センス・オブ・ワンダー
The Sense of Wonder
レイチェル・カーソン
上遠恵子 訳
森本二太郎 写真
新潮社
1996.7.25
2021.4.10 67刷
図書館で、ふと目に留まった本。
レイチェル・カーソン、『沈黙の春』の著者の遺作。
最初のページに、
「レイチェル・カーソンは、この『センス・オブ・ワンダー』をさらにふくらませたいと考えていた。しかし、それを成し遂げる前に、彼女の生命の灯は燃え尽きてしまった。
生前、彼女がねがっていたように、
この本をロジャーにおくる」
とある。
訳者あとがきから、引用すると、
「レイチェル・カーソンは、アメリカのベストセラー作家であり海洋学者でもあった。1907年、アメリカのペンシルベニア州スプリングデールに生まれたレイチェルは、幼いころから作家になることを夢に描いていた。大学では生物学を専攻し、ジョンズ・ホプキンス大学で修士号まで得たレイチェルは、そのまま研究生活を続けたかった。しかし、父の死によって、母と姉の遺児である二人の姪との生活を支える責任はレイチェルの方にかかってきた。内務省の魚類・野生生物局の生物専門官になった彼女に与えられた仕事は、海洋資源などを解説する広報誌の執筆と編集だった。いつの間にか彼女の中では科学と文学は合流し、公務員生活をつづけながら再び作家への道をたどるようになっていた。」
そういうことだったらしい。
そして、
「レイチェル・カーソンは、『沈黙の春』を書き終えた時、自分に残された時間がそれほど長くないことを知っていた。そして最後の仕事として本書『センス・オブ・ワンダー』に手を加え始めた。この作品は、1956年、”ウーマンズ・ホーム・コンパニオン”という雑誌に、『あなたの子供に驚異の目をみはらせよう』と題して掲載された。彼女はそれをふくらませて単行本としての出版をかんがえていたのである。
しかし、時は彼女をまってくれなかった。彼女は1964年4月14日に56歳の生涯をとじた。」
彼女の最後のメッセージが本書だった。
幼いロジャーをつれて、自然を満喫するすがたが描かれている。
最初に紹介した文章は、彼女が亡くなった翌年に、原稿をととのえ写真を加えて一冊の本として出版した友人たち、そして編集者の言葉だそうだ。
ロジャーは、レイチェルの姪の息子。赤ちゃんの時からレイチェルの所に遊びに来ていて、一緒に海辺や森の中を探検し、星空や夜の海を眺めた経験をもとにかかれたのが、本作品。
写真も美しい。
詩のような、手紙のようなやさしい文章と美しい自然の写真。
なんだか、こころが癒される一冊だった。
レイチェルの言葉をいくつか、覚書。
”はるか遠くの水平線が、宇宙をふちどっています。私たちは、寝転んで、なん百万という星が暗い夜空にきらめいているのを見上げていました。”
”そこに住む人々は、頭上の美しさを気にもとめません。見ようと思えばほとんど毎晩見ることができるため、おそらくは一度も見ることがないのです。”
”自然にふれるという終わりのないよろこびは、けっして科学者だけのものではありません。大地と海と空、そしてそこに住む驚きに満ちた生命の輝きのもとに身をおくすべての人が手に入れられるものなのです。”
自然を愛そう、自然の中で生きよう、と、そんなメッセージ。
やさしいきもちになれる一冊だった。
『センス・オブ・ワンダー』は、『センス・オブ・ワンダー~レイチェル・カーソンの贈りもの』として長編記録映画が制作されたそうだ。
知らなかった。
観てみたいな、と思った。
全60ページ。
写真も多いので、あっというまに読めてしまう絵本のような一冊。
自然は、偉大だ。
たとえ都会の中でも、ちいさな緑に癒されるのが人間。
桜もこれからはどんどん緑になるだろう。
あちこち、新芽が出る季節。
コロナでも、桜はちゃんと咲く。
ウクライナでも、温かくなれば花が咲くのだろう。
破壊されつくされた街も、きっと緑が返ってくるはず。
はやく、平穏な生活が戻りますように。
人々の暮らしに、花が戻りますように。
笑顔が戻りますように。
そんなことを思う。