『住職さんは聞き上手  釈徹宗のだから世間は面白い』 by 釈徹宗

住職さんは聞き上手
釈徹宗のだから世間は面白い
釈徹宗
晶文社
2023年2月5日 初版
*本書は、みずほリサーチ&テクノロジーズ(旧みずほ総合研究所)が発行する『Fole』の連載をもとに加筆・修正したものです。

 

何かで見かけて、面白そうだと思って図書館で予約していた。予約したら割とすぐに借りられた。

釈さんは、以前、内田樹さんとの対話『いきなり始める浄土真宗』を読んで面白いとおもっていたのと、ほかでも面白いことをお話されているので、私の中では楽しいお坊さん、って思っている。

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釈さんは、1961年生まれ。浄土真宗本願寺派如来寺住職。また、認知症の方のグループホーム「むつみ庵」を運営されたり、相愛大学の教授もされている。

 

表紙の裏には、
”厳格な教えを強いる一神教とは違い、仏教は何でもござれの世界。どのような思想信条を持つものに対しても門戸が開かれ、不届き者の声にも耳を傾けてくれるありがたい宗教。 そのような仏様の教えを体現し、どんな相手からも良いお話を引き出せる座談の名人・釈 徹宗先生がホストとなった好評連載を書籍化。 スポーツ、アート、 文学、 教育、 将棋、 人工知能生命科学などの世界の第一線で活躍する著名人たちとの妥協なき16の対談を収録 。” とある。

 

『Fole』で連載は、2023年で11年を迎えたとのこと。120名を越える方々との対談の中から、今回は、16人の方との対談を抜粋。雑誌掲載時にはカットした部分も含まれるのだと。そうそうたる人々の名前が続く。16名を選ぶのはさぞかし大変なことだっただろう。対談は、4つのテーマに分けて掲載されているのだが、どのお話も、なるほど、ほっこり、どっきり、ずっしり、素敵な対談。釈さんの話を引き出すうまさが際立っているということもあるのだろうけれど、ゲストはゲストで素晴らしい人々。なかなか贅沢な一冊。軽く、サーっと読める。でも、中身は濃い。

 

目次
まえがき
1 色即是空
打たれてもめげない「直球勝負」が大事です。   羽生善治 
何かを諦めた方が、手に入るものがある。  為末大 
「物語」の力をいま取り戻せ。   いとうせいこう
「依存先」が多いほど、人は自立できる。  熊谷晋一朗

 

2 輪廻転生
この世界にあふれる「問題」は、互いにつながっているのです。   国谷裕子
「日本語」は人の心を優しく聞かせる言葉です。   黒川伊保子 
「家族」と「共同体」のために生きる。それが人生を持つということ。   山極壽一
人間の「非合理」を知っている。それが宗教の底力だ。   佐藤優

 

3  四苦八苦
老いも死も、万能解決策は「受け入れること」。   久坂部羊 
生命の仕組みを知れば、「操作」の時代も怖くない。  中野徹 
「ヘンな日本画」には日本人の秘密がある。   山口晃 
「できる」と信じれば、人は何歳からでも伸びる。  坪田信貴 

 

4 如実知見
人間に注ぐ親鸞のまなざしを、インドの月光に見たのです。  高史明 
小説が描けるものは、「断片」の中の真理 なのです。   小川洋子 
現代人にとっての幸福は、「集中」にヒントがある。   石川善樹 
演劇や芸術には「人を育てる」力がある。   平田オリザ 

 

感想。
どの対談も、それなりに興味深い。面白いし、興味深いのだ。そして、それぞれの対談は割とシンプルで短いので、サクサクっと読めるのもいい。

色即是空、輪廻転生、四苦八苦、如実知見 と分類されている意図は、そんなに深く感じなかったけれど、宗教が根底にあるので、どのお話も「生きる」ということにつながる。そして、なにが正解だとか、なにが間違っているとかではなく、「受け止め方」次第なんだな、と、つくづく思う。

 

心に残ったことを覚書。

 

羽生善治さん(将棋棋士)の言葉。
勝負というのは、「たまたま幸運で勝つ」ということはあっても、「たまたま不運で負ける」ことはないと思うんです。負けるときは、努力不足とか、取るべき対応を見誤ったとか、何か必ず原因がある”
だからこそ、努力が必要なのだ、と。ごもっとも。

 

為末大さん(元陸上選手)との対談で、釈さんの言葉。
「成功」も大半は比較の問題。”
「自分は成功した」と思ったとしたら、それは誰かと比べているのだ、、と。世界中とインターネットでつながる現在、つねに誰かの「成功」と比較してしまう、、、と。為末さんは、だからこそ、「諦める領域」と「諦めない領域」を自分で持つのが大事、だと。

 

熊谷晋一朗さんとの対談。
熊谷さんが、身体の痛みに苦しむとき、痛みを消したいと思うより、痛みについて知りたい、と態度を変更すると、痛みは解決しないけれど生きやすくなる、という話をする。
釈さん曰く、”宗教は、人間が生きていく上で避けることのできない苦悩をいかに引き受けていくかについての、人類の智慧の結晶という面があります。”と。
知る、知ろうとすることで、生きやすくなるとすれば、智慧がつくと生きやすくなるのか・・・。
また、熊谷さんのいつもの言葉。
「自立」とは複数の依存ルートを持つこと”。親にだけ頼っている間は自立できなかった熊谷さんは、脳性まひという生涯をかかえたまま、18歳で一人暮らしを始める。そして、複数の介護者に依存することこそ、「自立」につながっていった、と。

熊谷さんの活動は、「当事者研究」。運動ではなく、研究であることに意味がある。運動の目的は「変える」ことだけれど、その前にしっかり知ることが大事なのだ、と。
「知る」の大事さ。

 

山極壽一さん(総合地球環境学研究所所長、人類学者)の言葉。
人間は身体的な適応ではなく、社会によって環境の障害を乗り越えていった。”
猿人と人間との進化の違いは、社会形成にあった。そこで重要なのは、「共感力」だった。言葉より前に共感力が必要とされたのが人間社会だった。個人、地域社会などの共同体、国、という三段階で人間社会は形成されてきた。しかし、今は個人と国が直結するような自体が起きていて、そこに生き難さがうまれているのではないか、と。
なるほど。
山極さんは、誕生日に一人でレストランにいって一人で乾杯し、「ああ、よかった」と満足する世界は、社会から個人は脱落している、、、と。
う~~ん、わかるけど、、、ちょっと、わからない。私は、誰かと行動を共にすることだけが社会とつながることとは思わないけどなぁ、、、。一人で乾杯ってそんなに変か?山極理論でいえば、私は社会から脱落している人間らしい・・・。

 

佐藤優さんの言葉
プロテスタントを煮詰めると、結局カルヴァン主義になります。この人たちは、どこへ左遷されても頑張る。どんな逆境も、自分が神から選ばれたことで与えられた「試練」だと考えるから。裏を返せば、絶対に反省しない人たち・・・”
釈さんも、思わず、佐藤さん流の宗教の底力を見た気がする、、、と。

 

久坂部羊さん(小説家・医師、『老乱』『悪医』など)が外務省が募集した医務官として海外で9年間暮らした話の中から。
パプアニューギニアにいた時 こんなことがありました。 国内で唯一 手術のできる病院から麻酔がいなくなり手術ができなくなったという記事が新聞に出た。日本なら間違いなくパニックですよね。 でもあそこの人々は仕方がないと受け入れる。 社説にパプアニューギニア人は問題を解決することより受け入れることに慣れている」 って書いてあって。でもよく考えれば「受け入れる」は問題の万 解決策です。 だから、ニューギニアの人たちは 顔が穏やか。 イライラ、 ギスギスしていない。”

問題を解決したいと思うから、苦悩する。「受け入れ」てしまえば、、、そんなに苦しまない。。。まぁ、なるほど、、、である。久坂部さんは、そんなことを小説にしているらしい。今度彼の本を読んでみよう。

 

仲野徹さん(大阪大学名誉教授・生命科学者)遺伝子検査や、出生前診断が容易にできるようになったけれど、検査の結果をうけてどうするかを考えてから検査を受けるべきだという話。ゲノムで危険が判ったところで、その先どうするか、、、考えなしに検査を受けたところで、不安の元をつくるだけだ、と。かつ、
ちなみに、がんや生活習慣病を避けるには、「煙草は吸わない」「食べ過ぎない」「バランスよく食べる」「適度な運動」が大事です。認知症も一緒です。ゲノムなど調べなくても、日頃からこのとおり節制して暮らせばええのんちゃうか、と個人的には思います。”って。
そうだそうだ!!私も、大いに同意!!
本対談ででてきた、『遺伝子 親密なる人類史』(ピュリッツァー賞受賞、医師ムカジーが面白そうだった。そして、釈先生の「巻き込まれキャンペーン」というのも面白い。人から頼まれたことは全て引き受けて巻き込まれる、という活動をしていたそうだ。
「断らない」が大事な時もある。

 

坪田信貴さん(坪田塾塾長、『ビリギャル』の原作者)教育について。
”Whyを生徒に考えさせるより、Howを一緒に考える姿勢が大事。”だと。それをうけて、釈さんは、”教育に限らず、「提供する側・される側」「治療する側・される側」という構造にとらわれると物事がうまくいかない、と言っている。一緒に、同じ方向を向いてみることが大事、だと。
これは、会社の上司と部下も一緒だ。こっちとそっち、ではなく、同じ方向を向いて伴走するのが、コーチング。
つい、Why?となりがちだけど、How?と一緒に考えることを意識しよう。

 

高史明さん(作家・在日朝鮮人、一人息子の自死をきっかけに歎異抄親鸞の教えに帰依)との対話で紹介された、ガンジーの言葉。
明日命が終わると思って今日を生きよう。永遠に生き続けると思って学び続けよう
そして、自死を望む子供に向かって高さんが言われた話。
”「死にたいと思っているのは頭か。頭だけが思っているなら、頭だけ死ぬか。足の裏はどう思っているのか聞いてごらん」と。その子供は、半年ほどして「足の裏の声が聞こえるまであるきます」と手紙をくれたそうだ。

 

と、どの対談も、ゲストも話に慣れているし、釈さんの引き出し方もいい、って感じ。目次をみて、気になるところだけ読むのもいい。

私は、今回の対談者の中には、これまで知らなかった人もいる。こうして、つながるきっかけになる、ということでも対談というのは面白い。黒川さんは『妻のトリセツ』などで有名な方だけれど、私はこれまで興味がなかったのだけれど、ちょっと面白そうな人。平田オリザさんは、ずっと気になっているけれど本を読んだことはない。彼の本も読んでみたいと思った。久坂部さんは、まったく知らなかった。小川洋子さんは著書は読んだことはあるけれど、『アンネの日記』が物書きになるきっかけだったとは知らなかった。

 

なかなか、興味深い一冊。

”だから世間は面白い”という副題もぴったり。結構、お薦め。

 

やっぱり、読書は楽しい。