『源氏物語3』  by 角田光代

源氏物語
角田光代
河出文庫 古典新訳コレクション
2023年11月20日 初版発行 
2024年10月31日 5刷発行 
*本書は2017年9月に小社から刊行された『源氏物語 上』(池澤夏樹=個人編集、日本文学全集04) より「澪標」から「少女」を、 2018年11月に刊行された『源氏物語 中』(同05)より『玉鬘』を収録しました。

 

2の続き。

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裏の説明には、
”須磨・明石から京に戻った光源氏は勢力を取り戻し、栄華の頂点へ上ってゆく。藤壺の宮との不義の子が新帝となり、明石の女君は女の子を出産後に上洛。広大な六条院が落成し、地位も権力も手にするが、やがて陰りが見えはじめる。生と死、愛とかなしみーーー。「澪標」から「玉鬘」までを収録。”
とある。

 

目次
澪標(みおつくし) 光君の秘めた子、 新帝へ 
蓬生(よもぎう)  志操堅固に待つ姫君 
関屋(せきや)  空蝉と、逢坂での再会へ 
絵合(えあわせ)  それぞれの対決 
松風(まつかぜ)  明石の女君、いよいよ京へ 
薄雲(うすぐも)  藤壺の死と明かされる秘密 
朝顔(あさがお)  またしても真剣な恋
乙女(おとめ)   引き裂かれる幼い恋 
玉鬘(たまかずら)  愛しい人の残した姫君

 

感想。
全8巻のまだ3巻だけど、「陰り」がみえはじめる、と言われればそうかも。源氏物語って、ずっと光君の栄光の話ではなかったんだ、とわかった。

2巻の最後、「明石」で京に呼び戻された光君。もどってみれば、ちゃっかり、昇進。内大臣となる。

「澪標」で、京に戻った光君は、こりもせずに須磨行きの原因となった朧月夜に好意を寄せる。朧月夜は、光君なんか相手にしなければよかった、と思っているのでつれない。

桐壺帝と弘徽殿の女御の子供である朱雀帝は体が弱く、そうそうに東宮(桐壺帝と藤壺の子、でも本当は光君の子)に譲位。東宮は若くして冷泉帝となる。出家していた藤壺は、我が子が即位したことで、どうどうと宮中に出入りできるようになる。弘徽殿大后にしてはおもしろくない。

光君の移り気は、朧月夜だけではない。「澪標」で光君が好意を寄せる過去の女たちがたくさんでてくる。紫の女君、花散里、斉宮(六条御息所の娘)、明石の女君とその女の子。
六条御息所は、御代替わりで斉宮とともに帰京した後に、出家、没する。

願掛けに行くのは住吉神社。そして、相変わらず光君の側近として惟光(光君の乳兄弟)が女たちとの逢瀬を手助けする。

 

「澪標」は、一人の女ではなく、様々な女が出てくる。なぜ、澪標というタイトルなのだろうとおもって、「澪標」を広辞苑で調べてみた。

みおつくし(澪標)
①(「水脈(みお)の串」の意)通行する船に、 通りやすい 深い水脈を知らせるために立てた杭。歌で多く「身を尽くし」にかけて使われる。みおぎ。みおぐい。みおじるし。
② 源氏物語の巻名。源氏28歳の10月から29歳の冬に至る。
③ 香木の名。香の少し辛く苦いもの。

①の意味で、人生の「みおつくし」という意味でつかったのかな。加えて、「身を尽くし」とかけていもいるのだろう。こんなところにも掛詞。

 

「蓬生」では、花散里に会いに行く途中に常盤宮邸が目に入って、末摘花(不細工ちゃん)のところへ寄る光君。すっかりわすれていた末摘花だったが、その兄の禅師が、光君の催した法華八講会に呼ばれていたことで思い出したのだった。しかし、その邸はボロボロで、門もがたがた。姫君のいる寝所だけがなんとか暮らしていける様子。陶淵明の「帰来去の辞」の一節「三径荒に就く」を引用し、光君が寝所への道を探す様子を
”どこだろう、こんなにあれたところにもかならず草を分けた三つの径があるはずだ、とさがしあてて進む。”と。

陶淵明は、中国の魏晋南北朝時代の詩人、365~427年。紫式部は、陶淵明の話をどうやって知識にしたのだろう?書だけがたよりだったはず。すごい。

 

「関屋」では、帚木(ははきぎ)で出てきた空蝉が出家。

 

「絵合」では、貴族たちの絵自慢大会。あの絵がいい、この絵がいい、、、。藤壺もいっしょになって、あれがいい、これがいい。そのいい合いも面白く、藤壺は物語の元祖というべき「竹取物語」「宇津保物語」を取り上げて勝負を競う。でも、光君が須磨・明石で描いた絵日記が抜群。貴族の見栄の張り合いは、『失われた時を求めて』に通じるこっけいさを感じる。いつの時代も、どこの国でも「見栄っ張り」というのはいるってことか‥‥。かつ、それを描くことによって人間らしさが文字になる。

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「松風」では、明石の女君が娘をつれて京入りする。しかし、光君との身分の差を恥じて、母君の祖父の土地、やや田舎に居を構える。光君は姫君の三歳の袴着の儀を自分のところで執り行わせたいと、紫の上にうちあける。紫の上はすっかり大人の貫禄。

 

「薄雲」で、明石の姫君は、二条院へ。光君は、生みの母である明石の女君から姫君を取り上げちゃうのだ。なんてこと・・・。涙、涙の母子の別れ。和歌の応酬。そして、紫の上が明石の姫君を育てる。

そして、光君は、姫君の無邪気さを微笑ましくおもいつつ、明石の君とのつかの間の逢瀬というのは、「夢の渡りの浮橋か」とぽつりとつぶやく。会っても、もの思いは増すばかり。

そのころ様々な凶兆、天変地異が起こる。藤壺も亡くなる。光君は悲しい別れを激しく嘆く。葬儀が終わると、70歳の僧都が、こともあろうか冷泉帝に藤壺と光君の秘密をばらしてしまう。世の中の天変も、そのせいだ、と。兄と慕っていた光君がまさかの自分の父ちゃん?!混乱する冷泉帝。僧都もよけいなことをしてくれる。

様々なことが起こる中、紫の上はいつのまにか花散里と仲良しに。女同士の友情が、さらりと。

 

朝顔」は、故・式部卿宮(桐壺帝の兄弟)の娘朝顔の姫君への恋。でも、つれない朝顔

 

「少女」は、光君と葵の上の若君・夕霧の登場。光君にまけないくらい、女の子に気を取られる性分。光君に書物・学業に専念しなさい、といわれる。光君は夕霧を甘やかすことなく、知的に育てようとする。自分の身をまもってくれるのは地位ではなく、身に着けた内面、ということを紫式部も思っていたのかも。
光君は、新居として広大な六条院を立てる。華々しい行幸

 

「玉鬘」は、右近(かつては夕顔に仕え、夕顔亡きあと夕顔の形見として光君が傍に置き、光君が須磨に間は紫の上に仕えていた)が、身の置き所に悩みある寺に参詣していたとき、小さかった夕顔の娘や乳母の一行に出会い、姫君(玉鬘)と再会を果たすはなし。

その間に、夕顔の娘君が乳母らとともに筑紫にうつったこと、そこで美しく育って、大夫監という男に求婚されるが、すったもんだあった末に逃げ出してきたお話が組み込まれている。

突然、日本昔話がはさまれているみたいな、ちょっと楽しい一幕、という感じ。美しい女とそれをめぐる男たちの物語。面白い。

そして、右近からその話をきいた光君は、玉鬘を六条院にひきとる。

 

六条院に光君の女たちが大集合の第3巻だった。