『さまよえる神剣』 by 玉岡かおる

さまよえる神剣
玉岡かおる
新潮社
2024年4月15日発行

 

日経新聞、2024年5月18日の朝刊、書評で紹介されていた本。

 

記事では、
”平安末期の源平合戦三種の神器の一つ、草薙剣(くさなぎのつるぎ)は安徳帝とともに壇ノ浦(現・山口県下関市)に消えた。平清盛の継室で安徳帝の祖母に当たる二位の尼(時子)が草薙剣を腰に差し、幼帝を抱き上げて海に飛び込んだと伝わる。時を経た鎌倉期、天皇家に忠義を尽くす若い武士らが、失われたはずの神剣(けん)を追いかける。平家の落人伝説を踏まえた歴史ロマンと、仲間内でのやりとりや訪問先の人々との交流といったロードノベルの楽しさが味わえる長編小説だ。
(中略)
神剣を探す物語は神剣の意味を考えることにつながる。武器なのか、それとも……。その問いかけこそ今作の現代性といえよう。『帆神』(新田次郎文学賞舟橋聖一文学賞)など歴史上の人物の評伝で知られる著者の新境地を示す一作である。(新潮社・2420円)”

とあった。

 

三種の神器とは、草薙剣(くさなぎのつるぎ)・ 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)・八咫鏡(やたのかがみ)皇位とともに歴代の天皇に伝わる宝物。三種の神器を持つ者こそが、正当な皇位継承者とされていた。そして、草薙剣は、現在は愛知県名古屋市の「熱田神宮」のご神体として祀られているそうだ。
あれれ?源平合戦で、安徳帝とともに、壇ノ浦の海に沈んだんじゃないの?!?!

と、そこのところは置いといて、、、、。その 草薙剣を巡る物語。歴史の伝説にまつわる、フィクション小説、って感じか。

面白そうとおもって、図書館で借りて読んでみた。

 

著者の玉岡さんは、1956年 兵庫県生まれ。 神戸女学院大学文学部卒。1987年夢喰い魚のブルー グッドバイで神戸文学賞を受賞し作家デビュー。私は、これまで読んだことが無かったけれど、2024年6月1日の日経新聞、半歩遅れの読書術では、「司馬遼太郎の描く源平合戦 玉岡かおる都人と坂東武者の価値観」という記事が紹介されていた。たくさんの歴史小説を書かれているらしい。


目次
プロローグ
第1章 帝の巻 
第2章 臣の巻 
第3章 山の巻 
第4章 神の巻 
第5章 海の巻 
エピローグ

 

感想。
なるほど。
うん、なるほど、じっくりと面白い。

461ページの単行本で、なかなかのボリューム。ちょっと、中だるみを感じつつ、後半になる程盛り上がってきて、最後の100ページくらいは、一気読み。もう、夜遅いっていうのに、、、、ついつい、夜更かしして読んでしまった。

新聞の記事にあった、”神剣を探す物語は神剣の意味を考えることにつながる。武器なのか、それとも……。その問いかけこそ今作の現代性といえよう。”というのが、最後の方で、よくわかる。

 

神剣は神剣でしかない。帝とは何なのか、上に立つものに取って大事なものは何なのか、、、。

と、それが、本書のテーマだろうか。ただの神剣探しのお話ではなかった。

 

歴史小説であるけれど、たしかに、「神剣」にこだわる意味とはなんなのか、、、を考えさせられる。本作の最後には、参考文献がのっていて、なるほど、原点資料もあるけれど、誰かの書いた歴史資料を参考にされているみたい。歴史小説といっても、重くなくって、どちらかというとフワッと、現代風なお話が歴史を舞台に書かれている、、、っていう感じ。

個人的には、歴史小説ならもっと重厚な作品が好きだけれど、これはこれで、おもしろかった。歴史小説というより、時代小説?として読むと軽く読めるかも。時代と、源平合戦承久の乱に関する基礎知識がないと、出てくる人々の関係がよくわからないかもしれない。結構、ポロポロと大事な歴史上の出来事が組み込まれていて面白い。

 

物語は、承久の乱のあと、後鳥羽上皇隠岐へ流されるところから始まる。それは、源平合戦のおよそ40年後。まだ、源平合戦を生で知っている世代が生きている時代。壇ノ浦で敗れた平氏側の人々が、鎌倉の追っ手を逃れてあちこちに潜伏していたかもしれない、、、時代。

 

以下、ちょっとネタバレあり。

 

主人公の小楯有綱(おだてありつな)は、隠岐へ流される後鳥羽上皇の警備として、父や兄らとともに上皇の一行とともに旅をしていた。途中、上皇に元気になってもらおうと行われた宴で舞を披露したところ、上皇に直接声をかけられ褒められる。調子に乗った有綱は、つい、「どこまでも、帝のために・・」と、本来なら声をだすことなど許されない身分でありながら、熱い思いを語ってしまう。

 

側近らにたしなめられ、叱られた有綱だった。が、そんな有綱をみて頼もしく思ったのが、帝が寵愛する伊賀局(亀菊)だった。そして、有綱は、亀菊に「内密に、使者になってもらいたい」という謎めいた命を受け、太刀と扇をうけとる。しかし、なにをする使者なのかははっきりと言わない亀菊。

 

「時期が来ればわかる。待つのじゃ。 1年2年かかるやもしれぬ。いや、もっと、しかし 必ずそなたが出立する時が来る」

 

と、美しい亀菊に言われて、わけがわからないままにその命をうけた有綱だった。

 

が、その後、有綱は、かつての自分の世話係に無礼を働いた男を目にして、喧嘩をふっかけて、謹慎の身となってしまう。その男は、亀菊にとっても因縁の男で、井岡というろくでなしで、鴉という用心棒のような悪党をひきつれていた。

 

4年の謹慎のときが流れた。そして、その夏、突然父が倒れ、家督を兄が継ぐこととなる。父も兄も、有綱が憎くて謹慎させていたわけではない。父は、死に際には「実は、おまえが自慢だった」と語り、有綱は涙した。そして、兄に、4年前に亀菊
に頼まれた使者の話をうちあげた。

何が使命なのかわからない使者。でも、刀匠に渡された太刀をみせればなにかわかるかもしれない、と、備前への旅にでることとなる。兄も兄嫁も、旅の準備を手伝い、銭まで持たせてくれた。有綱は、愛されていた。。。と、ここで、私的には涙。ほろり。

 

そして、そこからは、ロードムービー(ノーベル)のような、有綱の旅が始まる。最初に尋ねた刀匠のもとで、一番弟子の伊織を紹介される。有綱が持参した太刀をみた刀匠は、「草薙剣」を探すのが使命なのでは?という。「伊織は自分の一番弟子ですでに独立できるだけの腕がある」。伊織を連れていけ、、、と。そして、平家の伝説の残る四国へと旅をはじめ、平家ゆかりの場所を尋ね歩く。

 

最初は、有綱についていくことに不承不承だった伊織だったが、次第に二人は兄弟のように心をゆるすようになって、ともに剣を探すことを目的として旅を続ける。
しかし、なかなか手がかりはなく、一時はあきらめて家へ戻ろうとする有綱だったが、途中で出会った不思議な少女・奈岐(なき)が放った「わたしはどこにあるか知ってるよ」との言葉が気になり、ふたたび、四国へ向かう。

 

その時、有綱は、やっぱり剣が必要だと思いたった。「だったら、納得がいくまで探してみよう」と。そして、
手がかりがあるうちは 追いかけよう。 それで 見つからなければ、伊織、お前が作れ。神が宿る剣を お前が作ればいいんだ。
それは、師匠の言葉とも重なった。

”よきものを作れ。 よきものには神が宿る。 神が宿ればそれがすなわち 正義となる”

 

そして、ふたたび奈岐と出会った寺に行き、奈岐を旅につれていく。奈岐は、寺に預けられていたみなしごで、二人から剣の話を聞いたときから、二人と旅にでたがっていたので、大喜び。奈岐がいた寺は、「承元の法難」で法然親鸞らが流罪になった原因となった妙貞のいる寺だった。妙貞は、もともとは後鳥羽上皇の側にいた女。。。

そして、三人の旅が始まる。

 

平家の落人を追う旅は、厳しいものだった。それでも、奈岐がいう「剣は龍の背骨にある」、という言葉をたよりに、四国の険しい山を行く3人。時に、賊に襲われたり、謎の集落に出会ったり。落ち武者になった者たちは、里との交流を断って暮らしていたので、山奥のさらに山の上の、辺鄙なところに住んでいた。そして、鎌倉からの追っ手を逃れるように、ひっそりと、くらく、、、悲しい歴史を背負って生きていた。

また、執拗に井岡、鴉に追われる3人。井岡もまた、草薙剣を手に入れて、一儲けしてやろうと思っていたのだった。

 

奈岐は、旅に出る時、母の形見だと言われて陰陽仮面を持たされていた。そして、その仮面は素晴らしい香木の香りがただよい、奈岐が何者かに憑依されるきっかけとなっていた。奈岐は、たびたび、亡き者の憑依によって、亡き者の言葉を口にした。また、奈岐は、時々、夢の中で歴史の中をさまよい、剣への糸口を見つけていくのだった。

 

そして、、、、安徳帝が実は生きのびたと信じている人々の後をたどる旅を続ける。そして、安徳帝の身代わりとなった子どもがいたという伝説。その伝説の子どもこそ、奈岐の叔母にあたるものだったのか・・・・。

 

出会う先々で、様々な人と出会い、別れ、、、、旅の最後に明かされたのは、安徳帝の御陵とされていたのは、実は、身代わりになった娘のための墓だったということ。そして、身代わりであったとしても、貴い人を守っているという人々の想いが伝説を生み、人々に生きる力を与え続けていた、、、ということ。。。

 

最後、有綱と伊織は、後鳥羽上皇と亀菊のいる隠岐へ訪れる。そこで、草薙剣は見つからなかったことを告げると、、、亀菊は、それをわかっていたかのように、本当に大事なものは何なのか、、、、と、語り掛ける。

 

そう、剣などなくても、「民への想い」が大事なのではのか、、、と。

 

最後、因縁の鴉は、後鳥羽上皇の元を出奔した女に刺されて殺される。運命とは、、、。

 

そして、有綱は、旅の途中で愛を交わしながらおいてきた女の元へ、、大事なのは、、、大事なのはやはり人なのだ・・・。

 

なんとも、ロマンチックなお話というか、人情あふれるお話というか、、、女性っぽいなって感じがした。偏見かもね。でも、荒々しさというより、戦いはあるものの、すこししっとりした話の展開が、軟らかい感じだった。

 

たくさんの和歌もでてくる。

やっぱり、日本は和歌の国か。。。

 

なるほどねぇ。。。。

ソレニシテモ、ほんとのところ、草薙剣は、、、、今も壇ノ浦の海に沈んでいるのだろうか。。。。、まぁ、そんなこと、歴史のロマンとしてとっておいて、明かしてくれなくてもいいけどね。って、現代では明らかになっている真実があるのかもしれないけど、、、私の中では、海に眠っていることにしておこう。。。

 

時代小説も、やっぱり、面白い。