『食べることと出すこと』 by 頭木弘樹 (その1)

食べることと出すこと
頭木弘樹
医学書院 シリーズ ケアをひらく
2020年8月1日 第1版第1刷
2020年10月1日 第1版第2刷


伊藤亜紗『きみの体は何者か』で、次に読むべき本としてすすめられていた本。図書館で借りてみた。

megureca.hatenablog.com

 

ゴリラが洋式トイレに座って、リンゴをかじりながら、お腹を抱えているイラストは、なかなかのインパクトだ。

 

著者の頭木さんは、大学三年生の20歳の時に、潰瘍性大腸炎を患い、それ以来13年間闘病生活を送っている。(出版当時の著者紹介より)その時に、カフカの言葉が救いになった経験から、『絶望名人カフカの人生論』を出版し、その後も多くの著書を発表。まだ、30代ってことだろう。

 

表紙裏の説明には、
” (本文より)
そこにちょうど 看護師さんがひとりやってきた。
トイレの大のドアの前で、漏らして立ち尽くしてる私を見て、 向こうも「あっ」となった。
若い女性の看護師さんだった。 すごく迷惑そうな顔になった。
「 自分で何とかできますか?」 と言われた。
 私は急に、このまま見捨てられると困ると焦って、
「 拭きたいんで、お湯とタオルとかもらえませんか」 と頼んだ。
よくそんな冷静な頼みができるなと、 自分で 驚いた。” 

と。
まさに、本文からの抜き出しなのだが、潰瘍性大腸炎で下痢は止まらず、血便はでるし、大変な状況で入院している著者が、自力でなんとかトイレにたどり着いたけれど、間に合わなかったくだり・・・・。
なんと、この看護師は、冬で寒い時期だったというのに、「お湯が欲しい」といった著者に、夜中なのでそんなものはないといって、トイレのバケツと雑巾をわたしたのだそうだ・・・。
そのことを話すと、なんてひどい看護師だと怒る人もいるのだが、本人曰く、その時は腹も立たなかったと言っている。そして、今でも別に腹をたてているわけでもない、と。あまりの屈辱に、感情を失ってしまったからだったかもしれない、と。そして、感情喪失したときの記憶は、あとから考えても怒りもわいてこないものなのだ、、、と。


と、全編にわたり、ご自身が経験したことを色々な角度から、語られている。

 

感想。
なんとまぁ。。。
こんなお話だったとは。。。
読んでよかった。

表紙のちょっとくだけた雰囲気では、想像つかないほど、深い。

私は、2度読みした。

じわじわと、、、しみいる。
どちらかと言えば、頑丈で、病弱とはいいがたい私にとっては、体の弱い人の立場にたって考えるということができていなかった、と反省させられた。一方で、そうそう、別に体が丈夫とか丈夫でないとかに関係なく、そういうことあるよね!!と強く共感できることもたくさんあった。

様々な文献から引用されている言葉も、なかなか含蓄深いというか、考えさせられるものがたくさん。


なるほど、これは、元気な人も、今闘病中の人も、読んでみてほしい。

 

アルコールの強要がいけないように、食べ物だって強要しちゃいけないんだ。でも、「美味しいから一口食べてみなよ」と、いやがる人に何かをすすめたことはないだろうか?そして、それを食べないことで、相手が「申し訳ない気持ち」になっていることに、気づかずにいたことはないだろうか。別に、病気が理由じゃなくたって、偏食が理由だって、どんな理由であれ、、、こと「食べ物」になると、残すと申し訳ないとか、いただかないと申し訳ないとか、、、誘ってもらったのに一緒に食べないと申し訳ないとか、、、、。

食べるということが、コミュニケーションにどれほど大きく影響しているのか、良くも悪くも。孤食を好んで何が悪いのか。なぜ、共食がいい、とばかりいうのか。。。


オブライエンの言う、強烈な確信を抱く人間になって、「俺は正しい、おまえは間違っている」という様な人間になってしまっていないか?!?!って言葉を思い出した。

megureca.hatenablog.com

 

当たり前のことながら、一人一人、それぞれ違う、ということを考えさせられる。良かれと思ったことも、いい迷惑になっているもしれない、、、。いちいち反応しないということが大事なこともある。ほんと、とても重要な示唆がたくさんある一冊だった。

若い人にも、高齢の人にも、もちろん我ら中年世代?!にも。

元気な人ほど、一度読んでみてほしい、と思った。

 

目次

第1章 まず何が起きたのか?

第2章 食べないとどうなるのか?
第3章 食べることは受け入れること
第4章 食コミュニケーション 共食圧力 
第5章 出すこと 
第6章 ひきこもること
第7章 病気はブラック企業
第8章 孤独がもれなくついてくる
第9章 ブラックボックスだから(心の問題にされる)
第10章 めったにないことが起きる/直らないことの意味

 

本書は、著者本人の経験にもとづくお話。

 

最初は、2~3ヵ月くらい下痢が続いて、おかしいなとおもっていたけれど、普通に食べすぎたり、飲みすぎたりしていた。するとある日、赤い便がでた。出血だった。
大学三年生。ずっと健康だったのに、、、、、。病院に行くのが怖くなって、消化の良いものを食べるようにしていたら、ある日、出血がとまった。下痢も治った。心配だったけど、大丈夫だったんだとほっとした。
でも、それこそが、潰瘍性大腸炎の典型的な症状だった。

そして、とうとう、病院にいくのだが、血便の事は怖くてだまっていた。下痢止めが処方された。効くはずもなかった。

トイレの回数が数えきれなくなり、立ち上がればトイレに駆け込む。そのたびに血の下痢。寝ていても腹痛で苦しみ、熱もでる。
とうとう、友人が動けなくなった著者を車にのせて病院につれていってくれた。

直腸鏡で腸をみた医者は、「うわっ!」と叫んで、即入院となった。

 

体重は、26キロ減っていた。トイレの鏡に映った自分は、亡霊のようだった・・・・。

親を呼ばなければと医師にいわれて、病院の公衆電話から電話をしたのだが、受話器を持つのすら重くて大変だった・・・・。それくらい、衰弱していたのだ。。。

 

普通に健康にすごしていた20歳の青年が、あっという間に、受話器を持つのもつらくなるって、想像できるか?!?!

 

検査の結果、間違いなく「潰瘍性大腸炎」と言われた。医師からは、潰瘍性大腸炎自体で死ぬ人はいないけれど、治療の影響で免疫が下がるため、他の病気で亡くなることがある、と言った。

 

健康だった大学三年生が、ある日突然、難病宣告されたのだ・・・。

 

潰瘍性大腸炎は、難病指定をうけている。潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症がおきて潰瘍ができる。潰瘍を起こしている部位によって、大きく3つに分けられて、
・直腸炎
・左側大腸炎
・全大腸炎
とあるのだそうだ。著者は、全大腸炎型だった。文字通り、一番広範囲にわたり、いちばん大変、、、ってこと。「潰瘍性大腸炎」と聞くと、「あ、〇〇さんも患っている病気ね」という人がいるが、個人個人でまったくその症状も治療法も異なるのだそうだ。勝手に解釈して、わかった風に言ってほしくない、とのこと。。。。はい、心します。

確かに、私の知り合いにも、潰瘍性大腸炎を患っていて、、、という方がいらっしゃった。とても華奢な体だったけれど、運動をされていた。もう、何年もお会いしていないけれど、彼女の場合は、著者とはちがっていたのかもしれない。


そして、いったんなると一生治らない。だから、難病。炎症が治る「寛解」とまた炎症を起こす「再燃」とを繰り返す。

使う薬は、プレドニンという副腎皮質ホルモンなので、副作用が強い。ひとによってはプレドニンが効かず、さらに治療が困難なケースもあるという。著者は、プレドニンが効いた。でも、副作用で他の手術が必要となったそうだ。

根本原因はわかっていないが、発症は風邪やインフルエンザなどがきっかけとなるひとが多いとのこと。たかが風邪という軽視はいけない、って。ただ、きっかけになるだけであって、根本原因ではないそうだけど。

とにかく、著者は、病気になったことで、普通に食べることが出来なくなってしまったのだ。。。

そして、気が付いたこと、傷ついたこと、、、様々なことがつづられている。

 

長くなりそうなので、続きは、明日・・・。