『人生後半の戦略書』 by アーサー・C・ブルックス

人生後半の戦略書
ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法
アーサー・C・ブルックス
木村千里 訳
SB Creative
2023年3月10日 初版第一刷発行
From Strength to Strength 
Finding success, happiness, and deep purpose in the Second Half of Life (2022) 

 

色々なところで話題になっていたので、気になった。中でも、ヤマザキマリさんが何かの記事の中で言及していたのが気になった。でも副題になっている「ハーバード大教授・・・・」という文言で、まぁ、よくある自己啓発本の中年向きの本だろう、、、という気がしたので、買ってまで読もうという気にはならなかった。なので、図書館で予約していた。結構、待った気がする。

 

著者のアーサー・C・ブルックスは、 幸福について研究する社会科学者。ハーバード・ケネディ・スクールの ウィリアム・ ヘンリー・ブルームバーグ教授職(パブリック・ リーダーシップ 実践)、 ハーバード・ビジネス・スクール教授( マネジメント経営実践)。 12冊の著書を持つ ベストセラー作家で、講演者としても高い評価を受けている。最初の職は、 クラシック音楽のホルン奏者で、 アメリカやスペインで楽団員として12年間活動していた。シアトル出身。

 

表紙をめくると、
今の働き方を一生続けられますか?”との言葉。

 

 そもそも タイトルが「人生後半の・・」となっているので、おそらく本書を手に取るのは、50代、、、若くて40代、ってところだろうか。著者自身の年齢の話は直接は出てこないけれど、少なくとも、働き盛りのピークは過ぎたことを自覚している年代ってこと。

 

目次
はじめに
第1章 キャリアの下降と向き合う
 「その時」は思っているよりずっと早く訪れる
第2章 第2の曲線を知る
  流動性知能から結晶性知能へシフトチェンジする
第3章 成功依存症から抜け出す 
 「特別」になるよりも「幸福」になる
第4章 欲や執着を削る
  死ぬまで足し算を続ける生き方をやめる
 第5章  死の現実を見つめる
  必ずある終わりを受け入れる
 第6章 ポプラの森を育てる
 損得勘定なしの人間関係をはぐくむ
 第7章 林住期(ヴァ―ナプラスタ)に入る
  信仰心を深める
 第8章  弱さを強さに変える
 自然体がもたらしてくれるもの
 第9章  引き潮に糸を垂らす
  人生とキャリアの過渡期に必要なこと
おわりに

 

感想。
あぁ、、、なるほど。
50歳を過ぎて、私自身が感じていたことが言語化されている、って感じ。目からウロコなことはあまりない。でも、こういうこと、つまりは人生にはシフトチェンジした方がいい時がやってくるということを、ハーバードの教授が言っている、ってことに意味があるのかもしれない。

 

しょっぱなから「今のままの延長はもうないんだよ」という、救いようのない言葉を浴びせられる。。。。で、じゃぁ、どうすればいいのか、がちゃんと語られている。うん、だから、良い本なのだと思う。けど、蔵書にしたいって程ではない。既に、気が付かないうちにセカンドライフにシフトチェンジしている私にとっては。。。

 

人生には、時には捨てるべきものがある。本書の一番のメッセージはそういうことかな。
過去の栄光、過去の成功、、、、若いころの成功は、足かせになっていることに気づかずにその人を苦しめるかもしれないってこと。

 

特に、ストライバーなあなた!気を付けて!って言っている。ストライバーとは、striver。不断の努力により成功を手に入れ、一流の地位を築いた人々。仕事に成功した人ほど、「不可避なキャリアの落ち込み」に苦悩するのだと。

あぁ、、、あるある、、、っていう事例がたくさんでてくる。ちょうど、先日読んだ上野千鶴子さんの語録と、結構重なる。50代以降には、その年齢なりの活躍の仕方があるってこと。

 

ただ、上野さんがとことん現実派なのに対して、本書はちょっと信仰めいているともいえる。最初に出てくるのが聖書からの引用だし、途中は禅、ブッダキリスト教、、、そしてパウロこそが最高の成功者だとか、、、。特に特定の宗教を薦めているわけではないけれど、信仰をもつというのも大事だ、、、というメッセージも含まれているように思う。
「信ずるものは・・・」ってことかもしれないけれど。

 

目次にも出て来るけれど、流動性知能」「結晶性知能」という言葉、最近どこかで見かけたなぁ、と思ったら、太刀川さんの「進化思考」だった。

megureca.hatenablog.com

 

本書の中でも、若い時の成功は流動性知能が上手く回っていて、30代半ば以降にその知能レベルは低下するということが説明されている。そして、だからといって嘆くなかれ!中年よ!その後は、結晶性知能が上手く回って、包括的に何かを成し遂げることが上手くいくようになる、と。この、「流動性知能」「結晶性知能」という言葉は、1971年、イギリスの心理学者レイモンド・キャッテルが提唱したのだそうだ。

ゼロからモノを生み出す流動性知能は、成人期初期にピークに達し、30代から40代にかけて急速に低下し始める。そして、そのあとは、過去に学んだ知識の蓄えを活用する結晶性知能が向上するというのだ。

 

どうだ!
まだまだ、50代だって、向上することもあるのだよ!!
と、ちょっと、勇気をもらう。

 

特に、言語を操る知性は、結晶性知能によるところが大きく、だからこそ、年配者の方が作家として円熟してきたり、講演がおもしろかったりするそうだ。学生よ!年寄りの教授の話をもっと聞いてみよう!

 

私の場合、脱サラして、期せずして50歳を過ぎてから通訳の勉強をはじめ、いやぁ、、、この歳でつらいわぁ、、、って思うことの方が多いのだが、本書を読んでちょっと勇気をもらった。という意味では、読んでよかった!たしかに、記憶力は落ちていると思うけれど、様々な知識を総合して相手の言わんとすることをくみ取ろうとする力は、確かに、経験値の高い年配者の方が有利かもしれない。ついでに言うと、見た目にも、通訳は年配者の方が安心感をあたえるのだそうだ。あと、キャンキャンと高い声で話さない、ということも年配者の方が向いている・・・。年を取っている方が良いこともあるのだ。

 

そして、本書の中では、50代、60代、70代に大きな幸福感と満足感を抱いている人の多くは、第二の曲線、つまり流動性知能の知能レベル曲線から、結晶性知能の曲線へ飛び移った人だと。

あぁ、、、わかる。本当によくわかる。。。。

 

会社が嫌で脱サラしたわけではない私ですら、会社という小さな競争社会から脱退したことで、まったく新しいことに挑戦する時間と気力ができて、人生ますます楽しくなったし、想像以上に、会社員でいることがストレスだったことに気が付いた。年齢的には、中年の危機に陥って、更年期性うつに苦しんでもおかしくない時期を、幸か不幸か、コロナ禍というみんな一斉に「活動停止」状態となって、自分一人が取り残されているという焦燥感をいだくことなく、この数年を過ごしてきた。

いろんなこと、私は、運がいいと思う。ついていると思う。

コロナが無かったら、仕事をしていない自分を責めていたかもしれない。コロナのおかげで、たちどまって考える時間をたっぷりもらえたのだ。そう考えれば、私は運がいい。
そうそう、自分は運がいいと思っていると、運はよくなるのだよ・・・。

megureca.hatenablog.com

 

ストライダーの多くは、「成功依存症」になっている。それは、アルコール依存症とたいして変わらないということ。成功依存症の場合、プライドと失敗への恐怖心で、「成功者」として他者から認められることに執着しているということ。だからこそ、その執着を捨てること、、、そして、第二の曲線にジャンプする勇気を持つこと、それが大事。

 

だれでも、失敗は怖い。持っているものを失うのは怖い。増やしたいという衝動以上に、減らしたくないという抵抗感。ダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキーの「プロスペクト理論。損失を回避しようとするこころが、無駄なものまで蓄積させてしまう。無駄なものに執着することの方が、無駄なのに・・・。

 

第6章以降は、世代に応じた成長のはなしから、いかに「幸福で健康」を実現するかという、人の究極目標?!の話に。目次にあるポプラの森というのは、共同体を育てるという意味ととれる。家族という小さな共同体でもいい。そして、その幸せの実現にとって大事なのは、やっぱり健康だよ、って。

健康とひとことで云っても、自分でコントロールできる健康と、自分でコントロールできない健康がある。遺伝的にとか、家族的に、という自分でコントロールできないことは心配しても仕方がない、自分でコントロールできる因子は、自分でコントロールしよう、って。

健康のための7つの重大因子が紹介されている。
1 喫煙。やめるべし。
2 飲酒。アルコール乱用のリスクがあるなら、やめるべし。
3 体重。肥満を避ける。
4 運動。習慣的に身体を動かすべし。
5 適応的対処。問題が起きたら直にたちう向かう。回避しない。
6 教育。目的意識をもって学ぶこと。読書をたくさんすること。
7 安定した長期的な人間関係。ともに成長して行ける相手、信頼できる相手を大事にする。

と。まぁ、どれも、そりゃそうだね、って思うけど、5の「回避しない」っていうのは、共感しかねるなぁ。私は、回避するのだって、対処の一つだと思う。時と場合によるでしょ。ほら、「いじめ」「ハラスメント」にあったら、即座に逃げろ!!!で、いいと思う。

 

6では、読書がすすめられていて、多いに共感。ほんと、読書ほど安上がりで、自分ペースでできて楽しいことはない。本書の中でもさまざまな本が引用されているけれど、やっぱり最大は、トマス・アクィナスの『神学大全かなぁ。。気にはなるけれど、いつか読むことはあるだろうか・・・。あと、聖書からの引用もたくさん。聖書は、いろんなバージョンを読んだことがあるけれど、実は最近あらたにポチった一冊がある。『旧約聖書物語』(犬養道子)、今のところ積読になっているのだが、、、年内には読もう。。

 

7に関わることで、愛について語られているのは、「友情はスキルであり、そのスキルを磨くには、練習と時間と根気が必要」って。これは、上野さんの

 

”09 友情にはメンテナンスが必要
  私は、 手間暇かけて メンテナンスして続いてきたものだけが、 友情だと思っている。”

と、かなりかぶる。

megureca.hatenablog.com

 

友情だけでなく、家族だってメンテナンスが必要だよね。

そして、林住期「ヴァ―ナプラスタ」での生き方のすすめでは、自分でその道を歩め、と。林住期とは、サンスクリット語で、「森林に」「隠遁する」ことだそうだ。引退ではないけど、やっぱり、人生の後半の後半、、、「隠遁」を楽しむ時期が来るのだと思う。そして、そこに到達するには、「自分の足で歩くしかない」ということ。
「いっしょに歩いてくれる人はいるかもしれないけれど、あなたの代わりにその道を歩ける人はいません」って。

ホントその通り。

 

自分の弱さをみとめて、自分の道をさだめて、自分の足で歩き始めると、、、これまた、人生後半の幸せがあるんだなぁ。。。。

 

働き盛りにはまだわからないかもしれないけれど、どこかで今のキャリアのピークはやってくる。そしてそのあとに待っているのは、下降なのだよ。その下降にあらがって、今ままでと同じ環境でこれまで以上に努力するのか、違う道にジャンプするのか、決めるのは自分だよ。

 

50歳を過ぎて、新しいことに取り組むと、自分の無力さがよくわかる。そして、不必要に自分を大きく見せることをしない勇気がいつの間にかそなわってくる。まぁ、大胆で、図太くなったともいえるけど、、。 

 

いやぁ、人生、まだまだ、楽しいことはたくさんあるよ。

50代になってもね。

そして、死ぬまで足し算を続ける生き方をやめると、道はもっと開ける。

 

やっぱり、DIE WITH ZEROでしょ。

megureca.hatenablog.com

 

読書は、楽しい。