「世界のエリートが学んでいる哲学・宗教の授業」 by 佐藤優

世界のエリートが学んでいる哲学・宗教の授業
佐藤優
聞き手 小峯隆生
PHP
2018年10月4日 第1版第1刷発行

 

佐藤さんの本だから、読んでみた。

筑波大学講師の小峯さんが行う「コミネ語り」という授業の一環として、佐藤さんをゲストスピーカーとして招いて特別授業を開始したのが、この本の始まり。

 

とても、勉強になる一冊だった。
何の勉強になるかって、哲学や宗教というよりは、哲学や宗教を通じて、現代の歴史を理解する勉強、っていう感じ。
何度聞いても、理解に苦しむシリアの問題、シーア派の問題。
あるいは、その出来事の裏にある宗教的動きを知らずにいた、ローマ教皇生前退位の話。
などなど、、、。

哲学を学ぶと何がわかるのか、、、という、小峯さんの質問に、佐藤さんは直接は答えない。だた、その一例として、本書の冒頭に、橋下徹さんの話が出てくる。
「橋ズム、とも揶揄される、橋下徹現象は、ファシズムではない。だから、反ファシズム論では議論で勝てない」という。

 

そもそも、ファシズムとは?
佐藤さんの言葉を借りると、
「本来、ファシズムは内側に対しては優しくして、国民を束ねていく。橋下さんには、内側に対する優しさもなければ、それぞれの個人を束ねていくという発想も希薄。だからファイシズムではありません」ということ。

そして、橋下さんのやり方は、アメリカのマッカーシズムのアナロジー(類似)とみるべきだという。
マッカーシーは、出合った相手に、お前は共和党の手先だろう、といって相手を叩き潰しておきながら、あとから、まぁまぁ、怒るなよ、、とフォローする。
そのフォローで、なんとなく、味方が増えてくる。

最初に嫌な奴、と思わせておいて、まぁまぁ、、、、と言って、あとから、意外とそんなに嫌な奴ではないではないか、と思わせる。
でも、独裁者にはならない。結局は、普通の人だから、、、。

なるほど、そういう、見方か、、、と。


大阪府民ではなかった私は、遠くから見ていてただけだし、あまりテレビの討論番組も見ないので、橋下さんの主張がどういうものだったのかは、大阪都構想といううたい文句ぐらいしか分かっていないのだけれど、、、。
ちょっと、分かるような気がしなくもない。

 

先日の衆議院選で、日本維新の会大阪府で大きく議席を伸ばしたのは、もう、橋下さんの影響というよりは、具体的に党としての活動の成果を、大阪府民が感じ、期待したからだろう。橋下さんは、きっかけを作ったに過ぎない。それはそれですごいけど。

 

あとは、今のイランの成り立ちや、イランの核開発になぜ、世界中が大騒ぎするのか。
核なら、いまや、北朝鮮だって持っている時代だ。
2021年1月の時点で核保有国、と正式に表明しているのは、アメリカ、ロシア、イギリス、中国、インド、パキスタン北朝鮮

まぁ、これだけ並べてもぞっとするのだが、、、。

 

佐藤さんは、イランの核開発を認めたら、人類は、「世界中が核を持つ」新しい歴史の段階に進むことになるという。

それは、イランという国が、かつて「イスラエルを地図から抹消する」という事を公約にした国だから。イスラエルを爆破するということは、エルサレムも消滅するという事になる。エルサレムは、イスラム教徒にとっても聖地ではないのか???という疑問が生じるところだが、シーア派は、874年イマーム(伝承者)は御隠れになり、ハルマゲドンを信じているので、聖地が亡くなることを何とも思っていない、という背景がある。

イランが核を持つようなことになれば、パキスタンにある核兵器サウジアラビアに流れ、核の脅威はさらに高まる。そして、それを阻止するには、イランからの原油を買わないという、イランへの制裁しかない、という。

実際に起きている、核に対するやり取りの裏に、シーア派のハルマゲドンを信じた行動があるということ、イスラエルとの関係、、改めて勉強になった。

 

また、韓国の竹島問題。
これも、韓国の人は、神話として竹島が必要なので、竹島は自国の領土と信じている。戦後に作られた神話ではあるけれど、韓国の人にとっては「疑いなく信じる知識であり、反対のことが想像できない、つまり、文法命題ウィトゲンシュタインの言う)である、と。そして、領土論を展開する日本と、議論が噛み合う訳がない、というわけだ。神話と領土、落としどころがない。

 

バチカンの世界戦略への説明も面白い。
2013年にベネディクト16世が生前退位し、アルゼンチンのフランシスコが教皇となった。カトリックの友人が、生前退位よりなにより、アルゼンチン出身の人が教皇になるというのは、極めて異例なことなのだと言っていた。
でも、そこには、アルカイダなどのイスラム過激派の台頭、という社会の動きがあったというのが佐藤さんの説明。

バチカンは、もちろん、平和をのぞんでいる。
そして、世界の平和のために、イスラム過激派の台頭に対応しなくては、となる。ベネディクト16世は、既に高齢で、体力的にも厳しい。そして、長期スパンの対イスラム過激派対策として、対話によってイスラム穏健派を味方につけるために、体力があり、かつ新世界からの教皇を選んだと。
なるほど、そんな裏があったのか、、、、と。

とはいっても、長期スパンでの対策とはいうものの、今、それはどういう方向に進んでいるのかは、私にはよくわからない。。。

アフガニスタンは、アメリカ撤退以降、20年前に戻ってしまっているし、、、。

 

他にも、人間の認識というのは、「文化や歴史的背景の拘束を受ける」といった考え。
これは、『社会はなぜ左と右にわかれるのか』で「道徳は社会的慣習によって変わる」という表現と、同じことだろう。

megureca.hatenablog.com

 

アラブの春」の背景にある、ムスリム同胞団の話から、シリアの話。いろいろ、今の世の中を理解するのにすごく参考になる一冊。

 

ふと、手にした本だけれど、結構よかった。

やっぱり、今、世の中で起きていることにも、色々な意味があるのだな、、、と、最近、新聞をじっくり読まなくなったことを反省した。

せっかく取っている新聞も、もうちょっと読もう、と思った。

 

読書は楽しい。

 

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世界のエリートが学んでいる哲学・宗教の授業  by 佐藤優