『青嵐の旅人(下) うつろう朝敵』 by 天童荒太

青嵐の旅人(下) うつろう朝敵
天童荒太
毎日新聞出版
2024年9月20日 印刷
2024年10月1日発行

 

『青嵐の旅人(上) それぞれの動乱』の続き。幕末の幕府vs倒幕の争いに巻き込まれていくヒスイと救吉は・・・・。

megureca.hatenablog.com

 

本の紹介には、

”絶体絶命の親藩。その命運は、
二人のきょうだいが握っていた――

江戸幕府消滅。そして明治へ。
激動の時代を圧倒的スケールで描く
感動の歴史長編

藩士大原観山の命で新選組原田左之助を訪ねたヒスイ救吉は、旅の途上で、かつて山中で命を救った坂本龍馬と再会。その後、沖田総司新選組の隊士たち、長州の桂小五郎高杉晋作ら新しい世を作らんと志す傑物たちと出会う。いっぽう、武士としての信念と現実の狭間で揺れる辰之進には、その心を試すように常に暗い"影"がつきまとう。情け容赦ない戦、愛する人の死、そして迎えた、故郷伊予松山最大の窮地......。激動の時代を愚直に生きる三人が見た希望の光とは!?”

とある。

 

感想。
(上)も そうだったけれども、時間もあっという間、1日で 通読。 読み出したら止まらなかった。

これはフィクションだ、フィクションだと思っていても、 近藤勇沖田総司土方歳三、そして、 桂小五郎高杉晋作まで出てくる。

 

以下ちょっとネタバレあり。

 

長州征伐 へ向かった幕府。 一方で、 征伐に向かわされた武士や足軽達は、もう、長州征伐にかける熱意は失われていた。その中にあって、伊予松山藩だけは親幕藩として奮闘するのだ。そこに、ヒスイと救吉が巻き込まれていく。また、二人を大事にしながらも、任務を全うしようとする辰之進。倒幕派とつるむようになった兄・虎之介との難しい感情。兄がつるむようになった鷹林は、辰之進にとってはかつて自分を切ろうとした相手であり、とうてい受け入れがたい存在だった。それでも、兄は兄・・・。

 

長州征伐にむかった伊予松山藩の働きについて、これまで教科書などではほとんど出てくることもなく(と、私が気が付かなかっただけかもしれないが)、こんな裏舞台があったのか。。。と、感心しながら読んだ。

 

伊予松山藩は、他の藩がだんだんと長州征伐に出兵しなくなっていく中でも、孤立奮闘しつつ、長州とたたかったのだ。犠牲も多かった。が、ヒスイ、救吉、辰之進らは命からがら、、、伊予松山藩へ戻る。

 

そして、 坂本龍馬の暗殺。ヒスイたちは、伊予松山でそれを聞く。まさか、、、あの坂本さまが・・・・・。

 

そうか、そのあたりの歴史の順番、忘れていた。


復習すると、

1967年10月14日(慶応3年10月14日) 大政奉還の申し出。
1867年11月15日(慶応3年11月15日) 坂本龍馬暗殺。「近江屋事件
1867年12月9日(慶応3年12月9日)  王政復古の大号令
1968年1月 ( 明治元年1月)  鳥羽・伏見の戦い勃発。 


龍馬が暗殺されたのは、 大政奉還王政復古の大号令の間の混乱期。そして、薩摩・長州両藩 を中心とする新政府軍と旧幕臣会津・桑名を中心とする旧幕府軍との間で争いが起こり、戊辰戦争へと。ちなみに、龍馬を殺したのが誰なのかは、いまだに歴史の謎。

 

ヒスイたちも、この動乱に巻き込まれていくのだが、戦死することなく二人そして辰之進も伊予松山へ帰り着く。

まぁ、小説なのだから主人公は死なないだろう、、、とおもって読みながらも、ハラハラ、ドキドキ。

 

長州征伐の戦いの後、ひとたび、平穏がおとずれる。ヒスイは伏見の寺田屋お登勢のもと女中修行、救吉は長崎へ本格的に嵐医学をまなびにと旅立ち、それぞれが成長する。

伊予松山では、大原観山の腕の中で、孫の正岡処之介(正岡子規が眠っている。その穏やかな眠り顔に、「文の道で名を上げる吉相ぞな」とよびかけるさぎのやの大女将。

 

だが、新政府への反感から、再び戦いの火ぶたが切られる。

東京では上野の寛永寺で戦になろうとしていた。
そして、再び、ヒスイと救吉、辰之進は上野をめざす船の上に・・・・。

赴くのは戦いの場である。それでも、それぞれが自分の使命を胸に刻んでいる。

「 夢の約束もこれからもきっと叶えますから!」と船上で辰之進へ声をかけるヒスイ。

” 彼女の弾む声は、鳥のように宙を翔けた。
 3人を包む 海も空も 果てしなく、 青く輝いていた。”

おしまい。

 

まぁ、新聞小説なので、短い単位でも読みやすくされていることもあり、深く込み入った話ではないけれど、幕末の動乱を伊予松山藩からみつめた、結構、めずらしい切り口の小説だと思う。主人公が幕末の歴史上人物でないヒスイらで、その一般市民ともいえる人物からの視点でえがかれているため、長州も、薩摩も、土佐も、、あらゆる藩が客観的に描かれている物語であるところが、おもしろい。

 

著者の天童さんは、 松山市生まれだからこのような本が書けたのかもしれない。


最後に参考資料もならんでいる。
松山の歴史も深いなぁ、、、と思う。

 

ちなみに、伊予松山藩が、親藩となったのは、 家康の甥・松平定行が三代将軍家光の頃に藩主になったことによる。そして、 道後温泉を老若男女多くの人のための施設として整えたのは、この松平定行だそうだ。

 

道後温泉は、しばらく改修工事をしていたけれど、2024年7月11日に全館での営業を再開。いかなきゃ。
そして、松山城も、再訪したい。 

 

それにしても、日本人も昔はよく戦をしていたもんだ・・・。現代からみれば、内戦以外のなにものでもない。政治を武力で動かそうとした、、、、単純に、野蛮である。

と、そう感じるのも、現代の感性なのかもしれないけど。。

 

その争いの合間に、じつは、辰之進の恋愛感情の揺れ動きも描写されていて、ちょっと心温まる。小説だもの、そうでないとね。

 

読書は楽しい。