『WEIRD(ウィアード)(上)』 by ジョセフ・ヘンリック

WEIRD(ウィアード)(上)
「現代人」の奇妙な心理
経済的繁栄、民主制、個人主義の起源
ジョセフ・ヘンリック
今西康子 訳
白揚社
2023年12月25日 第1版第1刷発行
THE WEIRDest People in the World
How the West Became Psychologically Peculiar and Particularly Prosperous (2020)

 

2024年3月23日、日経新聞朝刊の書評で出ていた。

副題となっている、「経済的繁栄、民主制、個人主義の起源」という言葉も気になるし、心理、という言葉も気になる。上下2冊、各3400円。ちょっと高いし、図書館で探してみたら、上巻は割とすぐに借りることができた。

 

著者のジョセフ・ヘンリックは、ハーバード大学人類進化生物学部長。著書に、『文化がヒトを進化させた。人類の繁栄と文化遺伝子革命』があるとのこと。本にはあまり説明が載っていないのだけれど、読んでいると、生粋のアメリカ人なのか?細かいところがイギリス人?ドイツ??という気もした。でも、文章は、アメリカっぽい・・・。

 

ググってウィキ情報を見てみると、
”ヘンリックが関心を持つ問いとは、「数百万年前には比較的目立たない霊長類の一種にすぎなかった」人類は、いかにして「地球上で最も成功した種へ」と進化したのか、そして文化はどのように我々の遺伝的発達に影響したのか、という問題である。”
”ヘンリックは、1991年に人類学と航空宇宙工学の学士号をノートルダム大学で取得した。1991年から1993年まで、ヴァージニア州スプリングフィールドにあるゼネラル・エレクトリック・エアロスペース/マーティン・マリエッタでテスト・評価システムエンジニアとして勤務した。1995年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校で修士号を取得し、その4年後に同大学から人類学の博士号を取得した。”とある。
まぁ、ウィキ情報なので、どこまで本当かはわからないけれど、広い視野、長い時間軸で人の進化を研究している人、ということのようだ。

 

表紙をめくると、
"WEIRD=Western(西洋の)、Educated(教育水準の高い)、Industrialized(工業化された)、Rich(裕福な)、Democratic(民主主義の)の頭文字。西洋人だけが心理的に異質に見えることを表した造語で、「weird(奇妙な)」と言う単語の意味もかけている。

現代世界のあり方を方向づけたWEIRDな心理を軸に、市場経済や民主主義、現代科学の発達を読み解く刺激的な心と、社会の進化の歴史。”
と。

 

なかなか、興味をそそられる言葉だ。

 

weirdって、英語のネイティブスピーカーは、よく使う。日本語で言えば、「え~、変なの」とか、「え~きもい」とか、ぼそっとつぶやく感じ。自分が好きでないものを勧められたときとか、「ウィアード」、、、。ってつぶやいたり。と、それがタイトルになっているのだから、興味をそそられる。

 

目次
はじめに
序章 あなたの脳は改変されている
第1部 社会と心理の進化
第1章 WEIRDな心理
 あなたは誰だろう?
 本当のところ、あなたはだれなのか?
 マシュマロは待つ者のもとに来る
 違反駐車をする国連の外交官
 意図性のこだわり
 森を見逃す
 氷山の本体
第2章  文化的動物となる
 学ぶために進化した
 進化していく社会
 心の中へと向かう道筋
第3章 氏族、国家、そして、 ここからそこに到達できないわけ
 イラヒタはいかにして大きくなったか
 社会の規模拡大(スケールアップ)は、いつ、なぜ、 どのようにして起きたのか
 プレ近代国家への道
 裏道を探す
第4章 神様が見ておられる 正しい行いをなさい!
 道徳を説く神と不確定な死後の生
 神と儀式の進化
 地獄、自由意志、 道徳的普遍主義
 説得力ある殉教者と退屈な儀式
 発射台(ローンチバッド)

第2部 WEIRDな人々の起源
第5章 WEIRDな家族
 伝統的家庭の崩壊
 カロリング朝、荘園制、 ヨーロッパの結婚様式
 巡り巡ってもたされた変化
 第6章  心理的差異、家族、そして教会
 親族関係の緊密度と心理
 教会が親族関係を変え 人々の心理を変えた
 水門を開く
第7章 ヨーロッパとアジア
 教会の足跡
 中国及びインド国内での心理的差異
 豊かな土壌

下巻に続く。

 

感想。
ほほぉぉ。なかなか、面白い!
はやく、下巻を読んでみたい。

 

心理学的実験や統計の話がたくさん出てきて、え~~、それって、ちょっと恣意的に解釈していない?というものもなくはないのだけれど、統計については、一応、交絡因子も調べていて、それなりに納得。

そもそも、著者のいうように、ある特定のWEIRDな人々、というのがそんなに特殊だとは思っていなかった。一般的アメリカ人だったり、一般的ヨーロッパ人。と、それは私が日本に長く住む日本人で、彼らのことを表面的にしかわかっていないからかもしれない。

著者は、これまでの多くの心理学の実験やそれに伴う学説は、「ある大学の実験対象となる人々」のデータを元に導かれており、そもそも、そこに偏りがあるということ。そして、多くの研究で実験対象となっている人々こそ、WEIRDであり、人類普遍的な心理学ではありえない結果を導いている、、と。

ほほぉぉ。そうかそうか。

確かに、多くのアメリカ、ヨーロッパの心理学、行動経済学、といった人々の行動を対象とした学問は、私が読んでも、へぇ、、、、アメリカ人ってそうなんだ、となりがち。必ずしも、日本人もその範疇にふくまれるとは思えないことも多い。それでも、それは、私が日本人だからであって、西洋の人にとってはそういうことが普遍的だと思っていたら、いやいや、そうでもない!というのが、著者のいっていること。だから、わたしにとっては面白い。興味深い。

 

上巻での骨子となる主張は、家族形態が人々の心に影響をあたえ、その心理状況が社会の仕組みをつくってきたということ。

 

家族や親戚を大事にする親密的な親族関係の中で暮らしていると、人々は包括的にものを考えるようになり、より広い文脈で相互関係を含めた物事の関連性に焦点を当てるようになる。それに対して、個人主義が強く親族関係の弱い社会で暮らしていると、人々は分析的にものを考えるようになり、人物や物体に特性、属性人格を割り当てることによって世界を理解するようになる。それが、社会をどのように理解するかという事につながり、社会の仕組み作りにも影響する、と。

まぁ、さもありなん、という気はする。

 

でもって、面白いのは、家族・親族を大事にする人たちは、「恥」の概念で自制することがあるが、個人主義の人たちは、「罪」の概念で自制するのだ、と。「恥」の概念で自分をコントロールしている人たちにとっては、なにかの罪をおかしたとき、それが、「意図的だったか」「意図的ではなかった」ということは考慮しない。罪は、罪なのだ。過失だろうが故意だろうが、誰かのモノをとったり、自動車事故で人を殺してしまったりすれば、NGなのだ。

個人主義の人ほど、「それは意図していなかった」「うっかり間違えた」という理由で、罪は軽減されるべきと考えている。

なるほど、、、面白い。

そして、著者が言うのは、親族ベースの考え方の根強さ、あるいは軽さは、中世の教会による「親族間結婚の禁止」をどのくらい影響されたかによるのだ、と。

 

教会の影響といわれてしまうと、とたんに日本は関係ないなぁ、、、、となってしまって、一寸つまらないのだけれど、かわりに、第7章では、アジアについて語られている。中国とインド。水耕栽培の盛んな地域、灌漑が必要な地域では、個人単位では作物を育てることは困難なので、地域との結びつきが強くなる。それは、親族ベース社会に近い形態となる、と。

なるほどねぇ。。。。

 

宗教的概念が文化をつくる。
文化が人の脳、生理、心理を形成する。
文化が人の心理変化を起こし、それが社会の仕組みに組み込まれる。 

なるほどぉ。

 

気になったところを覚書。

・教育が文化に与える影響の話の文脈で、プロテスタンティズムと識字能力の歴史的関連性は十分に証明されている。”
 教会ではなく、自分で聖書を読むことを求められたプロテスタントが広がることは、識字能力の向上に大きく寄与した。

 

・”宗教的信念には、人々の意思決定や心理、社会のあり方を方向づけていく強い力がある。かつ、信念、習慣、テクノロジー、社会規範といった文化には、人の脳や生理や心理を形成していく力がある。
人が文化を作る一方、つくられた文化が人をつくる、ということ。

 

・”WEIRDな社会では、自尊感情、肯定的自己像が重要視される。”
”逆も又然り。”
なるほど。
日本人は自己肯定感が低いと言われるけれど、だからなんだというのか。それが、日本の文化だといえば、そうだし、その分他人を尊重するとか、良い面だってある、って思う。

 

・第1章、マシュマロテスト。忍耐力のテストということで出て来るけれど、これは、今では賛否両論。子どもがマシュマロを食べずに我慢できるかを観察する心理テストだが、これは、その子の忍耐力より、その子の育ってきた環境の方が強く影響する、という説が強くなっている。運も実力、実力も運、、、。

megureca.hatenablog.com

・WEIRDな人の特徴。 自己への注目度が高く、個人主義的で、 同調傾向が低くて、 忍耐強く、 見ず知らずの相手を信頼し、 分析的にものを考え、 意図性の有無にこだわる。

 

・人間における婚姻規範では、子どもによって親族のサイズが二倍になる。人以外のほとんどの霊長類は、父親が誰だかわからないので、遺伝上の近縁個体の半分を見逃している。

 

” 自分たちの制度について 構築する明示的な理論は、たいてい 後付けであり、しかも 往々にして間違っている”

 

・人の脳は、無意識の影響を大きくうける。「white horse」という文字と「白馬」という文字を見た時、日本人なら「白馬」が自然に目に入る。そして、頭はかってに白い馬を想像する。刷り込まれた能力。無意識の判断。消しようがない無意識。

 

・人間の超自然的なものに対する信念ができるわけ。
 ① 自分自身の直接経験や直感よりも、他者から学んだことを信じようとする人の性質。
 ② 人の脳が進化する際の手違いから生まれた「心理的副産物」の存在
 ③ 集団間競争が文化進化に及ぼす影響

 

・日本人と神のとかかわりの文脈で、
” 狩猟採集生活を営んでいた日本の先住民族は、賄としてヒエなどを原料にした酒を神々に捧げた。事態が好転しなければ先を捧げるのをやめてしまうぞ、と神を脅した。”ってでてきたのだが、え?!ほんと?先住民族って、誰のことを指しているのかわからないけれど、「神を脅した」って、ほんと???

まぁ、神社のお賽銭は、神様への「賄賂」だって、昔友人がいっていた。それを聞いてから、私は神社のお賽銭箱には、めったにお金をいれない、、、、。

 

”教会は、「非嫡出子」という概念を広めて、結婚で生まれた子供を除く、すべての子どもから相続権をはく奪した。”
これは、教会は、親族間のつながりを断たせようとしたから。それは西正教会。そこから、個人主義が始まり、WEIRDが生まれてくる。
それにしても、非嫡出子って、教会がつくった言葉だったのか、、、。衝撃。現在の観念からすれば、人道に反していると思う。
ついでに、教会は、養子縁組さえ、阻止したのだそうだ・・・。

 

・養子縁組が合法的に認められるようになったのは、フランス1892年、アメリマサチューセッツ州1851年、イギリスは1926年。。。
教会は、個人同士が繋がり合うことを嫌った。 

 

へぇ、、、、と、色々とわたしにとっては目からウロコなこともあった。面白い。

先日、スコットランド人の人と話していて、「日本は小さい国だから」と言ったら、「そんなことない!!!」と強く否定されたのだけれど、確かに、日本は地図上でヨーロッパと重ねてみると、決して小さな国ではない。日本人が勝手に日本のことを思っているように、日本人がかって思っている「西洋人」ってあるんだよな、ってつくづく思う。

 

自分がわかっていると思っていることは、自分の思い込みに過ぎないことって、山ほどある。

だから、読書は楽しい。

新しい発見。

 

はやく、下巻が読みたい。