『銀行ノ生命ハ信用ニ在リ 結城豊太郎の生涯』  by 秋田博

銀行ノ生命ハ信用ニ在リ 結城豊太郎の生涯
秋田博
NHK出版
1996年3月30日 第一刷発行

 

とある勉強会で、結城太郎がテーマなのでお薦め本という本書を読んでみた。図書館で借りようと思ったけれども蔵書になくって、買おうとおもったら絶版で、やむなし、Amazonの中古でポチった。

 

そして、届いた。開いてみてびっくり・・・ここまで大胆に書き込みがしてあって、角は折ってあって、、、定価2000円の本が、663円。送料込みで1013円で買ったのだが、、、こんなんでも古本市場にだしていいわけね、、、って感じ。
商品説明では、状態が「悪い」ではなかったと思う。。。ま、いいんだけどさ、、、。

 

ところどころ赤ペンが引いてあったり、大きく丸して会ったり、書き込みまである。まぁ、かなり読み込んで研究した、という感じなので、ちょっと知らない人のノートをのぞき見してしまったような感じもしなくもない。。。

と、そんな中古本だけど、読んでみた。
厚さ、3cm以上はあるだろうか、なかなか手ごわい単行本、と思ったけれど、読みだすと、なかなか面白い。

 

だいたい、私にとっては、結城豊太郎って、誰??って感じだった。勉強会で耳にしなければ、一生出あうことのなかった人物だと思う。

 

第15代日銀総裁。戦時下の日銀総裁である。

 

著者の秋田さんは、1931年山口県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。読売新聞社入社。経済部次長を経て、調査研究本部主任研究員、同本部次長。 日銀クラブ 担当の他、大蔵、通産、農林、 外務、 経企各省庁詰め経済記者として活躍。

表紙裏の袖には、
” 無責任大蔵官僚、 無節操銀行家、 無定見政治家が罷り通る。 金融危機に対して、 国民の不安をどう払拭するのか。
「銀行ノ生命ハ信用ニ在リ 」「 経済は コーポレーション、 政治はファイ となり」 と言い続け、昭和動乱期を疾走した、剛腹・勇断の人、元大蔵大臣・第15代 日本銀行総裁結城豊太郎の事績を追う懇親の記録。 金融危機を超える歴史の教訓が茲(ここ)にある。”と。

そして、中表紙をめくっていくと、オールバック、丸眼鏡、ちょび髭、背広姿のチョット強面な豊太郎の写真。第15代日銀総裁在任時の写真がある。

へぇ、、こんなおじさん知らない、、、である。私にとっては・・。

 

官庁のひと、経済界の人ならよく知る人なのかもしれないけれど、だいたい、その勉強会でもなんで、結城豊太郎をテーマにしようと提案されたのかすら、私にはわからない。

でも、本書を読んでみたら、わかった。なるほど、確かに、、、。安岡正篤とかかわりのある人だった。東洋思想研究会の安岡先生。結城は、自分が死んだあと、お墓の文字を安岡にたのんでいたのだ。それほどの中だった二人。安岡の方が結城より21歳も若い。それでも、生前、深いつながりがあった二人だった。二人は、書を通じても共感し合う仲だった。

 

目次
プロローグ  昭和動乱を疾駆した二人
  結城豊太郎安岡正篤
第一章 動乱の中で
第二章  山上の誓い
第三章 銀行家への道
第四章 日銀マンのころ
第五章 ピープルズ・バンクの育成
第六章 人づくり、国づくり
第七章 政界に躍る
第八章 国家臨戦体制の中で
第九章 戦時金融を牛耳る
第十章  太平洋戦争前夜
第十一章  破局に向かって
エピローグ 巨星墜つ
結城豊太郎 年譜
主要参考文献
あとがき 

 

感想。
うん、なかなか読み応えあり。歴史の勉強になった。これは、日本の戦前戦後の政治経済の勉強になる一冊。

結城豊太郎の一生を描きつつ、関係する人びとについてもそれなりに背景などが説明されている。渋沢栄一井上準之助高橋是清池田成彬、、、早々たる面々。と、そういう時代に生きた人なんだからそうなんだろう。

 

本書を読みながら思ったのは、みんな血が濃いな、、ということ。明治や大正時代って、子どもが1人、二人なんてことはなく、7人、8人、、、というのが当たり前だった。ゆえに、、、父ちゃん同士が知り合いになると、家の倅とお宅のお嬢さんを、、、ってなぐあいに、お見合いがあって結婚して、、親戚になっちゃったりして、、、。

少子化というは、単に人口が減るということだけでなく、「親戚」が減るということなんだと、ふと気が付いた。
「親戚」であると、「こちら側の人」になるけれど、そうでないと唯の赤の他人。「親戚」が減ったことが、殺伐とした社会になっているひとつの要因なんじゃないか?と思ってしまった。。。

 

人は、はじめてあった人でも、「遠い親戚にあたります」なんて言われたら、おもわず気をゆるしちゃうし、なんとなく「味方」的な空気を感じるのではないだろうか。。。

 

と、そんな時代各界の多くの人が、実は親戚関係にあったりしたんだな、これが。でもって、なんだかんだうまくネゴして、社会を動かしていたんじゃなかろうか、、という気がした。懐かしい昭和の空気を感じる・・・。

 

結城豊太郎は、山形県・赤湯の出身。人財育成にも情熱を注ぎ、故郷に臨雲図書館をつくったり、風成塾をつくったりしている。一方で、経済の世界で活躍。

 

1877年生れの結城は、19歳のときには仙台二高へ入学、そして、東大、日銀、アメリカ、安田銀行、、、、、大蔵大臣、日銀総裁、、、。学生時代に地元赤湯の幼なじみと結婚し、七女をもうけている。子だくさんだけれど女系だったらしい。

日露戦争後の1906年アメリカへ留学。日銀からの出向ではあったけれど、中身は勉強してこい、という留学だった。帰国して、38歳の若さで日銀名古屋支店長。切れ者だったらしい。

金融政策については、私は良し悪しはわからないけれど、明治、大正、昭和と、様々な立場で日本の金融に関わった人物だったということ。
日露戦争の戦費を調達した高橋是清からも、将来を期待されていた。そもそも、結城が日銀にはったのは、高橋是清がこの若者なら、と認めたからだった。

 

本書で、私にとって勉強になったのは、大正デモクラシーが壊れて、軍人が力を持ち始める流れのところ。

戦後(第一次世界大戦)不況で世界中の経済が停滞する中、日本も1920年に株価大暴落、そして大不況へ突入。「赤とんぼ」「7つの子」「てるてる坊主」といったちょっと悲しい響きの童謡が流行る。そして、安田善次郎暗殺事件、その一か月後には、原敬暗殺事件、、と世の中は不安定になって大正デモクラシーは下火になっていく。
そこから、左翼と右翼の対立という分極化、無政府主義者の登場となる。

政治家は、常に暗殺される危険と隣り合わせ、、、、というような状況だった。

1922年、ワシントン軍縮会議によって各国が軍縮の方針をとると、日本も軍人が職を失う。。。不満を募らせた軍人は政治にめざめるよになり、、、行き過ぎた軍国主義へと流れ込んでいく。

なるほど、、、そういうことか。。。と。

そして、その後も、1932年には井上準之助射殺、犬養内閣殺害、、、となって、政友・民政の両党憲政はマヒ。

1936年、2.26事件による高橋是清らの暗殺によって、議会制民主主義は完全停止。軍政へ・・・。

暗殺された井上の後を継いで、結城が第15代日銀総裁になったときには、日中戦争勃発。。。

まぁ、、動乱の世を生き抜いた人、、、、ということ。
ところどころ、なるほど、、、そうか、、と、、、付箋をハリハリ、、、結構一気読み。

気になるところ、覚書。

 

・ 「学問すなわち実践」:王陽明知行合一安岡正篤は東大時代に王陽明を研究した。

 

・1938年(昭和13年)「国家繁栄のエネルギーは都市にはなく、農山村にこそある」と、臨雲文庫にあつまった青年たちを激励。(安岡正篤

 

・豊太郎は、二高時代時代、ドイツ語の試験ボイコットを扇動したことで、停学処分になる。しばし落ち込んで青葉城跡に出かけるようになる。そこで、瑞鳳殿の石段を見ているうちに、浅い階段と深い階段が交互にあることに気が付く。登降するのによくできている。また、瑞鳳殿の門や長押は、無造作にも見える。瑞鳳殿はすべの部分は「余分」か「不足」からなっているが、全体としてはそれでしっかりまとまってバランスが取れていることに気が付いた。
 「物事は全体として整っていれば、局部はどうなっていてもかまわない」という政宗公の考えを瑞鳳殿に発見した。そして、
「そうだ。これからの人生にもいろんなことがあろう。が、肝心なことは全体としてどう生き抜いていくかだ。二週間の停学など人生の中の小事。小局にとらわれていては大局を見失う。大局づくりはこれからだ」
と、停学のことなどすっかり忘れて、将来の希望に燃えた。

この、前進力。素晴らしい。

 

日露戦争の結果、日本は大陸支配を拡大することができたが、逆にそれが国力の大きな負担となった。増税国債発行では賄いきれず、イギリス、アメリカ市場で外債を発行した。つまりは、外国からの借金。

 

・豊太郎が、料亭の宴席で歌ったという歌。
 「赤とんぼ羽根をもぎれば唐辛子・・・・」なかなか上手かったらしい。
が、孫の藤山覚一郎(愛一郎・三女久子の長男)は、あの謹厳な祖父がどんな顔をして料亭の座敷をつとめたのか、想像ができない」と・・・、。

 

高橋是清がペルーの銀山経営の詐欺で無一文で帰国したとき、かつての教え子である辰野金吾が技師部長としてはたらく「日銀建築事務所」で、辰野より下の立場で仕事をした。
日本銀行本店、東京駅の辰野金吾も、是清の教え子だったんだ!

 

・豊太郎は、人材育成にも力を注ぎ、生徒たちにクラーク博士の「ボーイズ・ビー・アンビシャス」の言葉を贈っていた。

 

安岡正篤の言葉。「人の上に立つ人は、必要に応じてあの人、この人、とすぐ心に浮かんでくる人材をもっていなくてはいけない」と、豊太郎にも語った。

 

・一国の経済力以上の軍備は時間とともにやがて国の脚力を弱め、国家をつぶす因となる。戦艦大和・武蔵の建設は、経済力以上だった。しかも、海軍がそうなら、、、と陸軍も予算を膨らませた。 

 

非常に面白い。金本位主義とか、外国に借金することとか、これまで金融行政はよくわからーーん、と避けて通ってきたけれど、本書を読むと、ストーリーとしてそれぞれの意味が分かる、ような気がする。

まだまだ、理解不足だとは思うけれど、中古本でも買ってみてよかった。

これは、経済を勉強する人なら、読むべき本かも。

 

読書は、楽しい。