『限界費用ゼロ社会  モノのインターネットの共有型経済の台頭』(その1) by  ジェレミー・リフキン

限界費用ゼロ社会
モノのインターネットの共有型経済の台頭
ジェレミー・リフキン
柴田裕之 訳
NHK出版
2015年(平成27年)10月30日
原題: THE ZERO MARGINAL COST SOCIETY 
 THE INTERNET OF THINGS AND THE RISE OF THE SHARING ECONOMY


テクノロジーは使いこなさないと、世の中から取り残されるよ、、、といった話の中で紹介されていた本。

参考文献まであわせると531ページの単行本。かなり中身の濃い一冊。図書館で借りて読んでみた。

 

感想。
うむ、さもありなん。
これは、もしかすると、斎藤幸平さんが『人新世の「資本論」』を書くのに参考にしたのではないだろうか、ということがすぐに頭に浮かんだ。あるいは、内田樹さんが。。
要するに、「コモン」を取り戻そう、というのに近い。
というか、社会は、コモンになっていくのだ、という話。
とても示唆に富む。
さっと読むのはもったいない。
久しぶりに、じっくり読みした一冊。

決して、書いてあること全てに賛同する、というのではない。でも、世界はその方向へ変わってきているというのは妥当だと思う。

 

著者のジェレミー・リフキン氏は、文明評論家。経済動向財団代表。過去3代の欧州委員会委員長、メルケル元独首相をはじめ、世界各国の首脳・政府高官のアドバイザーを務める。また、合同会社TIRコンサルティング・グループ代表として、ヨーロッパとアメリカで協働型コモンズおよびIoTインフラ造りに寄与する。1995年よりペンシルヴェニア大学ウォートンスクールの経営幹部教育プログラムの上級講師。

ウィキペディアでは、1945年生まれとでてくるけれど、正式なプロフィールらしきものには生まれは出てこない。アメリカの経済学者ということになっているけれど、アメリカ人なのだろうか?よくわからない。

 

表紙の裏には、
「いま経済パラダイムの大転換が進行しつつある。その原動力になっているのが IoT(モノのインターネット)だ。
IoTは、コミュニケーション、エネルギー、輸送の〈インテリジェント・インフラ〉を形成し、効率性や生産性を極限まで高める。
それにより、モノやサービスを一つ追加で生み出すコスト〈限界費用〉は限りなくゼロに近づき、将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して、資本主義は衰退を免れないという。
代わりに台頭してくるのが、共有型経済〈シェアリング・エコノミー〉だ。人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する新しい社会が21世紀に実現する。
世界的な文明評論家が、3 D プリンターや大規模オンライン講座の MOOC などの事例をもとにこの大変革のメカニズムを説き、確かな未来展望を描く。
21世紀の経済と社会の潮流がわかる大注目の書」 
と。

 

内容は、かなりかっちりとした文章になっていて、文明評論家ってこういう人のことをいうのか、と感じた。経済、技術、社会を広く分析して自論を展開している。必ずしもすべてに共感するかんじではないのだけれど、たしかに、言われると将来はそうなるかもね、という気がする。資本主義から、協働型社会へ。たしかに、移りつつある。かといって、長年一般企業で働いてきた私としては、やはり限界コストゼロ、利益ゼロでコモンでシェア、という世界がすぐに来るとも思えない。彼の主な主張は、将来、技術がすすんで限界コストがゼロになると、モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して、資本主義は衰退を免れない、ということ。そして、生産されたモノやサービスはシェアの世界になるというのだ。

う~~む。今ある資本主義が、このまま続くとは思わないけれど、どこか、腹落ちしない。
でも、こういう未来予想があるのも分かる。ま、政治と経済はだれにも未来はわからないのだから、予想は予想。とはいえ、変化の波を予測しておくことは必要だろう。
そういう意味で、結構、勉強になる一冊。

 

これからさき、個人事業主としてどうやって稼ごうかと考えていた矢先に、このような本を読むと、お金を稼ぐことを考えてはムダなような気がしてくる。たしかに、自分が社会に貢献できることを提供するのだけれど、それは、お金を稼ぐという還元のされ方ではなく、社会に認知されるという還元のされかたでよいのだ、という気がしなくもない。。。

自分のできることは、無料で提供するべきなのだろうか??
というか、いずれ、無料になってしまうのだろうか。
玉石混合とはいえ、インターネットで無料で学ぶこともできるようになっている今、講座ビジネスのようなものは、もう先がないのだろうか。モノではなく、サービスを売るようなビジネスを想定していたのだけれど、それはそれで、お金にならなくてもいいのか?いい気もしてくる。それは、はたして働いているといえるのだろうか?
べつに、働く=稼ぐ、と考えなくてよいということなのだろうか??
う~~む。

 

ちょっと、色々とこれからの仕事の仕方を考えさせられる一冊だった。
重要なのは、自分が社会に貢献できることを提供することで、社会関係資本をつくる、ということが本書の一つのメッセージのような気がする。
もりもりの内容なので、なかなか一つの覚書にはしきれないので、今回は、その1とその2にわけて覚え書き。


目次
第1章 市場資本主義から協働型コモンズへの一大パラダイムシフト

第Ⅰ部 資本主義の語られざる歴史
第2章 ヨーロッパにおける囲い込みと市場経済の誕生
第3章 資本主義と垂直統合の蜜月
第4章 資本主義のレンズを通して眺めた人間の本性

第Ⅱ部 限界費用がほぼゼロの社会
第5章 極限生産性とモノのインターネットと無料のエネルギー
第6章 3 D プリンティング
第7章  MOOC と限界費用ゼロ教育
第8章 最後の労働者
第9章 生産消費者(プロシューマー)の台頭とスマート経済の構築

第Ⅲ部 共同型コモンズの台頭
第10章 コモンズの悲劇
第11章 協働主義者は闘いに備える
第12章  インテリジェント・ インフラの規定と支配をめぐる争い

第Ⅳ部 社会関係資本と共有型経済
第13章 所有からアクセスへの転換
第14章  社会関係資本クラウドファンディング民主化する通貨、人間味ある起業家精神、労働の再考

第Ⅴ部 潤沢さの経済
第15章 持続可能な「豊穣の角」
第16章 生物圏のライフスタイル
特別章 岐路に立つ日本 

 

第1章は、プロローグ、という感じ。すでに、市場資本主義から、協働型(collaborative)コモンズ、共有型経済への変化は始まっている、というパラダイムシフトの話。
成熟した資本主義が、いずれ終焉を迎えるだろうという20世紀前半のオスカー・ランゲの言葉が引用されている。
「資本主義体制は、旧来の投資対象を保護するために経済の発展を止める試みと、そうした試みが失敗した時に起こる途方もないパターンの繰り返しによって揺らぎ、安定を失う」

ゾンビ企業にお金をかけて救おうとするような途方もないパターンを予測した言葉とも受け取れる。

大幅な生産性向上をめざして、企業は様々なテクノロジーを投入する。ロボット、自動化が進み、製造原価は大幅に下がる。人間による労働力は不要になる。賃金は下がる。でも商品価格も落ちていく。

あれ?物価がさがるって、消費者にとっていいことなんじゃないの???
と、思う。
でも、売っている方にすれば、利益が下がる。
で、投資した資本を守るために、さらなるテクノロジーを拒み始める。
資本家は、利益を求め、所有を求め、生産性向上の行きつく先で、さらなるテクノロジーを拒み始める。変化を拒む。
そして、ゾンビ企業が生まれ始める・・・。
拒むのはテクノロジーだけでなく、体制もそうだ。
垂直統合型、トップからボトムへの指揮命令。
いまや、インターネットであらゆることが水平分散型が可能になっているというのに。

 

そうか、私が会社に対して違和感を持ち始めた一つは、いつまでも垂直統合型で変化のスピードが遅くなっている、にもかかわらず体制を変えようとしない、、、そういうところにあったのかもしれない、と気が付いた。


「ミレニアル世代」(1981~2000年生まれ)の優秀な人たちは自らを「社会的起業家」と呼ぶ。起業家であるとともに、社会的であるということ。高度成長期の儲け第一主義とは一線をかくすといっていいだろう。
それを可能にしているのは、様々なテクノロジーの驚異的発展なのだという。第三の波(アルビン・トフラー書籍)=情報化社会だ。それは、もう、否定のしようのない現実になっている。テクノロジーが情報化社会をより高度化させ、これまで有償であったものがどんどん無料で提供されるようになっていく。大学ですらMOOCがある。書籍なら紙から電子書籍You tubeだって中には大学が発信しているもの、教授や講師が個人的に発信している質の良いものも沢山ある。体調が悪くなって病院を探す前に、ネットで同じ症状の悩みについて調べるかもしれない。旅をするにも旅行会社に相談するより、ネットで検索。

もう、20世紀型のサービスではお金は稼げない。
すでに、そういう時代になっている。

シェア可能なものは、どんどんシェアされていく。
メルカリだって、シェアの一つだ。

そして、これら便利になった様々なサービスは、すべてインターネットがあり、インターネットのためには電力が必須。

重要な3つのインフラ、コミュニケーション(インターネット)、エネルギー(電力)、ロジスティック(ラスト1マイルを含む輸送)
これらが、より共有型になっていくことで、社会は市場資本主義からコモンズへと変化していく、というのが、本書のメッセージ。

 

たしかに、電気がなければインターネットも使えない。デリバリーがなければなにも調達できない。その通りだ。

 

 

と、長くなるので今日はここまで。

続きはまた明日。

第1部、資本主義の歴史の見直しから、覚書。

 

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限界費用ゼロ社会』