『大地の5億年 せめぎあう土と生物たち』 by 藤井一至(ふじいかずみち)

大地の5億年
せめぎあう土と生物たち
藤井一至(ふじいかずみち)
山と渓谷社
2022年7月5日 初版第一刷発行
2022年7月30日 初版第二刷発行

 

知人が、昨年読んで面白かった本として選んでいたので、図書館で借りて読んでみた。

 

表紙をめくると、
” 地球には 最初 土がなかった。
やがて地球上に誕生した生き物から土が生まれ、
現在に続く土と生命の物語が始まる。
土の中に残された多くの謎を掘り起こす
5億年の壮大なドキュメンタリー。”、と。

 

裏の説明には、
”今から5億年前、 地球上に「土」 が誕生した。 ひたすら土を食べて土壌を耕すミミズ、 岩を溶かすように進化したキノコ、 土で塩分を補給するオラウータン・・・・。 土は 動植物の躍進を支えるとともに自らも変化し、 恐竜の消長や人類の繁栄に大きな影響を及ぼしてきた。土の中に隠された多くの謎を スコップ 片手に掘り起こし、土と生き物たちの歩みを追った壮大なドキュメンタリー。文庫化にあたり、書き下ろしのあとがきを収録。”
とある。

 

著者の藤井さんは、1981年富山県生まれ。 2009年 京都大学農学研究科博士課程修了。 京都大学 博士研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、国立研究開発法人森林研究整備機構森林総合研究所主任研究員。

かなりマニアックな、土研究者、、、って感じだろうか。かくいう私も、大学は農学部農芸化学科土壌学研究所に所属していたこともあるので、土について普通の人よりちょっと詳しいかも。。。

 

装丁がゴッホの絵っていうのもいい。『種まく人』。このころのゴッホの絵は、まだ明るい。。。。


目次
まえがき
プロローグ 足元に広がる世界
第1章 土の来た道:逆境を乗り越えた植物たち
第2章 土が育む動物たち: 微生物から恐竜まで
第3章  人と土の1万年
第4章 土のこれから
あとがき

 

感想。
なるほど、壮大なドキュメンタリーだ。ただ、あまりにも時間軸が長すぎて、ドキュメンタリーというよりは、やっぱり、科学のお話。かなりマニアックな土のあれこれを、一般人にも楽しくわかりやすく解説してくれている。だれも、しらなかったよそんなこと、、、ということもあれば、へぇ、、、知って、、それで、、、ええぇ、、と。。ということも。

 

でも、結論から言ってしまうと、大事なのは、第4章の土のこれから、というところだと思う。山と渓谷社が出版ということもあるけれど、いかに、環境をまもっていくのか、という話によっていく。大事なことだ。そして、環境、環境というけれど、熱帯雨林を守れとか、砂漠化をとめろとか、そういうことのすべての基本は、「土を健康に」ということなのだ。

なるほど、土愛があふれている。

 

 

ミミズが地球の土を作ったという話は、ダーウィンの『ミミズと土』に詳しい。 

megureca.hatenablog.com

 

本書でも、ダーウィンの研究が引用されている。

 

月にも火星にもなく、地球にしかないもの、それこそ土なのだ。そして、土は、地球誕生からあったのではなく、生命が発生し、生命が作り出したのだ。最初は、岩しかなかった。そこに、コケや地衣類が酸性物質をつくって岩をとかしながら栄養をとることで繁殖していった。そして、コケや地衣類の遺骸(有機物)が、最初の土になっていく。

そして、シダ植物の発生。かれたシダ植物は泥炭度となり、数千万年から数億年をかけて地中深くに埋まり、地下の高熱・高圧条件で変質をとげ石炭となる・・・。

シダ植物によって、光合成が増え、地球規模の気候変動を起こす。樹木、裸子植物、キノコの進化。植物がやがて、土壌を酸性化していく。

 

とまぁ、長い長い、地球の土のお話。縄文時代も、栗の栽培などをしていた跡があり、すでに、土壌を人為的

 

に変化させていた。チグリス・ユーフラテスのみならず、歴史の人々は、灌漑を覚えた。そして、時には灌漑の失敗で、塩類集積がおきてしまい、アラル海の消失」のような悲劇につながっている。

アラル海ウズベキスタンに行くことが無かったら、一生私のアンテナがたつことのなかった自然。あの、荒涼とした景色は、わすれられない・・・。

megureca.hatenablog.com

 

日本においては、水田が土に大きな変化をもたらした。水田は、水によって酸素が遮断されれるので、酸性土壌の問題を緩和することができる。水田稲作こそが、日本の農業を発展させ、人口も増やしてきた。人口が増えるところには、十分な食料アリ、ってこと。

 

水田への適正が低い地域では、歴史舞台から姿を消しやすいのだそうだ。奥州藤原の衰退はその象徴である、と。日本史の中では、なんだか、あっというまに盛り上がって消えていった奥州藤原氏だけれど、それは稲作生産性の低さからきていたとは、、、なるほど。

日本の稲作は、どんどん甘いご飯がこのまれるようになり、低たんぱく、高糖質をめざすようになった。その代表がコシヒカリで、低タンパク質のために、窒素肥料をあまり必要としないのだそうだ。ちなみに、コシヒカリは、窒素肥料をやりすぎると大きくなりすぎて倒伏してしまうことから、「コケヒカリ」というあだ名もあるそうだ。初めて聞いた・・・。

世界各地で、窒素肥料の大量使用で、大量穀物が生産されるようになり、人口は増加。あわせて、、、環境破壊もすすんできた。
過剰窒素による環境破壊は、『肥料争奪戦の時代』にも詳しい。

megureca.hatenablog.com



ハーバーボッシュによって、空気からアンモニアを作り出すことが可能となり、大量の窒素肥料が生産されるようになった。そして、環境破壊が・・・。アインシュタインが、原爆を作るつもりで亡かったように、ハーバーもボッシュも、環境破壊のためにアンモニア合成法を発明したわけではなかろうに、、、と、コメントされている。

 

また、日本のフン尿を肥料とする農業も、特殊なのだときいたことがあるが、なんでも江戸時代のフン尿取扱業者の間では、フン尿の格付けがあったそうだ。一番高価なのは大名屋敷のもの、一番安価なのが牢獄のもの、、、まぁ、美味しいものを食べている人は、高価なオシッコをできたのだ、、、とか。。。笑える。

 

最後の章では、日本の水田と豆栽培をまもることが、土壌を健康に保つことになるという話に。農家でもない私たちに何ができるのか。。その答えこそ、「納豆ご飯をたべる」ことだ!って。

消費するというのは、生産者を応援するっていうこと。
これも、金は天下の回りもののひとつ。
日本の豆農家を応援したければ、国産大豆使用納豆を食べよう!

 

輸入品でもかまわない、、と思っているけれど、国内のお金の循環を良くするためにも、国産を買う、っていう行動もありなんだな、と思った。そして、それが、土を守り、環境をまもることになるなら、一石二鳥だやね。 

 

月に行ってみたい、火星に行ってみたいと思うけれど、住んでみたいとおもわないのは、水や空気の問題もあるけれど、母なる大地、土が無いからなのかもしれない・・・。

 

土と生きる。土を喰らう。土にまなぶ。

いやぁ、、土って深い。

 

意外と面白い本だった。

読書は楽しい。