『世界史の極意』by  佐藤優

世界史の極意
佐藤優
 NHK出版
2015年1月10日

 

ちょっと古い本で、前に読んだことがある気もするのだけれど、佐藤さんの本。図書館で借りてみた。
国民国家がどう変遷してきたか、多極化、民族問題、宗教を軸に語られている。

 

目次
序章 歴史は悲劇を繰り返すのか? 
   世界史をアナロジカルに読み解く
第一章 多極化する世界を読み解く極意
    「新・帝国主義」を歴史的にとらえる 
第二章 民族問題を読み解く極意
    「ナショナリズム」を歴史的にとらえる
第三章 宗教紛争を読み解く極意
    「イスラム国」「EU」を歴史的にとらえる。

 

佐藤さんは、「ビジネスパーソンとして最も重要な基礎教養の一つは世界史である」と、さまざまな書籍でいわれているが、本書も最初に、そうでてくる。本書は、〈いま〉を読み解くために必須の歴史的出来事を整理して解説する、と。〈いま〉やこれからのことはわからないから、世界史を通して、アナロジー的なものの見方を訓練する本、ということ。

序章で、「第1次世界大戦勃発から100年を経た2014年、ウクライナ問題やイスラム国の拡大など戦争の危機を感じさせるような出来事が世界で起きています」と書かれている。
ウクライナは、まさに、2022年の今、戦火のなか。。。
歴史は繰り返す。
2014年のクリミアへの侵攻は、完全に併合目的だったから、今回のウクライナ侵攻の目的とは少し違うけれど、緩衝地帯を維持したいプーチンの意思、という意味では同じ目的ともいえるだろう。
こんなことは、アナロジーを使っても考えたくないことだけれど、NATOが慎重な姿勢を維持しているのは、ひとたび軍事投入すれば、さらなる悲惨が広がる、というを大戦で学んでいるから。そんなことを思いながら、さらっと、歴史のおさらい。

 

コンパクトに、新書にまとめられているので、第一章だけでも、おすすめ。

 

第一章では、世界の国々、社会的体制が、どう変わってきたのか、という話。
16世紀のヨーロッパ優越思想から、帝国主義の国々は、世界に植民地を作っていった。貿易が活発になって輸出も輸入も増え、国内産業を守るためには、輸入品に高い関税をかける産業保護主義が起きてくる。国家がスポンサーになって、植民地で安く物を作ったり、植民地の資源を自国に持ち込み、自国を豊かにしていく。そして、外国との貿易を推し進める、外国貿易中心の重商主義となっていく。
しかし、産業革命がおきると、今度は国家の規制が邪魔になる。そして、自由主義的な社会になって、さらにそとに自由貿易を求めて進出していくことになる。
最初は圧倒的な覇権国家だったイギリスは、ドイツやアメリカの重化学工業の発展によって、勢いを落としていく。イギリスは、自由主義の時代から、帝国主義の時代に移っていく。

自由主義から帝国主義への変遷を考察したのがレーニンの『帝国主義マルクスの『資本論を踏まえているものの、独占資本が国家とむすびついているところが帝国主義の特徴

帝国主義は、国家による独占資本主義。いわば、国家独占資本主義
しかし、1991年、ソ連崩壊。
冷戦終結によって、世界の覇権はアメリカに変わる。
かつ、そのころからヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に移動する、グローバル化加速
新自由主義が主導になっていく。

新自由主義とは、政府による社会保障や再配分は極力排し、企業や個人の自由競争を促進すること。イギリスのサッチャー政権、アメリカのレーガン政権、日本の中曽根政権によって推し進められた新自由主義は、巨大な格差を生むとともに、グローバリゼーションも加速した。日本でいえば、まさに、バブル!!のころ。
なんだか、強いものが勝つ!みたいな、、、競争の社会だった。
「24時間戦えますか」だって、このころだ。
そして、さらに新興国の経済が成長するにつれて、アメリカの存在感は低下していく。福祉国家のいきづまり。加えて、2001年同時多発テロ、2008年リーマンショック、、、。
もう、植民地をもとめて外にいくのではない、新・帝国主義の時代になってきた、ということ。植民地ではないけれど、他国をコントロールすることは求める。だから、新・帝国主義
新・帝国主義派、かつての帝国主義とは違うけれど、搾取と収奪によって生き残りを図る、という帝国主義の本質とは変わりがない、、という。
かつ、グローバル化の中での中で、国家機能は強化されるという。それが行き過ぎれば行き過ぎのナショナリズム

 

世界の流れを、こうして大きくつかもうとすると、なんとなく、今起きていることもどのような歴史のストーリーからきているものかがわかる。

 

植民地ではないけれど、コントロールしたい。まさに、今のプーチンウクライナへの侵攻がそうだ。

 

日本はどうか?
日本もまた、新・帝国主義の時代のプレイヤーであり、それを示す一つが武器輸出三原則の緩和による、潜水艦の売り込み、ということ。
日本の潜水艦は、ディーゼル潜水艦の中では世界でもっとも高性能なのだそうだ。
結局、2016年に日本がオーストラリアへ売ろうと思っていた潜水艦の話は、ご破算になってしまうのだが、潜水艦の技術を売る、って、国家機能強化の一つ、ということだろう。
そして、新・帝国主義は、経済の軍事化と結びついていく。。。


第一章では、加えて、資本主義のおさらい。
資本社会の本質は、「労働力の商品化」
労働力の商品化には、二重の自由が必要。移動の自由と、生産手段からの自由
言い方を変えると、土地も生産手段ももっていない、、、という人が労働力となる。

イギリスは、毛織物産業が成長していくなかで、資本主義が発展した。スペインやポルトガルは、新大陸から大量の金銀を奪ってきたのに、資本主義は生まれなかった。なぜか?
色々の原因があるだろうけれど、スペインやポルトガルは、カトリックが多くて、スペインやポルトガルの金持ちは、浪費したうえに最後は教会に寄進してしまったということだそうだ。
イギリスには、カルヴァン派プロテスタンティズムがあり、禁欲的に富を蓄積してそれを再投資することが出来た。

カトリックプロテスタントの違いが、国の発展に大きく影響したということ。

まさに、マックス ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神の世界。佐藤さんは、別の書籍で本書を全面的には賛同しない、といっているけれど。プロテスタントの精神が資本主義を強めたことは確かだけれど、他の要因もたくさんある、というのが佐藤さんの考え。

 

やはり、歴史を学ぶのに、宗教は外せない、、、。

 

続いて、第二章では民族問題について。
中央アジアは、スターリンが勝手に国境をひいた国々だから、一つの国でも民族も言葉もバラバラ、あるいは同じ言葉の民族なのに、国が違う、、ということが発生した。カザフスタンウズベキスタントルクメニスタンキルギス、、、、。正直、それぞれの国がどう違うのか、私はイマイチわかっていない。でも、それが、紛争の火種となるのは想像に難くない。
ウクライナについては、東側は民族意識があまりなくてロシア正教会を軸とした人々にたいして、西側は自分たちはロシア人ではなくウクライナ人であるという民族意識がつよく、宗教もユニエイト教会(東方典礼カトリック教会が多いという説明がされている。
日本では、地域による宗教の違いを気にすることはあまりないけれど、ウクライナの人の中にも、ロシアに対して、様々な思いがあるのはたしかなようだ。

 

第三章では、イスラム国の台頭によって、バチカンの姿勢も変わってきたという話。バチカンは、イスラム国の影響を抑え込むために、活動するようにもなってきている。


そして、最後は、ナショナリズム、宗教、様々な原因に起因するこの紛争の時代を、どう生き抜くのか。

1.啓蒙思想への回帰
2.「見えない世界」へのセンスを磨く


自分の頭で、しっかり考える。見えていることだけでなく、歴史のように既に過去のできごとであっても、物事の内在的論理を理解すること。

 

佐藤さんは、よく「見えない世界」を考えることが大切だということを言っている。そして、日本人は「見えること」を考えるのは得意だけれど、「見えないこと」を考えるのが不得意だと。

 

佐藤さんの本をいくつも読んでいると、「見えないこと」を考えることの極意の一つは、やはりなぜその人々はそう考えるのか、という思想の成り立ちを理解しようとすることなのだと思う。

「内在的論理」という言葉で言われている。

 

普段の生活の中でも、相手がどうしてそう考えるのか、相手に思いをはせることって大事。自分にとっての当たり前は、相手にとっての当たり前とは限らない。見えない違いがあるということが大前提。

 

「思いやる」というのは、相手の「内在的論理」を理解しようと努めるということなんだな、、、とつくづく思う。

 

佐藤さんの本はたくさん読んでいるけれど、これ、やっぱり良書だと思う。極意シリーズでも、結構お薦め。

 

やっぱり、読書は楽しい。

 

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『世界史の極意』 佐藤優