『徳川家康 戦国争乱と王道政治』 by 安部龍太郎

日本はこうしてつくられた 3
徳川家康 戦国争乱と王道政治
安部龍太郎
小学館
2023年1月11日 初版第一刷発行

 

日本はこうしてつくられたシリーズ第3弾時代は、江戸時代。古代からすると、だいぶ最近の話。

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今の東京につながる開発の話は、歴史でありながら身近な感じがするからすごい。これもまた、実際に、安部さんが各地を自分の脚であるいてまわった旅のレポートなので、楽しい。


目次
まえがき
第1章 徳川家康 戦国を終焉させた天下人の仕事編(江戸前島)
 家康コラム① 江戸城以前と家康の城

第2章 家康が築いた全長5キロメートル、江戸大運河編(江戸)
 家康コラム② 家康を支えた家臣団「徳川四天王」「徳川16将」

第3章 大陸と京都を繋いだ越前と家康飛躍編(敦賀半島ほか)
 家康コラム③ 「金ヶ崎の戦い」。家康が秀吉の窮地を救ったという地元の伝承

第4章 キリシタン大名誕生と植民地化の危機編(西彼杵(にしそのぎ)半島)
 家康コラム④ 「三河一向一揆」から家康が学んだキリスト教対策

第5章 戦国終焉・島原の乱。家康がもたらした平和編(島原半島

旅の終りに

 

シリーズものだった本書は準備している最中に、コロナのために取材旅行が出来なくなってしまった。そんな逆境のなかで果敢に挑んだテーマ「家康」。安部さん自身は、『家康』を執筆するにあたって、さまざまな取材が必要だった。そして、そもそも戦国時代は世界は大航海時代で、鉄砲伝来やキリスト教もその流れの中で起きたこと。イエズス会は、ポルトガルの外交官であり、商社マンだった。南蛮貿易で巨大な利益と軍事物資を大名に与え、キリスト教に入信するように仕向けて行った。それにまんまとハマったのが秀吉で、対抗したのが家康。その家康の時代に始まったのが、秀吉の取った中央集権から地方分権へ、重商主義から農本主義へ。そして江戸再開発。
そんな話が続く。なかなか、楽しい。

 

第1章では、家康が秀吉から江戸への移封を命じられた話。秀吉は、いずれ奥州まで征伐することを見据えて、家康に江戸を任せた。当時の江戸は、言われるほどの田舎ではなかった、というのが安部さんの説。まぁ、鎌倉にも近かったわけで、それなりの人口はあったようだ。今では都会となっている東京に江戸の痕跡をもとめて訪れたのは、「ふなばし三番瀬海浜公園」。昔の東京湾の景観をしのぶことができるところとのこと。そこには三番瀬環境学習館があって、三番瀬の自然と漁業などが体験的に学べる工夫があるのだそうだ。ちょっと面白そう。

HPも結構楽し気。子連れで遊びに行くのもよさそう。

ふなばし三番瀬海浜公園・ふなばし三番瀬環境学習館

 

今の東京には、江戸時代の名残は、それなりに残っている。皇居のお堀だってそうだ。東京ミッドタウンのあたりも、建設に先だって行われた発掘調査で、日比谷入江の遺跡が見つかっている。日比谷公園から外堀通りをでてホテルニューオータニに向かへば紀尾井坂。紀尾井坂は、界隈に紀州尾張彦根(井伊家)藩の屋敷があったことに由来する。江戸城の中でも、重要な防衛拠点だったのだ。そうか、紀尾井町ってそうだったのだ。そして、桜田門外の変は、彦根藩が近かったのでそこで起きたということだ。

 

また、江戸の浅草にも弓道のための三十三間堂がつくられたという話の中では、江戸の人が竹を焦がして弓の強度をあげていたという話が紹介されている。

「700年前に竹を焦がして使えば強度と弾力が増すことがわかっていました。今ではカーボンファイバーが使われていますが、当時の人々は経験としてそれを知っていたのです。」
とのこと。すごい。
竹と竹の間に竹ヒゴを入れた「ヒゴ入り弓」の中に、焦がした竹が使われていたということが、構造分析でわかったのだそうだ。これは、さすがに経験値だったのだろう。ほんとにすごい。どうしてそれに気が付いたのか?が不思議だ。


第二章では、江戸の大運河、治水の話。
江戸時代の常盤橋から一石橋のあたりは、観光スポットだった。橋からの様子は、歌川広重が描いた『名所江戸百景』の「八つ見はし」でうががい知ることができるって。かつては柳の木がならんでいた川岸も、今では高速道路の下。

江戸は、川に囲まれている。今では夏の風物詩となっている隅田川の花火大会は、明暦の大火の際に、隅田川でにへだてられて逃げられずに亡くなった人々を供養するために始まったのだそうだ。それは、、、知らなかった。明暦の大火を経験し、防災対策の必要性を痛感した幕府は、従来は出入りを制限するためにできるだけ橋をかけずにきていた方針を改め、両国橋をかけることにしたのだ。命をつなぐための橋だったのだ。

 

江戸時代には、江戸は大掛かりな治水が行われた。川と川を結ぶことで、氾濫しにくくしたり、運河をつくって江戸城下と隅田川を結んだりした。都市が栄えるためには、まず水源確保。世界共通なのだ。

 

第3章では、江戸だけでなく、大陸と京都をつなぐために越前を表玄関にしていたというはなし。物流は国の血流ってことか。越前、船と陸をつかった流通のその中心は敦賀敦賀から琵琶湖水運によって大津にでて京都と結ぶ。日本海と京都を結ぶ大動脈の拠点が敦賀だったのだ。

 

京都の外港として栄えた敦賀は、明治期には石油貯蔵庫として赤レンガ倉庫が建てられ、モダンでスマートな港町となっていた。赤レンガ倉庫の近くには市立博物館があり、その一角には敦賀にゆかりのある人物、杉原千畝の事績についても紹介されているとのこと。

リトアニアの日本領事館にいた杉原は、ドイツの迫害から逃れてきたユダヤ人たちに命のビザを発給し、数千人の人々を作った。脱出したユダヤ人たちは、シベリア鉄道に乗り、ウラジオストクから船に乗って敦賀に上陸。展示室の壁に貼られた、移動の経路を示す地図を見れば、当時の敦賀が日本の表玄関だったことがよくわかるとのこと。

 

敦賀で、興味深いお寺が紹介されている。西福寺。西福寺は、1368年に後光厳(ごこうごん)天皇の勅が勅願によって創設された浄土宗の寺。国指定の重要文化財の御影堂、阿弥陀堂、書院、庫裏があるのだそうだ。そして、「浄土経典を忠実に再現した構造は、日本中でここだけしかありません。それほど珍しい伽藍配置なのです。」とのこと。
ちょっと、行ってみたい。

西福寺(公式)福井県敦賀市 浄土宗鎮西派 大原山 | 福井県敦賀市|越の秀嶺|勅願寺|勝運の寺|妙華院|国指定重要文化財|国指定名勝|敦賀市指定有形文化財

 

第4章は、キリシタンについて。学校の歴史ではキリシタン弾圧を習うけれど、実は、キリシタン大名が仏教を弾圧したという実態もあったのだそうだ。これは、気が付かなかった。。。でも、たしかに、さもありなん。。。一般的にいえば唯一の神を信じるキリシタンにとっては、仏教や神道が邪道となったのだ、、、。キリシタン大名が、キリスト教の教会を立てるために、五輪塔や宝篋印塔など仏塔を建材にして階段を作ったとか、、、。踏み絵ではなく、踏み仏塔、、、の現実があったのだ。キリスト教による仏教寺院迫害の歴史があったということ。
キリシタン弾圧の方が注目されがちだが、こうした歴史があったことも忘れてはならない。」との言葉が深い。。

 

また、天正遣欧少年使節の話が。現実は、原田マハさんの『風神雷神 Juppiter(ユピテル), Aeolus(アイオロス)』の描くファンタジーの世界とは違っていた。

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ヨーロッパに渡った、中浦ジュリアン千々石ミゲル伊東マンショ原マルティノの4人。洗礼を受けてヨーロッパに向かった彼らが帰国した天正18年(1590年)には、すでにキリシタン弾圧の波が来ていた。そして、彼らは、悲運に見舞われる。ジュリアンは、捉えられた長崎で「穴吊るしの刑」で殉教。島原の乱が勃発する4年前のこと。ミゲルだけが棄教したとされているが、現在の研究では再検討されているそうだ。

 

世界文化遺産に指定された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連以降遺産」を学ぶなら、「有馬キリシタン遺産記念館」(南島原市南有馬町)。この地方へのキリスト教の伝来と繁栄、激しい弾圧、潜伏、復活の歴史について学ぶことができる。
その中でも特筆すべき事件は以下の通りだと。

1562年(永禄5年) 口之津(くちのつ)開港
1567年(永禄10年) ポルトガル戦の来航
1579年(大正7年) アレッサンドロ・ヴァリニャーノの口之津来航
1580年(大正8年) 有馬セミナリヨ建設
1582年(天正10年) 天正遣欧少年施設の長崎出向

1590年(天正18年) 少年使節団の帰国
1614年(慶長19年) 幕府が全国に禁教令を出す。有馬直純、日向に転封。
1637年(寛永14年) 島原の乱が起こる
1638年(寛永15年) 島原の乱鎮圧
1639年(寛永16年) ポルトガル戦の来航禁止する。鎖国の始まり。


記念館には天正遣欧少年使節団が加津佐に持ち帰ったものが展示してあるとのこと。中には、グーテンベルク式の印刷機(複製)も展示してあるとのことで、一度見てみたい気がする。この印刷機で、日本初の活字印刷本(キリシタン版)がつくられたのだそう。長崎に行っても、なかなか島原まで足をのばす機会がなかったけれど、いつか行ってみよう。。。

 

江戸時代は、治水、物流、キリシタン鎖国がキーだなぁ、と感じた一冊。家康のことも深く追求すると、江戸時代への理解が深まるのだろう。山岡荘八の『徳川家康』は、若いころに一度読んだけど、すっかり忘れた。26巻もあるので、手を出すのにちょっと躊躇してしまう。安部さんの『家康』もきになる。時代小説は、手を出すときりがなくなるけど、、、やっぱり、面白いんだよね。老後の楽しみか・・・。