『セミコロン』 by セシリア・ワトソン

セミコロン
かくも控えめであまりにも厄介な 句読点
セシリア・ワトソン
萩澤大輝、倉林秀男 訳
左右社
2023年9月15日 第1刷発行

 

本のプロの知人が、「週刊文春の書評にでていて、面白そうだ」、というので気になった。図書館で予約していたら、彼が読了したからといって送ってくださったのでさっそく読んでみた。

 

セミコロン。いわゆる「」ってやつ。確かに、日本語ではそれに代わるものはないし、なんとなく使って、なんとなく読み飛ばしている。ネットで「セミコロン ( ; )の使い方」と検索すれば色々な説明が出てくる。どれが正解ということもないように思うけれど、「セミコロンは基本的にコンマ(,)よりも強く、ピリオド(.)よりは弱い効果で文章を分離する役割をします。」という一文は、ちょっとわかるような、気がした。

 

本書では、セミコロンについて著者が喧々諤々、というか、愛をもって「セミコロン」について語っているようなユニークさもある。

 

著者のセシリア・ワトソンは、 現在バード大学の訪問研究員。セントジョーンズ・カレッジでリベラルアーツ学士、シカゴ大学にて哲学修士、科学概念・科学史博士。以前は、アメリカ人文系学会協議会 (ACLS) の特別研究員としてイエール大学人文学科・哲学科に所属したほか、マックス・ブランク科学史研究所の研究員や ベルリンの芸術センター「世界文化の家」で科学コンサルタントの経験もあるとのこと。

 

訳者あとがきによれば、結構、誤字や間違った記載もあったようで、著者が自由に書きまくった、という感じが窺える。「ジャンル不詳の読み物」といっている。確かに、文法解説書でもないし、セミコロンを凶弾しているわけでもない。愛も持ってセミコロンについて語っている、洒落のようで、シャレにならない深刻な話が、興味深い。

 

帯には、
”小さなトラブルメーカーが巻き起こす波乱万丈の文化史

英⇒日翻訳者として、日本語にセミコロンがないことを何度も呪ってきたが、この本を読むと、なくてよかったと思えてくる。そんなものがあったせいで、英語はどれだけ混乱したことか! がその混乱をめぐる物語は、無類に面白い。柴田元幸

セミコロンひとつでお酒は売れなくなるわ、人は死ぬわ、さらにこんな面白い本が書けてしまうとは、どういうことだ! 鴻巣友季子” とある。


目次
はじめに 言葉をのルールをめぐる愛情
;1章  音楽 奏でるように セミコロンの誕生
;2章 科学的規則を目指して  英文法戦争
;3章 ファッションアイテムからトラブルメーカーへ 
;4章 ゆるい条文と自制心  句読点がひとつでボストン中が大混乱
;5章 解釈に伴う偏見と慈悲
;6章 ルールを岩に刻み込む 現代の試み 
;7章 セミコロンの達人たち 
;8章 切な訴え、単なる気取り  セミコロンを使うのはひけらかし?
おわりに ルール違反?

 

感想。
なんとも、独特の世界観。これを、日本語に翻訳しようというのもすごい、そもそも、日本語にない「セミコロン」について、日本語で語るのは大変だ。ゆえに、翻訳はついているとしても、原文の英語がそのまま引用されている箇所が何か所もある。本の体裁も個性的で、ちょっと細長いソフトカバー。つまり、ペーパーブックの体裁をそのまま日本語の本にした感じ。日本語も横書き。

 

セミコロンが使用されている英文として様々な例が引用されている。なかでも、法令がセミコロンをつかって書かれていたことから、その解釈が定まらず、死刑になっちゃうなんてことが。他には、メルヴィルは『白鯨』セミコロンを4000回以上使っている話。キング牧師が書いた文章でのセミコロンの使われ方など、話は多岐に及ぶ。そして、小説もあとからセミコロンの解釈をかえてしまうと、違うものになってしまったり。

 

使用方法が定まらず、解釈が多様になりえるセミコロン。でも、その多様性の寛容さこそがセミコロンのすごいところなのでは、と思えてくる。

 

日本語は、主語があいまいだから論理的になりにくいということはあるものの、あのあいまいさが日本語の軟らかさでもある。英語は、主語がはっきりしている分、セミコロンを持ち出すことで曖昧さをもとめたのではないだろうか、というきがしてきた。

あいまいさって、大事なこともある。
何事も、白黒つけるのがいいときと、曖昧なままのほうがよいときがある。

 

英語にもある「あいまいさ」に、ちょっと愛情を感じる一冊。

 

なかなか、ユニークな本。真面目に読もうとするとちょっと頭が痛いけれど、寛容な態度で、サラっと楽しく読むのに適した一冊、かな。気持ちに余裕のあるときに読むのがいいかも。

うん、ユニークな本だった。 

 

メルヴィルの『白鯨』は、セミコロンだらけというから、もしかすると翻訳によっては結構ことなるお話になっていたりするのだろうか。『白鯨』は、さまざまな場面で引用されることが多いけれど、セミコロンだらけというのは知らなかった。実は、読んだことのない『白鯨』。やっぱり、いつか読んでみないとな、という気になった。

 

英文も入っているので、英語の勉強にもなるかも。

ちょっと面白い本。

英語に興味ある方に、おすすめ、かな。