『運動の神話(上)』 by  ダニエル ・E・ リーバーマン

運動の神話(上)
ダニエル ・E・ リーバーマン
中里京子訳
早川書房
2022年9月20日 初版印刷
2022年9月25日 初版発行
Exercised: Why Something We Never Evolved to Do Is Healthy and Rewarding. (2020)

 

図書館で、うっかり巻順予約をわすれて、(下)から先に読んでしまったというこの本。予約がまわってきたので、(上)も読んでみた。

megureca.hatenablog.com

 

表紙裏には、
”人間は運動するために進化してきたわけではないのに、なぜ運動は健康に役立つのか。
ハーバード大学教授がアフリカの狩猟採集民ハッザ族など、工業化以前の社会をフィールドワークし、現代社会が作り上げた「運動は人体にとって自然な行為である」と言った運動にまつわる神話や思い込みを進化生物学的見地から徹底検証。
生活様式の変化が人体進化のペースを上回った結果生じる「進化的ミスマッチ」と慢性疾患の関係を明かすとともに、健康であり続けるための理想的な運動方法を提言する”
とある。

目次の前に、
役に立つ三つの定義”というのがある。

身体活動[名詞]ー 骨格筋のエネルギーを使って生み出すあらゆる身体動作。

エクササイズ(運動)[名詞]ー 健康とフィットネスの維持・向上を目的として行われる、計画的で構造化された、反復を伴う自発的身体活動

エクササイズド[形容詞]ー イライラさせられる。心配な。不安にさせられる。悩まされる。

へぇ。エクササイズドなんて形容詞があったんだ。しかも、悩まされる、とはね。

 

目次
第一章 人は休むようにできているのか、それとも走るようにできているのか

パートⅠ 身体的に不活発な状態
第二章 身体的に不活発な状態  怠けることの大切さ
第三章 座ること  それは新たな喫煙か?
第四章 睡眠  なぜストレスは休息を妨げるのか 

パートⅡ スピード、力強さ(ストレングス)、そしてパワー
第五章 スピード  ウサギでもなくカメでもなく
第六章 力強さ  ムキムキからガリガリまで
第七章 戦いとスポーツ  牙からサッカーへ

 

著者が主張するのは、人は走るようにできていないということ。つまり、第一章の答えは、人は休むようにできている、ということだ。よく昔は動物に襲われたりする危険もあったから、走らねばならなかったというような話があるが、原始的生活をしている人々を見ると1日のうちの多くの時間はゴロゴロとしているのだそうだ。ラジオ体操をしたりピラティスをする原住民はいない。。。だからと言って、肥満の人もいない。運動をさせるというのは、囚人の罰ですらあったのだ。
本書の中では、
”イギリスの囚人たちは(かのオスカー・ワイルドも含め)、巨大な踏み板のようなトレッドミルの上で、毎日何時間も足踏みをさせられていたのである”
とでてきた。
おっと、オスカー・ワイルドだ!同性愛の罪で、投獄されたのだ。

megureca.hatenablog.com

 

座ることは新たな喫煙”と言い出したのは、ある著名な医師である。確かに、座りすぎは、腰痛になったり、あまりいいことではないように思う。声高に運動しろというエクサシストたちは、「座ることは現代の災いだ」と言っている、と。そして、「一時間座るたびに寿命が2時間縮む」なんて脅し文句もある。でも、著者は、座るというのはエネルギー温存のために適した行動であり、わざわざ立って仕事することに意味はない、と。。。そして、座り方に問題があると。

むかし、椅子なんてものはなかった。そういえば、日本だって、むかしは卓袱台に座布団であって、庶民にも椅子が一般的になったのは、けっこう昭和くらいではないだろうか?椅子が発明され、背もたれ、ひじ掛けまでできてきた。今では、専門分野の「人間工学(エルゴノミクス)」という学問に基づいた椅子まで売られている。

そして、実は、「座る」ということというより、「座りっぱなし」がよくないのだという。だから、別に、13時間座っていたとしても、ちょこちょこ立ち上がっていると、悪影響というのは低いらしい。それは、さもありなん。アップルウォッチもそうだと思うが、私が使用しているスマートウォッチも1時間座り続けていると「ブーブー」と振動で知らせてくれる。映画館とかでもなっちゃうんだけどね。そこが、自宅やカフェなど、別に立ち上がっても問題のない所であれば、私は、ブーブーいったら、とりあえず立ち上がることにしている。家なら、お茶を入れにキッチンに立ったり。

長く座っていることが問題というか、座っているために「やらないこと」が問題なのだという。
・座っている時間は運動はしていない
・座りっぱなしだと血液中の糖や脂肪が増える
座りっぱなしだと「炎症」のプロセスより免疫系が低下する

座りっぱなしから炎症に話がつながるのは面白い。炎症というのは、ケガをしたときの炎症だけでなく、たとえば風邪をひいたときの鼻水、咳、のどの痛みは炎症による。日焼けも炎症のひとつだ。英語で言うと
inflammation → 火のついた状態 → 炎症
私たちの身体は、サイトカイン(cyto=細胞、kine=運動)と呼ばれるタンパク質が炎症を制御している。

座りすぎにカロリー過剰が重なると、内臓脂肪が増える。それは、体内の炎症を引き起こす。また、血中の脂肪や糖は、座るのをちょっと中断してしゃがんだりするだけでも、濃度上昇を防げる。そして、筋肉をつかうと炎症が抑制されるのだ。

長時間座っていると、不活発な筋肉が炎症を起こす。それは、免疫低下につながる。つまり、座ることが悪いのではなく、アクティブに座ればいいのだ、という。

勝間和代さんが、以前、「スクワット椅子」で仕事をするようにしたら腰痛が直った、ということをおっしゃっていたが、別に、椅子でスクワットすることもなく、ただ、時々立ち上がって、屈伸運動をする、その程度でもよいようだ。

ドイツ語の面白い言葉が紹介されている。
「ジッツフライシュ SItzfleisch」
直訳すると、「おしりのお肉」だけれど、比喩的には何か困難なことを成し遂げるために長時間我慢して座り続ける能力のことをいうのだそうだ。ずっと勉強したり、本を書いたりするには、このジッツフライシュが必要で、一般的には誉め言葉となる。でも、座りすぎちゃいけないね、っていうオチ。

睡眠については、重要であるということに異論はないだろう。睡眠は体を休めるだけでなく、ストレスも解放してくれる。座るも眠るも、普通に人にとって大事な休息方法ということ。

自分の睡眠が正常かどうかを知るための質問5つが紹介されている。
・自分の睡眠に満足しているか?
・1日中居眠りせずに起きているか?
・夜中の2時から4時の間は眠っているか?
・夜中に目が覚める時間は30分以下か?
・6時間から8時間の睡眠時間が取れているか?

私は、基本的にはどれもYESだ。今週は、アメリカから帰国したばかりで時差の影響があって、夜中に目覚めてしまっていたけど、4日目くらいでもどった・・・。居眠りは若い時からあまりしたことがない、、、と思う。つまらない授業は、あえて寝る時間にしていたことはあるけど・・・。会社の会議中とか、居眠りするぐらいなら、別の考え事をしていた。会議中に眠る人が不思議でならなかった。こんなところで寝るなら、会議でなければいいのに・・・って。

もしも、この質問にNOが多いのなら、やはり規則的な睡眠スケジュールや適度な運動などをおすすめとのこと。適度な運動は、わざわざジムににいくとか、マラソンするとかではなく、日常生活に適度な身体運動を加えればいい。

運動では、HIITも紹介されている。なんだか、懐かしい。一時はやった。HIIT。高強度インターバルトレーニングと呼ばれる運動で、激しい短時間の無酸素運動と強度の低い不完全回復(低・中度の運動か休息)を交互に繰り返すもの。バービージャンプを繰り返すみたいの。HIITは、筋肉繊維を増やすことによって筋力を高める効果があるだけでなく、心臓の機能向上や、動脈の弾力性を増す効果もあるのだそうだ。

 

ムキムキとガリガリの話では、キングコングが怪物のように描かれた所以は、人がかってにゴリラは野蛮だと思い込んだことによるのではないか、と。
英語で、「go ape (ゴー・エイプ)」というと、直訳すると「猿になる」だが、意味としては「激怒する」、となる。べつに、類人猿はいつも怒っている訳じゃないのにね。とんだとばっちり。

最後、スポーツとしての運動と、戦いとしての運動の話では、ちょっと哲学的になってくる。

協力して争いを回避する能力(ルソー派の思想)
攻撃する能力(ホッブス派の思想)
の調和が大事だということ。

世の中には、今でもけが人がでるような激しいスポーツ(と呼んでいいのか?)もある。イタリア・フィレンツェで行われるカルチョ・ストーリコ・フィオレンティーノ」フットボールの様であり、ケンカフットボールとも呼ばれるほど激しいのだそうだ。
それでも、一応、スポーツとしての娯楽性を有している。本当の戦が必要になったとき、人々は、スポーツという形で体を動かし、勝負に熱中する。

スポーツは、互いに協力しあうことも必要とする。戦いの代わりの娯楽なのだ。

 

なるほどねぇ。

 

上下二冊の長編だけれど、内容は重複しているような気がしなくもない。

それでも、読者を飽きさせないスピード感みたいなものは感じる。著者の身体をはった実験がでてきたりするから、面白い。

 

まぁまぁ、面白い本だった。図書館で借りて読むので十分かな。

ま、過度なエクササイズは必要ないし、人に運動を強要するのもよくないし、でも、座りっぱなしはよくない。私は、どちらかというと著者が皮肉る運動重視のエクサシストかもしれない。わざわざお金をかけてジムにも行っている。でも、好きでいっているんだから、私はエクサシストでいい。駅のエスカレーターは使わず、階段を使うのを習慣にしている。でも、しんどい時に、無理して動いたりはしない。

座る生活が長くなっている今こそ、時々立ち上がって、屈伸運動の一つでもしておこう。そうそう、ヤンキー座り(う〇こ座りともいう?)ができないほど足首が固くなるのはよくないそうだから、時々、和式便所でも用が足せるようにしゃがむ練習をしておこう。安上がりな、健康維持法だ。

 

実際、おしりを完全にしたまで下げる屈伸運動をしてみるといい。両足のかかとをそろえると、下までしゃがみ切れない人が多い。ころんと後ろに倒れて尻もちをついてしまう。そうならないよう、屈伸運動、足首の柔軟性を維持しよう!!

 

よし、今日は、ジムに行かないから、屈伸運動だ!