1989年5月8日 第一刷発行
山極寿一さん、太田光さんの『「言葉」が暴走する時代の処世術』 の中で、山極さんが好きと言っていた本。気になったので読んでみた。
ジョン・スタインベック(1902~1968)といえば『怒りの葡萄』が有名な、アメリカを代表する作家の一人。カリフォルニア州サリナスに生まれ、スタンフォード大学で海洋生物学を学ぶが学資が続かずに中退。さまざまな職業を転々としながら小説執筆に専念し、1929年に処女作『黄金の杯』を発表する。その後、カリフォルニアの雄大な自然を背景にたくましく生きる農民たちの姿を主人公にした作品を次々に世に問うた。中でも過酷な条件の下で搾取される季節労働者が社会意識に目覚めていく姿を描いた『怒りの葡萄』は映画化もされて好評を博した。そのため社会派リアリズム作家とみられることも多いが、無垢な善意の悲哀をテーマにした『二十日鼠と人間』、インディアンの民話に材をとった『真珠』、三代にわたる家族の歴史の中に神・原罪といった問題を追求した『エデンの東』など作風は幅広い。62年『われらが不満の冬』によってノーベル文学賞を受賞。
『怒りの葡萄』は、映画でのおおよそのあらすじは知っているけれど、本を読んだことがない。数年前、英語のpaperbookで読みだして、挫折した覚えがある・・・。
本書、『キャナリー・ロウ』は、第二次世界大戦中の1944年12月に出版された。 訳者あとがきによれば、当時スタインベックは「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン」の従軍記者であり、任地から帰ってわずか6週間でこの小説を書き上げたと言われているそうだ。戦地にいる兵隊から戦争に関係のない楽しい作品を書いて欲しいと頼まれたことからこの作品ができたとのこと。
本書裏の説明には、
”カリフォルニア州サリーナスにほど近い港町キャナリー・ロウで、ある日突飛なパーティーが催される。 皆から「先生」と呼ばれ尊敬されている生物学者、ビジネスにはうるさい雑貨商リー・チョン、女主人ドーラの経営する売春宿の女たち、「ドヤ御殿」と名づけられた小屋に寝泊りする浮浪者たちが巻き起す笑いと涙の物語。”
と。
感想。
うん、くすくす、ってわらっちゃう楽しさ。可笑しさ。文庫本で243ページ。そんなに長い話ではないけれども第32章まであって、次々と場面が展開していくのでテンポが良い。文章も、情景描写が淡々と続いていたりして、リズムが良い。
あーこういうタイプの小説も好きだな,、と思いながら読んだ。
何気ない、ただの日常の風景の描写なのだけれども、詩的な感じがする。
まさにカリフォルニアの海の風を感じるような、それでいて缶詰工場のすえた匂いまで漂ってくるような、犬や猫、海の生き物たち、そして人々の生命力溢れる感じ。
なんてことはない、起承転結でもないような話の流れなんだけど、ふふふ、、、っと思わず笑ってしまうような、それでいて、じー-んとくるような。ダメ人間が愛おしくなる。
あぁ、読んでよかった、って感じのお話。
物語の主人公は、、、、たくさんの人が出てくるのだけれど、主人公は一応「先生」かな? カリフォルニア州モントレー、キャナリー・ロウにある西部生物実験所の教授が主人公。 そして、実験所の近所に住む、雑貨屋のリー、熊旗亭(売春宿)のドーラ、リーが借金清算のために買い取ってやった家に住みつくゴロツキどものマック、ヘイルズ、エディー、ヒューイ、ジョーンズ。他にもたくさん、キャナリー・ロウに住む人々が出てくる。
ゴロツキのマックたちは、定職についているわけでもないのでお金はないのだが、「先生」を尊敬しているので、喜ばせたいとおもっている。だから、実験に必要な動物を集めるのを手伝いたいといって、蛙300匹をつかまえに出かけたり、猫を何匹もつかまえたり。でもそのためには、リーに強引なお願いをしたり。リーは人がいいので、マックの申し出を断って、借金を踏み倒されたり、店にめちゃくちゃな事をされるよりは、、、と、なんだかんだとマックに融通してあげる優しさ?あきらめ?のようなものがあったりする。或る時、マックたちは、先生のためにパーティーを計画したのに、先生が返ってくる前に酒盛りで酔っぱらって先生の実験所をめちゃくちゃにしちゃう。返ってきた先生は、大事なレコードは割れているし、標本用の高価なガラスはわれているし、、、で激怒。マックは、先生に殴られる。反省しきりのマック。
そして、マックは、先生に殴ってもらえることがうれしかったりする。。。
で、先生を喜ばせる作戦のリベンジとして、先生の誕生日パーティーを企画する。町中の人を巻き込んで、サプライズパーティーを企画するのだ。企画は事前に先生に気づかれてしまうのだが、そんなことは口にしない先生。みんなのために、ステーキやらお酒やらを用意する先生。
結局、どんちゃん騒ぎで、またガラスが割れたりするのだけれど、また、新しい朝はやってくる。先生は、ちょっと楽しい気持ちで、めちゃくちゃになった部屋の片づけを始める。。。
キャナリー・ロウの一日はまた続いていく、、、って、そんなとりとめもない話。
それぞれの章にでてくるエピソードは、どこまでもとりとめがない。。。あぁ、そういう問題児、痴話げんか、あるよね。。。犬が熱出してみんなで看病したり、つかまえた蛙が逃げ出して町中蛙だらけになったり、、、、。
なんとも、とりとめがないといえばそうなんだけど、楽しい・・・・。
人間のいきるたくましさが楽しい、って感じかな。
単なるエンターテイメントではないような、生活感漂うものがたり、、、って感じ。
ゴロツキのマックたちだけれど、それぞれができることを協力しあって、先生を喜ばせようと一生懸命なところがいい。一生懸命になるほど、ドツボにはまって、失敗ばかりだけど、あきらめない。わらっちゃう。
缶詰横丁というタイトルから、なんとなく、『蟹工船』のようなちょっと暗い話なのかと思ったら、明るい下町物語、だった。
図書館の本は、相当年期の入った本だったのっだけれど、もう、絶版になっているのか、Amazonでも他の通販でも、中古品しかでてこない。結構、古典としていいと思うんだけどなぁ。
出版の福武文庫って、きいたことないなぁ、と思って調べてみたら、
”福武書店(現・ベネッセコーポレーション)が出版していた文庫レーベル。1985年創刊。1998年刊行休止。”とあった。
なるほどね。
いやぁ、面白かったなぁ。
この時代のアメリカ文学って、なんともいえない楽しさと優しさが共存している気がする。現代でないことで、安心して読める感じがあるのかも。その時の社会背景をそのまま受け入れるしかないから、素直に読めるって言ったらいいのか。そして、ちょっとだけ歴史背景に思いをはせたりして。。。
古典文学も、歴史の勉強の一つでもあるなぁ、なんて思う。
あぁ、楽しかった。
読書は、楽しい!