『口訳古事記』 by 町田康(まちだ こう)

口訳古事記
町田康(まちだ こう)
講談社
2023年4月24日 第一刷発行

 

広告だったか、何だったか忘れてしまったのだけれど、『本居宣長』を読まなきゃ、、、と思っているときに目に入ったので、図書館で予約してみた。結構、順番が回ってくるまでまった。

口訳、町田さんの作品、おもしろくないわけなかろ、、、ってことで、じっとまった。。。『しらふで生きる』の町田さん。

megureca.hatenablog.com

 

目次
神xyの物語
スサノコノミコト
大国主神
天之忍穂耳命と邇邇芸命
日本統一
垂仁天皇の治世
日本武尊
応神天皇
仁徳天皇

装丁:月岡芳年

 

感想。
面白い。これは、パロディか?!いや、まじめか?!

面白い! けど、こんなぎょーさん神様の名前、おぼえられまへん!!!
一説によれば、古事記に出てくる神様は300柱以上だとか、、、。

 

口訳というけれど、神様たちのセリフが「関西弁訳」なのだ。思わず、私の感想までへんな関西弁に、、、。

出だしは、いい。いかにも、古事記

 

天と地が始まったとき、高天原(たかあまのはら:天のこと)に成った神の名は、
雨之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
次に高御産巣日神(たかみむすひのかみ)
次に神産巣日神(かみむすひのかみ)
であった。”

と、そこに、さらに2柱が加わって5柱となり、更に2柱が加わって、、、、と、神様が増えていく。神様は「柱」って数えるのね。そうそう、これは、『鬼滅の刃』にもでてきたから、数え方としては結構よく知られるようになった。けど、もともとは神様の数え方。で、最後に加わった1対の神様が、伊邪那岐神(いざなきのかみ)と伊邪那美神(いざなみのかみ)。

国を作ろうと思ったけれど、最初にできたのはブヨブヨだったので、なんとかしなきゃ、ってことで、伊邪那岐伊邪那美がその任務に当たることとなる。

で、矛でブヨブヨをかき回してみたり、ブヨブヨのくっついた矛を引き上げてみたり、、。ぼとぼと落ちたブヨブヨが島になる。。。

と、ストーリーは、古事記そのもの。


ただ、セリフが、、、関西弁。

「ええ男やわ」
「ええ女やわ」

といって、交合したものの、ぐにゃぐにゃの「水蛭子(ひるこ)」が生まれたので、草にくるんで海に捨てる。

どうやら、女から声をかけたのがいけないらしい、っていうんで、もう一度声かけの場面からやり直す。

「ええ女やで」
「ええ男やで」

そして、8つの島、国土を生んだ。

そして、次から次へと、島と神とを生む。火の神を生んだ時に、伊邪那美は火傷を負って死んでしまう。黄泉の国に入った伊邪那美を追いかける伊邪那岐。でも、行ってみたら、伊邪那美はただのお化けの様でおそろしくなって、逃げる伊邪那岐

で、逃げた伊邪那岐は、黄泉の国で穢れちまったぜ、って思って川で身体をあらう。洗っていたら、洗った体のパーツ、パーツから神が生まれる。左目を洗ったときに生まれたのが、天照大御神。右目を洗ったときに生まれたのが、月読命、鼻を洗ったときに生まれたのが、須佐之男神(すさのこのみこと)。

 

で、スサノオといえば、暴れん坊だったので、伊邪那岐に永久追放を宣言されてしまう。スサノオはこれを受け入れた。でも、国から追放される前に姉ちゃんにあたる天照大御神に一言挨拶していこうと思った。ところが、姉ちゃんは、暴れん坊の弟がやってくるのを、攻めてきたと思ってびびる。。。

誤解はとけたものの、いずれにしても追放の身のスサノオは、とぼとぼと川をくだっていく。そこで、人の気配を感じて川をのぼると、年老いた夫婦がシクシク悲しんでいる。娘を大蛇に食われてしまうのだ、、、と。8人いた娘のうち、7人はすでに食われている。最後の娘も今年には、、、と嘆いている。スサノオは、その大蛇を退治してやるから、娘をくれ、と。有名な八岐大蛇(やまたのおろち)退治。大蛇に酒を呑ませて、酔っぱらっているところを襲うという、ちょっとずるい勝利。でもって、大蛇に最後の一撃を喰らわせたときに出てきたのが、「草那岐剣」

 

スサノオから辿って6代目の紙が、大国主命因幡の白うさぎをたすける、いい神様。兄ちゃんたちに寄ってたかってイジメられていて、何度も、死んでいる。。。ちょっと間抜けな大国主命。けど、人はいい。。

 

とまぁ、、、話は古事記なのだ。
でも、関西弁の現代語。

以下、たびたび登場する神様たちのセリフ、、、、。
「やばいぜ」
「マジか?」
「マジ」
「どないします?」
「マジすか?」
「マジぞよ」
「嘘っ」
かつ、軽快な短文の会話。
「え~」
「こわいー」
「いやよー」

474ページの大作だけれど、ページ当たりの文字はすくなく、わりとあっという間に読める。

これは、面白かったというべきなのか、勉強になったというべきなのか、、、。すくなくとも、面白く読めた。

 

神様の名前の所以、土地の名前の所以、神武天皇が登場するところ、疫病対策に尽力した崇神天皇、、、。
常世国、うけい(誓約)による占い、穢れ、祓い、、、。

 

天皇の後継者争いだか、神の後継者争いだか、しまいには頭の中ごっちゃになってくるけれど、兄弟の争いの数々。綺麗な女がいれば、「わしの女に!」とエゲツナイことでもやってのける神様。あるいは、「ええ男ヤン」といって、一目で惚れて御子をなす女たち。
「じゃかましんじゃい、ぼけ」と兄に弓する弟。

暴れん坊でどうしようもない神、あへあへとあほなことしか言えないできそこないの神、あっさり殺されてしまったり、流されたり、、、、。でも、懲りない面々。

また、そんな神たちのあれこれを天上から見て楽しんでいる神たち・・・。

また、娶った女の姉妹までいっしょにさしだしたのに、「ブサイクだからいらん」といわれて、親元に送り返される女。

 

古事記は、いい男、いい女、暴れ男、ブサイク女でできているといってもいい、、、、。

 

内容を説明すればきりがないけれど、ちゃんとした?古事記を通読したことが無いので、どこまでが古事記に準じていて、どこまでが町田さんの創作なんだか、わからなくなる。パロディなのか、本物なのか???一応、本物らしい。

 

穢れを祓おうとしているものに、「名前を変えれば、穢れも、『あ、こりゃべつのやっちゃ』とおもって、離れていくんとちゃう?」って名前を変えることを勧める神。そんないい加減なことをいうのは、伊奢沙和気大神之命(いざさわけのおおかみのみこと)。そして、気比大神誕生。そして、供え物として用意されたイルカが浜辺で血を流して臭くって、血の浦とよばれ、ちぬら→つぬが→つるが、で、敦賀になった。
ほんとに、古事記にそんな話がでてくるのか?? でてくるらしい。

 

しかし、川の水で清めるとか、名前を変えることで穢れを祓うとか、、、わりと、日本の文化に今もあるような気がしなくもない。。。

 

また、地名の由来もたくさん物語にその説明になることがでてくるのだけれど、、、。

倭建命(やまとたける)が東征してくたくたにくたびれてある村にたどり着いたとき、あしが腫れてパンパンになっていた。
「こらもうつかいものいならん足や」
「ほんまや、ミシュランマン君みたいにあって、肉が三重に段になってる」
それが世間に広がってその土地のことを、三重、というようになった。

って、これは?!?!
まじか!?
まさか、古事記ミシュランマンは出てこないと思うけれど、肉が三重っていうのは本当か??? 

 

とまぁ、そんな感じで、楽しく読めてしまう『口訳古事記。これは、なかなか貴重だと思う・・・。

 

随分昔の話だけれど、伊勢のホテルに泊まったら、枕元に『古事記』がおいてあった。まぁ、伊勢では聖書の代わりに古事記、まっとうだ・・・。

 

天武天皇稗田阿礼に語らせ、712年、元明天皇の時代に完成した古事記。ほんの1300年前、、、ともいえる。プラトンの『饗宴』(紀元前350年頃?)を思えば、なんのなんの、最近やないけ、、、と神様がいいそうだ。

 

本居宣長は、なんで『古事記』を解読しようと思ったのだろうか。。。はたして、これを解読し、理解することが日本を知ることになるのだろうか、、、。私にとっては謎が深まるばかり。

 

ま、これはこれで、一読の価値あり!と思う。

 

読書は、楽しい。