『旅屋おかえり』 by  原田マハ

旅屋おかえり 
原田マハ
集英社
2012年4月30日 第一刷発行

 

また、久しぶりに原田マハさん。図書館で借りた。あまりテレビを観ないので知らなかったのだが、最近、NHKでドラマになって放送されたのね。どうりで、図書館で借りようと思ったら予約者が沢山いたわけだ。

 

本の紹介には、
”売れないアラサータレント“おかえり"こと丘えりか。ひょんなきっかけで始めた「旅代理業」は依頼人や出会った人々を笑顔に変えていく。『楽園のカンヴァス』の著者が贈る感動の物語。”
と。

感想。
あ、マハさんの世界。いいねぇ!
やっぱり、心が明るくなる。
あっという間に読了。

テーマが、っていうところがまたいい。日本の様々な場所へ、一緒に旅しているような気分になりながら読める。
地理のおさらいにもなる。

 

北海道・礼文島:おかえりの出身地。レブンキンバイ草とか高山植物が有名。利尻島とお隣。私は、道産子だけれど、礼文島まで足を延ばすことはなかなかなかった。せいぜい、天売島・焼尻島。礼文島の北端スコトン岬はアザラシが出没する事でも知られている。

 

秋田県・角館:日本随一のしだれ桜の名所。物語の中で、おかえりが依頼者に変わって「旅屋」を初めてする場所。武家屋敷が立ち並ぶ城下町、「みちのくの小京都」。近くには、田沢湖乳頭温泉郷、玉肌温泉。私は、大学生時代に一人旅で行っている。後にも先にも、あれほど見事なしだれ桜の桜吹雪をみたことがない。ほんとにほんとに、美しかった。ほんとに、こんな世界があるんだ!と思うほど、美しかった。当時はまだフィルムカメラの時代だったから、写真が残っていないのが残念だけど、本書の中ででてくる桜吹雪の情景は、あぁ、、、あの時もそうだった、って思い出せる。

 

愛媛県内子町愛媛県と言えば、松山市、『坊ちゃん』の道後温泉松山城、「タオルの町」今治が有名だけど、内子町は江戸時代後期から明治時代にかけて木蝋の生産で栄えた町。土蔵や漆喰壁の街並みが今も残されている。おかえりは、ここも依頼者に代わって旅をし、和紙の紙漉きをする。
愛媛と言えば、学生時代に車で高知からぐるっと回ったことがある。残念ながら、内子町はいかなかったな。漆喰壁の街並み、ちょっと惹かれる。

 

とまぁ、北から南まで、日本の観光地がでてくるので、私の旅の記憶と重なり、読んでいて楽しかった。

 

おかえりの「旅愛」あふれる物語で、読んでいると一緒に旅しているような気分にもなれるし、いますぐカバンをもって自分が旅に飛び立出したくなる、そんなお話。
飛行機もいいけど、電車もいいかなぁ、なんて思う。

おかえりは、代理旅をすることで、依頼者の人間関係修復にも活躍してしまう。そんな夢のようなお話だ。そんなうまい話、、、、あるわけないけど、あるといいね、と思う。


原田マハさんの小説は、読んでいて気持ちがいいのは、登場人物のだれもがちょっとひねくれていても心が豊かで優しいところだ。頑固親父も、頑固ばばぁも、最後は良い人になってしまう。そんな、人を魅了する人物が主人公だから、読んでいて気持ちが明るくなる。
がんばれ~~って、主人公を手放しに応援したくなる。

本書も、最後は、、、涙と鼻水で、グスグスになってしまった。
人と人とのもつれた関係が、ゆるゆると溶けていく話は、、、泣けてくる。


いい話です。
夢物語かもしれないけど、いい話だ。
愛が一杯のお話は、読んでいて元気をもらえる。
いいね、おかえり!!って言いたくなる。

 

以下、ネタバレあり。

 

芸名:丘えりか、本名:岡村恵理子、通称「おかえり」は、32歳の元アイドル。すでに三十路を越えた元アイドルは、今では旅のレポーターの仕事を細々として、所属事務所はおかえりがたった一人のタレント、という零細事務所よろずやプロ。おかえりは、修学旅行で東京に出てきた際、事務所の社長、萬鉄壁に見いだされ、10代で礼文島からアイドルを目指して東京に出てきたのだった。そして、ちゃんと成功するまでは故郷には帰らない、、と家族に約束して。

 

そんなおかえりは、ある時、唯一のYV出演番組「ちょびっ旅」でスポンサーの競合会社の名前を連呼してしまい、、、干される。仕事がなくなった。鉄壁社長もおかえりも、なんとか仕事を探すが、、、、仕事のない日々が過ぎていく。

そんなある日、おかえりのTV番組「ちょびっ旅」のファンだったという女性から、娘の代わりに家族の思い出の角館に旅行をしてくれないか、という依頼をうける。筋委縮性側索硬化症(ALS)という難病の娘もおかえりのファンで、番組がなくなってしまったことを大変残念に思っている。謝礼は、と言って差し出されたのはぶ厚い封筒。。。

鉄壁社長とおかえりは、娘さんの依頼を直接確認してから、、といって、ALSで入院中の娘さんを見舞いに行く。依頼に来た夫人は、華道「鵜野流」の家元夫人だった。そしてそのお嬢さん・真与さんは、5代目となるべく家元である父親鵜野華伝に厳しく育てられたが、難病に伏してしまっていた。家元は、そんな真与さんのことを、見放すかのように見舞いにも来ないようになってしまった。

おかえりは、真与さんのために、家族三人の想いでの場所だという角館に行く。そして、4月だというのに大雪にみまわれつつも、角館の満開の桜もカメラに収めることに成功する。玉肌温泉の主人とその家族、観光客も含め、多くの人が撮影に協力してくれた。加えて、「ちょびっ旅」の仲間たちが、カメラ撮影・衣装、諸々アドバイスをしてくれたおかげだった。番組は降板となっても、みんなおかえりを応援してくれていた。みんなに支えられ、鉄壁社長の力作編集のおかげもあって、真与さんに無事に角館の旅の報告をすることができた。そして、最後には、家元と真与さんとの凍ってしまっていた関係も溶かしていしまう。めでたしめでたし。

 

この一件がうまくいったことで、代理に旅する「旅屋」を本業にしつつ、ぼちぼちと仕事を受けて旅をするおかえりだった。すこしずつ、評判もでてくる。そんなときに、以前「ちょびっ旅」降板事件の発端となったスポンサー会社の会長から、私の旅の依頼を成功できたら、「ちょびっ旅」を再開させてもいい、と言われる。会長の依頼は、戦前に生き別れた妹の娘が愛媛県内子町にいるらしいので、あって、一緒に妹の墓参りに行ってきてほしい、と言うものだった。会長の姪にあたるその女性は、かつて東京でアイドルをしていたが、結婚、出産、離婚の後、内子町にいるところまでは調べがついている、と。その話を聞いた鉄壁社長は、「オレ、今日は帰る」と言い残すと姿を消してしまう。なんと、その元アイドルは、鉄壁社長の元奥さんだった。そして、その奥さんとの間の娘さんは10歳の時に事故で亡くなってしまい、奥さんは、娘が瀕死の重体の時に仕事を優先して娘のところに飛んでこなかった鉄壁社長を生涯許さない、といって離縁した、、、というのだった。。

結局、おかえりは、周囲の反対を押し切って、内子に飛ぶ。そして、また、そこで鉄壁社長の元奥さん、真理子さん、会長の姪に会うことができた。そして、、、、すったもんだはあったモノの、最後は、ちゃんと、真理子さんとそのお母さんのお墓参りを実現させる。そこで、真理子さんの凍っていた鉄壁社長への心も融解し、、、。

「今度来るときは、彼もつれてきてね」の言葉をもらって帰りの飛行場へ向かう。

最終便ギリギリにたどりついた松山空港では、行方不明になっていた鉄壁社長がおかえりを迎えにきた、、、といって、待っていた。おかえりには、今は亡き、父の姿に見えた。。。感動の再開。。。

 

会長の依頼も無事にやり遂げたおかえりは、約束通り「ちょびっ旅」の再開を提案されるのだが、「私は、旅屋をつづけます」といって、TVへの復帰を断ってしまう。

「私は、『タレントおかえり』じゃなくて、『旅屋おかえり』なんだもの。私に『旅してほしい』と望む誰かがいてくれる限り、この仕事を続けたいんです」といって。

 

そして、旅を愛している自分、旅を仕事にしている自分に、おかえりは自分をみいだす。初めて、自分は自分としてやりたいことを成し遂げている気持ちになれた。そして、故郷の母に電話する。

 

「もしもし、お母さん?私。元気?

 うん、元気よ。元気に旅してる。実は今も、旅の空の下。なんだか急にお母さんんオ声がききたくなって。

 ねえお母さん、今度、ナデシコが咲くころに、私、帰ってもいいかな?」

 

THE END。

 

おかえりは、自分のことを自分でちゃんと成功してるって、認めてあげた。そんなハッピーエンド。

 

旅先での地元の人々との交流も、読んでいて楽しい。

私も、地方のローカル線で、いきなりおばちゃんにあめちゃんもらったり、ビスコもらったり、ミカン、とかね、ご高齢の方ほど、気軽に声をかけてきてくれた。昭和のころは旅先で出会った人といろんな交流があったものだ。コロナ以降、、いつ、そういう人との交流、戻ってくるかな。

 

やっぱり、旅はいい。

趣味は旅ですって、ありきたりだけど、やっぱり、旅は好きだなぁ、と思った。

 

そうそう、本書の中にも、「かまびすしく」と言う言葉が出てきた。先日、『アダム・スミス 共感の経済学』で見かけた時は、珍しい言葉を使うなぁ、と思ったけど、こんなところに出てくるとは。

 

megureca.hatenablog.com

 

しかも、鉄壁社長がおかえりにむかって、

「いつだって、かますびしくしゃべっているくせに」

といって、おかえりに

「かまびすしく、でしょ」

と、直される。

やっぱり、そんなに一般的な言葉ではないのかなぁ。

 

とまぁ、旅、言葉、地理、盛りだくさんに楽しい一冊だった。

原田マハさん、読むと元気なれて、良いね。

 

読書は楽しい。

 

『旅屋おかえり』