『裏切り者は誰だったのか CIA 対 KGB 情報戦の闇』 by ハワード・ブラム 

裏切り者は誰だったのか CIA 対 KGB 情報戦の闇 
ハワード・ブラム 
芝瑞紀、高岡正人 訳
原書房
2023年9月5日第一刷
THE SPY WHO KNEW TOO MUCH  (2022)


 2023年11月25日 日経新聞の書評 に出ていた本。図書館で予約していたのが、ようやく順番が回ってきたので読んでみた。

書評にあったのは、
「本書は冷戦期米ソ間の熾烈(しれつ)なスパイ戦を描いたノンフィクションだ。大筋は米国中央情報局(CIA)に潜り込んだソ連国家保安委員会(KGB)のスパイが誰なのか、その真実を50年にもわたって追い続けたCIAの敏腕スパイ、ピート・バグレーの物語である。バグレーは2014年に亡くなっているが、膨大な調査記録を残しており、それら資料を基に聞き取り調査を行った、作家ハワード・ブラムの手によって本書が上梓(じょうし)された。」
という記事。

 

スパイ戦なんて、映画の世界だけかといえば、、そんなことはない。そして、デジタル時代の今とは違い、冷戦期の情報といえば、実際のブツかせいぜい電話、テレグラム。そういう時代に体をはったスパイたちの活動の物語。一応、ピート・バグレー(CAIソ連圏部)がのこした調査記録や、聴き取りによる情報をもとにした本で、ノンフィクション。ピートの動きやその時の心の動きなど、物語のように綴られている。

 

著者のハワード・ブラムは、 1948年生まれ。作家。 元ニューヨーク・タイムズ紙記者。 ノンフィクションを中心に多数の著書あり。邦訳出版されているものとして『暗闘』、『 ナチス狩り』、『 アウトゼア』、『オデッサ USA』などがある。

 

表紙をめくると、モノクロの写真資料のページが続く。スパイたちの顔写真、歴史的イベント、どれも、、、時代を感じる。1950年代から1990年代。もう、ずいぶん昔のような気もするし、たかだか数十年程度、ともいえる。

 

目次
登場人物
読者への注記
プロローグ  罪の重圧
第1部 「もう一度あの突破口へ突撃だ」 1977年ー1983年
第2部 スパイの家族 1954年ー1984年 
第3部 「モグラモグラで捕まえる」 1984年ー1987年
第4部 「 狙いを定める」  1987年ー 1990年
第5部 「月の裏側」  1990年ー2014年
エピローグ  秘密の重圧
情報源について

 

感想。
おぉぉ、、、こういう世界。。。。面白い、けど、とても現実のことのような気がしない。。。。あくまでも、ノンフィクションのはずだけれど、裏切りにつぐ、裏切り。 スパイのスパイ。。。どう考えても、ミッションインポッシブルな映画の世界の話の様で、、、フィクションを読んでいるような気になってくる。

 

登場するCIAやKGBの人の名前に馴染みがあるわけもなく、、、私にとっては、唯のフィクションのような気がしてしまう。でも、これがノンフィクションなのだから、、、ちょっと、うんざりというか、げっそりというか、、、わたしは、スパイになんかなりたくない。嘘なんてつきたくない。人をダマしたりしたくない。。。。

 

登場人物として、主人公になっているのが、デネット・ピート・バグレーという、元CIAソ連圏部副部長。CIAに”モグラ”が潜んでいるという確信をもっている。モグラっていうのは、二重スパイの裏切り者ってこと。ピートは、在職中から、CIA内で権力闘争のような腐敗がはびこり、”モグラ”によって仲間たちが死に追いやられている可能性を主張していたのだが、組織内ではパラノイア的だといって、逆に誹謗されてしまう。でも、ピートの勘は正しかった。ピートが、モグラの正体を暴きだすまでの物語、そして死んだことになっている仲間の死の不確かさなどが暴かれていく。

 

本書の中では、さまざまなスパイがでてくるのだが、中にはモグラとなったスパイもいる。かれらが、なぜKGBからCIAへ鞍替えしたのか、あるいは、なぜ東欧からアメリカに派遣されてCIAへもぐりこんだのか、、かれらがスパイの道を選ばざるを得なかった背景などが説明されている。

 

多くは、金銭的困難からというより、社会・政治的背景から、スパイになることでしか生きていく道が残されていなかった、、という残酷な人生の現実にあった。あるいは、スパイになったことで、自己の不安定性から精神崩壊にむかってしまうような逃避行動。

 

また、多くの夫婦スパイがいるというのも、驚きの一つ。隠れ蓑としての夫婦というのと、本当の意味でスパイ同士でしか分かり合えない故の夫婦とがいたようだ。

 

イーサン・ハントの妻じゃあるまい、、、、。スパイの妻なんて、やだな。。。イーサンの妻なら、絶対に守ってもらえそうだからいいか?!

 

って、そんな楽しいミッションインポッシブルではなく、ほんとに、インポッシブルで行方不明になってしまうスパイたち。。。

 

結局、CIAとKBGの闘いもあったけれど、組織内部抗争の被害者になってしまったスパイたちも少なくない。ピート自身も、CIA内の内部分裂に巻き込まれて冷や飯を食わされた時代もあった。

確執は時とともに深まり、 より苛烈で、より個人攻撃的なものになっていく。 幹部たちは事実関係を無視し、 極めて妥当な論理を検討することさえも拒絶する。そしてやり返すかのように オペレーションに関する決定が往々にして 派閥の論理で行われる。 事件に関する 緻密で客観的な分析は二の次になる。”
と。

 

いやぁ、、、組織内の抗争によって、客観的分析ができなくなり、本来あるべきミッションが忘れられていく、、、ってスパイの世界だけではない。世間でよく聞く話だ。。。


というか、最も客観的事実に基づく判断をもとめられるであろうCIAですら、そんなていたらくがあったのか、、とおもうと、、人の愚かさに、笑うしかない・・。いや、笑えない。

そして、
「希望的観測がはびこって」 誰も彼も楽観的なものの見方しかできなくなり、 厳しい判断を避ける。不都合な解釈 や恐ろしい解釈があれば 目をそらす。。。自己欺瞞・・・。

 

ピートが自分に、そして部下たちにも言い聞かせていたのは
「見てみぬふりだけはするな」
「嫌なにおい、不快なにおいがしたときに鼻をつまむな。」
ということ。

大事だねぇ・・・。
ほんと、大事だよ。

違和感を放置しない。
スパイに限らず、生きていくうえで「不快感」「違和感」に蓋をしてしまうのは、心身ともによろしくない。

読み終わって、なんだか、ふえぇぇぇ、、、、しんどい人生の人たちだなぁ、って、ちょっと疲れちゃった。
けど、途中で読むのを辞めよう、、、とも思えず、結局、通読。

重いなぁ。
フィクションです、っていってもらったら楽しめたかなぁ。

ケネディ大統領の暗殺についても、出てくる。

 

陰謀論とは 何か権力者共同謀議のすべて』によれば、ケネディ暗殺に関する調査書は2039年に公開される予定。

megureca.hatenablog.com


なにが、明らかにされるか、、、。
少なくとも本書の中では、犯人とされるオズワルドは、ロシアとの接触があった人物だったことが、記されている。

 

世の中、知らないですんだ方がいいこともある・・・・なんて思ったりした一冊だった。知らぬが仏が大事なことも、あるよね・・・・。

 

陰謀論的なものやスパイものがお好きなら、お薦めの一冊。

 

読書は、楽しい。