ソクラテスからSNS「言論の自由」全史
ヤコブ・ムシャンガマ
夏目大 訳
早川書房
2024年3月20日 初版印刷
2024年3月25日 初版発行
昨日の続き。
印象的なところを覚書。
・イスラム教において棄教は、処刑可能との解釈事例。
1989年2月14日 当時イラン最高指導者のアヤトラ・ホメイニは、小説『悪魔の詩』で イスラム教と預言者ムハンマドを冒涜したとして、 イギリス人作家サルマン・ラッシュディを死刑とするよう求めた。ラシュディは、ムスリムとして生まれたので、裁判も悔い改めの機会もなしに、棄教者として処刑が可能とされた。
・グーテンベルグ革命前の宗教思想家は、ルターのように自分の考えを速く 広範囲 にとどけるすべがなかった。言い換えると、ルターと グーテンベルクによって、宗教戦争が起こり、意図せずに大量殺戮が引き起こされた。
・トマス・アクィナス『神学大学』の中の言葉。
” 信仰の堕落は貨幣の偽造よりもはるかに重大な問題である。 そのため 貨幣の偽造 その他の悪事を働いた者たちが世俗の権力によって 即座に処刑されるのであれば、 異端者が、、、破門されるだけでなく、 処刑されることになるのは至極当然のことである。”
処刑を是としていたのだ・・・・。びっくり。
・ユグノー戦争: フランス宗教戦争。 ユグノーとは、カルヴァンの信奉者たち。カトリックとの衝突から、1562年3月にフランス内で内戦へと発展。 違法な礼拝行為をしたことを理由に、ユグノー が大量虐殺された事件がその契機となった。1598年、ナントの勅令で戦争終結。しかし、1世紀もしないうちにルイ14世によってナントの勅令は廃止され、ふたたび不寛容の時代になる。
・オランダでペンと出版の力で権力と闘った人。:ディルク・コーンヘルト。『信教の自由に関する会議』迫害は、反キリスト教的な行いである。
・スピノザは、1660年代、デカルト哲学を引き継ぎ、自由な思想家集団の知的指導者となっていた。が、書いたものを出版しない、という選択をした。
・ジョン・ミルトン:『言論・出版の自由ー アレオパジティカ』1644年、出版の自由を求める論文は、出版の許可なしに出版。ミルトンは、検閲は「あらゆる学問の停滞につながり、真実の拡散を止める。すでにわかっていることに関して、我々の能力の発揮を妨げ、 能力を鈍らせる上、宗教に関しても、世俗の知に関しても、未知の事柄の発見を妨げ、減らすことになる、とした。
・「カトーの手紙」 1720年~23年にかけて ロンドン・ジャーナル誌に連載された書簡。著者は、進歩的なホイッグ党員のジョン・トレンチャードとトマス・ゴードン。古代ローマの元老院議員で カエサルと戦い 共和主義と言論の自由 の殉教者となった小カトーの名をペンネームに使って、言論の自由を説いた。
”言論の自由は自由の偉大なる暴塁である。両者は同時に栄え 同時に死ぬ。”
・ストライサンド効果:公開された情報を秘匿・除去しようと試みる行為が、かえってその情報を広い範囲に拡散させてしまうこと。米国の歌手・女優のバーブラ・ストライサンドの事例が言葉の源。
禁書にしようとして、かえって広がってしまうという事例で引用。
・1770年、デンマークは、世界で初めて出版物のありとあらゆる検閲を公式に、明確に廃止した国家となった。
・1859年 ジョン・スチュアート・ミル。『自由論』言論の自由に関連して重要な文章。
ミルの言葉。
” 一人を除いて人類の全てが同じ意見を持ち、1人だけが 皆と異なる意見を持っている場合、全人類がその1人を黙らせることは、1人が仮に権力者で、その権力によって全人類を黙らせるのと同じくらいに不当なことである。”
・マルクスの『資本論』は、当初、難解で読む人もいないだろうということで検閲を逃れた。
・1912年 イギリスの歴史家、J・B・ベリーの言葉。
” 現在、文明国のほとんどでは、言論の自由は当然あるべきものと受け止められており、ごく当たり前のものに見える。 私たちはその状況に完全に慣れていて、それを生まれながらの権利の一つとみなしている。しかしこの権利はつい最近獲得されたものでしかない。獲得に至るまでの間には多くの血が流されたのだ。”
いや、、今でも流されている血があるのだ・・・・。
・言論の自由を求めた非暴力の戦い。ガンディー、マーティン・ルーサー・キング、ネルソン・マンデラ。
・2019年11月 アンゲラ・メルケル首相がドイツ連邦議会において、 それまでにあまり 例がないほどの情熱的な演説をした。
「この国には 表現の自由があります。 しかし、その表現の自由には限度があるのです。表現が扇動になってしまったら、表現によって憎悪が拡散されてしまったら、また表現によって他の人々の尊厳が侵されてしまったら、そこが限度ということになるでしょう」
ヘイトスピーチや極端な表現に対する制限は、全体主義的な動き、独裁主義の復活をもたらしかねないという懸念から。メルケルさん、やっぱり、かっこいい。
・ジョージ・オーウェル『動物農場』は、第二次世界大戦中、イギリス情報省から出版しないように警告された。あからさまに、レーニンやスターリンを批判しているので、ソ連を侮辱することになる可能性が高いとして。
・エレノア・ルーズベルト:フランクリン・ルーズベルトの妻。国際的な人権法において最大限の言論の自由が認められるように尽力した。憎悪扇動を禁止する条項ですら、間違った言論弾圧につながるリスクを訴えた。
・アメリカ 憲法修正第一条:国教の樹立を禁止し、宗教の自由な行使を妨げる法律を制定することを禁止。 また、表現の自由、報道の自由、平和的に集会する権利、 請願権を妨げる法律を制定することを禁止。
・21世紀においても、言論の自由に制限が大きい国。ハンガリー、 トルコ、 ポーランド、セルビア、ブラジル、 インド。そしてもちろん、中国、ロシア。
刑務所に入っているジャーナリストの数では、現在トルコは中国に次いで 世界第2位。
・ロシアのアレクセイ・ナワリヌイ氏は、トランプのツイッターからの追放を「容認できない検閲行為」と批判した。
ナワリヌイ氏の獄中死は記憶に新しい。
・キャンセル・カルチャー:大学、マスメディア、文化施設などから、特定の意見を持つ人たちを解雇などの懲罰を与えるよう集団で圧力をかけることで黙らせるという風潮。
・エリート・パニック:権力を持った途端に、表現の自由に対して怖れをなして規制しようとすること。そして、解決しようと意図したことより悪いことを引き起こす。
・ ヒューゴ・メルシエ『人は簡単には騙されない 嘘と信用の認知科学』:フェイクニュースやヘイトスピーチの反乱が民主主義を破壊する可能性が多くの人が信じているほど高くないのはなぜかを説明している。 人間は進化により「開かれた警戒メカニズム」と呼ぶべき仕組みを基礎とした認知 ツールを持つようになったという。 これは信憑性の高い情報とそうでない情報をより分け、他人の話のうちどれを信用すべきでどれを信用すべきでないかを推測するのに役立つ仕組みである。
・オスマン帝国は、印刷術を遠ざけることで、キリスト教世界に生じた政治的、宗教的混乱の乱入を防ごうとした。しかしそれによって、様々な発展という点でヨーロッパに遅れをとることとなった。
・著者の言葉。
”本当に危険なのは危険な意見の背景にある動機である”
充実の一冊。
ほんと、面白かった。
定価4900円。力作だと思う。
深く、色々考えさせられる一冊。
結構、お薦め。
歴史の流れの勉強にもなる。
こうして、ブログをかけるというのも、インターネット以前の社会ならば考えられなかった。当たり前すぎて当然と感じている「言論の自由」。それが侵されている国が増えているという。日本における「言論の自由」は、正しく、守られますように。。。