『上野千鶴子のサバイバル語録』 by 上野千鶴子

上野千鶴子のサバイバル語録
上野千鶴子
文春文庫
2019年4月10日 発行

 

図書館の棚で目に入った。薄くて簡単に読めそうと思って、時間つぶしに借りてみた。私にとって上野千鶴子さん言葉は、ものによっては共感するし、ものによっては共感できない。でも、こうしてハッキリと意見を述べられるところを尊敬する。

 

裏の説明には、
”「いまを生きる女たちに、生き延びてもらいたい。そして女であることを愛してもらいたい。人生の終わりに、生きていて良かったなと思ってもらいたい。そのために、もしかしたら役に立つかもしれない言葉を厳選しました。」
著者自身が生き延びるために、必要に迫られ身に付けた言葉の数々から140を厳選。初の語録!”
とある。


出典一覧を含めて、175ページの薄い文庫本。あっという間に読める。

 

上野千鶴子さんは、1948年、富山県生まれ。東京大学名誉教授。NPO法人WAN理事長。女性学、ジェンダー研究、介護研究のパイオニア。著書も多数。

目を見るだけでも、140の言葉の一覧ができる。気になるところだけを読んでもいいかもしれない。でも、どのページも簡潔に書かれているので、文字も少なく、全部読んでもあっという間。


目次
はじめに
第1章 「人生」のサバイバル語録
第2章 「仕事」のサバイバル語録
第3章 「恋愛・結婚」のサバイバル語録
第4章 「家族」のサバイバル語録
第5章 「ひとり」のサバイバル語録
第6章 「老後」のサバイバル語録
第7章 「女」のサバイバル語録 
第8章 「未来」のサバイバル語録
おわりに
出典一覧

 

感想。
あぁ、、、強い人だなぁ、、、と思う。
でも、強くないと生き残ってこれなかったから、こうなったのだ、、、という呟きも交じる。

いやぁ、そうなのだよね。

男女雇用機会均等法って、もう死語のようなきがするけれど、それも、上野さんを含む先人の女性たちが勝ち取ってきたものなのだ。なにも行動しなければ、何もかわらない。そして、先人が涙を流すほどの悔しい思いをしたり、死に物狂いで髪を振り乱してがんばってきたことを、後進は忘れてはいけない。社会のしくみも、会社の中のしくみも、だれかが行動してくれた恩恵に預かっているということを、忘れてはいけない。。。。

今享受している社会の仕組みは、だれかがそれが必要だと信じて、つくり上げてきたものなのだ。でも、それが時代の変化とともに固定化された概念を植え付け、足かせになってしまうこともある。

上野さんが戦ってきた時代は、確かに、男vs女の時代だったのかもしれない。でも、今はもう、そういう時代でもないと思う。固定化された概念、ステレオタイプな常識に囚われて苦しんでいるのは、女性に限らない。男性だってそうだろう。

 

男性は、外で稼いでくるもの。男性は女性よりも強くてあたりまえ。男子厨房に入らず、なんて言葉だってあった。今どき、生きる力の一つは料理ができることかもしれない。料理ができない夫のために、一生懸命料理をするのは、自ら母親代わりをして夫の生きる力をうばっていることになっているかもしれない。

 

事実、妻に先立たれた夫は、弱い、、、という世代がたくさんいる。一方で、夫に先立たれた妻の多くは、元気になる・・・ってね。まぁ、それも昭和世代の話かな。

 

気になった言葉をちょっとだけ、覚書。

02 心が折れない理由
 逆風に慣れていると、心も折れにくいのだよ。

 

09 友情にはメンテナンスが必要
  私は、 手間暇かけて メンテナンスして続いてきたものだけが、 友情だと思っている。

 

17 サヨナラを言うために書く
  書くという行為は、 いつでも、 思想に形を与え、それにケリをつけるためにある。 ひとはいわばサヨナラを言うために、 それについて書くのである。

 

18  人の器と、理解力
  人は自分の器に応じた理解力しかないからね。

 

22  現場がどんなに優秀でも
 戦闘の場で、現場の人間がどんなに 最善を尽くして戦っても、 戦術、戦略が誤っていればうまくいかない。 個人の英雄的な努力では限界があります。

 

32 権利は天から降ってこない
  あなたたち、 みんな忘れているのが、 労働基準法だって 雇用均等法だって、天から降ってきたわけではないってこと。みんな、 裁判などで闘争して勝ち取ってきたのよ。

 

40 50代で新しい分野に参入せよ
  50代の研究者は若い頃の生産性を失って、 過去の自分の業績を模倣し始める。 そうならないためには、 自分が ビギナーである違う分野に参入すればいい。 全く知識がなかった高齢者福祉が、 私にとって新しい分野になった。未知の分野は異文化で、異文化は楽しいのよ。

 

56  それが「不倫」になる理由
  そもそもセックスの相手をお国に登録して契約を結ぶ必要なんてない、と思いませんか? そうすれば「婚外恋愛」も「 不倫」も なくなります。 登録は 親子関係だけで十分。

 

78  家族とは、 一緒にごはんを食べる人のこと
 〈家族〉というものに 存在意義があるとしたら「 共に食べる」 ことにあるの じゃないだろうか。 文化人類学には、家族のミニマムの定義を「共食共同体」 とする考えがある。 一緒にご飯を食べた時から、あなたは〈家族〉なのだ。

 

83  親から子への最後の教え
 親が子へ最後に教えられることは、自ら置いていく姿を見せてあげることです。

 

99  人生は壮大なヒマつぶしである。
  人生とは、死ぬまでの壮大なヒマつぶし。 どうせ 同じヒマつぶし なら、 豊かにつぶしたい。

 

107 下り坂もまた、新鮮である。
  私の人生は、下り坂である。 人生は死ぬまで成長、 生涯現役、 という掛け声に、 私は与しない。そんな 脅迫に鞭打たれて駆けつづける人生を、自分にも他人にも、 強要したくない。老いるという経験は、 昨日できたことが今日できなくなり、 今日できることが明日できなくなる、 という確実な衰えの経験であることは、50歳の坂を超えてみれば骨身にしみる。
 だが、 それにしても、かつて味わったことのないこの変化は、新しい経験には違いない。それなら 新鮮な思いで この経験を味わい、 自分の新しい現実をありのままに受け入れたい。


なるほどね、って思う。


上野さんの言葉に、元気づけられる人もいるのだろう。
言葉の一部だけ切り取ってみても、本当のところはつたわらないかもしれないけれど、それを推しはかって、自分で考えてみるっていうことが大事なんだろう。

 

人生一生成長、なんて思わなくていい。でも、かわっていくというのは大事だと思う。

 

かつて私がサラリーマンをしていた会社は、目標管理制度なるものが導入されていて、毎年「個人目標」を書かされた。成果目標と個人の成長目標のようなものがあって、管理職になっても書かされた。そして、40代後半くらいから、あほらしくなってきた。「〇〇を更に向上させる。」とか書くのだ。ばっかじゃないの。。。。40も過ぎた人間が、毎年毎年、そんなに成長するかいな!って、突っ込みたくなってきたのだ。

若い人には、目標を明確にして、それに向かって頑張るっていうのはいいと思う。でもさ、50になってまで、さらなる向上とか、、勘弁してよ、、、って思った。

 

そして、50代の管理職たちは、あほらしいと思いながらもせっせと目標管理シートをうめるのだ。。。生産性ゼロ・・・。無駄なことをしているよな、、って思った。

そういう時間は、私の人生にはもういらない、って思った。だから、脱サラしたのかもしれない。。。

 

40代、50代、それぞれ、若い時とは違う人生との向き合い方があるはず。それに気づかずに、ただ、若い時の延長戦でやっていると、人はただの消耗戦に入っていく・・・。

でも、ずっと、そこにいると気づかない。ぬるま湯のゆでガエル・・・。

 

と、年相応の成長、変化っていうのを受け入れることの大切さを思った一冊だった。

まさに、

02 心が折れない理由
 逆風に慣れていると、心も折れにくいのだよ。

 

無駄に打たれる必要はないけど、打たれることで強くなるというのの真実。と、年をとると理解できる。

 

あなたの体は、あなたが食べたものでできているように、あなたの心は、あなたが経験したことでできている。

 

読書は、楽しい。