映画 『ダンサーイン Paris』

映画『ダンサーイン Paris』

監督:セドリック・クラピッシュ

 

銀座で用事の合間、3時間ほど時間ができてしまった。いつもなら近い図書館に行くところだけど、あいにく休館日。喫茶店で3時間は、ちょっと長い。

映画でもみるか、と思って久しぶりにヒューマントラストのHPをみると、心惹かれるタイトルの映画がちょうどよい時間にやっている。

 

『ダンサーイン Paris』

広告を観ると、

”感動と圧巻のステージに、フランスの140万人が 大喝采! 
 パリ・オペラ座バレエダンサー 、マリオン・ボルバー初主演

予告編をみただけで、本物のバレエダンサーが踊っていることがわかる。バレエものなら見なくちゃ、ということで珍しく、ネットでチケット購入した。ヒューマントラストは、小さいので直前だと満席のことが多いから。ネットで予約すると QR コードが発行される。劇場に行ってから、 QR コードで発券。 開演の15分ぐらい前に会場にたどり着いたけれど、思った通りすでに満席だった。 予約 しておいて良かった。 

 

ほぼ2時間 の上映時間。 一瞬 コーヒーを買って入ろうかと思ったけれど、 映画の後にまた 時間を潰さなきゃいけないし、 飲み物は購入せずに着席。 小さな映画館だけれど、 座席は普通にゆったり。 私の隣には、サラリーマンのおじさんらしき人が一人座っていた。 反対の隣は、若いカップル。 おばちゃんのグループ、 一人で来ている人、 客層は様々。 意外と男性も多いというのが 印象。

 

 感想。
いやー、楽しかった!!2時間、あっという間。もっと観たい!!観続けたい!って感じ。映画館を出た後も、思わず一人でニヤニヤしちゃうくらい、楽しかった。元気をもらった。

 

バレリーナが、怪我と失恋で挫折を味わうのだけれど、やっぱり躍りを通じて新たな人生を歩み出す物語。涙あり、笑いあり。あー、小劇場系の素敵な映画だった!!フランス映画、こういうの大好き。ほぼフランス語だけれど、時々英語もある。もちろん、日本語字幕でみた。

 

以下、ネタバレあり。

 

主人公のエリーズは、幼い時から バレリーナになることを夢見てバレエスクールに通い、ついには パリ・オペラ座へ。 物語は、エトワール(フランス語で「星」の意味で、パリ・オペラ座バレエ団で最高位のスターダンサー)を目指ざすエリーズが、 クラシックバレエの一つ「 ラ・バヤデール」で バヤデール役を踊っている 舞台から始まる。幕が上がる前の楽屋の様子は、みていて、ワクワク、ドキドキ。バヤデールを踊るというのは、もう主役を任されているということ。そんなエリーズは男性ダンサーと恋人同士だったが、出番をまっていた舞台袖で、恋人が他の女性ダンサーと浮気をしているところを目撃してしまう。心乱れたまま舞台にでて踊るエリーズ。拍手喝采。客席には、エリーズの晴れ舞台を観ようと、父や妹たちもきていた。しかし、最終幕のラスト、グランジュッテ(バレエの大ジャンプの一つ)で着地を失敗し、エリーズは舞台上に倒れてしまう。倒れたエリーズを隠すかのように舞台の幕は閉じる。ざわめく客席。

 

エリーズは、右足首を痛めてしまう。救急搬送された病院では、ねんざ、といわれたものの専門の医師に再診してもらうと、ねんざしているが、同時に剥離骨折もしている、と。絶望するエリーズ。エリーズは、これまでにも右足首を捻挫していて、前回ちゃんとリハビリが終了する前に踊り始めてしまったことを医師に告白する。今回、ちゃんとリハビリしたとして、トゥシューズで舞台に立てるのは2年後、と宣告される。
「私は、今、26歳なんです。2年も待てません!」とうったえるエリーズ。
「一生踊れなくなりますよ、、、」とつれない医師。。。

一夜にして、恋も、バレエも失ってしまったエリーズ、、、。でも、ただ悲しんで場合ではない。私はどうするべきなのかと悩むエリーズ。バレエ一筋の人生だった。それは、今は亡き母に支えられた人生であり、母亡きあとは父に支えてもらった人生だった。

 

エリーズは、ギプスをはめた生活を始める。ギブスをはめたままストレッチや体感トレーニングを続けるエリーズ。友人の整体師ヤン(男性技師)のところへ通う。ヤンは、エリーズのケガと失恋のことを知っている。エリーズの体のことも知り尽くしているヤン。エリーズの体が不調なことを心の問題からだと慰めてくれるヤンだが、診療をしながら、なぜかヤンが強張っている。ヤンの様子がいつもと違うことをさとったエリーズは、「どうしたの?」と尋ねるとなんとヤンが号泣し始める。なんと、ヤンも失恋していたのだった・・・。慰めてもらうはずが、なぜか自分がヤンを慰めている、、、エリーズは、強い。信頼し合っている二人の様子が、微笑ましく、笑える。

 

そして、踊れないエリーズは、これからどうしたらいいのか、10代のころバレエスクール仲間だった友人のサブリナにあって相談する。サブリナは、明るい女性。「バレエをやめた時に、それまでの人生もやめたの。そして違う人生にした」というサブリナ。サブリナは女優を目指しているのだという。「それで、食べていけるの?」と心配げに聞くエリーズに、「それはまた別の話ね。いろんな副業もしているわ」と笑うサブリナ。そして、エリーズは、サブリナに紹介されて副業の一つを一緒にやることに。それは、なんとウエディングドレスの写真モデルの仕事。

 

その撮影現場での事件が面白い。バレエとは関係ないけれど、フランスの女性の強さを表現するために仕込んだプロットだろうか。中年の男性カメラマンが、ウィディングドレスを着た10代の女性モデルに、新郎役モデルの足元に座って、見上げるしぐさを要求する。それを見たサブリナは「時代錯誤もはなはだしい。この中年オヤジ!」と異議申し立て!現場は、騒然と、、、、。そして、ウィディングドレスをきたまま現場を飛び出すサブリナとエリーズ。笑った!!笑いながら逃げ出す二人が可愛い!

 

そして、次なる副業は、サブリナの恋人のお手伝い。サブリナの恋人ロイックは、シェフをしている。そして、ロイックの親戚がやっているブルターニュの宿の料理人としてしばらくの間、アルバイトに行くことになり、それに同行するサブリナとエリーズだった。
宿で待っていたのは、ロイックの伯母?(実家ではなさそうだった)ジョジアーヌ。ジュジアーヌは杖をついて歩く女性で、足を引きずってあるくエリーズをみて「あら、仲間ね。私は30年前からよ」と朗らか。明るく前むきなフランスマダムの象徴のようなジョジアーヌ。ブロンドのショートカットの素敵な女性で、脚は引きずるけれど、シャキシャキッとしている感じ。あぁ、こういう歳の取り方をしたいな、って思う。

 

その宿には、スタジオがあり、音楽家やダンサーがスタジオを合宿場として使いにくるのだった。そして、あるときやってた一団はホフェッシュ・シェクター率いるダンスカンパニーだった。中には、、エリーズやサブリナの友人ダンサーがいた。また、ギブスをしたエリーズがバレエ仲間と散歩しているときにパリでブレキンを踊る姿を見かけたメディ(男性)の姿もあった。再会を喜び合う仲間たち。楽しい時間が始まる予感。

 

そして、料理の手伝いをしていたエリーズだったけれど、だんだんと彼ら練習風景をみて、コンテンポラリーダンスに魅了されていく。にんじんの皮を向きながら、彼らの練習風景に眼を奪われているエリーズ。その姿をみていたジョジアーヌ。ジョジアーヌは、エリーズに踊ることをすすめる。そして、結局は、ホフェッシュにも誘われ、カンパニーの新たなダンサーとして、みんなと一緒にレッスンに参加するエリーズだった。
最初は、足をかばいながら。でも、クラシックバレエとは異なる踊りは、右足首を酷使することもなく、次第に足の状態は良くなってくる。踊ることの楽しさに再び取り付かれていくエリーズ。それを愛情をもって見守る仲間たち。エリーズは、メディにダンサーとしてだけでなく、異性としても惹かれていく。

 

踊りのレッスンのシーンや、ブルターニュの海外でダンサーたちがくつろいでいるシーンは、なんとも美しい。映画をみながら、自分も一緒に踊りだしたくなる。音楽あわせて、風に吹かれて、波の音に合わせて、、、、、。

夕日が沈み、暗くなったブルターニュの海岸でのエリーズとメディのキスシーン。美しい。言葉が無くても、心が通い合っている二人のシルエット。絵になるって、こういうシーンだ。。。

 

夜には、みんなでお酒を飲んでリラックス。ブレイキン、コンテンポラリーを踊る彼らにとって、「クラッシクバレエ」は理解できないという話題になる。そこで、エリーズ、サブリナ、そしてかつてのバレエ仲間の女性と3人で、宴会の途中に、「だったら見せてあげる」と、昔懐かしいクラシック定番を3人で踊って見せる。携帯で音源をかけるエリーズ。普段着のまま、エプロンもつけたままの姿で、リビングで踊る三人。それはそれで、あ~バレリーナのあるある!って感じで、美しい。

ほんと、踊りたい!!!

 

エリーズがそうやって愉しんでいる間、ヤンから会いにいっていいか、と電話が来る。そして、エリーズを追ってブルターニュまでやってきたヤンは、「バレエだけでなく、恋人も作るべきだ」とエリーズにいう。ヤンや、いつの間にかエリーズに恋していた。エリーズも自分のことを選んでくれるとおもって伝えたのだが、、、、。エリーズはヤンの本気に気づいていない。「恋人を作るべきだ」というヤンにエリーズが笑顔で答える。


「私、好きな人がいるの」
「それは素敵だ。誰?」
「・・・・。」
「誰なの?」
「メディ。」
「え?誰?」
「メディ、さっき、いたでしょ」
「・・・・・・」
呆然とするヤン。あっけない失恋。泣き虫ヤンは、
「ちょっと外に出てくる・・・・」といって、外で大泣き。

 

その姿をみたエリーズは、あれ???やばいか???って顔をしながら、ヤンの大泣きはみなかった振り。冷静なところがまたおかしい。

ここは、笑いの場面。観ている観客は、ヤンの素直さに思わず笑ってしまう。

と、そんな事もありながら、楽しい合宿は終わっていく。

 

そして、エリーズたちのアルバイトも終わる。


エリーズたちがパリに帰る別れ際、ジョジアーヌは、エリーズに「約束してね、踊り続けると」とささやく。「約束する」と答えるエリーズ。

パリに戻ったエリーズは、足の調子がいい。再び専門医を訪れると、
「驚いたわ。治っている。踊っていい」と。
歓びにパリの街を走り出すエリーズ。走る姿まで美しい!!

 

そして、エリーズはコンテンポラリーダンサーとして、ホフェッシュ・シェクターダンスカンパニーの一員として、初日の舞台に立つ。そこには、「踊りじゃ食っていけない。法律を勉強しろ」と言い続けていた辣腕弁護士の父の姿もあった。しかし、ケガを乗り越えて踊る娘エリーズの姿に、涙する父。言葉はない。でも、父の表情が全てを物語っている。


本当に、美しく、生きる勇気と元気をもらえる作品だった。好きだなぁ。。。最近、月に一度くらいしかおどっていないのだけれど、また、クラッシクバレエをやりたくなった。やっぱり、ダンサーは美しい。

 

映画の中、素敵な言葉がいくつもでてくる。
なかでも、映画をみながらうんうん、と大きくうなずいたものを覚書。

 

ジョジアーヌが、踊ることを怖がるエリーズにいう言葉。
「女性で初めてエベレストに登った人のセリフ。しっている?
 ”私は、低い山で転んだから、高い山に登れた。”」

ジョジアーヌは、エリーズのこれまでの人生が順調すぎたのだから、ちょっとくらいの挫折がなんだ、って話して聞かせるのだ。そして、低いとこで転んだことがあるから、高い山に登ることができるって。高い山で転ぶ前に、低いところで転んでおくのも、人生で大事なこと、って。

 

踊りを怖がるエリーズが、ブルターニュの海岸を散歩中、ホフェッシュ・シェクター(メディだったかも?)に言われるセリフ。
クラシックカーを、買ってガレージにしまっているだけの人がいる。車は、走りたがっている。車は走らないと意味がない。」
そう、走らないとね。行動しないとね。ダンサーは、踊らないとね。

 

泣き虫ヤンのセリフ。
「僕の役割は、君の身体と心の調和を取ることだ」
といいつつ、エリーズに片思いして、自分の心の調和を失っちゃうヤンだけど。でも、ヤンは立ち直りも早い。パリに帰ったらすぐに新しい恋人をつれていた。
身体と心の調和。大事。

 

そして、ジョジアーヌから「父親から愛しているって言ってほしかった」と聞いていたエリーズが、父に「愛しているといって欲しい。」という場面では、なかなかそうは言えない父。でも、口にできないからって、娘を愛していないわけではないのだ。。。
それが、最後にコンテンポラリーの舞台で踊るエリーズをみて涙する父の姿。舞台の後、「ちょっと、、、」といってエリーズを連れ出し、ただ、ハグし合う父と娘の影。

この、お父さん役の俳優さん、すごいと思う。家族愛も大きなテーマになっているのだが、それを言葉少なく、大きなインパクトで伝えている。若くして妻を亡くし、娘3人を育てた父親の頑固さとやさしさ。

 

いろんな愛の形。いろんな踊りの形。どれもとても素敵に描かれている。本当のダンサーがおどっているのだから、踊りのシーンも圧巻。自分も踊りたくてうずうずしてくる。

 

いやぁ、ひさしぶりに、ヒューマントラストにいったけれど、やっぱり良かったなぁ。日本のアニメやハリウッド映画も好きだけど、やっぱり、こういう映画が好きだ。とてもお薦め。
思わず、遠方にいる昔のバレエレッスン仲間に「すごく良かったから観て」ってLINEしてしまった。

身体をいたわることは、心をいたわること。

 

エリーズ役だったダンサーのマリオン・ボルバーのインタビューをYouTubeで観ていたら、踊ることも演じることも身体の声を聞くという意味で一緒だ、ということを言ってた。
なるほど。ダンサーは、身体をよくわかっている。心もよくわかるのかな。

コンテンポラリーやブレイキンもいいけど、やっぱりクラシックバレエもいいなぁ。観るのもいいけど、自分も踊りたい。つくづくそう思ってしまった。もう、私が発表会の舞台に立つことはないだろうけど、レッスンはもう少し参加しようかな、っておもった。とはいえ、最近はレッスン機会もなかなかないので、せめてジムでの体幹レーニングは頑張ろう! 

 

やっぱり、身体が資本!!