『へろへろ 雑誌 『ヨレヨレ』 と 「宅老所よりあい」の人々』 by  鹿子裕文

へろへろ
雑誌 『ヨレヨレ』 と 「宅老所よりあい」の人々 
鹿子裕文
ナナクロ社 
2015年12月15日 初版第1刷発行 
2016年3月7日 初版第3刷発行

 
伊藤亜紗さんの『きみの体は何者か』で、次に読む本として薦められていたので、図書館でかりてみた。

megureca.hatenablog.com

タイトルもタイトルだが、装丁もなかなかインパクトあり・・・。

託児所ならぬ宅老所をつくった人々と、そこに巻き込まれた?!作者の実体験日記って感じ。

 

表裏には、
”根拠なんか別にない。
ただやれると思う気持ちがあるだけだ。
新しいことはいつだって、無謀で無計画で、
前例がなくて保証がないところからしか生まれてこないのだ。”

と、実話に基づいた福岡県の特老建設物語。大手ディベロッパーでもなければ、大手資本かでもない。たまたま、一人の手に負えない老人を何とかしようとおもった人々が、借金を自転車操業で返済しながら特老までつくってしまった物語。

 

感想。
なかなか、感動の物語。のはずなんだけど、著者の文章は、なんというか、、、ちと下品だ・・・。どうして、下ネタみたいな話しばかりにながれるのだろう、、、と、私は思った。美しい文章ではない。。。コメディのようでもある。でも実話なのだから笑えるし、泣けるし、あっぱれな物語。なんというか、自分のことも卑下しすぎというのか、もちろん、ギャグとしてなのだろうけれど、、、。ちょっと、イタイ感じが、、。書き手が違えば、もっと素敵な一冊になったのに、、、、というのは、私の趣味嗜好だけど、ね。私は、美しい日本語の方が好きなんだ、、、と、読んでいてい気が付いた。

実際、自分たちで寄付をつのったり、ジャムを作って売り歩き、バザーを開催して資金をあつめ、行政からの補助金申請まで成功する。すごい人たちの成功物語だ。だれもが逃げ出したくなるような、痴呆がすすんで暴力的になる老人であっても、彼らはなんとかせねば、と、走った。すごい。でもって、この著者は、そのすごいパワーの人たちと一緒に、「宅老所よりあい」のために奔走したのだ。見聞きして書いたのではない。本人がその騒動?!に巻き込まれつつも、懸命に運営に協力し、『ヨレヨレ』という宅老所の雑誌を発行したのだ。

 

『ヨレヨレ』は、ついには書店でも売られるようになり、表紙をかいた友人の息子・モンドくん(奥村門土)まで、売れっ子に。著者は、「宅老所よりあい」の社員ではない。『ヨレヨレ』という雑誌を一人で作っている。「宅老所よりあい」をつくった下村恵美子さんと村瀬孝雄さんに、のせられ、気が付いたらこうなっていた、、という感じらしい。雑誌タイトルの「ヨレヨレ」は、老人介護施設にやってくるボケを抱えたお年寄りたちが、ヨレヨレしていたから・・・・。

 

始まりは、一人の老女の救出だった。明治生まれの大場さんという女性が、旦那さんが亡くなってから、ボケたものの、明治女の気骨で毅然とし、風呂に入らず、下の具合もあやしく、髪は切らない、風呂は入らない、、、、著者の表現では、「その姿は清潔を是とする現代日本において、完全なる妖怪だった」と。だれが説得に行っても、「野垂れ死ぬ覚悟はできている」といって、頑として施設に入ろうともしない。そんな大場さんを、「なんとかせねば」と救ったのが、下村さんたちだった。最初は、お寺のお茶室でのデイサービスだった。始めてみると、他にもボケた肉親の介護で困り果てた人たちが、お年寄りを連れてきた。行き場を失っているお年寄りは、少なくなかったのだ。

これは、2013年を中心とした話しだけれど、きっと2023年の今も、状況はあまり変わっていないのではなかろうか。。。

 

そして、結局、彼らは、特養老人ホームをつくるにまで大きくなるのだ。土地をさがし、地域住民に説明会をひらいて納得してもらい、少ない資金で建設するために、建材を善意の寄付からまかなったり。そして、常に救いの手を差し伸べてくれる大物がいた。詩人の谷川俊太郎さんだった。谷川さんを「よりあい」に引っ張り込んだのは下村さんで、出会いは20年以上前、静岡県で行われた後援会の打ち上げ会場だったという。下村さんは、そこで谷村さんの詩ではなく、お尻に一目ぼれしてしまった。そして、ぱしゃぱしゃと写真をとった。不審なカメラアングルに気づいた谷川さんは、「さっきから何撮ってるの?」と尋ねた。

「いろっぽいじいさんの尻」

谷川さんは、「いろっぽいじいさん」という言葉の響きに参ってしまった。。。それ以来の付き合いなのだと。谷川さんは、施設に飾る詩を書いてくださったり、オークションに出す品物を提供したり。。。

 

多分、お金がなくても「なんとかなる」と信じて、活動を諦めなかった下村さんたちの熱意は、谷川さんだけでなく、地域住民にも、行政にも響いた。建材高騰によって、挫折の危機もあったけれど、補助金の上乗せという奇蹟のオファーがあり、「宅老所よりあい」は、2015年に完成する。汗と涙と笑いの物語、って感じ。

 

お金がないから諦める、ということを知らない下村さんたち。
お金がないなら、集めればいい。そして、「宅老所」の重要性を知っている人たちからはちゃんとお金が集まる。儲けはほとんどない。だから、最初は「熱意」でやってくる社員も去っていく。それでも、残る社員もいる。

 

去っていった人たちに、著者は厳しい言葉を並べている。頑張ろう!素晴らしい!といっていたのにさっていった人の中には、他でも同じようにちょっと顔をだして、わかったようなことを触れ回っている人がいる。

美しい心の持ち主のような顔をして、美しいことばかりを語ろうとする人は怪しい」と。そして、「勝手な思い込みだけで先走り、そのくせ地道なことは全然やらない。そういう人がいると周りは疲れてめいわくするだけだ。」、「いつも自分に都合のいい景色ばかり見て盛り上がっている。」と。

あ、いいこと言うな。。。わかるな、と思った。

熱意ばかりで、地味なことをしようとしない人。。。それは、組織にとって悪だ。まぁ、そういう人には、退場いただくのがいいと思う。

 

気持ちだけでは、事業はできない。でも、気持ちと、確固たる信念があればお金は集められるものなのかもしれない。

NPO法人で、資金繰りに困っている人に勇気を与える一冊?!かもしれない。 

 

知人に、病気の子供を介護する家族を支援するNPO法人を作った女性がいる。彼女自身が、幼い子供の入院にずっと付き添い、その時、家族への支援の無さに絶望した。病院は、付き添い家族のためには食事の提供はしない。24時間付き添いが必要な幼児であっても、家族用のベッドも提供されない。でも、たまたま病院の行き帰りに通った食堂のおじさんが事情を知って、彼女のために様々な援助をしてくれた。そして、彼女自身が、病気の子供を抱える家族を支援するNPO法人理事長となっている。

GIVE&TAKEどころか、GIVEの塊のような人だ。

NPO法人、キープ・ママ・スマイリング。理事長、光原ゆきさん。

https://momsmile.jp/

 

その姿は、本書の下村さんたちの姿とちょっと重なる。

 

誰かのために活動できる人は、強い。

そして、それを人に押し付けることなく、自らの行動で共感者を増やしていく人たち。

素敵だ。

やはり、人の本性は「性善説」でいいと思う。