『ぞうのさんすう』  by ヘルメ・ハイネ

ぞうのさんすう
ヘルメ・ハイネ さく
いとうひろし やく
あすなろ書房
2000年7月20日 初版発行
2012年8月10日 10刷発行


『世界をひらく60冊の絵本』(中川素子、平凡社新書)の 「第七章  命に出会い、命を知る」からの紹介本。図書館で借りて読んでみた。

 

白黒のシンプルなイラストの表紙。ぞうが、丸いボールのようなものを巨大そろばんのような、、、物干し棚のような、、、ところに刺している。うん?なにかな?

 

表紙をひらくと、「訳者のことば・・・いとうひろし」とある。
”ぞうは
大きないきものです。
ゆっくり ゆっくり
大きくなります。
まるで ゆっくりとした
時間を たべて
おおきくなっていくようです。
だから、
ぞうの長い鼻にも
大きな耳にも
深いたくさんのしわにも
たっぷりとした時間が
つまっているにちがいありません。
そして いつか
ぞうの大きなからだが
きえてなくなっても
たっぷりとした時間だけは
いつまでも のこるのです”

 

実にシンプルなイラスト。でてくるのは、、、、ぞうとぞうのフン。。
表紙で串刺しにされていたのは、フン。

 

著者のヘルメ・ハイネは、1941年、ドイツ・ベルリン生まれ。大学で美術と経営学を学ぶ。1976年に初めて 絵本を刊行。 本作でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞する。 以後、たくさんの絵本を刊行し 数多くの賞を受ける。親しみやすいキャラクターとユーモアあふれる作風で人気。

 

訳者の伊東寛さんは、1957年、 東京生まれ。 早稲田大学教育学部卒業。 学生時代から 絵本の創作をはじめる。主な作品に、『おさるのまいにち』などの「おさる」シリーズ、『だいじょうぶ、だいじょうぶ』、『ごきげんなすて』、『くもくん』など。絵本にっぽん賞、 路傍の石幼少年文学賞講談社出版文化賞絵本賞など数多くの賞を受賞している。

 

物語の主人公は、ぞう。

 

「むかし あるところに ぞうが いました。
 くいしんぼうの こどもの ぞうでした。
 ぞうは あさから ばんまで たべていました。
 くさを たべて はっぱを たべて、はっぱを たべて くさを たべて、
 おなかが いっぱいに なるまで たべていました。」
とはじまる。

 

そして、この文字はページの上に。
下には、黒のみで描かれたぞう。そして、草を食べている。
そのくさが、、、あれ?なんだ?と、よく見るとアルファベットなのだ!

GRASERUNDBLA・・・・・・・。
ドイツ語なのだろうか?
よくよく見ないと気がつかない。

 

そして、ぞうにはしっぽが4本、はなが3本。。。それは、ぞうの活発なうごきを現しているのだとおもわれる。

 

白黒のイラストでありながら、動きを感じる、このセンス。すごいなぁ。
作者紹介には、大学で美術と経営学を学ぶって、、あるけれど、なんというか、ちょっとインテリな感じが、、、オトナな感じ。

でも、物語は、いたってシンプル。

 

ぞうは、食べて、寝て、夢をみて、おきて、牙を磨いて、水をのんで、
”まんまるのうんちを”する。

おおきなうんちを ひとつする。

それが、一年目のはなし。


二年目には、一日のうんちが2個になる。
三年目には、一日のうんちが3個になる。

そして、あるとき、一日のうんちは50個になる。
ぞうは、50歳になったのだ。

 

うんちが増えていくことをよろこぶぞうの姿がおもしろい。
大きな体をうかせるように飛び跳ねていたり、
うんちのまわりをぐるぐるまわったり。

そして、うんちのやまはどんどん大きくなる。
かしこいぞうにも、そのやまの高さはわからないほど・・・・。

 

ぞうは、まいにち50個のうんちを数えて幸せでした。

ところが、あるあさ、おかしなことがおこりました。

46,47,48,49,、、、それでおしまい。
なんど数え直しても49個。

ならべてかぞえなおしても、49個。
どうして49個なのか、さっぱりわかりませんでした。

 

しかし、その次の年は、48個、その次の次の年は47個、、、
うんちの数は毎年1つずつ減っていく。


50年目を境に、こんどはうんちのかずがひとつずつ減っていくことに気がついたぞう。

そして、とうとううんちが一つになる日がくる。

 

いちにちひとつのうんちでも、まいにちは 楽しく すぎていきました。
でも、365日目、ぞうはしんぱいになりました。
ぞうの計算がただしければ、きょうのうんちが最後。

 

そのよる、ぞうは、夢をみませんでした。
目が覚めると、ここは天国なんだと思いました。
でも、そこは100年のあいだ ずっと いきてきたところでした。

 

みずをのんで、きばをみがく。

ぞうは まちました。
じっと たったまま、まちました。
だけど うんちは でてきませんでした。

 

はじめの50年の間に、465,375個のうんちを しました。
のこりの50年の間に、465,375個のうんちを しました。
さしひき、ゼロ。
ぴったり、ゼロ。

 

ゼロを知ったぞうは、しずかに、「うんちをしなくなったぞうがいくところ」へむかう。

 

最後のページは、遠近法でどんどんちいさくなっていくぞうの後姿。おしり姿。

あぁ、、、。。。。
うんちがゼロになったときが、命の尽きる時、、、、。
あぁ、、、

 

しずかに、クスっとわらってしまうような。
苦笑いの一冊。

私がこの象なら、もう、うんちのかずは減り始めている。

 

人生の残り時間を考えてしまう一冊。
ドイツ人らしい、、、なんていったら、ステレオタイプかな。

 

ぞうのうんちが、線のみで描かれた干し草をまるめたようなもので、ちゃんと陰影もあって、なんというか、、、乾いた感じがすがすがしい。
山積みになったうんちの絵も、なんとも、、、ほほえましい・・・。
これ、描くのは結構大変・・・。

 

物語は単純かもしれないけれど、このイラストもいいと思う。
さすがに、ぞうのうんちのイラストを飾ろうとは思わないけど・・・。
悪くない。 

 

そうなのだよ。

なにかが減っていくことも、死に向かう成長なのかもしれない・・・。

 

常なるものは、何もない。

無常なり。

 

絵本は、楽しい。