あいまいだった言葉の覚書。
『父の詫び状』に出てきた言葉、「空谷(くうこく)」。
向田さんは、お父さんの転勤で、鹿児島市に住んでいた時期がある。その時の社宅は上之平といって山野裾の高台にあり、縁側に立つとすぐ前に桜島があったという。
「空谷という言葉を覚えたのも桜島のおかげである。いい言葉だからずっと気にいっていたのだが、この文章を書くに当たって念のために辞書を引いて驚いていしまった。
「空谷」というのは、遠くから山を見た時の谷間の陰影のことだと思っていたら、ひとのいないさびしい谷のことだという。随分長い間思い違いをしていたことになる。」
と、出てきた。
言葉の意味を、子供の時に取り違えて覚えてしまい、そのまま、、、って意外とある。あるいは、語源はよく知らずに使っているとか。先日、NHKの日本語教室を聞いていたら、「切羽詰まる」「そりが合わない」の語源が、日本刀からきているという話をしていた。知ってはいたけれど、普段その言葉を使いながら、「刀」を頭に思い描くことは皆無だ。言葉は、使って、使われる状況で覚えるものだということなんだろう。
空谷、そのままとれば、空っぽの谷。谷と谷の間で何が無い所、谷間っておもってもおかしくない。漢字だからこその勘違い。向田さんは、文字で読んで覚えたのだろうか。
「空谷」を広辞苑で調べると、
「空谷の跫音(くうこくのきょうおん)」という関連用語が載っていた。
⇒ 空谷に聞こえる人の足音。転じて、寂しく暮らしているときに受ける人の訪れ。また、非常に珍しいことのたとえ。空谷の足音。
なるほど。
空谷。なんとなく、綺麗なことばだけれど、ちょっと寂しい意味だったんだ。私もここで初めて認識した。
しかし、つい「空也最中」を連想してしまうのは、私だけだろうか・・・。
気になる言葉を辞書で引く。大事。
ちなみに、今朝の日経新聞朝刊連載小説「陥穽(かんせい) 陸奥宗光(むつむねみつ)の青春』で、大久保利通が、朝廷の「長州再征」を取り消すように朝議を覆す懇願をしたけれど相手にされなかったことを
「匹夫の訴えとして相手にされなかった」と出てきた。
「匹夫」広辞苑でひいてみると、
①一人の男
②身分のいやしい男。また、道理に暗い男。
とでてきた。
私の頭の中では、貧しい漁村の貧しい漁師と解釈していた・・・・。これは、中国ものの小説で読んで勝手に思い込んだんだろうか。。。。
やっぱり、辞書をひくって、時々、大事。