「さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる」
エックハルト・トール著
飯田史彦監 修
あさりみちこ 訳
徳間書店
2002年6月30日 第一刷
(原書: The Power of NOW A Guide to Spiritual Enlightenment 1999)
ダン・ハリスの『10% HAPPIER』で出てきた、さとりの達人が書いたという本。
ダンの著書の中では、 出版された時、オプラ・ウィンフリーを始め、名だたる著名人たちが絶賛し、大ベストセラーになったという。アメリカで、1999年の話だ。日本語翻訳が出版されたのは、2002年。 この間、2001年9月11日、同時多発テロと言う悲劇がアメリカ、世界を襲った。そんなさなかの本。
Amazonの紹介文を引用すると、
”21世紀最高のスピリチュアル・リーダーであるエックハルト・トールの代表作! 世界的ベストセラー「The Power of Now」の日本語版です!
「今、ここ」「マインドフルネス」は、ここから始まった!”
だそうだ。
2002年、私の興味のアンテナは、まったくこの本には立っていなかったようで、まったく記憶にない。人生をシンプルにしたいとも、楽にしたいとも思っていなかったからかもしれない。30代前半、仕事が楽しくて仕方がなかったころだ。シンプルにする必要も、楽にする必要もなかった。
そして、今も、それはあまり変わらないのかもしれない、、、、。シンプルで楽な人生は望んでいない。ぐちゃぐちゃで困難な人生を望んでいるという事ではなく、べつに、今も、山あり谷あり、色々あっても、普通に毎日を楽しんでいる、、、。それなりに。
大ベストセラーというが、ふむ、なるほど、、、、という感じで、感動の一冊!という感じではなかった。。。。
本書よりは、『10% HAPPIER』の方が、親近感を覚えるし、おぉ!なるほど!!、の一冊だった。
読む順番が悪かったかな??
本書の最初に、「この本が生まれたいきさつ」という序章がある。
トールが29歳の時の霊的経験が語られる。その時彼は人生絶望のどん底で、「もう生きていたくない、いっそのこと消えてしまえたらいいのに、、、こんな自分と生きていくなんて、まっぴらごめんだ」という想いがぐるぐると頭の中を回っていた。そうしていると突然妙なことに気が付いた、と。
「自分はひとりなのか、それともふたりなのだろうか」
自分と生きていくのが嫌だとすると、『自分』と『自分と一緒に生きていきたくないもう一人の自分』という、二人の自分?
「きっと、このうちのひとりが、『本当の自分』なんだ」と、
”その時、奇妙な感覚にはっとして、頭の中でぐるぐるとまわっていた考えが、ぴたりとやんだ。そして、竜巻のようなものすごいエネルギーのうずに引き寄せられ、「抵抗してはなりません」という、ささやきが胸に飛び込んできた。”
という話。
なんともスピリチュアルな話で、ふんと鼻で笑ってしまえばそれまでだ。
ここで、本を閉じてしまってもよかったのだけど、やっぱり、「ベストセラー」だったという事実が気になり、、、最後までザーーっと読み通してみた。
ふむふむ。。。
さとりとは何なのかが、トールの言葉で説明された一冊ということだった。
第一章 思考は「ほんとうの自分」ではありません
第二章 「いまに在る」と、人生の苦しみは消える
第三章 「いまに在る」生き方がさとりのカギ
第四章 思考はいつも「いま」から逃げようとしている
第五章 「いまに在る」ってどんなこと?
第六章 うちなるからだ「インナーボディ」
第七章 「目に見えない世界」の入り口
第八章 さとりに目覚めた人間関係をきづこう
第九章 「心の平安」は幸福と不幸をこえたところにある
第十章 「手放す」って、どういいうこと?
と、以上10章からなる。
思考は「本当の自分」ではないと言われても、自分に本当も偽物もないだろう、私は私だ、、、。と思ったのだが、彼が言いたいのは、思考している自分は、自分の一面に過ぎない、という事のようだ。
そして、思考というのは、自分のエゴを達成するための道具のひとつであり、思考をしている間は、創造・ヒラメキはない、と。
彼の言う「思考」と言うのは、「発想する」という思考ではなく、「あれこれと過去や未来のことをぐずぐず考えて、今をみない頭の中の声」という事のようだ。
言葉の定義は難しい。
たしかに、序章で、この本の中にでてくる「思考」「幸福」「意識」は、この本の中での定義として読んでほしいと書いている。「言葉」は、真実をつかむための足掛かりのようなものにすぎないので、言葉にこだわり過ぎずに読んでほしいと。
頭の中で絶えずつぶやかれている思考の声は、エゴの自己証明のための声であり、そのような思考は不要だ、というのが彼の言わんとすること。
エゴは、過去や未来にこだわる。「今ここ」ではない。
真のさとりは、「今ここ」に「私は在る」という「喜び」だそうだ。
本書は、全体を通じて、「問い」と「答え」の対話形式で構成されている。
「問い」は、さとりをしらない人の声として。
「答え」は、さとりにいたったトールの声として。
自分の過去にしばられたり、未来をあれこれ心配して身動きが取れなくなったり、そんな状況の時に読むと、救いの一冊になるのかもしれない。
全体に、スピリチュアル感が満載過ぎて、ちょっと、ひくなぁ、、、という感じの本だけど、普通に実生活でヒントになりそうなことも、なくはない。
「嫌なこと、ネガティブなこと、避けたいことが聞こえてきたら、身体にとどまるような聴き方をせず、透明人間になったつもりで、嫌な音はスルーさせる。」
なるほど。
それは、アンガーマネジメントや、人に振り回されない生き方のヒントになるかもしれない。
透明人間になってスルー。
一方で、誰か大切な人の話を聴くときは、「身体全体で受け止めるように聴く」。
さとりにも、やはり、「聴く力」か。
”第一章 思考は「ほんとうの自分」ではありません”、というのも、いってみれば、マインドセット、ブレインロック、ストール、思い込み、そういったものをなくせ、という事の言いかえなのだろう。
「私には無理」とか「どうせうまくいかない」とか、ネガティブワードをつぶやいているのは、本当の自分ではないよ、という事だと解釈すると、なるほど、と思う。
「さとりをひらく」なんていうから、大仰なのだけれど、「思い込みに振り回されない」というのが、さとりの一つなのだと言われれば、それはそうでしょう、と思う。
そして、「今ここ」を大切にする。
マインドフルネスってそういう事だ。
まぁ、「今ここ」を平穏に暮らせるというのは幸せなことだ。
コロナも落ち着きつつあって、平穏な日常が戻りつつある。
この「今」を大事にしよう。
ちなみに、本書の定義によるエゴのこだわりとは、
所有物・職業・肩書・人からの評価・知識・学歴・ルックス・特殊技能・交友関係・家柄・信念体系・政治・国家・人種・宗教。
これを全部捨てたら、世捨て人になってしまう、、、、。
大事なのは、これらにとらわれすぎず、上手く付き合っていく、という事だと思う。