映画『北のカナリアたち』 

映画『北のカナリアたち
監督:阪本順治
撮影:木村大作
原案:湊かなえ『往復書簡』(幻冬舎文庫刊)
脚本:那須真知子
音楽:川井郁子

 

礼文島カナリアパークに行ってきたので、せっかくなので映画もみてみた。古い映画なので、Amazonプライムで有料レンタル。

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原作というか原案の湊かなえ『往復書簡』を先に読んでいたので、ストーリー展開に驚きはしなかったけれど、礼文島が舞台となっているので、あぁ、ここはあそこかな?って想像できるのが見て楽しかった。

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本作は、東映創立60周年記念作品として製作され、主人公たちが育った小学校が、礼文島という設定になっている。

 

礼文島をトレッキングしてきたあとだから、あのロケ地はいったいどうやって機材を運んで、子役の子たちも現場までどうやっていったのだろう?歩いたんだろうか?とか、色々想像してしまう。子供時代を回想するシーンと、現代のシーン。真冬の雪深い礼文島と、高山植物のさく美しい初夏の礼文島。自然は、美しいだけではない・・・。時に、人の命を飲み込む・・・。雪のシーンは、私が訪れた礼文島のイメージとは程遠いけれど、雪につつまれた礼文島は、静けさと悲しさとを包み込むようで美しかった。やっぱり、同じ場所でも季節が違うとまったく違うのだ。

 

感想。
原作とは、だいぶ違うぞ・・・。
でも、後半は、号泣してしまった・・・・。なにが悲しいかと言えば、子供達の経験した「あの事件」というより、先生の夫役である、柴田恭兵が不治の病である自分と闘う姿が泣けてくる・・・。しかし、病気、トラウマ、障害、不倫、、など原作にはない設定がたくさん出てきて、ちょっと盛り込みすぎ感がなくもない・・・。ただ、俳優さんが素晴らしい。また、子役の子たちは、本当に歌が上手。歌声だけでなく、全編に音楽もすごくよかった。
吉永小百合が、また、地味にいい・・・。回想シーンでは、自ら若い教師時代を演じているのだけれど、ほんと、若い・・・。美しい。


ストーリーは、HPから引用。

「北のカナリアたち」特集 | 東映ビデオオフィシャルサイト

「小学校の教師・川島はる。彼女が赴任したのは北海道の離島にある生徒6人の小さな分校だった。生徒たちの歌の才能に気づいたはるは、合唱を通してその心を明るく照らし、響きわたるその歌声は島の人々を優しく包み込んでいった。そんなある日衝撃的な出来事が彼らを襲う。その出来事で島を追われ、生徒たちの前から姿を消すはる。「先生は俺たちを捨てたんだ」生徒たちもまたそれぞれが心に深い傷を残してしまう。 20年後、東京で暮らすはるに生徒の一人が起こした事件の知らせが届く。「なぜ、あの子が…」真相を知るため、北へ向かう。成長した生徒たちの姿に喜びながらも、20年もの間、それぞれがあの時に言葉にできなかった想いを抱え、生きてきたことを知り愕然とするはる。そして自身もまた、心に閉じ込めていた想いを生徒たちに明かしていく。凍てついていた感情が真実となって氷解する時、物語は感動のクライマックスを迎える。」と。

 

以下、ネタバレあり。

 

映画の中の「あの事件」は、原作と似ているけれどちょっと違う。先生と先生の夫、そして6人の児童が出かけたのは、島の海岸へのBBQ。地蔵岩といわれる西側の海岸がロケ現場だと思われる。私たちは、そこまでは歩いていないけれど、徒歩でしか近づけない絶景の場所。そこで、女児のひとり(結花)が海に落ちてしまう。それを助けようとした先生の夫が、亡くなってしまう。かつ、その時、先生は現場にいないで、他の男と会っていた、、、という噂が島に流れる。


キャストをみれば、東映がお金かけたんだなぁ、ってわかる。

 

吉永小百合:主人公の教師。川島はる先生。20年前、夫と共に、故郷の礼文島にもどり、教師としてはたらいていた。その時に「あの事件」は起きる。物語は、教師をやめて図書館司書としての定年退職を迎えたはるのシーンから始まる。そして、警察が「鈴木信人の逃亡先に覚えはないか?」といってはるの元を訪ねてきたことから、20年前の教え子6人を訪ねる旅が始まる。

 

柴田恭兵: 川島行夫(ゆきお)。はるの夫。東京で大学の先生をしていたが、不治の病であることがわかり、はるの故郷である礼文島に移り住んできた。「あの事件」で、児童を助けようとして、代わりに亡くなってしまう。

 

仲村トオル: 阿部。はるの不倫?相手。警察官だが、自分の目の前で人質が殺されてしまうという過去を抱え、礼文島へ転勤してきた。生きる希望を失い、自殺を考えているところをはるに救われる。そこから、はると過ごす時間で、命をつなぐようになる。生きたいのに生きられない夫と、生きられるの死のうとする警察官の間で、はるの心は揺れ動く。原作にはいない登場人物。

 

里見浩太朗: はるの父親。礼文島のお役人。行夫の病気のことを心配し、色々な薬を行夫にもってくる。行夫は、治療するつもりがないので、薬をうけとるが飲もうとはしない。20年前、はるが、警察官と会っていることを知り、はるを責める。これも、原作にはでてこない人物。

 

森山未來:信(のぶ)ちゃん。 映画の中では、物語の中心人物。吃音で、軽度知的障害があるかのような描かれ方をしている。はるが、6人に会おうとしたきっかけが、「鈴木信人を殺人事件の容疑者として追っている」という刑事の訪問だった。鈴木信人のところにはるの連絡先があったから話を聞きにきた、というのが刑事のはるへの説明だった。信ちゃんは、小学生の時から何かあると「あぁぁぁぁ!!!!」と大きな声で叫んでしまう癖があった。その信ちゃんの叫び声を、歌声にしたのがはるだった。

 

満島ひかり: 戸田真奈美。はるが、最初に「信ちゃん」の行方を聞きに行く相手。殺人事件の容疑者になっていることを話すと、「信ちゃんがそんなことをするはずかない」と。そして、「あの事件」のことを思い出のように話し出す。たよりになるしっかり者。

 

勝地涼: 直樹。上京し、大手会社に就職している。ただし、はるが会いに行ったときには、その会社が閉鎖の危機で、人生の新たな旅立ちを考えていた。「あの事件」のきっかけとなったのが、自分が結花にちゃんと謝らなかったからだ、と思っている。結花とのケンカを謝りたいと思っていたけれど、どうしたらいいのかわからなかった直樹は、BBQの最中に、先生の夫に相談したことをはるに話す。そして、「男は行動しなければいけないときがある」といわれ、結花に謝ろうとしたこと。しかし、直樹が近づくのを見て、結花は、海の方へ逃げてしまった。そして、転落。。。直樹は、事件の原因は自分だと思っていた。そして、今でも結花に謝りたいのに謝れずにいた。そんな結花を思い続ける気持ちをはるに打ち明けたのだった。

 

宮﨑あおい: 結花。BBQの時、海に転落した女児。直樹と同じく、上京し、直樹の近くで保育士として働いていた。しかし、直樹とはずっと行き違いだった。はるが訊ねていくと、「あの事件」のことをぽつりぽつりと語り出す結花だった。自分のせいで、先生は島にいられなくなった、、、と。あの時、先生が「あの事件」のときに男の人と会っていたと街中に言いふらしたのは、自分だ、、、と。かつ、直樹君にも申し訳ないことをしてしまった。ずっと、あやまりたいのに謝れずにいる、、、と。


小池栄子: 七重。建設現場でバリバリと働いているキャリアウーマン。でも、はるが仕事を訪れた時に、「人の夫を盗んで!」と不倫していることを友人が怒鳴りこみにきた。人を好きになると、どうしようもないこともある、、、と、はるに語る。歌の独唱をする予定だった結花が羨ましかったから、、、声のでなくなった結花の代わりに、自分が歌いたいとおもってしまった自分が恥ずかしい、と。過去について語るのだった。

 

松田龍平: 勇(いさむ)ちゃん。礼文島で警察官をしている。子供のときは、信ちゃんをいじって遊ぶのが勇だった。でも、信ちゃんは、勇ちゃんのあとをくっついて回っていた。殺人事件の容疑者となった信ちゃんは、礼文島に帰ってくる。そして、そこを巡回していた勇ちゃんに見つかる。信ちゃんは、警察官が勇ちゃんだとわかって、「勇ちゃん」といって満面の笑みになる。そして、逃げ登っていた高所から落ちて意識不明に・・・。

 

6人、それぞれが事件の責任は自分にあると思い、「信ちゃん」が人を殺すはずがない、と信じている。しかし、確かに信ちゃんは勤めていた会社の社長を殺めてしまっていたのだった。DVを働く社長から、社長の奥さんを救い出した信ちゃんは、社長の奥さんと親しくなる。そして将来を約束する。しかし、執拗に元奥さんを追いかける社長から逃げようとした元奥さんは、車にはねられて亡くなってしまう。元奥さんに謝ってほしいとおもった信ちゃんは、社長の元を訪れるのだが逆上され、暴力から逃げようとしたはずみで社長を押し倒し、、、、。社長は鋭利な機械に刺さってしまう・・・。

 

実は、はるは、逃亡する前の信ちゃんから、電話をもらっていた。はるは、全部しっていたのだ。そのうえで、信ちゃんに「礼文島に逃げなさい」といった。そして、6人全員が礼文島のかつての教室で再会を果たすのだった。逮捕された信ちゃんだったけれど、刑事さんは、しばしの間目をつぶって、はると6人の再会の時間をくれたのだった。そして、6人で奏でる歌・・・。

 

「あの事件」の時、はるが現場にいなかった理由も明かされる。夫の行夫に、「かれ(仲村トオル役)は今日島を離れるそうだ。会いに行って、生きるようにとつたえてやりなさい」といわれ、警察官の阿部を見送るように背中を押されたのだった。

阿部は、今でも、はるとの約束を守って、春の実家に年賀状を毎年おくっていた。

ただ、「生きています」とだけ書いて。それは、はるが阿部を見送ったときに、「一言だけでいいから、書いて連絡をして」とお願いした言葉に応えてのことだった。

 

まぁ、色々盛り込まれているけれど、やっぱり俳優がいいの一言に尽きる。礼文島の景色もすばらしいけれど、俳優がいい。ストーリー展開として、「くさいだろ」というモリモリ感が否めないけれど、、、。満島ひかり宮崎あおい小池栄子、それぞれが本当にいい。もちろん、男優さんも、いいのだけれど、特に女性陣が素晴らしい・・・。男優さんのなかなら、松田龍平がよかった。静かでいながら、友情あふれる役柄が似合っていた。

 

ちょっと気になるのは、森山未來演じる信ちゃんが、吃音持ちで、軽度知的障害がある人間のように描かれていること。原作にはない設定。でも、吃音という障害についての理解がちょっと違うのでは?という感じがした。吃音については、伊藤亜紗さんの『きみの体は何者か』でその症状が詳しく説明されているのだが、信ちゃんの表現の仕方は、ちょっと違和感があった。どんなセリフも吃音になっていて、不自然な感じが。。。なぜ、そのような特徴をもった人物にしたのだろう。まぁ、殺人を犯しているなんて設定も原作にはないのだけれど。

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礼文島に行かなかったら、一生みなかった映画。

個人的には、原案となった『往復書簡』の話の方が好きかな。

ロケ地となった礼文島は、文句なく素晴らしい。離島の小学校という設定にしたのは、映画としてよかった。

 

本は、原案といわれているけれど、やっぱり、観て、読んで、両方楽しめるっていうのもいい。