「沈黙の春 Silent Spring」 by レイチェル・カーソン

沈黙の春 Silent Spring
レイチェル・カーソン
青樹簗一 訳
昭和49年2月20日 (1973年)発行
平成27年6月5日 (2015年)77刷
 
読もうと思って買って、ずっと積ん読になっていた本。

先日読んだ、松岡正剛さんと佐藤優さんの「読む力」に出てきたので、読んでみた。

 

圧倒的なファクトをもって、警笛を鳴らす。

読み応えのある一冊だった。

ほんの半世紀前の話だと思うと、ぞっとする。


著者のレイチェル・カーソンは、1907年米国ペンシルベニア州生まれ。ジョンホプキンス大学大学院、動物学を専攻。アメリカの漁業局に勤めていた経験もあり、海洋生物に関するエッセイなども書かれている。

 

ちなみに、コロナのニュースでもすっかり有名になった、ジョンホプキンス大学は、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアに本部を置く私立大学。大学のHPによると、
ボルチモアに4つのキャンパス(うち1つはワシントン, D.C.内)を有する。1876年にアメリカで最初の研究大学として設立され、特に、公衆衛生、看護、教育、バイオ医工学などの分野に強みがある。


そんな大学に通ったカーソン女史が書いた、自然を破壊し人体を蝕む化学薬品の乱用を警告する一冊。原著の初刊は、1962年。「情報の歴史」(編集工学研究所)の年表にも「情報技術と公害」という項目に記載されている。今なお、衝撃的な一冊。


「読む力」では、通俗本の一冊として紹介されていたのだが、たしかに、分かりやすく、化学薬品が実際に引き起こした悲劇と、なぜそうなるのかが書かれている。はたして、「沈黙の春」が地球の歴史を変えたのかはわからないけれど、最初に出された日本語訳本は、「生と死の妙薬」という衝撃的なタイトルだったという。インパクトを与えたのは間違いない。
日本でも、農薬禍や公害が話題になるようになったころ。1961年、四日市ぜんそく、1962年、サリドマイド薬禍、という時代。
 
人類が、農業を営むようになり、土地をもとめて地球上を移動した。そして、人口が増え、大規模な単一作物農場が増えた。アメリカでは、コーン畑、小麦畑など、、あたり一面同じ作物。そこにはその作物を好む虫が集まる。農家にとっては害虫だ。


害虫を駆除するのに、手っ取り早くコストのかからない人工化合物、農薬としての殺虫剤が使われ始める。殺虫剤は、その農園の害虫を駆除するだけでおさまらなかった。土壌にしみ込んだ農薬は、その土地に蓄積するだけでなく、地下水に混ざり、水と一緒に運ばれていく。農薬を体内に取り込んだ虫が死ぬ。虫を食べた魚が死ぬ。虫や魚を食べた鳥が死ぬ。動物が死ぬ。

死の食物連鎖。。。


湖水のカイツブリは、見られなくなってしまった。
花の周りを飛び回り、蜜を集める蜂も、いなくなってしまった。
コマツグミのさえずりも、聞けなくなってしまった。

実際に、アメリカの各地で起こった事実である。
 
最初、害虫駆除に威力を発揮した薬品は、すぐに耐性をもった虫の増加で効果を失っていく。より、強い農薬へ。。。
悪循環。

感染症対策の抗生物質が、抗生物質耐性菌を生み出すのと同じだ。

生き物には、生き残るために耐性変異をおこす、という力がある。

変異を起こして耐性をつけたものしか生き残れないのだから、耐性菌がドミナントになっていく。
 院内感染の元凶として有名な、「MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)」もその一つだ。

 

今では、多くの先進国では、DDTのような塩素炭素系、人体にも有害な農薬の製造も使用も禁止されている。ただ、マラリアに苦しむ国々では、今でも使用されているのが実態だ。
 
化学薬品は、物によっては放射能と同様、あるいはそれ以上に染色体に突然変異を引き起こす。突然変異の部位や内容によっては、遺伝的に引き継がれることもあり得る。そして、本書の中で衝撃的なのは、
「25年前まで、子供が癌にかかることは珍しかった。いまではアメリカの子供の死因の一位が癌である」という記述。
 
遺伝的に癌になりやすくなってしまったのか、後天的に癌に罹患したのかはわからない。でも、癌というのは、細胞分裂が異常になった細胞であり、細胞分裂をつかさどるのは、たくさんの酵素群。化学物質はその酵素に直接阻害作用をもたらすものもある。


 
害虫対策は必要だろう。
でも、害虫というのは、人間が勝手にそう呼んでいるのであって、生物学的な分類はない。その害虫を餌として生きている生き物だっている。
郊外の緑豊かな地域の家にいくと、蜘蛛の巣だらけのことがある。
蜘蛛が蚊などを食べてくれるから、あえて駆除しないのだという。

この場合、蜘蛛は益虫だ。

 

海外から輸入された害虫に、海外から輸入した益虫で退治する、という方法も取られることがあるという。

 

ヒアリ」の話がでてきた。かまれると火傷のように痛いので、「火蟻」なのだそうだ。日本でも、数年前にニュースになったことがある。どこそこの港で「ヒアリ」が確認された、と。

でも、実際にはヒアリでの死亡事故というのはほとんどないらしい。かまれると痛いから、気をつけましょう、という事だそうだ。蜂に刺されないように気をつけましょう、と同じ。

そのヒアリの退治のために、空から農薬をまくことは、そこら中に薬品をまくことになるだけでなく、非効率、非経済的でもある。それでも、そのような手段がとられることがあるという。

一掃したい、という人間の勝手な行い。

 

虫も、ウィルスも、国境を超える今の時代、局地的な対策が、ぐるっとまわって他の地域まで影響を及ぼすといのは、おおいにあり得る。

自分の生業さえよければ、という薬品の大量使用は許されないだろう。

 

ワインづくりも、ビオワインが増えているのは、化学薬品の使用を最小限にしたいということと、葡萄の健康を考えたら、そこに行きついた感じがある。

より良いモノづくりと、環境負荷を減らすことの両立は、できないことではない。


人間は地球という場所を借りて住んでいるに過ぎない。

植物も、そこに住む生き物も、人間が好き勝手に管理していいものなのか?
でも、農業が無ければ、人は満足に食べ物を得ることは出来ないだろう。
 
地球環境保全、というけれど、そもそも、地球を食い物にしてきてしまったのがホモサピエンスなのである。
人口減少が、一番地球にやさしい環境問題解決手段?
と、思うと、怖いけど。 

 

害虫も、コロナも、どうやって共存していくのか、

その答えは、テクノロジーではないのかもしれない。

ワクチンや治療薬が有効なのは確かだけれど、COVID-19の変異型の出現からもわかるように、生物は常に生存のために変異を繰り返す。(ウィルスは生物ではないが)

DNAを残そうとするものは、そのために変異を繰り返し、より強いものが残っていく。

 

集団免疫も、ある意味、強いものが残っていく、という事だ。

弱いものを守るために、テクノロジーを活用する。

ワクチンはその一つだろう。

テクノロジーは、あくあまでも、ある条件において活用され、人間に有効に働くものであり、テクノロジーだけで問題が解決できるわけではない。

あくまでも、対応策だ。

ワクチンで、ウィルスを一掃できるわけではない。

治療より、未病対策。

やはり、自分自身の抵抗力を高める、というのが大事な気がする。

 

 

利己的な目的のために、地球を汚さない。

加えて、自分自身の免疫力を高めること。

それが大事。かな。

 

やはり、行きつくのは、

よく寝る、よく食べる、よく動く!