シルクロード 歴史と今がわかる事典
大村次郷
岩波書店 岩波ジュニア新書
2010年7月29日 第一刷発行
ウズベキスタンへの旅の前、図書館で「ウズベキスタン」で検索して出てきた本。シルクロードの国々がでて来るので、ウズベキスタンはほんの一部だけれど、歴史の勉強にもなると思って読んでみた。岩波ジュニア新書だから、読みやすそうだし。
裏の説明には、
”中央アジアを媒介に 東西文物の交流が始まって2500年。シルクロードは今も新鮮な魅力に満ちている。 トルコ・イスタンブールから中国・泉州まで。 各地に残る遺跡、絵画、彫刻から歴史が、また市場、祭り、食べ物から今が、くっきりと見えてくる。写真家として全ての地を訪れ感じた、その思いが写真と文章にあふれる一冊。”
とある。
目次
はじめに
シルクロード 地図
1章 トルコ
2章 シリア
3章 イエメン
4章 イラク
5章 イラン
6章 パキスタン
7章 インド
8章 ネパール
9章 ウズベキスタン
10章 タジキスタン
11章 中国
国ごとに主要な街や、遺跡が紹介されている。シルクロードをテーマにした観光ガイドブックにもなりそう。著者の大村さんが、30年以上にわたって通い続けたシルクロードの中から、とくに印象に残る場所や行事などを写真とともに紹介している。紀行文といってもいいかもしれない。だから、読みやすいし、なかなか魅力的。
さらっと読めて、ちょっとした時間つぶしにもいいかも。
本書は、シルクロードを西のトルコから順にたどっていく。
始めはトルコのイスタンブール(コンスタンティノープル)。章ごとに東へたどっていくのだけれど、地図を見ながらでないと、場所がパッとは頭に浮かばない。
イエメンは、アラビア半島の南だけれど、なぜかここだけ飛び地だ。理由は特に書かれていなかった。たんに、サウジアラビアには著者がいかなかったということなのか?
4章イラクでは、「イブン・シーナー」が紹介されている。イスラム圏ではよく耳にする名前だということ。980年ブハラ(ウズベキスタン)生れ。医学者で詩人で哲学者。ラテン語の別名は、アヴィケンナ。彼の書籍はラテン語にも翻訳されて、ヨーロッパで医学を学ぶ人々にとっても教科書だったそうだ。イランのアッバース朝には、「知恵の館」という古今東西の書籍が集められていた館があった。830年にカリフのマームーンが設立したこの館には多くの写本がおさめられていた。しかし、アメリカ軍の仕掛けた戦争で失われてしまったそうだ。。。アメリカ軍によるイラク戦争は、やはり、、、、失敗の歴史の一つなのだ。著者は、この章ではアメリカが仕掛けた戦争についても語っている。アメリカは9・11を引き合いにだすが、誤った情報で戦争をはじめ、街を破壊してしまった。ベトナム戦争では枯葉剤によって、イラク戦争では劣化ウランによって、、、子供達にその被害が及んだ・・・と。
7章インドでは、「ナーランダー仏教大学」について。シルクロードを語る上でかかせない唐時代の僧・玄奘三蔵(げんじゅうさんぞう)(602~664)。玄奘三蔵は、『西遊記』の三蔵法師のモデルだ。国禁を犯して632年にインドへやってきた。そして、ナーランダーで『大唐西域記』を記した。ここで16年もの間、仏教を学んだ。周辺にはブッダの遺跡が多いそうだ。
生誕の地:ルンビニ―(ネパール)
成道(じょうどう。悟りを開いた)の地:ボードガヤー
入滅の地:クシナーガル
祇園精舎、などなど。
そして、カレーについても。日本で食べるカレーとは大きく異なるインドのカレー。カレースパイスのカルダモン、ターメリック、コショウは南のケーララ州でとれる。インドのカレー文化は、そこから始まり、征服者であるポルトガル人、イギリス人たちの食文化が重なって発展した食べ物とのこと。食文化にも歴史が隠れている。
カルダモンと言えば、ウズベキスタンのブハラで酷暑の中、休憩がてらお茶をしに入った”シルクロード・ティー・ハウス”というお茶屋さんでは、3種類のハーブティーがお菓子と一緒に楽しめて、私が選んだのは「カルダモンとサフラン」というお茶だった。そのお茶の薬効が「消化」を促進する、といったようなことが書いてあった。熱いお茶だったけれど、五臓六腑にしみわたる、、、って感じに美味しかった。カレーもカルダモンを入れるのは消化促進の意味もあるのかもしれない。スパイス、ハーブの薬効は侮れない。
そして、9章 ウズベキスタン
章の始めにある写真は、グール・アミール廟の近くで桑の実をとる人々。グール・アミール廟は、サマルカンドで実物を見てきた。アミール・ティム―ルが埋葬されていて、外装も美しいけれど、中は黄金でキラッキラだった。
ついでに、桑の実もちょうど季節で、色濃く熟していた。桑の実は、スーパーでも売っていて、現地赴任中の友人Mが買ってくれたので食べてみたけれど、素朴な甘さで美味しかった。桑の実はウズベキスタンの人にとっては身近な果物の様だ。
結婚式の話が紹介されている。
ウズベキスタンはイスラームの国だけれど、昔はペルシア文化が栄え、ゾロアスター教があった。ゾロアスター教の影響が垣間見られるのが結婚式だという。火が使われる。そして、母親たちはナン(ウズベキスタンのパン)をかざして新郎新婦を招くのだそうだ。
ナンは、ほんとうにウズベキスタンのいたるところで売られていた。しかも、その土地ごとにちょっとずつ違う。空港でも、道端でも、駅でもナンを売る店があった。そういえば、タシケントからインチョンに向かう飛行機の中で、大量のナンの入ったビニール袋を持っている乗客がいた。きっと、しばらく故郷の味を楽しむために持ち込んだんだろう。ナンは、ウズベキスタンの人にとっては日本人のおむすびみたいなものか。。。
また、「アフラシアブの丘」についても。サマルカンドにある「アフラシアブの丘」。チンギスハンのモンゴル軍に破壊されつくされたアフラシアブの丘だが、14世紀末からティムール帝国がサマルカンドを復興させた。だから、サマルカンドにはティムール廟があるし、ウズベキスタンの首都タシケントでもティムール像が街の中心にある、
アフラシアブの丘の壁画について紹介されている。先日、実物を観てきた。たしかに、見ごたえのある壁画だった。細部に色々と書き込まれていて、細密画を得意とするウズベキスタンの人々の血を感じた。
サマルカンドといえば、青の街。ティムールは帝国にふさわしい都を作ろうとした。だから多くの美しい建物がある。愛妻にささげたと言われるのがビービー・ハーヌム廟。私がサマルカンドで泊ったのは、まさにこのビビハニムの真横に建つ、ビビハニムホテル。そして、サマルカンドブルーで有名なのがシャーヒ・ジンダの墓地。ほんとうに圧巻のサマルカンドブルーだった。
サマルカンドもブハラも、ソグド人がつくった町だそうだ。
ソグド人。ウズベキスタンの話の中では何度も出てくるシルクロードの商人。かれらが、現在に続くウズベキスタン文化の基礎を作ったともいえる。
11章中国では、敦煌の話が。著者は井上靖の『敦煌』を読んで、敦煌に心惹かれるようになったという。実際に、蔵経堂から古代文書が発見されたのだから、それはそれは、興味深々。私も、『敦煌』を読んで興味をひかれ、実際に観に行ってみたいとおもうけど、、さすがに、敦煌は遠いなぁ。。。
駆け足で、イスタンブールから中国まで。すこし、これまでばらばらだった記憶のドットが、頭の中でつながるような気がした。歴史ももっと勉強すると、もっと楽しいのだろうと思う。
世界史の勉強というとヨーローッパが中心になりがちだけど、中国や中央アジアに視点をうつして歴史をみてみると、またちがった解釈ができそうでおもしろそう。
歴史は、ふかいなぁ、、、、。そして、2003年のイラク戦争もすでに歴史の一コマであり、いまの教科書には載っているのだろう。
『歴史と今がわかる』というタイトルも、読み終わるとなるほどな、である。
なかなか興味深い一冊だった。写真も多いので、旅した気分で楽しめる。
そして、自分が見てきた場所がでてくると、ちょっとうれしい。
読んでみてよかった。
これらの国々に興味があるなら、お薦め。
読書は、楽しい。