映画『オオカミの家』 クリストバル・レオン & ホアキン・コシーニャ

映画『オオカミの家』

制作・監督: クリストバル・レオン & ホアキン・コシーニャ

 

映画好きな友人に、「すごい変なもの観てしまった・・・・。観て感想を聞かせてほしい・・・・」と言われ、気になったので、観てきた。

 

友人曰く、「背景をしってから見たほうがいい」とのことで、概要は友人から教えてもらい、さらにネットで事前予習してから観に行った。だって、怖いっていうし、、、、。

 

映画の公式HPによれば、

”むかしむかし、あるところにマリアという美しい娘と、二匹の子ブタがいました ――。
実在のコミューン【コロニア・ディグニダ】にインスパイアされた
“ホラー・フェアリーテイル” アニメーション

 

クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャの二人組による初の長編映画『オオカミの家』は、ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン【コロニア・ディグニダ】にインスパイアされた “ホラー・フェアリーテイル” アニメーション。チリ南部のある施設から逃走し、森の中の一軒家で二匹の子ブタと出会った娘マリアの身に起きる悪夢のような出来事を描いている。”

と。

 

ストップモーションアニメなので、実写のような現実感はないのだが、その分、まがまがしさというかおどろおどろしさが、半端ない・・・・。私は、ホラーは観ないので、あらかじめ情報をインプットしておいて、怖くならないように、、、何が出てきても驚かないように、、、と十分に準備?!してみてきた。

 

感想。

恐ろしい・・・。

ただただ、、、怖い。でも、深く考えさせられる映画。

怖いのは、ストーリーや映像だけではなく、このストーリーがかつてチリに実在した「コロニア・ディグニタ」という施設のPR動画の位置づけであるということ。

 

映像も怖いけれど、本当に怖いのは、人間という生き物・・・・その悲しい性。自由とは何なのか?守られるってどういうことなのか?ルールの中で生きる方が楽なのか?たとえそれが地獄のようなルールでも、、、、。

 

本作を見る前に、学習しておくべきは、「コロニア・ディグニタ」がどのような施設だったかということ。「コロニア・ディグニタ」は、ドイツからチリにやってきたナチスを崇拝する一人の男、シェーファーがつくったカルト集団。表向きは、農業を営み、周辺のチリ人たちともうまく共生しているドイツ人コミュニティだけれど、内部では365日16時間労働、人権侵害、児童性的虐待ピノチェト政権秘密警察の拷問請負、、、などなど、、、内部は、地獄だ。中では、武器の製造などもしていたらしい。そして、なんと40年以上その組織は続いていたのだ。ほんのつい最近まで・・・。内部から流出した写真によって犯罪的行為が知られ、国際的に大問題になったらしいが、ピノチェト政権下ではだれも逮捕されていない。海外逃亡したシェーファーは2005年にアルゼンチンで逮捕された。2010年に獄中で亡くなっている。

 

そして、恐ろしいことに、今でも「コロニア・ディグニタ」は、名前を変えてレクリエーション施設として運営されているのだそうだ。。。。実態は???オウムがアレフになったような不気味さが・・・。

詳しくは、ウィキででもしらべてもらえれば、どれほどおぞましい所なのかがわかる。統一教会とか、何とかの会とか、、、そんなものの比ではない。シェーファーは、「どんな下等なしもべも何らかの形で神の役に立つ」といって、人間を毒ガスの実験台にしようとする。。。集団リンチ、拷問、、、、、。しかも法の裁きを受けずに活動し続けたのだ。

 

エマ・ワトソンの映画『コロニア』(2016年公開)は、コロニア・ディグニタに連行された恋人ダニエルを救い出すために、自らコロニア・ディグニタに入所する女性レナを描いた物語。『オオカミの家』を見る前に、みておくと、『オオカミの家』がどれほど恐ろしい物語かがわかる。公開当時は、エマ・ワトソンのフライトアテンダント姿の予告編が可愛くて見てみたい、とおもったけれど結局見なかった。今回、『オオカミの家』を見る前に、Amazonプライムで観ておいた(有料!レンタル)。組織のことを理解するのに役立った。内部での恐ろしさだけでなく、ピノチェト政権とつながっていることで、正義がどこにもない・・・。そういう恐ろしさ。最後に、脱出に成功したダニエルとレナを救ってくれたのは、レナのドイツ人同僚(ルフトハンザのパイロット)であり、ドイツ大使館ですらピノチェト政権とグルだった・・・。

 

本作の恐ろしさは、洗脳の恐ろしさなのだ。

 

主人公のマリアは、コロニアが嫌になって逃げだしてくるのだけれど、結局外の世界で出会った豚たちに、自分がコロニア内で教育されたのと同じことを仕向ける。かつ、自分の思うようにならなくなると、コロニアのほうがよかったという思いに至る・・・・。

 

そして、コロニアがどれだけ素晴らしいところかということが、マリアの行動を通じて主張されている。魔法のはちみつを食べれば、豚だって、白人になれる・・・。そして、白人になった豚に食べられそうになるマリア・・・。

めちゃくちゃなストーリーでありながら、これがPR動画なのだとすると、、、、ぞっとする。

 

コロニアの外の世界は「間違った世界」であり、正しいのは「コロニア内」なのだ。

せっかく、逃げ出したマリアも、結局はコロニアに自ら帰っていく・・・・。

 

映画を観てから、感想を書いておこうと思えるまでに2日かかった・・・。消化するのにちょっと時間がかかる映画。

 

コロニア・ディグニタという組織のことを知ったうえで、観ることをお勧め。そして、音響のいい映画館で観ることをお勧め。。。。

 

よく、こんなストップモーションアニメをつくったな、、、と思う。現実にはあり得ないけど、、、CGではなく、アニメーションであるところがまた、なんだか恐ろしい・・・・。

 

また、同時上映される短編『骨』もこれまた、、、、グロい・・・・・。

 

これは、アニメだ、アニメだ、現実じゃない、、、って思ってみれば、ホラー嫌いの私でも見ることができた。

 

それにしても、洗脳って、他人ごとではない。

宗教でななくても、日本においては会社組織になじんでいくのだって、一つの洗脳のようなもの。。。。中にいると気が付かない異常さ・・・・。気が付いていてもそういうものだとあきらめてしまう異常さ・・・。学校だってそういうところがあるかもしれない。

ジャニーズ事務所の今回の性犯罪問題だって、一つの洗脳だ。「誰にもいっちゃだめだよ」って。。。我慢していればいいことがあるって、、、。

 

怖い怖い。

本当に恐ろしいのは、悪魔でも地獄でもない、人間の中にある弱さなのかもしれない。

とてつもなく深い映画ともいえる。

 

マニアックなシアターでしか上映していないかもしれないけれど、音響のいいシアターでの鑑賞をお勧めする。

 

自分の自由意志なのか、洗脳されているのか、、、時に自分を省みる時間も必要かもしれない。。。

 

いやぁ、、、変なもの観ちゃった、、、、。

けど、人生で一度くらい、こういうの観ておくといいと思う。

観てよかった。