ってきてから、カナリアパークもみたし、もういいか、、とおもいつつ、やっぱり気になって最後まで読んでしまった。
ほんと、面白かった。
って、明るいおもしろい!たのしい!ではないのだけれど、、、。推理小説のようなドキドキ感。
ちなみに、『北のカナリアたち』の原作とされている「二十年後の宿題」は、映画とはだいぶ違う、、、ともいえるし、骨格は同じ、、、ともいえる。結局、旅から戻ったその日に、Amazonプライム有料レンタルで映画をみた。なるほど、映画と原作は結構違うけれど、先生と6人の生徒の物語という基本は一緒。映画の話は後日として、もう少し「二十年後の宿題」について、ネタバレ。
最初の手紙は、
「大場君へ」
38年間の小学校教員生活を終えた竹沢真知子は、教え子の大場君から毎年年賀状をもらい、退職祝いまで贈ってもらう。その返礼の手紙から始まる。
手紙には、真知子は退職後、持病の悪化で入院中であること、でも、どうしても気になる6人の教え子がいて、いつ退院できるかわからないから、彼らが今幸せに暮らしているのかを、自分の代わりに6人会って、確認してきてもらえないか、とあった。
「何をもって幸せとするのか、私の年代と彼らの年代では大きく違うのではないかともおもうのです。その点、6人は大場君と同い年ですので、直接、幸せかどうか訊ねなくても、大場君の感覚で彼らがどのように見えたか教えてほしいのです」
と。
そして、教員8年目となっている大場敦史は、真知子の願いが他人事とは思えず、その依頼を受け入れて、6人に会うこととなる。
手紙は、その報告が続く。
一人目、河合真穂。3年目に結婚して黒田さん。そこで、大場は、「あの事故」のことを真穂から聞かされる。
あの事故とは、、、
真穂が小4の二学期、体育の日、みんなで先生と先生のだんなさんと赤松山に落葉拾いに行った日のこと。旦那さんは、みんなのために車をだして、お弁当まで作ってきてくれて、とても楽しかった。それぞれがバドミントンをしたり、川遊びをしてたのしんでいた。その時、良隆くんが、川で溺れて、助けるために川に飛び込ん旦那さんが亡くなってしまった。良隆君は、助かった。
真穂は、「先生にはお気の毒だけれど、亡くなったのがだんなさんのほうでよかった」と電話で話している母親の言葉が理解できなかった、ということ。
真穂は、「先生は、私たちのことをずっと心配しつづけたのではないか」と、真知子のことをいたわる言葉を口にした。
大場は、自分も、子供の命を亡くさずに済んだことは、教師としては「よかった」と思うと、真知子に綴る。そして、今、付き合っている女性がいて、もしも、彼女と自分の生徒が同時に溺れたら、自分は生徒を助けることを優先できるのかと悩んでしまう、と告白する。
2人目は、津田武之。N証券、東京本社で働く。竹沢先生に依頼されて6人と順番にあっていることを告げると、「事故のことはきいているのか」、と言われる。そして、どういう順番で、どう会うつもりなのか、とも。
津田から聞かされたのは、落葉拾いにいったきっかけについてだった。
藤井利恵と古岡辰弥がケンカをしたので、仲直りピクニックだった、と。事故当時、津田は学級委員だから、ピクニックに声をかけられた、と思っていた。でも、本当は、「クラスの貧乏人」が集められたピクニックだったということに、行ってみて気がついた。そして、先生のだんなさんはみんなに平等にお弁当のおかずを分けてくれて、嬉しかったことを語る。
あの日、川であそんでいたら、辰弥が向こう岸に渡りたいって言いだして、渡り始めた辰弥を良隆がおいかけて足を踏み外し、あっという間に川に流された。だんなさんはすぐに飛びこんだ。津田は急いで先生を呼びに走った・・・。
先生は、必死でだんなさんに人工呼吸をしていたけれど、自分の目にはもう死んでいるように見えた。。
「その後、俺は人様の好意は素直に感謝して受け入れることにした」そして、先生への感謝を語った。
3人目は、根元沙織。結婚して、宮崎姓になり、5歳と3歳のお母さんになっていた。そして、「先生は、何をしりたがっているんですか?」と「私の前にあったのは、真穂と津田君でしたっけ?あの二人は現場を見ていないから結果だけをしって先生を崇拝しているのだと思う。」といわれる。
沙織が見たのは、だんなさんにしがみついている良隆を引きはがした先生が、だんなさんを抱えて川岸に戻ってきて、良隆は、川に置き去りにされていた、、、ということ。そして、子供たちが3人がかりで良隆を引き上げた。
沙織には、良隆が、先生に捨てられたように見えていた。でも、自分も何もできなかったから、いままでそのことを口にしたことはなかった、と。そして、自分の身に置き換えても、きっと、生徒より旦那を助けるだろう、、、と。所詮、教師と生徒は、人生のほんの一部でしか関わらない同士。家族を持った今だから、先生のとった行動も理解できる、と。そして、子供には、スイミングプールに通わせている、、、と。
4人目は、古岡辰弥。「梅竹組」という土木会社勤務。辰弥には、「あの事故のことを聞きたいのならあわない」といって電話を切られてしまう。結局、先生からの預かりものを渡したいと言って、なんとか会ってもらえることになる。そして、自分の職業に対する偏見のようなことを口にし、仲直りピクニックのきっかけになったケンカについて話し出す。
母子家庭で育った辰弥は、「お父さん」についての作文の宿題をどうしようかと考えていた。そして、もう一人の母子家庭の生徒、藤井利恵が、「作文どうする?」って聞かれたことからケンカになった、と。自分の母親は看護婦だから何枚でも作文は書けるという利恵。水商売の母親のことを馬鹿にされたと思う辰弥。
俺と利恵が、くだらないケンカなんかしなければ、先生のだんなは死なずに済んだんだ、、、と。そして、きっと、利恵も同じように感じているといって、利恵のことをずっと心に懸けている様子の辰弥だった。
そして、辰弥のことを先生に伝えると、先生から思いがけない手紙が帰ってくる。
「主人はあの日、川に飛びこまなくても、翌年、紅葉を一緒に見に行けたかどうかわからない健康状態でした」と。だから、あの日、ピクニックを計画したのは、主人のためだった、、、と。張り切って、美味しいお弁当を作るのだと、本を買ってきて、何日も前から献立を考えて、いちばんはしゃいでいたのは、主人だったのです、と。
5人目、良隆には、会えなかった。その代わり、手紙を受け取る。あの事故で、だんなさんが死んだと父親から聞いた。母親は「あなたのせいじゃない」と何度も繰り返した。そのたびに、自分のせいだ、と言われているようだった、、、と。だれからも、責められないことがかえってつらく、大学に入っても、自傷行為を来る返すようになって、失敗するたびに、死ぬことも許されない自分の存在を恨んだ、と。そして、或る時、飛び降り自殺しようとしている女性を目撃し、近くの交番に駆け込む。女性は無事保護され、そのことで、自分に事件のことは「もう終わったこと」と暗示をかけるようになった、と。
6人目は、、、藤井利恵は、会ってもらえなかった。
そして、なかなか会ってもらえないのだと、大場は、自分の彼女にこれまでのことを話す。先生の想い、それぞれに生徒の想い。そして、藤井利恵さんがなかなか会ってくれないのだ、、、と。大場は、自分の彼女に事故のことを話した経緯、そして彼女の反応を真知子への手紙に書いた。そこには、驚くべき告白があった。。。
話を聞いて、泣き出す彼女。彼女のやさしさに感動する大場。
そして、
「あの事故で、自分を一番おいつめているのは先生じゃないかな。」とぽつりと言う彼女。
「先生はあのとき、妊娠していただんだって。でも、川に飛びこんだせいで流産してしまったの」
「え?」
他人事として聞いていたはずの彼女が、いきなり事件のことを語り出す。
「私が藤井利恵です」
そう、大場君の彼女が藤井利恵であることを知っていて、大場君に六人に会ってくれと頼んだ真知子だった。それは、利恵から、大場君という人と付き合っているけれど、事故のことをどうやって話したらいいのかわからない、と相談されていたからだっ た・・・・。
とまぁ、みんなそれぞれが過去のことを背負い、乗り越え、人生を歩み、やはり、先生を頼りにしたり、いつまでたっても生徒だったり、、、。
感動というか、なんというか、じわーーーっとくる物語。大場君と利恵の幸せを願わずにはいられない物語。
湊かなえ、すごいなぁ。
面白い。
面白くて、あっという間に読めるのと、登場人物が多い割にはお話がややこしくならずにストレートに進んでいくので、スッと胸に響いてくる。
うん、読書は楽しい。
映画もいいけど、やっぱり、小説もいい。