「風神雷神 Juppiter(ユピテル), Aeolus(アイオロス)」  by 原田マハ

風神雷神 Juppiter(ユピテル), Aeolus(アイオロス)」
原田マハ
PHP
2019年 11月12日 第一刷発行

 

『妄想美術館』を読んでいて、原田マハさんが、俵屋宗達の《風神雷神図屏風からヒントをへて描いた作品が、本作『風神雷神』ということだったので、読んでみた。

megureca.hatenablog.com

感想、めっちゃ面白い!!!
星4.5!(5点満点)
これは、原田さんの作品の中でも、アート愛があふれていて、まさに、原田さんじゃないと書けない作品、という気がした。本当に面白かった。

 

本の紹介には、
”美術(アート)という名のタイムカプセルが、いま、開かれる――。
日本が誇る名画『風神雷神図屏風』を軸に、海を越え、時代を超えて紡がれる奇跡の物語!

20××年秋、京都国立博物館研究員の望月彩のもとに、マカオ博物館の学芸員、レイモンド・ウォンと名乗る男が現れた。彼に導かれ、マカオを訪れた彩が目にしたものは、「風神雷神」が描かれた西洋絵画と、天正遣欧少年使節の一員・原マルティノの署名が残る古文書、そしてその中に記された「俵…屋…宗…達」の四文字だった――。

織田信長への謁見、狩野永徳との出会い、宣教師ヴァリニャーノとの旅路……
天才少年絵師・俵屋宗達が、イタリア・ルネサンスを体験する!?
アートに満ちた壮大な冒険物語!”
と。

 

以下、ネタバレあり。

 

物語のプロローグは、現代、京都国立博物館
江戸時代の謎の絵師、俵屋宗達をこよなく愛する研究員の望月彩が、
”江戸初期の謎の絵師 俵屋宗達風神雷神図屛風』をめぐる解釈”と題した講演をしている。
大好評のうえに終わった講演のあと、参加していた一人の外国人が彩を訪ねてくる。
「あなたにマカオ博物館まできて、見てもらいたいものがある」と。
もしかして、俵屋宗達の作品が発見されたのか?!
彼の話に興味をもち、マカオまで渡航し、そこで見せられたのは、カラヴァッジョの影響を受けたと思われる一枚の絵画。そして、天正遣欧使節、原マルティの日記?と思われる古文書。そこには、俵屋宗達の文字、、、、。

そこから、彩の妄想が。本書のメインストーリー。


原田さんの妄想の世界、なのかもしれないけれど、本当に面白かった。
このストーリーを書こうと思ったきっかけは、妄想美術館にでてきたので興味をもった。
俵屋宗達が生きていた時期と、天正遣欧使節が3年の月日をかけてヨーロッパにわたりミラノを訪問した時期と、カラヴァッジョがミラノの工房で弟子として働いていた時期と、、、それが重なった。原田さんは、この三人を友人としてめぐり合わせる物語を生み出した。
たぶん、そんな史実はないだろうけれど、そんなことを妄想したら、楽しくてしょうがない!という物語だ。
天正遣欧使節が、ミラノを訪れたのは史実だ。カラヴァッジョがミラノにいたのも史実だ。謎に包まれているのは俵屋宗達。でも、一緒にいたことにしちゃえ!というのがこの物語。

 

日本のキリシタンの代表として、四人の少年が天正遣欧使節としてローマ、ヴァチカンを目指す。そこに同行したのが、織田信長から教皇への贈り物として狩野永徳とともに『洛中洛外図屏風』を描いた宗達宗達は、絵師として、信長から「ローマの街の様子を写し取ってこい」という秘密の特命をうけて、マルティノらとともにローマを目指す。
まだ、10代の少年5人と、日本へやってきた宣教師、アレッサンドロ・ヴァリニャーノらの旅。
フランシスコ・ザビエルイエズス会の血をひくカトリックの一団。ひとり、宗達だけがキリシタンではない。でも、寄港する街街で、宗達がさらっと描く素描で、すぐに土地の人と打ち解ける、明るく、いつも前向きな宗達
宗達の絵を愛するまっすぐな心がまぶしい。そして、マルティノらとの友情物語。
思わず、読みながら涙がこぼれる別れの場面、遠い日本へ残してきた父への想い、母への想い、恩師との別れ、、、。
電車の中にも関わらず、思わず、ポロポロ泣いてしまった。
季節がら、、、、鼻をかんでいると、コロナと間違えられる、、、いかんいかん、、、。

 

舟は、インド、喜望峰セント・ヘレナ島を経由して、3年をかけてリスボンへ。そしてそこから陸路、イタリア、バチカンをめざす。
フィレンツェでは、レオナルド・ダ・ヴィンチ聖母の絵にふれ、ローマではシスティーナ礼拝堂ミケランジェロ天地創造》と《最後の審判
どの絵も、キリシタンのマルティノにとっては、聖書の物語が今そこにそのままある程の感動。宗達にとっても、西洋絵画巨匠の作品にふれ、言葉を無くすほどの深い感動。
宗達は、絵画の工房を訪ねてみたいとかねてから思っていたのだが、忙しい道中にそれはかなわず。日本への帰国数日前に立ち寄ったミラノ。工房がむりならせめて、もっと絵をみたい、、と懇願する宗達に、宣教師は特別に教会を紹介してくれる。そして、とうとうサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》に出あう。
マルティノと二人で訪れた教会で、二人は《最後の晩餐》をまえに、言葉にならないほどの感動を覚える。そこへ俺のなわばりに何しに来た、と言わんばかりの少年。少年はスケッチブックを小脇に抱えている。工房で働いていたのだが、師匠に怒られて、いまは謹慎の身なのだと。少年は、ミケランジェロ・メリージと名乗る。宗達は、巨匠ミケランジェロと紛らわしいな、ということで、少年に、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオとなずける。そう、カラヴァッジョだ。
宗達と少年は、互いに立派な絵師になったら、きっと絵を送り合おうと約束して別れる。でも、日本へ帰ったら最後、それは出来ない約束だ。
宿にもどって、出来ない約束をしてしまったことを悔やむ宗達に、さっきの少年からの絵が届けられる。それは、ユピテルとアイオロス。。。宗達宗達で、帰国直前に一枚の絵を書き上げ、少年が謹慎と言われたという工房を訪れる。そして、少年が宗達におくった素晴らしい絵を師匠にみせ、素晴らしき絵師になるであろう少年、カラヴァッジョをぜひこの工房で続けて描かせてやってください、、と。
その絵を抱えて、宗達とマルティノらは日本へ向かう。
こうして、マルティノと宗達とカラヴァッジョの友情物語が。。。。

彩がマカオで見たのは、カラヴァッジョの流れを受けた絵師ではなく。若き日のカラヴァッジョが描いた絵に他ならなかった、、、。
と、いうお話。

空想の物語だけど、面白かった。
そんなことあったらいいなぁ、、、と思ってしまう。

 

人類の長い歴史の中、同年代に生きている、という運命。宗達は、どう頑張ってもレオナルド・ダ・ヴィンチに出あう事はできなかった。ずっと前に死んじゃっているんだから。でも。同時代にいきていたら、、、ひょっとすると、世界のどこかで出あっていたかもしれない、、。

そんな、時間と空間を越えた夢物語。
楽しかった。 

 

あぁ、、、ヨーローッパの美術館に行きたい!!!!

システィーナ礼拝堂に行きたい!

コロナが落ち着いたら、まずはヨーローッパかな。

 

イタリアは、20代のころに友人と駆け足観光でいっただけ。ミラノに行ったとき、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会へいったのだが、《最後の晩餐》は修復中だった。見ることはできたけど、修復のための足場がかけられていて、全体を障害物なしに見ることが出来ず、いつかまたこよう、、、と思った。ローマではほとんど時間が取れず、バチカンには立ち寄ったものの、システィーナ礼拝堂に行く時間がなく、、、。

なんて、もったいないことしたのかな、、、。パック旅行だったから仕方がないのだけど。ピサの斜塔より、システィーナ礼拝堂に行きたかったなぁ、、、。フィレンツェのウフィッツ美術館はゆっくり見れた。その時、私のラファエロ好きが確定した気がする。

 

やっぱり、美術館巡りは、ゆっっくりできる一人旅がいい。。。

もう一度見直すと、また、違う感動があるのだろうな、と思う。

本も、絵画も、読むとき見る時で、感想は違うもの。

新鮮な気持ちで向き合えるというのは、幸せだ。

 

史実かどうかは関係なく、妄想してみるって楽しい。

読書は楽しい。

絵画も楽しい。

 

f:id:Megureca:20220122143649j:plain

風神雷神 Juppiter, Aeolus』 原田マハ