『平家物語』 by 林真理子

平家物語
林真理子
小学館
2023年11月29日  初版第1刷発行
THE TALE OF HEIKE
*この作品は『和樂』2021年10・11月号より2023年8・9月号まで掲載されたものに加筆修正をして 単行本化したものです。

 

林真理子さんの平家物語。本屋で 平積みになっていたので買ってみた。元祖『平家物語』は、読んだことが無いのだけれど。とはいえ、作者不詳で、琵琶法師によって鎌倉時代から語り継がれた『平家物語』。何が、元祖がわからないけど・・・。

 

本の表紙は、干珠(かんじゅ)島と満珠(まんじゅ)島を含む壇ノ浦の夕景。金と赤をちりばめたタイトル文字に、銀色にもみえる帯。豪華な感じ。そして、
”滅びゆくもの皆美しく
 『平家物語』には 
日本の美のすべてが凝縮している。”と、林真理子さんの言葉。裏には、

”日本古典文学史上の名作を 林真理子換骨奪胎(かんこつだったい)して再構築。 スピード感あふれる展開! みずみずしい 心理描写! 驚愕の結末!
令和の『平家物語』 今ここに誕生!
主要人物たちの目を通して紡ぎ出される 一章完結形式の新感覚歴史大作!”
とある。

 

換骨奪胎(かんこつだったい):古人の作品の趣意はかえず語句だけを換え、または古人の作品の趣意に沿いながら新しいものを加えて表現すること。(広辞苑

 

普通は、時代の流れどおりに語られるのだろうか。先日読んだ、菊池寛の『源平盛衰記は、時代の流れに沿っていた。

megureca.hatenablog.com

源平盛衰記』は、『平家物語』の諸異本のうち、読みもの系伝本として最も大部のもの、ということになっている。平家物語は、作者不明だし、これが原作、というものもないのだろうけれど、歴史の色々な流れの取り合わせ、って感じだろうか。それを、本書は、章ごとに主人公の目でそれぞれのでき事が語られる。だから、たしかに、1章完結。読みやすい。それぞれの主人公も、教科書に出てくるような人から、影の薄い?!ひとまで。それぞれに、それぞれの人生という舞台があったのだ・・・・。

 

目次
序、治部卿局
一、入道相国清盛
二、三位中将維盛
三、無官大夫敦盛
四、建礼門院徳子
五、二位尼時子
六、後白河法皇
七、 九郎判官義経
結、阿波内侍

 

感想。
読みやすくて、面白い。そして、最後に人物相関図があるので、平家、源氏、皇室、それぞれの関係も復習しやすい。とはいえ、この人物相関図には、だれが誰の子供かまでは書かれていないので、それは、自分で頭に入れておかないと、、、。

目次をみて、ぱっと、だれのことがわかるくらい歴史通なら、そんな努力もいらないかもしれないけれど。確かに、話はそれぞれの章で完結するのだけれど、やはり、人間関係、歴史的イベントの流れが頭に入っていないと、点と点が結びつく面白みは味わえないかな。教科書プラスアルファくらいの歴史のバックグランドは欲しい、って感じ。

 

文章は、美しい。やっぱり、林真理子さんはこういう小説もいい。戦記ではあるけれど、どこか艶っぽいような、骨太のような。

 

各章の主人公と、物語はこんな感じ。

 

序、治部卿局(じぶきょうのつぼね)平知盛(とももり)の北の方(正室)。平知盛は、清盛の息子。壇ノ浦の海峡で、干珠(かんじゅ)島と満珠(まんじゅ)島を眺めながら死にゆく運命と対峙。この時代に平家に嫁いでしまった女の悲しみ。

 

一、入道相国清盛:平清盛平忠盛の息子。平氏の世をつくりあげた張本人。後白河法皇とうまくやっていこうとしていたが、「鹿ケ谷の密約」をきっかけに、互いに腹の底の探り合い。娘の徳子高倉天皇後白河法皇の息子)に嫁がせることで、天皇と血縁をつくる。多くの息子がいたが、唯一世間からも信頼されていた重盛を病気でなくすと、世間の人は、もう平家もおしまいといった。それくらい、清盛はやることが無茶苦茶だった。重盛の死は、清盛の手綱を握れる人がいなくなった、ということだった。
 清盛は、突然、福原遷都を実行する。宋との交易に便利だったから。しかし、天災、人災、災いばかりが起こるので、また、急遽京へもどったり。自分勝手なのだ。厳島神社を崇拝し、高倉天皇を無理やり御幸させた。
”清盛様はとても豪胆な方でいらっしゃいました。 神を信じていますが同時に神を信じていません。 これはどういうことかと申しますと、ご自分に利益があり 正しい神と判断されたものには惜しみなくお祀りされますが、 そうでないものには依然と立ち向かっていくのです。”と。
そして、南都焼き討ちを息子の重衡に命じる。東大寺大仏殿、興福寺は、焼け落ちた・・。
清盛は、64歳で、壇ノ浦の負けを知らずに熱病で死亡。


二、三位中将維盛平維盛(これもり)。平重盛の息子。重盛は、唯一父清盛に意見できた、まっとうな人。維盛は、壇ノ浦で平家の滅亡を目の当たりにした一人。源氏が東から攻めてきたとき、富士川で水鳥の音に驚いで逃げ出したのが維盛の軍だった。弱かったけれど、戦いの美学をもっていた。そんな美学を持たない義経は、非戦闘員である船の漕ぎ手は手をだしてはならないという戦の不文律を無視。そして、維盛は敗れていく。


三、無官大夫敦盛平敦盛(あつもり)。平経盛(清盛の弟)の息子。壇ノ浦の一場面で、経盛が、優美で性格も豪傑ではなかった息子の敦盛の死を思い出す。息子を亡くしてまで戦ってきたのは、何のためだったのか・・・・。無常。

 

四、建礼門院徳子:幼名・百合姫清盛と時子の娘。高倉天皇に輿入れし安徳天皇(清盛悲願の皇太子)を産む。壇ノ浦では、海に身を投げるも、源氏に引き上げられてしまい、後に出家。建礼門院となる。清盛の政略結婚ではあったけれど、高倉天皇を愛していた女性。安徳天皇を産むときには大変な難産で、後白河法皇自らが、その孫の誕生のために祈りをささげた。


五、二位尼時子:徳子の母。清盛の継室。二位尼と呼ばれるようになる。弟の時忠は、「この一門にあらざむひとは、皆人日々となるべし」といった。ようするに、平家以外は人ではないと言った。聡明だけれど、「器量は平凡」だったらしい。壇ノ浦で、孫の安徳天皇を抱えて入水。

 

六、後白河法皇鳥羽上皇の息子。もともと、皇位継承の予定はなく、今様(俗っぽい芸能?)好きで知られる。鹿ケ谷の密約では、宴会で酔った勢いのまま、「打倒平氏」などと口にしてしまう。それを聞いた清盛は激怒し、その宴席にいた藤原成親、法勝寺俊寛などを処罰する。のちのちまで、清盛vs後白河法皇の腹の底での戦いは続く。最後は、源氏に平氏を討たせる。


七、 九郎判官義経源義経。幼名・牛若丸鞍馬寺から、京を経て、平泉に潜伏。藤原秀衡に可愛がられ、頼朝の挙兵を聞いて、兄の応援に駆け付ける。そして、壇ノ浦での大活躍。武蔵坊弁慶をつれていた。でも、やり方に武士の美学はなかった・・・。

 

結、阿波内侍建礼門院(徳子)に仕えていた女房(自称)。紀伊局の娘(自称)。壇ノ浦で平家が滅び去った次の年、後白河法皇は、出家した建礼門院に会いに行く。そこで、かつて自分が寵愛していた紀伊局の娘である阿波内侍にであって、その老いた姿に、驚く。平家が滅びるとともに、落ちぶれていった女の悲しい運命。 

 

最後は、後白河法皇が、寂光院建礼門院を訪ねる場面。そこで、建礼門院は、壇ノ浦の最後、女たちがどれほどの覚悟でいたのかを語る。それに胸打たれる後白河法皇。そして、その後30年、建礼門院は60歳でなくなる。後白河法皇は、寂光院に支援をしていたらしいが、建礼門院はそれに気づかぬふりをした。そして、阿波内侍だけが生きのび、平家を偲んで物語を奏でるという、琵琶法師の話をきいて涙する・・・・。

 

なるほど、ぐるっと回って、そうきたか・・・。

 

1章で、琵琶法師として、明石覚一の名前がでてくる。室町時代の名人で、自分で語ったモノをすべて書かせたので、「覚一本」と呼ばれる平家物語があるのだそうだ。

そうか、この覚一は、『私本太平記』ででてきた、尊氏のいとこという設定になっていた覚一か。。。、

megureca.hatenablog.com

 

古典的時代小説は、読めば読むほど、点と点がつながってくる。面白い。平重衡が焼き尽くしてしまった奈良の町。建礼門院が壇ノ浦ののちに静かに余生を暮らした寂光院。そういう、歴史を感じながら京都奈良を旅すると、また違う発見があるかもしれない。

 

うん、面白かった。

やっぱり、読書は楽しい。