飛鳥新社
2023年4月28日 第1刷発行
2023年7月6日 第5刷発行
先日、頭木さんの『食べることと出すこと』を読んで、いたく感動した。
彼の本をもっと読んでみたいと思った。彼の『絶望名人の人生論』と言う本があることも知った。読んでみようと思っていた矢先、先日友人の家で、本書が2冊積まれているのが目に入った。いつもの仲間の家で、数人での食事会をしたのだが、そのうちの出版社で仕事をしている人が持ってきてくれていたものだった。
目に入って、思わず
「これどうしたんですか?!」と聞くと、
「あ、そうそう、1冊はあなたにあげようとおもって、持って行っていいよ」と!!
おー!!嬉しい!!!
実はこの本の事は知らなかった。なんでも、NHKラジオ深夜便で大好評で、単行本にもなっていて、その後文庫化された本らしい。
真っ黒い表紙に赤い帯。
厚さといい、なんともインパクトのある1冊。
表紙の文字が、また、好奇心をそそる。
”明るく前向きに生きることに疲れた人へ
明けない夜もある。
無能、あらゆる点で、完璧に。
絶え間のない悲しみ、ただもう悲しみの連続。
あきらめとはなんて悲しい隠れ家だろう。
どうせ生きているからには、苦しいのは当たり前だと思え。
あの人の弱さが帰って、私に生きていこうという希望を与える。”
帯には、
”文豪・偉人たちの絶望に寄り添う言葉から生きるヒントを探す。
頭木弘毅、NHKラジオ深夜便 制作版
川野一宇、根田知世己
NHKラジオ、深夜便の人気コーナー、各回完全収録+ α
カフカ、太宰治、芥川龍之介、シェイクスピア、ベートーベン、ゴッホ、宮沢賢治、中島敦、外
『絶望名言』—― おかしなタイトルですよね。『希望名言』なら説明は不要ですが、『絶望名言』だと、なんでそんなものと思う人が多いかもしれません。でも、失恋したときには失恋ソングにひたりたくなるように、絶望したときには、絶望の言葉の方が、心にしみることがあると思うんです。私自身も、そういう体験をしました。絶望したときに、救いとなったのは、明るい言葉ではなく、絶望の言葉でした。 頭木弘樹”
とある。
おぉ!!なんと、こころに響く言葉。そして、頭木さんの絶望がなんであったのかを『食べることと出すこと』を読んで知っていると、なおさら、こうして絶望名言に背中を押されて、文学紹介者という肩書を得るほどにまで回復されていることに、拍手喝采。
頭木さんの絶望は、20歳で患った潰瘍性大腸炎。その彼が、NHKラジオ深夜便で、このようなコーナーをもっているとは、知らなかった。
本は、放送での頭木さんと川野さんのやりとりを、そのまま文字起こししたもの。その回のテーマに沿って選曲された曲の紹介も。さだまさし、森田童子、ドン・マクリーン、、、、、。
私も若いころは、夜のラジオが結構好きで、ベッドのなかでラジオ深夜便を聞いたものだけれど、最近は深夜に起きていることがないので、ほとんど聞くことが無かった。でも、いいんだなぁ、、、こういうテーマの静かな語らい。実際の放送も聴いてみたいな、っていう気がした。
アナウンサーの川野さんは、2016年から『絶望名人』を担当、とあるから、そんなに昔からある番組だったのだ。知らなかった。そして、川野さんも脳梗塞で倒れて、絶望したことがあるという経験談がでてくる。二人のやりとりが、とつとつと、しんしんと、、、なんともいい。番組視聴者にとっては、復習本みたいで、まさに待望だったのだろうと思う。
目次
はじめに 絶望の言葉の方が心に染みる時も
第1回放送 絶望名言 カフカ
第2回放送 絶望名言 ドストエフスキー
第3回放送 絶望名言 ゲーテ
第4回放送 絶望名言 太宰治
第5回放送 絶望名言 芥川龍之介
第6回放送 絶望名言 シェイクスピア
第7回放送 絶望名言 中島敦
第8回放送 絶望名言 ベートーヴェン
第9回放送 絶望名言 向田邦子
第10回放送 絶望名言 川端康成
第11回放送 絶望名言 ゴッホ
第12回放送 絶望名言 宮沢賢治
あとがき 『絶望名人』ができるまで
どうだ、このそうそうたるメンバー。各回に、パーソナリティーのお二人の会話と、それぞれの作家の絶望名言が紹介される。ついでに、絶望音楽も。そして、それぞれの回ごとに、作家のブックガイドがあるので、それも参考になる。
どの作家も、どの言葉もこころに響くのだけれど、あえて一つだけ覚書しよう。
「涙とともにパンを食べたことのない者には、人生の本当の味はわからない。ベッドの上で、泣き明かしたことのない者には、人生の本当の安らぎはわからない。」
ゲーテ (ヴィルヘルム・マイスターの修行時代)
ベッドの中で本書を読んでいたのだが、この一文を読んで、はからずも涙があふれた。
泣きながらパンを食べるって、悲しいのにお腹がすくって、、、
泣いた後に、食べるのとも違うのだ。
泣きながらパンを食べる、、、その悲しさ、セツナサ、絶望と卑しさ。。。。
あぁ、、、人生ってそういうこともある。。。
私は、泣きながらパンを食べた。。。ご飯だったり、蕎麦だったり、、、。
まぁ、パンというのは比喩かもしれないけれど、悲しくて悲しく仕方がないのに、お腹が空いて、死んでしまいたいほど悲しくても、チャンとお腹はすいて、ほんとは死にたいなんて思っていなくって、生きたいからお腹が空いて、、、、
そういう気持ちと身体の矛盾に、かっこよい絶望名人にはなれない自分に、、、なさけなく、更に泣けてくる、、、。
ゲーテの一言が、どういう場面での泣きながらパンを食べるのかはわからないけど、むかし、友人がぽつりといった言葉で強烈に心に残っているものがある。20代のころ、それは、お葬式のあとだった。
「こんなに悲しいのに、俺、お腹空いた・・・・」
死ぬほど悲しくて、もう生きていけない、、なんて思っても、お腹がすく。
そのかっこの悪さに、さらに泣けてくる・・・・。
あぁ、、、人生。
ベッドで泣き明かし、このまま夜が明けなければいい、、、世界が終わってしまえばいい、明けない夜はある、、、って思っても、世の中の朝はやってくる。自分だけが世の中に取り残されているような絶望。そして、やっぱり、いつかは明けるのだ・・・・。
でも、明けない夜を経験したことのある人にしか、夜が明けることの喜びはわからないのかもしれない・・・。
まぁ、そうそうたる面々のそうそうたる言葉の数々。川端康成なんて、芥川龍之介の自殺をあれだけ非難しておいて、結局は自分も自殺しちゃうのだから絶望名人だ。向田邦子さんは、飛行機事故での非業の死だったけれど、右手が思うようにつかえなくなるという絶望を抱えていた。
本書で紹介されている本も、どれもおもしろそう。特に気になったのは、川端康成の『眠れる美女』『みずうみ』、向田邦子の『父の詫び状』などなど、、、。
ますます、読みたい本リストが膨らんでいく。
今、希望に燃えている人にも読んでもらいたい一冊。絶望していても、本書をとる気力があるのなら、きっと、いつか、夜は明ける。明けるまで、じっと暗闇の中で膝を抱えていてもいい時もある。
そう、凹んで、沈んで、潜っていたっていいのだ。
一度潜らないと、浮上できないからね。
それを絶望と思ううか、未来への準備と思うか、、、あとから振り返ればすべては今につながっている。
絶望している時には、それに気が付かないだけだ。
気が付くときはくる。
それまでは、絶望していてもいい。