『人間椅子』 by  江戸川乱歩

人間椅子
江戸川乱歩
角川文庫 100分間で読める 楽しむ名作小説

令和6年3月25日 初版発行

 

以前、押絵と旅する男の絵本を読もうと思った時に、 図書館で検索していたら出てきた本。 とても薄い文庫本で、「100分間で楽しめる名作小説」というシリーズのものらしい。 短編が3つ入っていて 全部で123 ページ。厚さ5mmといったところだろうか。

さらっと読んでみた。

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とはいえ、、、やはり、ここは 江戸川乱歩なのだ。さらっとというか、ドロッとというか・・・・。不気味。

 

本の裏の説明には、
” 職人の男が丹精込めて作った大型の肘掛け椅子。 床すれすれまで革が貼られ、 背面も 肘掛けも重厚に作られたその内部に、職人はちょっとした細工を施し、自らが身を隠せるようにしてしまった。椅子に潜んで機を狙い盗みを働こうとした男はやがて、椅子となった自分に革1枚隔てて 身を委ねた女性に対し、名伏しがたい情熱を抱くようになる。” と。

 

目次
人間椅子
目羅博士の不思議な犯罪
押絵と旅する男

 

感想。
うへぇぇ。。。面白い。けど、不気味。怪談ではないけど、あぁ、乱歩の世界。 決して爽快な読後感ではない。かといって、読みたくないほど嫌かというと、ついつい、読んでしまう。ひゃぁぁ~と、ちょっと、寒気がするような。

まぁ、これが、乱歩なんだろう。

押絵と旅する男』も、押絵の中に人生を閉じ込めてしまって幸せな男の不気味な話であり、そんなこと現実的にはあるわけないのに、あるかも、、、って思ってしまう。

 

本書の中の他の二つ、「人間椅子」も「目羅博士の不思議な犯罪」も、あるわけないけど、ありそうだから、、、怖い。

 

以下、ネタバレあり。

 

人間椅子」は、
”佳子(よしこ)は、 毎朝、夫の登頂を見送ってしまうと、 それはいつも10時を過ぎるのだが、 やっと自分の体になって、洋館の方の、 夫と共用の書斎 へ、 とじ籠るのが例になっていた。”、と始まる。
佳子の夫は、外務省書記官で、エリート家庭。お手伝いさんがいる。佳子自身も、閨秀作家として夫の影を薄く思わせるほど、うれっこになっていた。

 

閨秀(けいしゅう):「閨」は女子の部屋、転じて婦人の意。 学芸に優れた婦人。

 

そんな佳子のもとには、たくさんの手紙が届くのだが、彼女は全てに目を通すようにしていた。そして、あるい日、届いた手紙を読み片づけていると、最後にかさ高の原稿らしい一通がのこった。突然原稿が送られてくるのは、よくあることではあったけれど、たいていは退屈なものだった。佳子は、表題だけでもみてみるかと、その封筒を開く。その中身は、表題も署名もなく、「奥様」という呼びかけで始まった。

 

そして、本作品の大部分は、この「奥様」に続く椅子職人と名乗る男からの告白。それは、、、自分は椅子職人で、あるホテルから注文された椅子を端正込めてつくった。そして、作製した4脚の椅子は、高級ホテルのラウンジに納品された。ただ、そのうちの一脚の中に、自分自身を隠して・・・。椅子の中には、自分の身を隠せるだけでなく、小さな棚もあってそのまま暮らしていけるように細工されていた。椅子職人は、夜な夜な椅子から抜け出すと、盗みを働き、富を蓄えていった。昼間には椅子の中に戻り、ラウンジにやってくる客たちの会話に耳を澄ませるのだった。
そして、ある時、ホテル経営者が帰国することになり、経営者が日本人の会社に代わると、高級志向から一般志向へと転換され、豪華な調度品は競売にかけられることとなる。職人の椅子もその競売目録に含まれていた。

椅子は、有る官吏の手にわたることになる。そして、椅子は、洋館の広い書斎におかれることとなり、若くて美しい夫人が使用するようになった。

職人は、毎日自分の上に座る婦人に恋してしまう。愛してしまう。

そして、その原稿は、その婦人こそあなたです。たった一度、私にお会い下さるわけにはいかぬものでございましょうか?

と、懇願するのだった。

 

気味が悪くなった佳子は、洋館を逃げ出すと、日本建ての居間の方へ来ていた。
「オオ、気味の悪い」

余りのことに、ぼおっとしていると、
「奥様、お手紙でございます」と女中のひとりが今届いたらしい封書をもってきた。

無意識に受け取って、開封しようとして、思わず落とした。そこには、さっきの不気味な手紙と 寸分違わぬ筆癖をもって、彼女の宛名がかかれていた。

そこには、
「拙い創作でございますが、ご批評いただければ、、、、」とあり、

”原稿には、わざと省いておきましたが、表題は「人間椅子」とつけたいと考えてございます。 では、失礼を顧みず、 お願いまで。怱々。”

おしまい。

 

ぶきみぃぃぃぃ。
まるで、佳子が読み終わるのを待っていたかのように届く手紙。。。。

おもわず、げげっ、、、って声が出ちゃいそうな、不気味なお話。でも、面白い。

 

「目羅博士の不思議な犯罪」も、さらに不気味。こっちは、本当に人が死んじゃう。乱歩自身が、見知らぬ男から聞かされたはなしだとして、物語が語られる。その男とは、動物園の猿の檻の前でであった。上野動物園だろうか。そして、
「猿ってやつは、どうして、相手の真似をしたがるのでしょうね」といって、実際に猿が人間の真似をするところを私にみせる。そして、「鏡っていうのも怖いものだ」という。そうこうしているうちに、陽は沈み、月が出る。月の夜も怖いものだ、、、。月の夜には、不思議なことが起きる。

 

男は、「あなたは、小説の筋をさがしていらっしゃるのではありませんか?僕一つ、あなたにふさわしい筋をもっているのですが、、、」といって、私に話を聞かせる。

 

それは、丸の内のビルの谷間の賃貸部屋にすむ男が、立て続けに窓際で首つり自殺するという話。男は、昼間は玄関番をして夜はそのビルの地下で寝泊まりしていたので、その事件のことをよく知っていた。警察も自殺のみたてで、でも、なぜ、その部屋に住む男たちが次々死んでいくのかは謎だった。そして、男は、目羅博士という眼医者が自殺部屋の向かいにいることに気が付く。目羅博士は、蝋人形をつくって、向いの賃貸部屋に住み着いた男たちと同じような服を着せ、蝋人形を窓際で首吊りさせた。おもわず、、、自分と同じ背恰好の人間が首吊りするのを見て、自分も同じことを猿真似してしまう、、、。

男は、その秘密をしって、目羅博士に似た人形を窓際に立たせ、目羅博士がベランダにでてきたときに、その人形を突き飛ばした。目羅博士も、飛び降りた。

”そして、クシャッという、ものをつぶす様な音が、幽かに聞こえてきました。”

そんな話を終えると、男は、さっさと去っていった。男の後姿には、月光がそそいでいた。

 

まぁ、よく、こんな奇怪なはなし考えるよなぁ、と思う。ホラーとか、怪談とか、そんなに好きではないけれど、おもわず、楽しく読んでしまう。

 

小泉八雲の「怪談」によりも、俗っぽく、人間臭い。時代が、乱歩の生きた時代だからかもしれない。

 

読書は、楽しい。