『進化思考』 by 太刀川英輔

進化思考
生き残るコンセプトをつくる「変異と選択」
増補改訂版
太刀川英輔
海士の風
2023年12月31日 第1版第1刷

 

知人が、面白かったと言っていたので、図書館で借りて読んでみた。
なかなか分厚い、単行本。出版の「海士の風(あまのかぜ)」とは、鳥取県の北60キロにある人口約2000人ほどが暮らす離島、海士町にある。かつて、後鳥羽上皇島流しにあったところ。

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東京から8時間かかる辺境であるその町は、地方創生と学校教育で大きな成功をおさめた、奇蹟の島とよばれている。社会問題を取り扱った話題の中で、「海士町」をめにすることは度々ある。著者の太刀川さんは、そういった活動にも共感し、創造的進化を期待して、海士の風から出版されている。

 

著者の太刀川さんは、デザインストラテジスト、NOSIGNER代表。デザインストラテジストって、なんじゃら??っておもうけど、隈研吾さんのもとで建築デザインをまなび、「創造する」ということに興味を持ち始め、本書にのべられているような、創造と生物進化の関係性研究をはじめ、そこから、「明日の希望につながるプロジェクトのためのデザイン」を仕事にしている、とのこと。なかなか、ユニーク。

 

表紙の裏には、
” 進化思考
それはヒトの想像力を、生物の進化と同じ構造を持った進化現象と捉え、「変異と選択」の往復によって、誰もが持つ本来の想像力を導く思考法”
とある。

つまりは、思考法についての本。最初に、ザーーっと目を通してみて、なんだか話が多岐に渡りすぎていて、とりとめないなぁ、、、と思った。533ページを、ザーーーっと目を通してから、しばらく、休息。この本は読むべき本なのか?読まなくていいかも、、、。ちょっと、考えてみた。数日後、再び手にとって読み始めた。うん、なかなか、面白いかもしれない。でも、盛り盛りで、途中でやっぱり飽きてきた。それでも、うん、なかなか、面白い、、かな。

 

目次
増補改訂版によせて
はじめに
序章 創造とは何か
第一章 進化と思考の構造
第二章 変異 (HOW)
 1 変量 極端な量を想像してみよう
 2 擬態 違うものや状況を真似よう
 3 消失 標準装備を減らしてみよう
 4 増殖 常識よりも増やしてみよう
 5 移動 新しい場所を探してみよう
 6 交換 違う物に入れ替えてみよう
 7 分離 別々の要素に分けてみよう
 8 逆転 真逆の状況を考えてみよう
 9 融合 意外な物と混ぜ合わせよう
第三章 選択 (WHY)
 1 解剖 内側の構造と意味を知ろう
 2 歴史  過去の系譜を引き受けよう
 3 生態  外部に繋がる関係を観よう
 4 予測  未来予測を希望に繋げよう
第四章 創造 CREATION
終章 創造性の進化
おわりに
増補改訂版の協力にあたって 監修者
出典一覧
参考文献
詳細目次

 

感想。
濃い!
というか、、、モリモリ!
やっぱり、最後の3/1は、だんだん飽きてきた。。。。

読むのは、最後の「終章 創造性の進化」だけでもいいかも。。彼の主張はそこにある、それまでは、延々と進化と創造性について、、。
でも、まぁ、面白いとは思う。創造のヒントはたくさん詰まっているともいえる。

 

人は、なぜ創造するのか。
創造とはなにか?
だれでも、創造者になれるのか?

 

エジソン、ダビンチだけでなく、普通の私が、創造者になれるのか?アーティストになれるのか?デザイナーになれるのか?

 

それは生まれついた才能でしょ、って思っているなら、そうではないかもしれない。ここに、太刀川さんがまとめてくれたさまざまな思考法を駆使すると、だれでも創造的に、クリエーターに、アーティストになれるかもしれない。

そんな気にさせてくれる一冊。図表も、なかなかサイエンスであり、哲学的であったり。


目次も、よく見ると、章の中の小項目の上下が揃っている。デザインされた目次ともいえる。トカゲのしっぽはちょん切れてもまた生える、、という話の中では、しっぽの切れたトカゲの図があり、ページをめくると、のこったしっぽだけが描かれている。

説明をわかりやすくするためのアナロジーも楽しい。コミュニケーション力のところで、関西のおばちゃんの「アメちゃん」の話とか、漫才のボケと突っ込みとか。。。ときどき、ぷぷぷ、、って思わず笑っちゃうのだが、内容は真面目。

 

太刀川さんは、創造の力によって、文明の課題、社会課題を解決する!と思っている。だから、熱い。どうしたら、みんなが創造的になれるか、本気で考えている。だから、その思考法を本にしたということ。創造性は、生まれつき持っているだけではなく、鍛えることができる。きっと、彼はそう信じている。私も、ちょっと、そう思う。でもね、創造力が鍛えられるものだとしても、本人が「鍛えたい」とおもわなければ、先が無い。「創造的に社会課題を解決したい」という意思があってこそ、本書は楽しめると思う。

 

ところどころに、「進化ワーク」と称して、具体的に思考をはたらかせてみる54個の進化ワークが記載されている。これを真面目に取り組んだら、結構面白い授業になりそうだ。1年かけてやってもいいかもしれない。最後の方で、著者はリベラルアーツの重要性にふれているのだけれど、こういった「進化ワーク」を実際にやってみるということこそ、リベラルアーツだな、って思う。って、私は、ちょっとめんどくさい、、、と思って、じっくりは取り組まなかったけれど、、、。進化ワークが課されていることで、その項で考えねばならないことが何だったかが総括できているというところもなかなか憎い。やるね。これも本の構成として創造的だわ。

 

なるほど、っておもったことを覚書。

トーマス・エジソンの言葉
「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である。」 
「私は失敗したことがない。ただ、 1万通りのうまくいかない方法を発見しただけだ。」
「失敗したわけではない。 それを誤りだと言ってはいけない 勉強したのだと言いたまえ。」
 もう、何度聞いたかわからないほど、度々耳にする言葉ではあるけれど、いい言葉だ。

 

・知能には流動性知能と結晶性知能がある。若者の知能が流動性。年寄りの知能が結晶性。やわらかさとかたさ。なかなか面白い表現だ。企業経営でもこの二つのバランスが大事。
で、2018年の日本大手企業経営者の就任年齢57.7歳と、アメリカの46.7歳の数字が提供されている。1990年代からの株価の変化をみると、アメリカが10倍になっているのに、日本は横這い・・・。変化に対応できなかった日本は、、、結晶性知能に頼っていたのだ・・・・。いたたた。。でも、わかる。。
 ただ、結晶性知能が悪いわけではない。両者がバランスすることが大事。

 

・創造力を育む教育の不足について。試験や受験ありきの教育をうけてきた学生が、いきなり、「これまでにない商品企画をしてくれ」「斬新な発想で新規事業を発案してくれ」といわれて、茫然自失しても仕方がない。2018年に「生きる力」とやらが学習指導要領に加えられたらしいけど、、「生きる力」のある大人がどれだけいるのか、、、。
没個性の教育をしておきながら、いきなり「個性の発揮」といわれても困る、といっていた女子大生をおもいだした。

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・文化と進化の類似性を指摘する論考にふれていることで、「創造性を再現性のある自然現象として、学習可能なものにかえられるかもしれない」という、著者の気づき。

そして至ったのが、
 「創造性とは、変異と選択の往復による進化現象である」ということ。

生物学を一つの専門とする私としては、本文中、時々、変異という言葉と、変化という言葉の使い方が、混同しているなぁ、、、と気になるといえば気になるのだが、、、。つまりは、変化しながら、選択をすることで、生物は進化してきた、ということ。そして、生物の創造だけでなく、人が何かを創造するときにも、「変わる」と「選ぶ」を繰り返しているということ。

その、著者のいう「変異」と「選択」の思考の切り口が、第2章、第3章で、延々と述べられる。「変異」でアイディアを大量に生み出し、「選択」で必然と思えるものを選ぶ。そのくり返しが創造活動なのだ.。その切り口詳細は、目次にある。

 

・失敗や挑戦がなければ進化しない。失敗もまた、創造的プロセス。

これは、大いに共感。まさに、エジソンの言葉の通り。やってみて、上手くいかないという発見をするというのも大事。「一歩踏み出す」それこそが創造の第一歩。命さえなくさないなら、なんでも挑戦してみればいい。

 

・変異の「増殖」の話で。世界でもっとも歯の多い生き物は、カタツムリ!って。その歯の本数、なんと約2万本。おろし金のように歯がついていて、なんと、コンクリートまで食べる。知らなかった!

 

・変異の「移動」の話で、ところ変われば、、、という土地の名前について。オーストラリア「エロマンガ盆地」、「熱風の吹く平原」という意味だそうだが、日本人には、「エロ漫画盆地」、、、。他、オランダの「スケベニンゲン」、アメリアリゾナ州の「アホ」、チェコの「フルチン」、バリ島の「キンタマーニ」、、、。ところ変われば、、、。笑っちゃった。ちなみに、タイ語では、「本当に?」ということを「チンチン?」という。タイでは、「チンチン?」を連呼していたけれど、日本ではあまり連呼しない方がいい・・・。

 

・変異の「移動」の話から、グーテンベルグ活版印刷機は、ワインの葡萄圧搾機を応用したものだった、と。へぇぇ!!!しらんかった!!ワインがなければ、印刷技術はできていなかったかもしれない。ワイン、ばんざーい!

 

・変異の「移動」の話から。コンピューターゲームで世界中を圧巻する任天堂は、もともとは花札の会社で、日本ではじめてトランプをつくった会社である、って。へぇ!知らんかった!

 

・変異の「逆転」の話から。ソフトバンク孫正義氏が、Twitterで彼の髪を中傷する相手に対して、「髪の毛が後退しているのではなく、私が前進しているのだ」という名言をのこした、って。すばらしい!!ネット上では、「ハゲしく同意!」と共感が沸き起こり、感動が生まれた、って。Good job!! ま、私はハゲでマッチョって、好きだよ。

 

・選択の「解剖」の話から。物事は分解してみるとわかりやすくなるということ。著者が高校生の頃にであった本からの一節が紹介されている。
難しい問題に出会った時は、その問題を階段だと思って分解して、 1段ずつ上がればいい。 わからない問題は、 階段を抜かしてしまっただけなのだ。」と。
 世界中の どんな難しい問題も、 実は簡単なものの集合でできているということ。
おぉ、目からウロコ。そうだ。確かに、そうだ。。。
物事を複雑に、難しくしているのは、塊のまま見ているからだ。分解せよ。さすれば、解ける!うん、そんな気がしてきた。

 

フィボナッチ数列1,1,2,3,5,8,13,と増えていく数列。前の数時との足し算ね。フラクタル構造には、フィボナッチ数列が現れることが良くある。フラクタル=自己相似性。オウムガイの断面図とか、ひまわりの種の並び方。自然が作り出す不思議。ひまわりの種の並びに、規則性があったとは、、、。

 

・史上最高の建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉。デザインの本質は、「少ないほど豊か」。「細部に神が宿る」。

そうか、「神は細部に宿る」って有名な言葉だけれど、日本人っぽいって思っていた。谷崎潤一郎の『陰影礼讃』に出てきたのかな?忘れた。

 

・ミースへの敬意をこめて「少ないもので多くを実現する」と語った建築家バックミンスター・フラーは、宇宙船地球号という言葉をつくった。あぁ、立花さんの本『宇宙からの帰還』にも出てきた。

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・選択の「歴史」の話から、比較による創造性への効果について。わずかなスープの味の違いがラーメン屋の存亡にかかわる。違い、比較、大事。

 

・選択の「歴史」の話から、「完全にオリジナルなものは存在しない」。世界は、過去の影響を受けて変化してきている。過去を読み解き、前例の失敗を理解し、変わらないものを頼りにしながら、新たな挑戦をめざす。
 独自性なんて、、、自分の思い過ごしかもしれない。絵画も、音楽も、、、過去の歴史のパーツからできているかもしれない。オリジナリティってなんだろうね。

 

・選択の「歴史」の話から、電気自動車の特許は、1830年代にさかのぼるということ。当時は、その電気自動車に必要なリチウム電池なんてなかったし、地球温暖化による化石燃料への危機感なんてものもなかった。

 

・選択の「生態」の話から、キップリングの5W1Hの問いで、森羅万象のつながりを網羅的に理解できるという話。5W1Hは、もちろん、WHAT、WHY,WHEN、WHERE、HOW,WHO。そして、さらに、その思考のために言語が発達する。

 

と、、、書き続けると長くなってしまうので、これくらいにしておこう。

 

大事なのは、その創造性を何に使うかということではないだろうか。本書の中でも、南方熊楠が引用されている。自然観察と想像。曼荼羅と心とものの概念。

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人は、自然に学ぶことで、創造性を高めることができる。そして、その創造性を私たちの共同世界のなかの課題解決に活用するということ。そして、社会が進化する。

 

進化の力は、自然の力、ってっことかな。