人間そっくり
安部公房
Exactly like a Human Being
新潮文庫
昭和51年4月30日発行
平成28年6月30日 44刷改版
令和3年4月15日 46刷
先日、図書館で安部公房生誕100年記念のコーナーができていて、そこに並べられていた。薄い文庫本。すぐ読めそうだったので、借りてみた。
安部公房のSFのような作品。
裏の説明には、
”《こんにちは 火星人》 というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。果たして単なるアブナイ人なのか、それとも火星人そっくりの人間か、あるいは人間そっくりの火星人なのか? 火星の土地を斡旋したり、小説を書けと進めたり、変転する男の詭弁に翻弄され、脚本家はしだいに自分が何者かわからなくなってゆく・・・・。数学のトポロジー理論を取り入れた傑作SF長編。”とある。
解説含めて194ページ。あっという間に読める。というか、面白過ぎて、あっという間に読んでしまう!
感想。
なんじゃこりゃー!!!
面白すぎる。おかしすぎる。でも、爆笑になりそうでいて、苦笑、、、、。
とほほほ、、、、。過ぎる。
『砂の女』をもっとアブナイ話にした感じ。
以下、ネタバレあり。
なんせ、主人公は、いきなり自称火星人の訪問を受けるのだ。どう見ても、普通の日本人のおっさんが、「火星人だ」と言い張る。そして、《こんにちは 火星人》 の脚本家であるあなたの大ファンだ!と。
ポイントは、そのアブナイおっさんが、主人公の家を訪れるとほぼ同時に、「夫があなたの元を訪れます。夫は、気がふれているので、暴れると大変危険です。ただ、話を聞いてやってください。30分くらいで迎えに行きます」と、そのアブナイおっさんの妻と名乗る人物から主人公の家に電話がはいるのだ。
そして、まさに「あなた、火星人について相談したいって人」と、主人公の妻が来客を告げる。そして、狂暴になられるとこまるので、とりあえず自宅にあげてしまう。
そこから、あーいえば、こういう、、、という問答が始まる。延々と、、、。これが、おかしいのなんのって・・・。あぁ、安部公房の世界。
なんてことのない会話でありながら、異常な会話・・・。火星人らしくないと主人公にいわれたアブナイおっさんは、ばれないように「日本人らしく」しているのだ、と。しかも、日本語で流暢に。。。
何とも言いようのない、堂々巡りの様な会話がつづいていく。そして、現実の世界では、「火星ロケット軟着陸成功」のニュースがとびかっている。ラジオの《こんにちは 火星人》 は、もちろんコメディとしての火星人であり、火星に生物が生息できないことは常識。しかし、ロケット着陸成功によって、火星の神秘が解き明かされてしまえば、《こんにちは 火星人》 のコメディとしての売りも、シラケたものになってしまう。主人公はそんなピンチの際にもあったのだ。その挙句に、火星人男の襲来・・・・。
で、30分で迎えに行くといっていたアブナイ男の妻は、一向に迎えに来ない。時間だけが過ぎていく。アブナイ男はどんどんいい気になって、《こんにちは 火星人》 なんてやめちまって、転職しろと言いはじめ、俺が書いた原稿つかっていいから、作家にでもなればいい、、、って言いだす。
なんだ、なんだ?
なんなんだ!この展開!
そして、主人公の妻は、そのアブナイ男は、実は家の団地の上に住んでいるちょっと怪しい保険セールスマンではないか?と、気が付く。そして、その保険セールスマンの自宅と思われる家を訪問するといって家をでたきり、戻ってこない。
主人公は、なにがなんだかわからなくなる・・・。
そして、気が付けば、、、ここはどこ?わたしはだれ?
精神病院の病室にいるのは、自分???
ひゃ~~~、なんじゃこりゃ~~!!
あぁ、でも、面白かった。
こういう、あーいえば、こーいう男、、、いるいる、、、いるよね。。。
まぁ、火星人だと言い張る男はそんなにいないけど、、、。
『砂の女』もそうだけれど、どこかで同じことは起きていてもおかしくない気もするから、ちょっと、ぞわぞわってするのと、よくこんなこと考えるよな、っていう発想の豊かさへの畏敬の念と、、、。
いやぁ、安部公房、やっぱり、面白い。
かつ、骨太だ。
そうか、私は、骨太な作家が好きなのか?いやいや、ふわふわしているのも好きだ。村上春樹なら、1980年代の作品の方が好きだ。
いまだに、自分の本の好みがわからない。
だから、あれこれ読んでみる。
めっちゃハマるのは、めっちゃハマる。
でも、なぜハマるのか、いまだに言葉で説明できない。
あと、10年、、、あと3000冊よんだら、自分の好みがわかるかな。。。
一つ、私は、安部公房の作品が好きだ。
Gガルシア・マルケスが好きだ。
夏目漱石が好きだ。
原田マハが好きだ。
須賀敦子が好きだ。
とはいえ、全ての作品を読んでいるわけでもない。
老後にとってあるのは、塩野七生さん。
司馬遼太郎もまだまだ、何度でも読めそう。
そうしているうちに、新しい作家さんもどんどん出てくる。
いやぁ、、、本にする、文章にして残すって考えた人、天才だと思う。
読書は楽しい。