『正しい恨みの晴らし方』 by 中野信子、 澤田匡人

正しい恨みの晴らし方
科学で読み解くネガティブ感情
中野信子
澤田匡人
株式会社ポプラ社
2015年2月2日第一刷発行
2015年3月19日第五刷

 

なんと、おどろおどろしいタイトル。図書館の特集コーナーで、表紙が見えるように飾られていて、「こちらも借りられます」とあった。新書で簡単に読めそうだし、中野信子さんの本だし、借りてみるか、、、と。

著者の中野信子さんは脳科学、医学博士。人に媚びるところがなく、ずけずけと言っているようにも聞こえるけれど、科学的根拠に基づいた話をしているので、私は結構好きだ。
もう一人の澤田さんは、心理学者。ということで、脳科学者と心理学者が、それぞれの視点から、ネガティブ感情について、その感情が起こるメカニズムや対処法について語った本。対談ではなく、章ごとに、中野さんの執筆だったり、澤田さんの執筆だったり。最後の一章だけ、対談。
全245ページの新書版。簡単にさら~~~~っと読める。サイエンスの難しい言葉はあまり出てこないし、かなりカジュアルに書き下ろしている感じ。

 

本の裏の説明には、
ネガティブ感情をコントロールできれば、自分の力をより発揮できる!
どんな人でも感じてしまう「妬み」や「嫉妬」。そんなとき、脳や心にはどんな変化が生じているのか、どう対処すればいいのかを気鋭の脳科学者と心理学者が解き明かします。既読スルー、芸能ゴシップ、忠臣蔵など身近な題材や科学的な実験データを元に、 妬みや嫉妬をコントロールして有効に活用する術を提案する画期的な一冊。”
とある。

とりたてて、これまでになかった理論が取り上げられているわけではないので、画期的、、、、というほどではない気がするけれど、、、まぁ、わかりやすい。

 

目次
はじめに
第1章 恨まずにはいられない 心理学の視点から①
第2章 妬みと恨みの心理学 心理学の視点から②
第3章 妬みを感じる時脳では何が起こっているのか 脳科学の視点から①
第4章 正しさにこだわる人たち 心理学の視点から③
第5章 正義という名の麻薬 脳科学の視点から②
第6章 愛が憎しみに変わるとき 心理学の視点から④
第7章 嫉妬の脳科学 脳科学の視点から③
第8章 ネガティブ感情の意味 脳科学の視点から④
第9章 私たちのネガティブ感情との付き合い方 対談 中野信子 澤田匡人

 

目次をみただけで、おおよそ書かれていることが予測できる感じ。全体のトーンは、妬みや恨みという感情が起こること自体は、心身のメカニズムなのだから、誰にでもおこることで否定すべきではない。でも、それをネガティブなデフレスパイラルに陥らないように自己認識することで、その感情を受容し、前(正しい方向)にすすむためのエネルギーにすればよい、という感じ。と、わたしが、そう受け取っただけかもしれないけれど。

 

心理学では、怒りに対する研究は多くあるが、「恨み」に焦点を絞った研究は多くないという。私にしてみれば、恨みも、怒りの一種なんじゃないかと思っちゃうけど。ただ、澤田さんによれば、恨みというのは、くりかえして「思い出し怒りにとらわれた状態」なのだという。

 

ベッドの脚に足をぶつけて「痛い!!なんでこんなところにベッドが!!」とベッドに八つ当たりしても、ベッドに対するその怒りは普通持続しない。でも、もしかしてそのベッドが、誰かが意図的にそこに場所を動かしていたとすると、その相手を継続的に怒るかもしれない。つまり、だれかに「正しくないことをされた」という被害者意識が恨みの源なのだ、と。リストラされること、交通事故の被害者になること、どれも自分でもコントロールできない事の結果。完全に自責なら恨む相手がいない。うらむ相手がいるからこそ、恨みなのだ、、。そして、時には、自分自身が直接の被害者でなくても、集団として何らかの被害を被ったと考える時、人は恨みをいだくこともある、と。また、その恨みを晴らそうとするとき、自分にとっての加害者でなくても、その加害者がなんらかの困難な状況におちいったすがたを、「ざまぁみろ」と感じる。これが、心理学用語でいうドイツ語の「シャーデンフロイデ」。「メシウマ」とか、「今日も他人の不幸で飯がうまい」といった感情。

 

澤田さんの研究によれば、人が恨みを持ちやすいかどうかというのは、知的能力とは関係ないという。ただし、自信喪失気味の人が更にプライドを傷つけられると、全然関係ない人の不幸を喜ぶ傾向が高まるそうだ。そして、自分の中での恨みを、テレビのワイドショーでバッシングを受けている芸能人をみて、ざまぁみろ、という気持ちで晴らしていく・・・。
まぁ、これも、正しい恨みの晴らし方の一つ、、、だと。

と、第一章がこんな感じ。ここまで読んで、おいおい、、、、そうか????他人の不幸を喜ぶことで、自分の恨みをおさえるのが正しい恨みの晴らし方なのか?!?!と、もうちょっと、前向きな回答を期待していた私としては、ややがっかり・・・。

 

他人の不幸をみて、自分の恨みをはらしているんじゃ、結局、何の解決にもなっていないじゃないか!!でも、澤田さんに言わせれば、どうしたって人は恨みをいだくことがあるのだから、やむなし!!ということみたい。

 

第2章では、妬みや羨みというのは、自分と近い人に対してだからこそ起こる、ということ。本当のセレブを妬んだりはしない。だれが、イチローや錦織君を妬むか。同級生だったり、同期入社、隣のA君、、身近な相手だからこそ妬ましくおもったり、羨んだりするのだという。

うん、それは、わかる気がする。

そして、妬ましく思うことも、止められない。「だから、私も頑張ろう!」というポジティブな感情に転換していけばいいのだと。ライバルがいること、妬ましいと思える相手がいること、それを自分の足元を見つめ直す機会となる感情にすればいいのだ、と。

例えば受験に不合格で、欲しいものが手に入らなかったからといって、全てを失ったわけではない。これから新たに何かを得るきっかけにすればいい、ということ。

うん、それは、そうだね。

 

中野さんの章では、時々、脳の図とかもでてきて、ちょっとサイエンスになっていく。

シャーデンフロイデを引き起こす情報が入ってくると、脳の中で快感をつかさどる線条体と呼ばれる部分の活動が高くなることが知られている。この線条体の反応は、前部帯状回という大脳新皮質の一部(感情をつかさどる)にあり、もともとその活性の高い人ほど、線条体で起きるシャーデンフロイデへの反応も高いのだそうだ。妬み感情が強い人ほど、人の不幸を喜ぶ感情も強い、ということ。まぁ、そうだろうなぁ。

 

中野さんは、「妬み感情は、人間なら誰しもが持つ自然な感情である」と言い切る。そして、そういったネガティブ感情をわざわざ自己開示して他人と共有する必要はないし、特に隠す必要もない、という。大事なのは、「自分を客観的に見るという視点を自分の中に養うこと」。

うん、結局、自分をよく見る、ってことなんだな。

そして、冷静に自分を見る視点を自分の中にもつと、なぜ、妬みが起きたのかを分析する事ができる。。。。

 

先日読んだ、『天才論』のなかで、談慶さんが、先に昇進していく弟弟子に教えを乞う事ができたのも、嫉妬心もありながらも、なぜそうなのかの自己分析ができる人だったからなんだろう。

megureca.hatenablog.com

 

「ほしけりゃ、自分でとりにいく」
まさに、これこそが、悔しい、羨ましい、妬ましい、という感情を自分のプラスの原動力にする力なんだろう。

学ぶことへのモチベーションには、Aさんよりいい仕事ができるようになりたい、という身近なライバルがいるというのはよくあることだ。

 

最後の章だけ、二人の対談。

中野さんが
「優雅な生活が最高の復讐である」
という一節を自分の好きな言葉として紹介している。

なるほどね。
優雅というのは、人がそれぞれ定義するものであり、幸せの定義が人それぞれということと近いかもしれない。

そして、
中野さんの
「生きていくにあたっては、何をするのも自由です。その結果は、自分で引き受ける。そういうルールの中で、より楽しく生きる方法を見出すのが人間の智恵だと思います。」

という言葉で締めくくられている。


恨みや妬みは、起きて当然。
それをいつまでも引きずらない。自分の人生を優雅にする為のエネルギーに転換する。それが大事ってことかな。

 

恨み、妬みを全く抱かない、悟りをを開いたような人でも生まれた時からそうだったのではないだろう。みんな、いろんな悔しさ、妬ましさ、ネガティブ感情も経験して、それをプラスのエネルギーに転換していくことを覚える。

そして、優雅に生きていく。

 

「優雅な生活が最高の復讐である」

って、ちょっと、わかる気がする。

 

そうだ。

しなやかに、生きていこう。