アンラーン
Unlearn
人生100年時代の新しい学び
柳川範之
為末大
日経 BP マーケティング
2022年1月24日 第1版第1刷発行
新聞の広告で見かけたのだったろうか。なんだか理由は忘れてしまったが、アンラーンという言葉自体はここ数年聞くようになり、ちょっと興味を持っていたので、図書館で予約してみた。今年の1月発行だから、数ヶ月は順番待ちしたように思う。
表紙の裏には
”アンラーンとは、
過去に学んだこと、経験したことを、
一度柔らかくほぐし直し、
そこから新たに
発展させていく技法です。
考え方・キャリア・人生を
今より少しやわらかくして、
「自分の伸びしろ」を
増やしましょう”
マインドリセットのすすめ、みたいな感じ?と思って、読んでみた。
世間でいうといわれる「アンラーン:Unlearn」とは、まさに、Un+Learn。
「学習棄却」や「学びほぐし」などと訳されることが多い。ラーン(Learn)は「学び」として新しい知識・思考・習慣などを得るなどインプットのこと。一方で、アンラーンは既に学んだ知識・思考・習慣などを見つめなおす(必要によっては手放す)ことをいう。
つまり、学び続けてきたものを一旦手放して、新しくはじめてみる、って感じかな。
本書で薦めているのは、学び続けてきたものを捨てるのではなく、あくまでもそれはそれ。でも、過去のやり方にこだわり続けるのではなく、一度手放してみることで、新しいやり方を取り入れていこう、ということ。
基本、私の好きな考えだ。
変化を恐れない。
過去にこだわらない。
「絶対」なんてものはない。
「成功体験」は、過去のもの。
過去にこだわっていては、新しいものは作り出せない。
それは、モノづくりということだけでなく、新しい経験や新しい感動も。
本書は、柳川さんと為末さんの階段のような形ですすむ。日経BPらしく?文字数がすくなく、さー-っと読める。
著者の一人、柳川さんは、東京大学大学院経済学研究科経済学部教授。中学卒業後、父親の海外転勤に伴いブラジルへ。ブラジルでは高校に行かずに、独学生活を送る。大検を受け慶應義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。大学時代はシンガポールで通信教育を受けながら独学生活を続ける。大学を卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。
もう一人は、為末大さん。為末さんは1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400 M ハードルの日本記録保持者(2021年12月現在)。現在は執筆活動・会社経営を行う。
感想。
さ~~っと読めて、気持ちが軽やかになる感じ。私はすでに、脱サラして第二の人生に向けて新たな道を歩み始めているので、あ、私がやってきたこともアンラーンのひとつなんだ、という気がした。
本書をよんだから、こうしよう!!と思ったというより、そっか、あれでよかったんだ、と思える感じが、読んでいてふむふむ、、とうなずけた。
それなりの道で長く何かをしてきた後、新しいことに挑戦したとき、うまくいかないことの原因は、能力の問題ではなく、前の世界の学習を引きずりすぎていることが原因なことがあるのだという。だから、アンラーン。過去の学びを一旦横に置いておく。そういう話。
Contents
Chapter 1 学びの質を高める方法 「アンラーン」とは何か?
Chapter 2 実践 アンラーン 自分を「新しく学べる状態」に整える方法
Chapter 3 アンラーンを阻む、7つの壁と、乗り越え方
Chapter 4 「アンラーン」を人生のキャリアの武器にする方法
「アンラーン」とは学ぶのをやめることではない。完成されたスキルや知識をあえて未完の状態(不完全段階)にして、可能性を広げること。
端的に言うと、
「思考のクセを捨てろ」
と。
つまり、マインドセット。
コロナ禍は、仕事のやり方などを「強制アンラーン」させられた。「できない」ではすまされないので、さまざまなやれる方法をトライしてみたはずだ。「これまでの当たり前」が強制的に奪われたのがコロナ禍だった。
そういった、外的要因によるものではなく、自ら新しい世界にチャレンジするときにも、同様にアンラーンが必要になるのだ、という話。
面白いな、と思ったことを覚書。
アンラーンの必要度がわかる6つのチェックリスト。(生活編)
1 何か決まった口癖がある(特に疲れたなどネガティブなもの)
2 最近ワクワクすることが減った
3 周囲の人との会話が、毎日同じような話題ばかりだ
4 仕事とは別の分野の「学び」をしていない
5 どんなことにも「そんなこと当たり前」と考えがち。(いちいち驚かない)
6 すごい成果を出した人は、自分とは別世界の人だと思う
だそうだ。
私は、1~5はNOだけれど、6はYESかなぁ。。。
いくつYESがあると問題か、ということではなく、これらを見て、「アンラーン」が自分にも必要かもしれない、と思ってもらうためのチェックリスト。
Chapter 2では、会社でのスキルは、会社のものでしかない、という話が出てくる。稲盛さんの『誰にも負けない努力』を読んだときに思ったことと重なる。
ちきりんの『マーケット感覚を身につけよう』とも近い。
社内ではなく、市場で評価される人間になれ、って話。
会社の中でのスキルは、自分の個人的スキルとは分けて考えないといけない。
社内ルールやしきたり・慣習といったもの、そしてそこで求められるカルチャー対応スキルは、取り巻く環境が変われば変化していかざるを得ない。
新しい環境に入ったとき、例えば転職したときにも重要なポイントがある。新しい環境に早くなじんで染まりたいと思ってしまいがちだが、違和感を感じたらそれを大切にすることも大事、だと。
違和感を感じたら、その文化に自分を合わせて変えるべきかどうか、考えてみることも大事だと。新しい環境に入ったときこそ、環境対応で「朱に交われば赤くなる」べきなのか、自分で自分に問うてみることが大事、だと。そして、違和感を感じ続けるのであれば、それにどう対応するのか、考える。
「学びのチャンス」「アンラーンのヒント」を逃がさないために、という話の中で、おっと思った一文があった。
”過去の経験が豊富な人ほど、説明の途中で「分かった!」と早飲み込みしてしまったり、「要はあれと同じようなものか」と決めつけてしまったりします。話を聞いているつもりでも、無意識にのうちに、勝手に「これは大事」「これはいらない」と自己判断で整理してしまうのです。”
と。
あぁ、、、思い当たる節がある。
前に何かのセミナーで、人の話を聞きながら、「要は○○でしょ」というのは、NGだ、という事を教わったことがある。かってに人の話を「要は・・・」とまとめるな、と。「聴く力」のセミナーだったかな?でも、そのときそこにいた全員が、「要は・・・」を口癖のようにいっていた・・・・。
ちょっと、忘れていた言葉だったので、思い出せてよかった。
勝手に人の話を要約しない。。。
これって、、、、結構大事。。。
実は、通訳の勉強をしているときにも先生に指摘される。
通訳は、相手の言ったことをその表現のまま、別の言語にするのが仕事。かってに言っていることをまとめたり、自分の解釈で表現するな、、、と言われる。
まぁ、、、理解していないと、通訳なんてできないのだけれど、、、。
できるだけ相手の言葉を忠実に、それが誠意ある通訳者というもの。
と、話が飛んだ。
そしてChapter3のアンラーンを阻む壁として紹介されていたものの一つが、
「だって、これが好きなんだもん」という思い込みは、危険。
「好き」なのか、「慣れているから心地いい」のかは、線引きをしっかりしないといけないという。うん、たしかに。
「慣れていること」から、一旦離れてみる。これは、自分の本来の気持ちに気づくためにもとても重要なことです、と言っている。
たしかにね。
最後のあとがきにかえて、で出てくる柳川さんの言葉がなかなかいい。
”僕は、学びには「フロー」と「ストック」の二種類があると考えているんです。ざっくり分けると、フローは日々流れていく情報やニュースなど。ストックは、蓄積された知識や経験。これらは、互いに補完し合っている。”
と。
同感。だから、どっちも大事。
「学び」というのは、経年劣化していくから、常に継続的に学び続けないといけないとも言っている。
わかるなぁ。。。
そして、「読書」には実は大きなアンラーン効果がある、とも。
なるほど。
わかるなぁ。
最後に、小さなアンラーンを習慣化するための8つのヒント。
1 日頃からこれは今の会社環境じゃなくても通用するだろうかと自問自答しておく
2 今の仕事に就こうと思った理由を改めて自分に問う。その理由に対して情熱を傾ける
3 中学生をはじめとする専門外・業界外の人に、仕事や熱中していることを説明する。その伝わらなさから、自分のクセを発見する。
4 多様な年齢・仕事・国籍・環境の人たちの中に身を置いて、自分にとっての当たり前と他人にとっての当たり前の違いに気づく。
5 周囲の身近な人に、あなたについて尋ねてみる。自己認識と周囲からの評価との違いを受け入れる。
6 あえて情報量をセーブして動作や仕事を言語化することで、本質にフォーカスする
7 本業とはなるべく遠い副業をして、本業だけに通用する当たり前に気づく
8 「いかになじむか」ではなく、「いかに違和感を忘れないか」を大事にする
人によって、人生のステージのよって、アンラーンの重要度は異なると思うけど、こういう考えもあるって、覚えておくのは大事かも。
さらっと読めて、気分転換にお薦め。
読書は楽しい。