私本太平記(一) 吉川英治

私本太平記(一)
吉川英治
吉川英治歴史時代文庫63
1990年2月11日 第一刷発行
2003年5月26日 第23刷発行

 

2023年は、通訳案内士試験対策で日本史を色々勉強した。これまで、あまり興味がなかった室町幕府の始まり。悪党といわれた楠木正成がなぜ正義の味方なのか?足利尊氏は何者だったのか?よくわからない。

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せっかくなので、太平記を読んでみようかという気になった。史実にどっぷりつかってみるのもいいけど、せっかくなら楽しく、、、ということで、吉川英治私本太平記を選んだ。久しぶりの吉川英治歴史時代文庫。とりあえず(一)を読んでみた。やっぱり、読みやすいし、なかなか楽しい。
私本太平記は、(一)から(八)まで。ゆっくり、読んでみようと思う。

 

(一)の本の裏の説明には、
”大作「新・平家物語」を完成した著者は、息つく暇もなく、南北朝を題材とする「私本太平記」の執筆にかかった。古代末期から中世へ・・・。もはや王朝のみやびは影をひそめ、人間のどす黒さがあらわに出てきた時代。 しかも 歴史的には空白の時代である。史林の闇に分けいるとき、著者は使命感と創作意欲の高まりを禁じ得なかった。開巻第一、足利又太郎(尊氏)が颯爽と京に登場する。


目次
あしかが帖
婆娑羅

 

主な登場人物
又太郎=足利高氏=尊氏 1305~58。 父・足利貞氏、母・清子との嫡男。
一色右馬助(いっしきうまのすけ):又太郎の侍者で、又太郎より10歳年上。

 

又太郎が、社会勉強のために右馬助を伴って、都のあたりを旅している最中に迎えた大晦日の様子から物語が始まる。時代は、第九代執権・北条高時。又太郎は、源氏の流れをくむ武士の子。まだ、21歳の若造。母清子の兄が北条家に近い中枢で働いていることから、又太郎も北条の近くで働く機会をえる。また、旅の途中で、佐々木佐渡/判官高氏となのる人物にであうが、佐々木は、又太郎も「高氏」と名乗っていることをしると、自分は「道誉」となのるといって、あっさり高氏の名前をすててしまう。佐々木道誉こそ、この先の政治をうごかす、もう一人の人物。そして、道誉の開いた宴会で出会った田楽女・藤夜叉と又太郎は道ならぬ恋に陥る。又太郎は、もう会うこともないと思っていた藤夜叉だったけれど、なんと、又太郎の子供・不知哉丸(いさやまる)をつれて、鎌倉の高氏の元へ現れる。それを謀ったのも道誉だった。宴席への一団の中に、藤夜叉が混じっていた。高氏は、鎌倉幕府最後の執権、赤橋守時の妹・登子を妻に迎えることになる。そのめでたい席に、藤夜叉を紛れ込ませたのは、道誉の高氏へのいやがらせなのか?からかいなのか?

 

やりたい放題の北条高時の時代は、世の中は乱れていた。そんななか、朝廷は後醍醐天皇を中心に、倒幕の計画が持ち上がる。1324年正中の変天皇の意思を形にしようとした首謀者は、
・日野蔵人俊基朝臣(としもとあそん):後醍醐天皇の側近
・日野参議資朝(すけとも):もう一人の日野とよばれた。

 

北条側にたつもの、朝廷側にたつもの、、、高氏は、祖先の置文(家時公による)に自分こそが天下を取るべき子孫であると書かれていることをしり、高時が悪政であるならば、天皇を支えるべきではないのか、と考えるようになる。そんな思いを、弟直義に話してきかせるのだった。北条の流れの妻を娶りながら、北条にたてつくのか・・・。右馬助は、高氏が心のうちに決心を固めていることを見て取る。そして、あえて、高氏を支えるために、ケンカ別れのような形で主従の決別を選択する。高氏には、右馬助の心が実は通じていた。いずれ、いつかの日のために・・・。

 

そんな政情不安のなか、高氏の決意をうっかり耳にしてしまったのは、覚一。盲目の琵琶法師でありながら、礎石禅宗のおしえをもうけた、高氏の年下のいとこだった。覚一の母は、清子の姉で、すでに出家し草心尼となっていた。覚一は、母をつれて乱世をおそれて京でゆっくりと琵琶法師の勉強をしに旅立つのだった。

 

本書のなかでは、物語がすすむのと、時々著者の解説が入る。高時の政治は悲惨だったけれど、そうなったのも高時自身のせいだけとはいえないのだ、ということが説明されている。14歳で執権職となり、すべては周りの大人に任せきり。しかも、多病で、良く熱をだした。一族は、高時のわがままの言いなりになってしまったのだ、と。日夜の宴飲、闘犬狂い、田楽酔狂といった遊戯三昧も、別に、あてつけではなく、ただ運命にのっていたのだ、、、と。

 

(一)の中で日野の二人がすすめた倒幕計画は、俊基の側近が妻に秘密計画を話してしまったことから六波羅に情報が洩れ、俊基は鎌倉に連行、資朝は佐渡島流しとなってしい、失敗に終わる。でも、これが倒幕の動きの始まりだった。

 

その間の道誉の動きをみていた高氏は、道誉がなぜか自分にからんでくるのか、不思議におもいつつ、たんなる婆娑羅大名であるだけでなく、天下へ手をかける野心をもっているのではないか、と考えるようになる。

 

と、(一)では、足利尊氏の周辺人物、そして、朝廷の倒幕の動き勃発の流れについて。 

 

楠木多聞兵衛正成については、俊基が鎌倉に捕らえられる前に、従童・菊王に文を託した相手として登場するけれど、本人はまだ出てこない。朝廷側が頼みにした人物ということだけ。

 

なるほど。ちょっと新鮮。続きも読んでみよう、と思う。